次の日、講堂に新入生全員が集められ、学園長からの長くもありがたい挨拶が終わった後。
新入生達は割り当てられた教室へと向かい、そこで今後学園生活を送るのに必要なスマホロトムが支給され、同時に相棒ポケモンが贈られるとのこと。
昨日仲良くなったリコとアンとはクラスが一緒だったら良いなと思い、廊下の壁に貼られたクラス分けの紙を覗き込む。が、どうやら俺はルームメイトにもクラスメイトにも恵まれなかったらしい。
「ちぇっ……リコ達とは別のクラスか」
「あたし達は同じクラスだね、リコ!」
「う、うん」
まぁ、とりあえずアンだけでもリコと一緒のクラスで良かったか。たぶんリコって自分から積極的に友達作りに走れるような性格じゃないし、アンがいれば心強いだろう。
「じゃあ、相棒ポケモンを受け取ったら広場に集合ね!行こう、リコ!」
「それじゃあまた後でね、キョウヤ」
「ああ。リコ、お前に素敵な相棒が現れるのを願ってるよ」
「!……うん、ありがとう!」
さてさて……リコとアンも自分のクラスに向かったし、俺も自分のクラスに向かうとするかな。
▽
「────では皆さん、スマホロトムを再起動してください。それで皆さんのポケモン図鑑が使えるようになります」
教壇に立つ先生の手順に従って俺含めた新入生達はスマホロトムを操作し、無事にアプリのインストールを終える事が出来た。
それにしてもスマホロトムか。プラズマポケモンのロトムが入ったこのスマートフォン1台でポケモン図鑑、タウンマップ、カメラ、通話など全てを賄えてしまうんだから凄いよな。最近じゃ色んな地方で使われてるみたいだし、ポケモン図鑑単体やライブキャスターとかはもう時代遅れか?
でもライブキャスターには旅の中で出会った人達の電話番号が登録してあるしなぁ。イッシュ地方のみんなはまだ持ってるはずだし、こいつにはまだ現役でいてもらおう。
「では次はお待ちかねの相棒ポケモンです。名前を呼びますので順番に取りに来てくださいね」
端から順番に先生に名前を呼ばれた生徒達がモンスターボールを受け取り、中から相棒ポケモンを出してお互いに顔合わせをしていく。
「ヒノッ!」
「あっ、ヒノアラシだ!」
「私はイワンコ!」
「ワンッ!」
初心者でも育てやすいポケモンや大人しいポケモンなど、初めて自分のポケモンを持つトレーナーにとっては最適なポケモンばかりだ。しかし中には性格に少し難があるポケモンもいるが、トレーナーとの相性を考えた結果なんだろう。付き合い方が重要になってくるが、どうするかはトレーナー次第である。
「先生、キョウヤくんがまだポケモン貰ってませんけどー?」
「ああ、彼は既に自分のポケモンを持ってるとの事ですので今回相棒ポケモンは用意されてないんです」
トレーナーによっては貰えるなら貰っておこうっていう人もいると思うが、俺にはもう大事な相棒がいるからな。そいつを差し置いて、新たに相棒ポケモンを貰うわけにはいかない。
「キョウヤくん、君は新入生の中では唯一入学前からポケモンを持っている生徒です。なので先輩トレーナーとして、困ってる生徒がいれば助けてあげてくださいね」
「はい、それは勿論」
というかさっきからクラス中の生徒達からの視線が凄いし、色々なヒソヒソ声も聞こえてくるんだが。まぁ、俺に出来る事があれば協力してあげるつもりだ。ポケモンバトルだって挑戦してくるなら何度だって受けて立ってやる。イッシュリーグ優勝者として、簡単に負けてやる気はないが。
「では皆さん、今日はこれにて終わりです。明日から相棒ポケモンと一緒に頑張っていきましょう!」
これで今日は終わりか。広場でリコ達とポケモンを見せ合う約束してるし、とっとと行くかと席を立つ。だがそれを見計らったように、クラスの生徒達が俺を取り囲んだのである。
「ねぇっ、キョウヤくんってどんなポケモン持ってるの!?」
「珍しいポケモンに会った事ってある?」
「オレのヒバニーとバトルしようぜ!」
「ぼ、ぼくはバトルのこと教えてもらいたいな」
いや、一気に言われても答えられねぇから!?せめて順番に喋ってほしい。いや、全員に対応してたらリコ達との約束に間に合わないな。
「ん?」
どこか抜け道がないかと探してると、廊下を焦った様子で走っていくリコが見えた。なんだ、何かあったのか?アンの姿もなかったし。
「あ、悪い!ちょっとトイレ!」
状況は分からないが、あの慌てぶりからして何かがあった事は間違いない。なら友達として手伝える事をするだけだ。嘘でクラスメイト達の包囲網を抜け出し、廊下に出てリコが向かった方へと走る。
「下か」
突き当たりにある階段に辿り着き、下から聞こえてきた急ぐ足音を頼りに降りていく。踊り場まで行かず途中で手すりを飛び越え、近道をすると昇降口から出ていくリコの姿が一瞬だが見えた。
……?一体どこに行くつもりなんだ、リコの奴。
▽
「見失ったか……」
出ていったリコが向かったと思われる方へと走ってきたが、他にも生徒達が出歩いてる事もあって途中で姿を見失ってしまった。更に言えばどこかの建物にでも入ってしまったんなら見つけるのは困難だ。
「電話できたら一番いいんだがな」
しかし残念ながらスマホロトムにリコの電話番号は入ってない。事情を知ってるかもしれないアンを探そうにもまだ校舎にいるかどうか。寮に戻ってしまってる可能性も……。
「ふぎゃっ!?」
「はっ?」
上からおかしな声が聞こえた為、見上げるとすぐ近くにある建物の屋上の柵から前のめりになって上半身を投げ出してるリコと彼女の顔に乗ってる謎の緑のポケモンの姿が。
いや、それよりあれまずいだろ。あのままじゃ下に落ち──────
「うわあああああっ!?」
「るよなっ!」
既に駆け出していた俺はポケモンを抱えながら落下するリコの真下へと全速力で走る。俺のポケモンを出して指示を口にしてる時間はない。だったら俺に出来る事は1つ、俺が受け止めるしかないだろ!
