零と無限の呪術師、ついでに時の不良監督   作:リョウ77

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天上天下唯我独尊×2

(なんだ?今の蹴り・・・)

 

油断していたわけではなかった。

想定外の反撃ではあったが、それでもほとんど死に体の状態の蹴り。いくら甚爾に殴られた勢いを利用したとはいえ、踏ん張りの効かない空中では威力もたかが知れている。

だが、そんな最後のあがきでしかないはずの蹴りは、たしかに甚爾の腕を痺れさせるほどの威力があった。

 

(一瞬だけ見えたが、まさか黒閃か?)

 

黒閃。

呪力と打撃の衝突の誤差が0.000001秒以内だったときに生じる空間の歪みであり、その時呪力は名前の通り黒い閃光となる。

静電気のような儚いものでしかなかったが、衝突の瞬間にたしかに黒閃を極めた証である黒い閃光が生じていた。

今まで出来なかった呪力の生成にこの土壇場で成功し、なおかつたった一度きりのチャンスで黒閃を極めるという偶然と言うには出来過ぎている事態だが、神凪ほどの武人であれば死に際の集中力で何かを成せるのは不思議ではない。

問題なのは、黒閃の効果。

黒閃を発生させた一撃は平均で通常の2.5乗の威力を発揮し、さらには術者を一時的にアスリートでいう『ゾーン』に入った状態になる。普段は意識的に行う呪力操作を呼吸をするかのように自然に行うことができ、呪力の核心との距離が大きく縮まる。

 

(とはいえ、今さらあの死にぞこないに何かできるとは考えづらいが・・・あの女と違ってガッツリ斬ったんだ。立っているのがやっと・・・)

 

そこまで考えて、甚爾は違和感に気付いた。

人間は立つ際に足の筋肉だけでなく腹筋や背筋など上半身の筋肉も使って姿勢を維持している。

十字袈裟で筋肉まで深々と切り裂かれているはずの神凪は、立っていることさえできないはずの重傷を負っているはずだった。

だが、神凪は甚爾を蹴り飛ばした後に切り口から血を噴き出しながらも着地し、その後膝から崩れ落ちてなおも立ち上がっている。

 

(ちっ、この土壇場で覚醒されても面倒だ。あいつが仕掛ける前に殺す!)

 

判断は一瞬。確実に息の根を止めるべく、先ほどよりも速く神凪の懐に潜り込む。

狙いは首。斬り落とすことはできなくとも頸動脈を切断すれば十分致命傷になる。

その行動に一切の迷いはなく、淀みない動きで神凪を殺すための最短距離を通過した。

それに加え、先ほどまでと違って神凪は今の甚爾の動きに反応できていない。

この一撃は確実に当たる。

そのはずだった。

刀が神凪の首を貫く直前、神凪が笑みを浮かべていることに気付くまでは。

 

「なっ・・・!」

 

確実に神凪の首を捉えたはずの刀は空を切り、代わりにその刃は神凪の手にがっつりと握られていた。

その光景に甚爾は考えるよりも早く柄から手を離し、一気に距離をとって注意深く神凪を観察する。

対する神凪は甚爾から奪った刀をマジマジと眺め、無造作に振りぬいた。

大して力のこもっていない、素振りとも言えないような動作。

たったそれだけで、刀が木っ端みじんに砕けてしまった。

その原因を、甚爾は即座に看破する。

 

(間違いねぇ。こいつ、呪力を使えるようになってやがる!それも、そんじょそこらの半端とは比較にならねぇ量だ・・・!)

 

ただの物に呪力を流す際の注意点の一つに、物に流し込む呪力の量がある。

呪具にもある程度言えることだが、物体の呪力を流すと攻撃が強化される分、物体にかかる負担も大きくなる。

一度に多量の呪力を流し過ぎてしまうと、物体が負荷に耐え切れず今のように自壊してしまう。

だが、今の刀は曲りなりにも何人かの呪術師を斬ったもので、微量だが呪力を含んでいる。それこそ一級相当の呪力出力でもなければ、あのような無造作な一振りで粉々に砕けるはずがないのだ。

それでも、今目の前で起こった事実と神凪から立ち昇る呪力がその答えを肯定していた。

 

「・・・ははっ、なるほどな。これが『呪力が満ちる』って感覚か。なかなか悪くないな」

 

そう独り言ちる神凪の声音は、明らかに今までと違う昂りが滲んでいた。

神凪の術式は呪力の消滅で、自身の呪力も対象となる。今までは術式を制御することが出来ず、常時発動しているような状態だった。

ならば、今になって術式を制御できるようになったということか。

だが、とてもではないがそれだけで片付けることが出来ない。

そこでようやく、甚爾はさらに驚くべき事態が起こっていることに気付いた。

 

(・・・おい待て、俺が斬った部分が治っているだと。まさか反転術式か?それこそあり得ねぇだろ、たった今呪力を操れるようになったばかりのやつが!?)

