零と無限の呪術師、ついでに時の不良監督   作:リョウ77

7 / 8
戦闘シーン書くの難しい・・・。


九死に一生と言わずあらゆるものを得る

先に仕掛けたのは天与の暴君・禪院甚爾。

フィジカルギフテッドの身体能力で強襲するのは、呪力で身を守ることができない神凪零。

隣にいた時透は甚爾の接近に気付くのが遅れ、バットを振りかぶるよりも早く神凪の眼前に凶刃が迫る。

だが、甚爾が踏み込むよりも一瞬早く動いた神凪が突き出される甚爾の腕を捉え、受け流した。

強靭な体幹で姿勢を崩すまでには至らなかったものの、一瞬だけ生まれた隙を逃さず時透が繰り出した渾身の横薙ぎを、甚爾は刃で受け止めつつ自分から後ろに飛ぶことで最小限のダメージに抑える。

実際は1秒にも満たないやり取り、余程の手練れでなければ何が起こったかまるで分らなかっただろう一瞬の攻防だったが、たったそれだけで神凪は全身からびっしりと冷や汗を流していた。

 

「・・・なるほど、こりゃあ五条と夏油がやられるのも納得だな」

「やるな、お前。まさか俺が間合いに入って仕留めそこなうなんてな。仕事終わりで気が緩んでいたか」

「バカも大概にしろ、こっちは腕一本は覚悟したぞ」

 

先ほどの攻撃、神凪はまったく認識できていなかった。

それでもいなすことができたのは、体が反射的に動いたからにすぎない。その証拠に受け流しも甘く、もし甚爾がその気だったら片腕を切り飛ばされていた。

そうならなかったのは、甚爾が『相性も有利だしすぐに終わる』と神凪の技量を甘く見積もっていたからだ。

だが、そのアドバンテージも今の一合で消え失せた。

神凪も最初の攻防が最初で最後の好機と理解していたが、それでも甚爾の身体能力が神凪の想定を遥かに上回っていたせいで棒に振ってしまった。

 

(さて、ここからどうしたものか・・・)

 

彼我の戦闘力の差を考慮しなくても、神凪たちの勝利条件は厳しいものになる。

先ほど甚爾が口にした通り、すでに盤星教の依頼はほとんど達成していて神凪たちと戦う理由はない。蠅頭の撹乱が治まるまでのタイムリミットを考えれば、神凪たちを無視して逃走する手もある。

それをしないのは、薨星宮は高専の地下深くに存在するためリフトを使って移動するのだが、それを神凪たちが抑えているからだ。

甚爾の身体能力ならばリフトを使わずとも自力で駆け上がることができるだろうが、その場合は高専の呪術師と神凪たちに挟み撃ちにされる可能性が高いため、やはり神凪たちを無視することはできない。

そして、時間が経てば経つほど高専内の警戒は強くなり、脱出のリスクも増えていく。

時間制限という意味では、神凪たちに圧倒的に分があった。

だが、それでも問題は残っている。

まず始めに、生半可な呪術師では甚爾の相手にならない。星漿体に懸賞金が掛けられていた間の護衛で今までにないほど消耗していたとはいえ、五条がこれといった手傷を与えることができずに殺されたとなれば、一級術師でも相手にするのはかなり厳しい。

ましてや、甚爾はかつて“術師殺し”と言われていたほどの手練れであり、禪院家から出奔した時に盗んだ数多の呪具も保有しているとなれば全国で見ても甚爾を相手取れる術師は片手で数えるほどいるかどうかといったところだろう。

高専内にも夜蛾を含めた一級術師は存在するが、甚爾に対抗できるかと言われれば不明としか答えられない。

そして何よりも、例え時間稼ぎをしたとしても増援が来る見込が限りなく低いということが問題だった。

天元が高専に施している結界は“隠す”ことに特化したもの。高専内に存在する1000以上の扉から薨星宮にたどり着けるものはたった1つであり、その正解の扉も毎日シャッフルされる。情報の漏洩を防ぐため、正解の扉を知らされる術師も最低限に絞られている。