「間に合えっ……!」
速度を緩める事なく体を後ろに反らし、真っ正面からリコを抱き止める事に俺は成功した。しかし喜びも束の間、星の重力に勝てるはずもなく俺は背中を地面に強く打ち付け、スライディングの如く滑っていったのである。
「いっ……てぇ……」
正直、物凄く痛い。声をまともに出す所か、目を開けるのも儘ならない。だけどリコが無事だったかどうか、確かめないと。
「リコ、大丈──────あっ」
「…………えっ」
目を開けたら、リコの驚いた顔が文字通り目と鼻の先に見えた。
○
(なっ、なに!?何が起きたの!?)
ニャオハと共に屋上から落ちてきたリコは自分が終わった事を悟った瞬間、何者かに受け止められた事に気付いた。しかし地面に激突する恐怖から目を閉じてしまい、誰にどのように助けられたのかは分かっていなかった。
「いっ……てぇ……」
(キョ、キョウヤ!?えっ、もしかして、またわたしキョウヤに抱き着いてる!?っていうかわたし、キョウヤに怪我させたんじゃ!?)
聞き覚えがあるキョウヤの声。リコがそこから辿り着いたのは昨日のバス停での出来事。また恥ずかしい格好になってるのかと思うと顔に熱が集まるが、キョウヤの呻き声から彼の事を心配したリコは目を開けた。
「リコ、大丈──────あっ」
「…………えっ」
(え?え?な、なん、キョ、キョウヤの顔が、ちか、っていうかわたし、キョウヤに抱き締められて、いや、それより鼻と鼻がくっつきそうで、昨日より近くてっ、こんな距離初めてで────)
「ひゃああああっ!!??」
自分が置かれてる状況を理解し、顔を真っ赤にしたリコは勢いよく起き上がったのであった。
「ご、ごごごごめん!わ、わ、わた、わたし!!」
「お、落ち着けって。怪我は?どこも痛くないか?」
「う、うん……だ、大丈夫だけど……!」
(こ、心の方は大丈夫じゃないよ~!)
