この後の展開を考え、中盤と最後の場面を変更しました。一度読んだという方はもう一度読んでいただけると、次の話が問題なく読めると思います。
終業式が無事終わった日の夕方。大型連休を利用して実家へと帰る生徒達がバス停へと向かっていく。俺とリコは帰らないが、アンを見送る為にバス停へと足を運んでいた。
「じゃあ、次会うのは新学期だね。キョウヤがいるから大丈夫だと思うけど、2人共気をつけて行ってきてよ」
「ああ、リコの事は任せとけ。何かあっても俺が守ってやるから」
ミジュマルが乗ったリュックを背負うアンから心配されるが、旅をした事がないリコがいる以上危ない道を渡るつもりはない。ニャオハの特訓やリコにカントー地方のポケモンを見せたいという目的の他にも、リコには旅の楽しさなども知ってもらいたいしな。
「守ってやる、かぁ。へー」
意地悪そうな顔をしたアンがリコに近寄り、何かを囁く。ひそひそと喋ってる為、何を言ってるのか俺にはさっぱりだが、次第にリコの顔が赤くなっていくのが分かった。
「そ、そんなんじゃないってば!」
「あはははっ!帰ったら色々教えてね~」
珍しくムキになって怒るリコから笑いながら走っていくアン。リュックサックから落ちそうなミジュマルを支えながら、そのままアンはバスの中へと乗り込んでいった。
「もー、アンったら……」
「なんて言われたんだ?」
「ふぇっ!?」
俺が尋ねると、リコが素っ頓狂な声を上げる。別に驚かすつもりはなかったんだがな。
「……キョ、キョウヤは気にしなくていいよ」
「えー、いいじゃんか、教えてくれよ」
俺から顔を背けながら言うリコだが、そんな反応をとられると余計に気になるんだが。
というか最近、リコと2人きりになると顔を背けられる事が多いんだよな。俺としては明日から旅に出発するし、気まずい雰囲気にならないよう俺に何かあるなら教えてほしいんだが。
「な、内緒だからダメ」
どうしても俺には言いたくないらしい。しょうがない、気にはなるけど本当に俺には関係ないのかもしれないし、これ以上は諦めるか。それにしつこく聞いてリコから嫌われるのもやだし。
「分かったよ。じゃ、俺達も明日の為に早めに休むか。一応、帰ったら荷物の確認をしておけよ?しばらく寮には戻ってこれないからな」
「う、うん。分かった」
▽○
(もー……アンってば、『まるでキョウヤ、リコの彼氏みたいだね』じゃないよ!変に慌てちゃったじゃん!)
「ニャウ?」
ニャオハを抱っこしながら女子寮へと向かうリコは、爆弾発言を告げていったアンに対して怒りを覚えていた。そんな彼女をニャオハは不思議そうにしながら彼女の腕の中から見上げている。
(やっぱり……わたし、キョウヤのこと好きなのかな……これが恋心ってやつなのかな……?)
悶々と考えながら帰路につくリコ。女子寮の玄関である自動ドアを潜り、荷物の確認の為に自室へと戻ろうとするが──────
「あっ、リコさん!お客さんですよ」
「えっ?」
寮母さんに声を掛けられ、足を止めるリコ。寮母さんの隣にはリコよりも背がある少年が立っていた。髪色が白黒のツートンカラーという変わった色合いをしており、スーツという礼儀正しい装いをした少年である。
「はじめまして。リコさんですね?」
「は、はい。えっと……どちら様ですか?」
「お婆様の代理人です。手紙を預かってきました」
そう言って懐から一通の手紙を取り出す少年。それを受け取るリコだったが、『祖母からの手紙』という言葉に彼女は違和感を覚えていた。
(お婆ちゃんからの手紙って……えっ?どういうこと?)
