というか、前2話は書きたいこと書いたらあぁなった、って感じです。
もうあと1,2話はこんな感じで、その後に懐玉の時間軸にって感じですね。
神凪が五条に『好きにかかってこい』宣言をしてから、2週間ほどが過ぎた。
すでに数度、五条から攻撃を仕掛けているが、すべて失敗に終わっている。
というのも、この数度の襲撃で五条は一度も術式を使っておらず、呪力による身体強化のみで戦っている。これは神凪相手には術式の効果が薄いから、というわけではなく、『術式がないと何もできない雑魚』呼ばわりされたことが癪に触っただけである。
その結果、未だに五条は神凪から勝ち星は取れていないものの、呪力操作や体術、戦術の幅が広がるなどの成長を見せているため、神凪は内心でいつか本当に負けるのではないかと冷や冷やしている。
とはいえ、五条がいつも神凪だけに突っかかっているのかというと、そうではない。
「おっ、今日も派手にやってんねぇ~」
神凪が手っ取り早く2級術師としての審査を兼ねた任務を終えて高専に戻ると、高専の広大な敷地のどこからでも見えそうなほど巨大な呪霊が土煙と共に周囲を破壊している様子が見えた。
一応、呪霊が現れている場所はグラウンドの辺りではあるが、巨体故にあまり意味がないようだった。
「零。戻って早々悪いが、あの2人を止めてくれ」
そんな零を夜蛾が出迎えながら、ついてくるように促して現場へと早足で向かう。
神凪も素直に従いながら、念のために事情を尋ねた。
「あいつらがおっぱじめてからどれくらいですか?」
「5分くらいだ。ちょうど零が任務から戻って来たタイミングだな。少し目を離すとすぐこれだ」
「ちなみに家入は?」
「あいつにあの2人を止められると思うか?」
「でしょうね」
家入は基本的に後方でのけがの治療が主な仕事のため、あの2人に割って入るなどできるはずもない。
とはいえ、神凪は家入が最初から止めるつもりがなく、不穏な空気になったら1人でさっさと逃げるところを何度も目撃しているため、実際は性格的なものもあるのかもしれない。
そうして現場に着くと、そこでは思っていた通りの光景が広がっていた。
「悟!今日こそ君に自分の立場と言うものを教えてあげるよ!」
「へっ!傑こそ、お前に身の程ってのを分からせてやるよ!」
グラウンドから少し外れたところで、五条と夏油が互いを罵り合いながらそれぞれの術で派手に喧嘩をしていた。
夏油が呪霊操術で対抗できる呪霊を呼び出し、五条がそれを無下限呪術で攻撃を防ぐと共に接近を試みる。
それぞれの戦い方や相性が変に噛み合った結果、夏油は五条に対して有効打を与えることができず、五条もまた夏油に接近することが難しいため、目の前で起こっている泥沼の破壊合戦が展開されるのは珍しくないことだった。
「すまないが、頼んだ」
「はいはい。クソジジイ共ならともかく、夜蛾先生の頼みなら聞きますよ」
すっかり上層部のことが嫌いになった神凪だが、それでも担任である夜蛾のことは信頼している。
そのため、結果的に上層部の思惑通りになったとしても夜蛾の頼みであれば比較的素直に聞く。
とはいえ、夜蛾の言う通りに動くかというとそうではなく、
「おーい、お前らー!俺抜きでおもしれぇことしてんじゃねーよ!」
「おっ、来やがったな、零!傑、先にあいつをボコすぞ!」
「やれやれ、今回はこれでおあずけか。まぁ、私は別にかまわないけどね」
神凪のスタンスは基本的に“バカをやっている2人を止める”ではなく“バカをやっている2人に混ざる”のため、場合によってはさらに被害が拡大することもよくある。
幸い、『神凪には術式を使わず、基本的に呪力強化のみで戦う』という暗黙の了解、というより意地や手札の温存その他諸々が存在するのだが、その呪力で強化した身体能力で椅子や机を投げ飛ばしたり相手を思い切り吹き飛ばすことも珍しくないため、結局被害が治まるかどうかは運次第となる。
今回は物が少ないグラウンドのため、運が良ければ被害は少なくなりそうだと頭の隅で考えながら、五条&夏油vs神凪の喧嘩の様子を見守る。
驚愕すべきは、やはり2人の猛攻を完璧に捌く神凪の技量だろう。
術式を使わないとは言っても、呪力によって強化された身体能力はそれだけで一般人のそれを大きく上回る。さらに、五条と夏油は良く喧嘩をする仲だが、それゆえに互いの戦いの癖を知り尽くしているため連携にも目立ったミスは見当たらない。
にも関わらず、神凪はまるで後頭部に目が付いているかのように背後からの攻撃を躱し、崩れた体勢からでも相手の攻撃を利用することで立て直すどころか反撃を加えようとする。
等級の上では五条と夏油が上だが、その2人の連携を以てしても神凪に軽くあしらわれる光景は異常と言う他なかった。
だが、それは神凪が2人に対して圧倒的に優勢であるというわけではない。
「あっ」
五条と夏油の攻撃をいなす中で、不意に神凪が足を滑らせる。
当然、その好機を見逃すはずもなく、五条と夏油はここぞとばかりに襲い掛かる。
だが、一瞬の好機を前に勝利を逸ったのが失敗だった。
「ぶねっ」
「「あ」」
2人が同時に放った拳は神凪によって受け流されたことで空を切り、
「「っぶぇあ!?」」
さらに前のめりになってバランスを崩したことで体勢を立て直せなくなり顔面が衝突して火花を散らし、
「ぐぇっ!?」