「……良かった」
リコの無事を確認したキョウヤは安堵の表情を浮かべた。自分の大きな鼓動の音を静めようと胸を押さえるリコにその表情は見えなかったものの、キョウヤとしてはその慌ててる彼女の姿が可愛く見えていた。
▽○
「つか何してたんだ?びっくりしたぞ、急に落ちてくるもんだから」
「そ、そうだ!ニャオハは!?」
「ニャオハ?あのポケモンの事か?」
あのニャオハというポケモン、どうやら俺がリコを抱き止める直前で彼女の腕の中から抜け出していたらしい。今は何事もなかったかのように学園の敷地内を歩き始めていた。危ない目に遭ったばかりだというのに自由な奴だな。
「ひょっとしてリコの相棒か?」
「うん!で、でも急に逃げ出しちゃって!」
「なるほどな」
それで校舎からここまで走り回ってたという事か。ニャオハを再び追いかけ始めたリコを追う為、俺も歩き始める。またさっきみたいな無茶をしたらと思うと、心配だからな。
「ロトム、ニャオハについて教えてくれ」
スマホロトムを取り出し、リコの先を歩くニャオハを画面内に収めると生態が記録された。画面にニャオハの姿が映し出され、詳しい情報が並べられる。
『ニャオハ。くさねこポケモン。くさタイプ。体から発する甘い香りで周りを魅了する。日光に当たると香りはさらに強まる』
「発見されてる地方は?」
『パルデア地方が該当』
へぇ、パルデア地方のポケモンか。イッシュ地方のポケモンじゃないって事は分かってたけど、リコの故郷のポケモンだったとは。にしても……ねこポケモン、ね。
「ニャオハ!待って!」
学園の外れまでニャオハを追い掛けてくると、茂みの中へと潜っていってしまった。ふと空を見上げればオレンジ色に染まりつつあり、今が夕刻である事を告げている。そろそろ捕まえないと、寮の門限が迫ってくるな。
ニャオハを追い掛けて俺達も茂みの中へと入り、かき分けながら進んでいく。
すると──────
「わあっ……!」
「へぇ……いい景色だな」
茂みを越えた先には大きな湖が広がっていた。しかも遠くに沈んでいく夕陽が水面に反射し、空だけでなく湖もオレンジ色に染め上げ、綺麗な夕暮れの景色を作り上げている。
俺もリコもすっかり目を奪われてしまい、少し疲れを見せていたリコは湖岸に座って夕陽を眺め始めた。ニュオハを探している途中だったが、それを忘れてしまう程にこの景色に見惚れてしまったのだ。
「ニャ?」
「あれっ、ニャオハ!?」
追い掛けてたはずのニャオハが後ろから現れ、驚くリコ。どうやら茂みを進んでる途中で追い越してしまっていたらしい。
「よかった~!」
ニャオハの脇に手を入れ、抱き上げたリコは嬉しそうに頬擦りをし始めた。そしてニャオハから発せられる甘い香りを嗅いでると、どうやら気に障ったらしい。リコの顔にねこパンチを放ち、するりと抜け出してしまった。
「なんで~……」
「苦労してんなぁ」
自分のポケモンであるにも関わらず、ニャオハから距離を置かれる事にリコは納得できてなさそうだった。
それもそのはず、ねこポケモンというのは一般的にトレーナーに懐きづらいポケモンである。俺が知ってる限りではエネコやチョロネコが代表例だろうか。そういえば強者を求めてアローラ地方に旅立ったヒョウも、ニャビーっていうポケモンに手を焼いてるってこの前言ってたっけ。
「どうすればニャオハと仲良くなれるのかな……」
「んー……そうだな」
リコは突発的に行動するタイプではなく、ちゃんと考えてから行動できるタイプだ。後先考えすぎて動けなくなっては元も子もないが……少なくともニャオハに対して何も考えず、ただ仲良くなりたいと迫るようなやり方は逆に嫌われかねないだろう。だったらやる事は1つ。
「とりあえずニャオハの気持ちを知る所から始めてみたらどうだ?」
「ニャオハの気持ちを……知る?」
「リコのやりたい事をニャオハに伝えるには、まずはニャオハの気持ちをリコが知らないとな」
俺が初めて相棒を手にした時もそうだった。相手が何を考えてるのか分からなくて、指示を出したって無視されて。どうすればいいんだって悩んで、行き着いた答えがまずは相棒の気持ちを知る事だったんだ。俺ばかり先走って、相棒の事をまったく考えてなかったんだよな、俺って。
「…………」
「出来ない、とか思ってるだろ」
「ええっ!?な、何でっ」
「図星か。まぁ、なんとなくだよ」
本人は無自覚なんだろうが、リコって結構顔に考えてる事出やすいよな。
「別にすぐ分かるようになれとは言わないって。時間はたっぷりあるんだ、ゆっくり理解していけばいい。そしたらきっと、リコの気持ちもニャオハに伝わるはずだぞ」
「うん……わたし、頑張ってみる。ありがとう、キョウヤ」
「ニャア?」
リコが両手を握って決心してる傍らで、毛繕いをしてるニャオハが「あ、終わった?」とでも言いたげに声を上げてきた。本当に自由気ままだなお前……。
▽○
(そんなこんなで、わたしとニャオハの生活がスタートしたんですが……不安、です)
あれからキョウヤと一緒に寮へと帰る途中、わたし達を探していたアンと鉢合わせしました。突然いなくなったわたし達を心配してくれていたらしく、事情を説明すると安心した様子でした。
(今日も色々あったなぁ……ニャオハと出会って、追いかけっこして、その途中でキョウヤに助けられて…………~~~っ)
あの時、キョウヤに助けられた時の事を思い出すと顔が熱くなるのを感じます。思い出すのはすぐ目の前で見てしまったキョウヤの顔と彼に抱き締められた時の感覚。
(何なんだろうこの感じ……何でこんなにも顔が熱くなるんだろ……?)
この日の夜、わたしは自分の鼓動に邪魔されてベッドに入っても一睡も出来ませんでした。
アニメでは言及されてなかったと思いますが、面談の結果で相棒ポケモンが選ばれた事を考えると、相棒ポケモンは似た者同士が選ばれてるのかなと思いました。
次回、主人公の相棒ポケモンを出します!