「あ、あの。これは一体……」
「事情は後程。大切なペンダントをくれぐれも忘れずに持ってきてきてほしいとの事です」
大切なペンダント。それはリコの祖母がセキエイ学園入学前にリコに渡した物であり、彼女がお守りにしてるペンダントである。ただリコは自分にはまだ着けるのは早いとして、箱の中に入れて自室に置いてあるのだ。
「ニャウウ~……」
(ニャオハが唸ってる……キョウヤが言ってたっけ。ポケモンは人には感じ取れないものを感じ取る時があるって)
少年に向かって低く唸るニャオハ。その姿を見たリコは、1つの決心をした。
「ニャオハ、失礼よ」
「ニャウ……」
「準備してきます、少し待っててください」
少年にそう言い、自室に向かう為に彼の横を通り過ぎるリコ。その後ろ姿を少年はただじっと見つめていた。
○
「明日から楽しみだなぁ」
やっぱり旅に出る前日というのはワクワクが止まらない。見た事がないポケモン、強いポケモントレーナー、自分の知らない場所や現象などどんな出会いや冒険があるのかと思うと、この気持ちはどんどん大きくなっていく。
「お前らもそう思うだろ?」
机の上に置いた6つのモンスターボールにそう声を掛ける。その中では俺の言葉に同意するかのようにポケモン達が頷く様子が見えた。
ジャローダを始め、俺がイッシュ地方で仲間にしたポケモン達。そして共にイッシュリーグを勝ち抜いた実力のあるポケモン達である。
『ロトロトロト……』
ベッドの上に置いてあったスマホロトムから着信の音が鳴り、俺の目の前へと飛んでくる。名前を確認してみればリコだった。何か明日からの事で聞きたい事でも出てきたか?
「もしも────」
『キョウヤ!助けて!』
画面に映し出されたのは暗い部屋の中でスマホロトムに必死になって叫ぶリコの姿だった。それは冒険に浮き足立っていた俺の気持ちを消すには十分過ぎる状況だった。
「落ち着け、どうした?」
『い、今寮にお婆ちゃんの代理人だっていう男の人が来てて!でもその人、すごい怪しくて!お、お婆ちゃんは手紙なんか出す人なんかじゃないのに……』
手紙云々はともかく、リコの元に怪しい人物が訪ねてきたって事か。もしかして噂になってた不審者か?だが寮に来たって事はちゃんとした手順を通って……いや、今はその男の事よりもリコの安全の確保が先だな。
「リコ、お前その部屋を出られ────」
『きゃっ!?』
「っ、大丈夫か!?」
リコの悲鳴が聞こえ、咄嗟に宙に浮かぶスマホロトムに掴みかかった。画面が大きく揺れ動き、ドタバタと物音が聞こえてくる。事態の悪化を想像して部屋を飛び出そうとしたが、その前にスマホロトムからリコの声が聞こえてきた。
『だ、大丈夫。さっきの男の人が部屋の前まで来てたから、窓から外に出たの。今は屋根の上まで登ってるところ』
ひとまず危機は脱したか。だがリコが部屋にいない事に気付けば間違いなく探し始めるはず。その男に協力者などがいればリコが見つかるのは時間の問題になってくる。
「……分かった、リコはそのままそこにいてくれ。今から俺もそっちに行くから」
『う、うん』
「安心しろ。必ず俺が守るから」
『っ……あ、ありがとう……』
通話を切り、スマホロトムをポケットに入れた俺はショルダーバッグを肩にかけた。何かあった時の為に色々と便利な物を入れてあるからな。
そして机に近付き、6つあるモンスターボールをホルダーにかけた俺は、廊下へと飛び出していった。
○
『安心しろ。俺が必ず俺が守るから』
「っ……あ、ありがとう……」
屋根の上に登った辺りでキョウヤとの通話は切れてしまった。だけど最後に言われた言葉、それがわたしの心を温くし、同時に不安な気持ちを和らげてくれた。
(でも……キョウヤが来る前にさっきの人に見つかっちゃったらどうしよう……)
「……ニャッ」
「?どうし……あっ、あの人……」
不安を完全には消せず、悪い展開を想像していたわたしの横でニャオハが何かに気付いたようだった。ニャオハの視線の先、屋根の下を覗き込むとグレーの髪色をしたスーツ姿の女性が芝生の上を歩いていた。
『見つかったか?』
「いえ、どこかに隠れてるかと」
『厄介だな……』
(今の声……!スマホロトムから聞こえたけど、さっきの人と同じ……って事はあの女の人は仲間……!)
見つからないようにしないと、そう考えた次の瞬間、偶然にも上を向いた女の人と目が合ってしまった。
「っ、いました!場所は──────」
(や、やばっ!)
キョウヤにはここにいるよう言われたけど、そういうわけにもいかなくなってしまった。先を歩くニャオハを追い掛け、わたしも背を低くしながら移動していく。
このままじゃまずいと思い、どこかに隠れる為にもわたしとニャオハは地面へと降りる事にした。ただニャオハは屋根から軽々と降りていくが、運動神経が特別いいわけじゃないわたしにそんな芸当が出来るはずもなく──────
「あいたっ!?」
うまく着地できずに尻餅をついてしまうわたし。しかも声のせいでわたしの居場所がバレたらしい。壁の向こう側から足音が聞こえてくる。さっきの男の人か、それとも今見つかってしまった女の人か。
「そこかぁっ!」
(ええっ!?さ、3人目!?)