 

反転術式は通常の呪力の運用と比べてはるかに高度な技量を要求する。それこそ、五条が最強と呼ばれている現在でも習得できないほどに。

いくら基礎的な訓練だけは受けてきたとはいえ、初めての呪力運用から一発で可能になるほど甘いものではない。

目の前で起きている異常現象に、甚爾の処理能力が追い付かなくなり始める。

そこでようやく、神凪はうっすらと冷や汗を流しそうになっている甚爾に気が付いた。

 

「お?・・・あぁ、放置して悪かったな。初めての感覚だったもんで、ついうっかりしていた」

「お前、何がどうなっている?」

「感謝するぞ、禪院甚爾。死にかけたおかげで、ようやく呪力を捻りだせるようになった。とはいえ、あの状況であの程度の呪力しか出せなかったのは、我ながらイカレていたな。だが、なんでかな。あんだけ出来なかったっていうのに、今はなんでもできそうな気がするんだ。俺の術式も、ようやく理解できたところだしな」

「術式だと?呪力の消滅じゃねぇのか」

「そうだな・・・せっかく生まれ変わったような心地で気分がいいんだ。特別に教えてやる」

 

そう言って、神凪は昇降機の前をグルグルと回るように歩きだしながら、自分の術式の本来の性能を話し始めた。

 

「たしかに、今まで俺の術式はそういうもんだと思っていたが、それはそれで疑問があった。自分の呪力も消すんなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってな。実は呪力特性だったとか自動で全ての呪力を術式に回してるなんて考えもあったが、特性なら呪力操作の要領でコントロールできるはずだし、全て術式に使っているなら自分の中の呪力を知覚できないのはおかしい。だがな、呪霊の消滅反応なら、他にも例があるだろ」

「・・・反転術式か」

 

負のエネルギーである呪力同士をぶつけることで正のエネルギーを抽出する反転術式。

反転術式で得たエネルギーは人にとって体を治すことができる有益なものだが、呪力の塊である呪霊にとっては体が崩壊する毒となる。

反転術式をアウトプットできる術師はかなり希少なため実例を見たことがあるわけではないが、甚爾も知識として把握してはいた。

 

「そうだ、反転術式をぶつけることでも呪力は霧散する。普通に考えればそれで終わりだ。+と-を合わせたところで零にしかならないからな。だが、酸とアルカリを中和することで必ず水が生成されるように、呪力と反転術式の衝突でも何か別のものが生まれる可能性だって、あるんじゃないのか?」

「つまり、それこそがお前が呪力と反転術式両方を消滅させている術式の正体、ってことか?」

「50点、ってところだな。消滅反応そのものはあくまで副産物みたいなものだ。そもそも、そのエネルギーを生み出すのには呪力と反転術式の両方が必要だからな。なら俺は、どうやってそいつを生み出していると思う?」

「・・・まさかっ!」

 

その瞬間、甚爾の脳裏に閃いた一つの可能性。

あまりにも規格外かつ非現実的で、バカなと一蹴したくなってしまうほどの非常識。

その無情な答えを、神凪は容赦なく叩きつけた。

 

「太極図ってあるだろ?陽極まれば陰もまた極まるとかいうアレだ。意味するのは永遠の循環、要は一種の永久機関みたいなもんか。俺の術式はその体現らしい。何をせずとも呪力と反転術式を永遠に生成し続ける炉心。それが俺の術式の正体だったようだ」

 

無限の呪力と反転術式を生み出す術式。

似たような例は、なくはない。

賭け事の縛りによって一時的に無限の呪力を得ることができる術式は存在する。

だが、それはあくまで不安定な縛りによって一時的に成り立っているものに過ぎず、さらに言えば反転術式のエネルギーそのものを自動生成することもできない。

ただ一人ですべてが完結している永久機関。

まさに完成された完全に等しい。

 

「なら、なぜ俺は今まで無限に生み出される呪力や反転術式を扱えなかったのか?どうやらその理由は“流れの向き”にあったようだ。無限に生み出され続ける二つのエネルギーは、外ではなく俺の内に向かって流れ続けた。完全に同量のエネルギーによって相殺されながら生み出されるエネルギー、言うなれば虚式ってところか。俺の中は虚式のエネルギーで満たされていた。だが、流れを外に向けるための鍵は呪力だったんだが、術式の縛りなのか俺には呪力を生み出すために必要な感情の発露が極端に抑えられていたらしい。まぁ、全てを満たされている奴が何かを欲しがることなんざねぇし、湿った火種で火を点けるなんざ手間がかかりすぎてやってらんねぇわな。だが、お前のおかげでようやくコツを掴むことができた。今なら何でもできそうだ」