異常事態が起こっているとはいえ誰彼構わず薨星宮に招集されるとも考えづらく、神凪も誰が知らされているかを把握していないため応援に来たところで連携をとれる確証もない。

もちろん、それ以前の問題として時間稼ぎすらできない可能性も存在するのだが。

 

「なら、次に狙うのはお前さんだな」

「やばっ・・・!?」

 

次に狙われたのは、先ほどの攻撃で反応が遅れていた時透だった。

一度甚爾のスピードを見たおかげでなんとか反応できたが、やはり神凪と比べて動き出すのは明らかに遅れており、

 

「遅ぇよ」

「がふっ!?」

 

バットで防ごうとするよりも早く刀で十字袈裟に斬られ、さらに蹴り飛ばされて壁にたたきつけられた。

対する神凪は、名前を呼んで安否を確認する時間も舌打ちをする暇すら惜しんで甚爾の刀を奪おうと手を伸ばす。

だが、今回は甚爾もそれを許さない。

即座に手首を返し、刀を奪おうと伸ばした神凪の腕を柄の頭で叩き折る。

神凪は激痛に呻き声が漏れそうになるが、それを押し殺して意地でも甚爾から離れないようにさらに踏み込む。

ここで一歩でも引けば間違いなくとどめを刺されるか、とどめを刺されないにしても呪力で身体能力を強化できない神凪では甚爾を追跡できずに逃がしてしまう。

退くも進むも絶望的。それでもわずかな勝機を求め、神凪は前へと進む。

 

「はい、お疲れさん」

「ぁが・・・っ!」

 

それをあざ笑うかのように、甚爾は逆袈裟で神凪の胴体を深々と切り裂き、拳を顔面に向けて振りぬいた。

 

(あっ、これ死んだな)

 

その光景を、スローになった白黒の意識と世界の中で、まるで他人事のように実感していた。

いわゆる死の間際の走馬灯なのだろうが、体は碌に動かず、徐々に迫ってくる拳からもタイムリミットが迫っているのは明らかだった。

 

(寧音は・・・ギリ生きてそうだな。黒井とかいうのも切り口が甘かったし、ターゲットじゃない女には手加減するポリシーでもあるのか)

 

死が間近に迫っているにも関わらず動揺も焦燥もなく冷静に状況を俯瞰している現状に、神凪は思わず苦笑いを浮かべそうになる。

思い返せば、子供のころから親から気味悪がられるほど感情が薄く、何をしても何をされても何も感じないことが多かった。

何をしても満たされないのとは違う、だがすでに満たされていると言うには充足感に欠けた感覚。

決定的だったのは、子供同士の喧嘩で相手を入院させてしまった時。相手の子供を手にかけそうになっても、親から「謝りなさい!」と怒鳴られても、他人事のようにうわ言で仕方なく謝ったら、まるで人間ではない何かを見るような眼差しを向けてきた親たちを見て、「あぁ、自分は普通とは違うのか」という自覚が生まれた。

だが、だからと言って周囲と同じように合わせるようなこともなく、自分をイジメようと手を出してきた同級生たちを返り討ちにする日々。

そんな中、ある日を境に人ではない何か、すなわち呪霊を目にするようになった。

親や同級生にはその姿を見ることができず、何もない虚空を指さしながら「あれは何?」と問いかける神凪を両親はさらに気味悪がった。

近づくのも憚るような醜悪な姿をしていた呪霊だったが、呪霊もまたなぜか神凪に近づこうとはしなかった。

だがある時、なんとなく「触ったらどうなるのだろう」という漠然とした疑問を抱いた神凪は、初めて自分から呪霊に近づいて頭に手を置いた。

すると、神凪が触った部分から呪霊の身体が消失していき、ある深さに到達したところで全身が消え去った。

それからは、目についた呪霊を片っ端から消滅させるようになった。特に深い理由があるわけでもなく、ただ単に呪霊が消失する光景が琴線に触れただけ。時には殴ったり、時には蹴ったり、またある時には全身で抱きつくように飛び掛かったりもした。