壁の向こう側から現れたのはそのどちらでもなく、とりポケモンのトサカみたいな金髪をしたスーツ姿の男性。言動や服装からしてあの2人の仲間である事は間違いなかった。
「いけっ!サイドン!」
「サーイ!!」
男が投げたモンスターボールから現れたのはニャオハの何倍もの大きさを誇るポケモン。ニャオハが相手をするには明らかに過剰すぎるポケモンであった。
(い、いやいやいや!こんなの相手になんか出来るわけ──────)
「ニャオッ!」
弱気な考えをするわたしの前に立つニャオハ。顔は見えないが、気持ちは分かる。ニャオハがわたしを守る為にサイドンに挑もうとしてる気持ちが。
(そうだよね……キョウヤやアンと今まで特訓してきたんだから、怯えてちゃダメだ。それにキョウヤならきっとわたしを探してくれてるはず。だったらここでわたしが捕まるわけにはいかない!)
「ニャオ────」
「サイドン!“こわいかお“だ!」
一瞬迷ってしまったわたしよりも早く男の指示が繰り出される。そのせいでニャオハは動けず、反対に指示を受けたサイドンは眼光をより一層鋭くする。その目で睨まれたわたし達の心に、恐怖という感情が生まれたのはそれからすぐの事だった。
「ニャ……ニャオ……?」
(えっ?な、なんで?なんで突然こんなにサイドンが恐くなったの?さ、さっきまで、ニャオハもやる気満々だったのに……も、もしかして今の技のせい!?)
恐怖で体が震え、ニャオハに指示が出す事が出来ない。あの“こわいかお“が原因だと気付いた頃には、相手のサイドンが動き出してしまっていた。
「俺のサイドンにニャオハで挑むとは舐められたものだな。サイドン!“アームハンマー“で叩き潰してやれ!」
「サイ!!」
サイドンの振りかぶった右手に力が集められ、その状態のままニャオハへと迫ってくる。あの一撃を受けたらまずいと思い、ニャオハに視線を向けるがその小さな体は迫り来るサイドンに怯えていた。
「ニャオハ!避けて!」
「ニャ、ニャウ……」
指示を出すがニャオハは動かない。いや、動けないんだと思う。余波か何かで受けてしまったわたしと違い、ニャオハは直にあの技を受けてしまっている。故にサイドンに対する恐怖もわたしとは比にならないんだと思う。
「やれっ!サイドン!」
「サーイ!」
「だめっ……!ニャオハ!!」
迫ってくるサイドンと動けないでいるニャオハ。わたしは居ても立っても居られず、ニャオハを守ろうと一歩を踏み出し──────
「心配すんな」
「……えっ」
「リコも、リコの大事なものも、俺が誰にも奪わせない」
肩に手を置かれ、止められたわたしに掛けられる言葉。それを聞いてわたしは嬉しくなった。来てくれたんだと。わたしの為に、彼が来てくれたんだと。
「“アクアテール“ッ!!」
「ザイ゛!?」
上空から振り下ろされた強烈な水の塊がサイドンを襲い、サイドンが地面に叩き付けられたと同時に大量の水が弾け飛んで男を水の波が飲み込んでいった。同じくその波に巻き込まれ、宙へと放り出されたニャオハがこちらへと飛んでくる。
「ニャオハ!」
落下する場所を予測し、弧を描いて飛んでくるニャオハを抱き締める。幸い怪我はなく、サイドンが倒されたからか“こわいかお“による怯えもなくなっていた。
「ニャフッ」
「よかった~!」
ニャオハの無事を確かめると、わたしは後ろを振り向いた。そこにはサイドンを倒し、隣に着地した自分のポケモンであるジャローダにお礼を言う──────
「ありがとう、キョウヤ!」
「悪い、待たせたな。ここを離れるぞ、リコ」
バトル、少しというほとんどサイドンの技披露で終わってしまいましたが、アニメより悪の組織っぽくしようとした結果です!実際、ゲームだったらLv42以上サイドンが相手ですし、リコとジルとではトレーナーとしての経験も違いますしね。
ニャオハも主人公の特訓があったのでアニメより強くなってます。リコの指示があれば“このは“が使えてました。まともに効いたかどうかは分かりませんが。
あとジルのサイドンはアニメで現在、“ロックブラスト“以外はまだ披露してませんが、オリジナル要素として“こわいかお“と“アームハンマー“を覚えてます!
中盤と最後の場面を変更しました。
サイドンを倒した技が“アイアンテール“から“アクアテール“に、技を放ったポケモンはジャローダになっています。