「あぁそうかい」

(ちっ、さすがに付き合い切れねぇな)

 

反転術式を永遠に稼働させれるということは、実質的な不死身に近い。時間稼ぎの役割としては完璧と言える。

どうにか隙を伺おうと敢えて神凪の説明をダラダラと聞いていたが、その機会も失ってしまった。

こうなってしまえば、これ以上この場で戦闘を続ける理由はない。

幸い、手はある。

神凪との戦闘では必要ないと判断して温存していた特級呪具“天逆鉾”。

その効果は『発動中の術式の強制解除』。

万が一その効果を消されては堪ったものではないと使わなかったが、呪力の消失の効果が消えている今ならその効果を遺憾なく発揮する。

今の神凪の術式を解除すれば、反転術式による回復もままならなくなり十分逃げ切れるだけの時間を稼ぐことができるだろう。

いくら無限の呪力で身体能力を強化しようと、反射速度はその限りではない。

天与呪縛によって底上げされた甚爾の身体能力であれば、術師の反射速度を振り切るスピードで動くことができる。

だが、

 

「そうだな、こういうのはどうだ?」

 

今回は、神凪の方が一手早かった。

呪力と反転術式を最大出力で稼働させることによって、神凪の全身が2つのエネルギーに包まれていく。

対する甚爾も一拍の遅れにひるむことなく急速接近し、天逆鉾を神凪に突き立てようとする。

狙いは心臓。炉心と表現した以上、そこに突き刺せば術式を効果的に解除できるだろうという見立てからだった。

だが、結果的にそれは無駄に終わった。

 

「炉心停止、鬼人擬創」

 

天坂鉾の刃が神凪の心臓に到達する直前、その一撃は神凪の白羽取りによって受け止められてしまった。

 

「マジかよ・・・ッ!」

 

その驚愕は、渾身の一撃を受け止められたことに対するものではない。

相手の2手3手先を読む神凪であれば、最短距離を詰めたからこそ読みやすい一撃を見切ることくらいできただろう。それを失念した甚爾にも落ち度はある。

だが、それ以上に甚爾を驚愕させたのは、神凪から一切の呪力を感じないにも関わらず自分に迫るほどのパワーで天逆鉾を受け止めている目の前の現実だった。

そのからくりは、一つしか考えられない。

 

「まさか、自力で再現したっていうのか!俺の天与呪縛を!!」

 

あろうことか、神凪は2つの炉心を最大出力で稼働させることで虚式を最大限生成し、同時に2つの炉心を完全停止させることで一切呪力のない状態を作り出すことで疑似的にフィジカルギフテッドの天与呪縛を再現してのけたのだ。

だが当然、炉心はいつまでも完全停止できるものではなく、少しでも再稼働するまでの時間制限が存在する。

その時間は、およそ3分。

だが、この3分間、神凪は目の前の鬼人と同じスペックを得ることができる。

 

「ハハッ、いいじゃねぇか!まさかこうまで見える景色が違うとは驚きだな!」

「そうかい、そりゃあ何よりだ!」

 

まさかの一時的とはいえ自分と同じ存在が現れる異常事態に、甚爾のボルテージも上がっていく。

だが、やはり恐ろしいのは神凪のセンスだろう。

フィジカルギフテッドによる肉体の強化は、運動能力だけでなく視覚や嗅覚などの五感にも及ぶ。

並の術師であれば圧倒的すぎる肉体性能に振り回されてしまうだろうが、神凪は土壇場の一発勝負にも関わらず“天与の暴君”と称されるほどの肉体を完璧に掌握していた。

全てを捨て去った者と、全てを得たが故に満たされなかった者。

対極とも言える存在同士である二人、今この時だけは仕事も任務も頭から押し出されてしまうほどに昂りながらぶつかり合っていた。

だが、その終わりは唐突にやってきた。

 

「あっ」

 

神凪に許された3分。

それが過ぎてしまえば、その直後の神凪は一般人程度の呪力しか持ち合わせていない脆弱な存在に過ぎず、

 

「終わりだな」

 

甚爾がその隙を見逃すはずもなく、容赦なく神凪の腹に蹴りを叩き込んだ。

神凪もこれを対処することができず、砲弾の如き勢いで壁にたたきつけられてしまった。

 

「ちっ、時間を喰っちまったな。さっさとこっから逃げねぇと」

 

最終的に勝ったとはいえ、夏油との戦闘も合わせてかなりの時間を使ってしまった。

さっさと脱出するために、昇降機へと足を向ける。

 

 

 

「よぉ、久しぶり」

 

 

 

そこには、殺したはずの五条悟(最強)が立ちふさがっていた。




五条が横になってた時間が不明なので何とも言えない部分はありますが、まぁそれでも夏油との決着時点で起きていたと仮定すれば、多分これくらいはあり得るんじゃないかなと。
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