最終的に2人揃って背中から倒れ込んだ神凪の上にもつれるように倒れ込んだ。
「ぃつつ・・・おい、バカ2人。さっさと起き上がってくれ。てか五条、お前が無限バリアを展開してくれりゃこうはならなかっただろ」
「ってぇ~・・・それ言ったら、零が素直に殴られてくれりゃこうはならなかったし、俺も気が済んだってことでwin-winだっただろ」
「いてて・・・それ、実質的に悟だけが得してるってことじゃないかい?あと、仮に殴れたとしても似た結果になってたと思うよ」
神凪は背中と腹を、五条と夏油は額を押さえながら、それぞれ文句を言い合う。
そんな3人の元に夜蛾が近寄った。
「げっ、いたのかよ・・・」
「当然だ、零をここに連れてきたのは俺だからな。それより、零もそろそろ限界だろう」
「さすがに、任務帰りの直後にやることじゃなかったですね・・・」
人の身で超人と渡り合う。それはつまり1つのミスが即大怪我に繋がると言うことであり、傍目には簡単にあしらっているように見えても実際は多大な集中力を要する。それが2人ともなればなおさらだ。
さらには、今回の任務は2級相当の呪詛師の捕縛であり、さらには現場も県境をまたぐ距離にあったこともあって、神凪の身体にはそれなりに疲労が溜まっていた。
その結果が、戦いの最中に足を滑らせるという初歩的なミスだった。
もし五条と夏油が油断して同時に襲い掛からずに連携を維持していれば、おそらく結果は違っていただろう。
「零は寮に戻って体を休めておけ。悟と傑はこれから説教だ」
「ずりーぞ!零だってノリノリで参戦してたじゃねぇか!」
「それは俺が呼び出したからだ。勝手に始めたお前たちと一緒にするな」
グチグチと文句を言う五条だが、首根っこを掴まれても無限を展開して逃げようとしないのは夜蛾を信頼しているからか。
「・・・ふぁ~、ねむ」
そんなことを考えながらズルズルと引きずられていく2人を見送った神凪は、ひとつ欠伸をしてから寮の自室へと向かっていった。
* * *
「ふぁ~・・・くっそねみぃ」
とある頃、時透は車の中で盛大に欠伸を零していた。
今回も実習として現場まで付き添ったのだが、いつもと違って突撃せずに担当の補助監督と共に待機していた。
理由は単純で、今回の案件は一級相当で時透の手に負えるものではなかったからだ。
というのも、以前の担当の報告から『時透の実力以上の任務であれば行動を押さえつける口実になる』ということで必然的に時透の同行は準一級以上の案件に絞られた。
そのため、全身から不機嫌オーラをまき散らしながらも一応は大人しく従う時透が出来上がった。行動だけ見れば大人しくしているように見えるものの、担当からすればいつどのように爆発するかわからない爆弾と狭い空間を共有する羽目になり、結果的に目を離した瞬間に突撃していたころと大して変わらない緊張感に苛まれることとなった。
とはいえ、突撃されて上から説教をくらうよりは幾分かマシなため、以前よりは耐えれるようにはなった。
「はぁ、せっかく昇級したってのに、けっきょく退屈なままってのもなぁ・・・」
余談だが、時透は神凪よりも早い段階で二級術師に昇級していた。というより、準二級案件や二級案件を勝手に解決していたため、昇級せざるを得なくなった。
「・・・でしたら、東京高専に移るように上に掛け合ってみましょうか?」
今回の担当は気疲れが隠せていない比較的気弱な男だったのだが、その提案に時透が食いついた。
「え?それマジ?」
「一応、仕事に必要なことは高専でも学べますからね。なんなら、学生同士で組んで行動することもできます。ですから、知り合いと一緒に学んだ方がモチベーション的にもいいんじゃないでしょうか」
男が言っていることは間違っていない。実際、高専には補助監督用のカリキュラムも存在する。
それでもそうしなかったのは、ただでさえ神凪の転入によって悪ガキが3人に増えた東京高専にこれ以上の悪ガキを放り込みたくなかったからだ。
だが、だんだんと時透を抑え込む自信がなくなってきた補助監督の間では、最初の期待はどこへやら、どうにか担当を自分たちから東京高専へと移せないものかと頭を悩ませていた。
そこで考えたのが、『やっぱり本人に東京高専への異動を希望させよう』ということだった。
だが、最初の担当が『補助監督になるためにこっちで頑張ろう!』と言った手前、自分たちから提案するのは難しい。
実は、同行する案件を準一級以上にして押さえ込んでいたのも時透をその気にさせるための策だったわけだが、このことは時透はもちろん、上司も知らないことだったりする。
「んー、そうだな~・・・うし、やっぱアタシも東京高専で勉強することにするわ!」
「そうですか。でしたら、今回の案件が終わったら一度戻るので、その時に話してみましょうか」
上も簡単には許可を出さないかもしれないが、そのための署名はすでに十二分に集めてある。いくつかの問題行動も事実であること、風の噂で聞いた
・・・実際は抑止力になっているのは誤解で神凪自身も十分以上に問題児なのだが、東京高専の関係者以外でそのことを知っている人物はそこまで多くない。
とはいえ、上層部も時透の問題児ぶりは想定を超えていたため、最終的に問題児を一か所に集めて監視しやすくするためにこの要請は通ることになる。
そして、この1週間後に時透は東京高専に移って神凪たちと同じクラスに配属されることになった。