親からすれば突然始まった奇行にしか見えないだろうが、その姿がプロレスか何かの真似にでも見えたのか、近くにあった武術道場で体術を学ぶことを勧めてきた。

神凪からすれば的外れも良いところだったが、学んでおいて損はないと考えて親の申し出を受け入れることにした。

とはいえ、神凪の性格、というより性質が改善されたわけでもなく、次第に他の道場生から孤立して半年と経たないうちに辞めてしまい、他の道場も同じように入門しては辞めてを繰り返すようになってからは噂も広がって受け入れるところすらなくなってしまった。

最終的に中学に上がる頃には付近の道場では要注意人物としてマークされるようになり、完全に見切りをつけた両親によってアパートに下宿させられた。

それからは生活のほとんどを路地裏で過ごすようになり、親の最後の良心の仕送りと他の不良たちからのカツアゲを生活費にしながら、気まぐれに呪霊を祓ったり噂を聞きつけて襲い掛かってくる呪詛師を返り討ちにしていた。

時透と会ったのも、そんな生活を始めてから日が経っていない頃だった。

この頃の時透は過去視の術式によって両親が互いに不倫をしていることを知ってから荒れており、中学校進学を境に家出して鬱憤を晴らすかのように不良や呪霊に当たり散らしていた。

そんな2人が今では互いに信頼しているパートナーなのだから、人生どう転ぶか分からないということだろう。

 

(俺が死んだら、寧音はどうなるかね・・・我ながら欲求が乏しいとは思っていたが、ここまで極まっていたとは)

 

別に自分から死にたがっているわけではないが、だからと言って生きたい理由があるかと問われればあるとも言い切れない。

強いて言うなら、時透が気がかりなことと、すべてが思い通りになる盤星教が気に喰わないことくらいか。

あとは、

 

(この状況でも、意外とまだどうにかできそうな気がするんだよな)

 

出来ることが何一つないのであれば、このまま死ぬのも悪くないかもしれない。

だが、何か出来るような気がするのに何もしないのは、それはそれでもったいない気がした。

そう思えば、先ほどよりは死にたくないと思うようになる。

そして、それは眼前に迫る拳が近づけば近づくほどに強くなっていく。

 

(なるほどな、これが“恐怖”か。ここまでにならないと実感できないってのは、我ながらまったく・・・)

 

もはや生物としての本能が欠落しているとしか思えない体たらくに、神凪は今度こそ苦笑を浮かべる。

今まで全くと言っていいほど呪力を練ることが出来なかったのも納得の有様だ。

だが、今ならできる。その確信があった。

僅かに得た負の感情。それを火種に少しでも呪力を捻出する。

それで得た呪力は一般人程度のものだが、それでもないよりはマシだと思うしかない。

 

(さて、こいつをどう使おうか)

 

僅かにでも呪力を捻出できたはいいものの、体は碌に動かない。

甚爾の拳を回避することもできないが、防御に回すには少なすぎる。

ならば、やることは変わらない。甚爾の攻撃を喰らいながら、その勢いを攻撃に上乗せする。

 

(成功率は五分もないくらい・・・まぁ、何もせず死ぬよりはマシか)

 

腹は括った。

恐怖で硬直しそうになる身体を、強引に理性で叱咤して脱力させる。

そこで、とうとう甚爾の拳が神凪の顔面を捉えた。

だが、脱力して衝撃を逃がすことで甚爾の拳のダメージを最小限に抑え、さらに吹き飛ばされるはずのエネルギーを回転運動に変換、強引にその場にとどまる。

そして、空中で回転する勢いのまま、得た呪力を足に回して甚爾にたたきつけた。

 

 

瞬間、静電気のようにか細く瞬きの間でしかなかったが、それでもたしかに神凪の蹴りから黒い閃光が迸った。




やってることは郭海皇のあれ。
範馬勇次郎vs郭海皇のバトルは無限リピしたいくらい好きです。
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