Multicolored Beliefs   作:坂ノ下

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第2話 芸は身を助けるか

 東京都心部の西方に位置する荻窪。この地をヒュージから守るのが神庭女子藝術高校である。

 神庭に限らず、東京のガーデンは元々三校を除いて大規模外征やギガント級ヒュージとの戦闘を念頭に置いていなかった。

 その三校――――東京御三家の力とヒュージが長距離空間移動に用いるケイブを阻害するエリアディフェンス発生装置のお陰で、地元の守備に専念できたからだ。

 ところが御三家の一角、ルドビコ女学院がとある事件でガーデンとしての機能を大幅に低下させたため、他のガーデンがその穴を埋めざるを得なくなる。

 神庭も例外ではなく、以前に比べて出撃範囲が広がり戦闘規模も増大しつつあった。

 

 それはそれとして、戦闘を終えた神庭のリリィたちは今日も学び舎で学業に勤しむ。

 リリィが学ぶのは座学に戦闘訓練、そして神庭の場合、芸術分野を選択することができた。

 建築、造園、絵画、そして紅巴の選択した音楽学科。

 この日も紅巴は講義が始まる少し前に実習室へと赴き、目立たない部屋の隅から誰かを捜すように視線を彷徨わせていた。

 

「今日も見当たらない?」

「姫歌ちゃん……」

 

 桃色ツインテールを垂らしたリリィ、姫歌が横から尋ねてくる。

 紅巴は直前まで彼女に気付かなかった。それだけ熱心に捜していたのだ。

 

「前に秋日様に確認したけど、退学になってないのは確か。どこのガーデンもリリィの事情を考慮して色んな単位の取り方を認めているから、卒業自体はできるんでしょうね」

「はい。でも……」

 

 紅巴は両手の指をぎゅっと握り込み、目を伏せる。

 

「やっぱり心配よね。比呂美様」

 

 安孫子比呂美(あびこひろみ)。音楽学科三年。かつて姉の仇のヒュージを誘き出すため、音楽学科の後輩である紅巴を囮にした人物である。

 文化祭での姫歌たちのライブ以来、比呂美は講義に顔を出さなくなった。

 紅巴は声楽の講義に出る度に彼女の姿を捜していた。

 

「ところでさ、一つだけ聞いてもいい?」

「はい?」

「紅巴は比呂美様と会って、どうしたいの?」

「どうって……」

「もう一度ちゃんと謝らせるとか?」

「ち、違いますっ」

「冗談よ」

 

 紅巴が慌てて首を左右に振ると、姫歌は呆れつつも軽く笑みを浮かべた。

 

「そのっ、それが、よく分からないです。恥ずかしながら。何をしたいとか、何を話したいとか。ただもう一度、比呂美様にお会いしたいんです」

 

 たどたどしく話し出した紅巴に対し、姫歌は黙って耳を傾ける。

 

「比呂美様は、本当に丁寧に歌をご指導してくれました。ヒュージを誘き寄せるために私の歌が必要だったとしても。私の歌を聞いて、褒めてくださったこと、本当に嬉しかったんです」

 

 拙いながらも思ったことを一生懸命言葉にする。

 すると紅巴が話し終えるのを待ってから、姫歌がゆっくりと口を開いた。

 

「紅巴、それって――――」

「恋だね☆」

 

 唐突に背後から襲う衝撃。

 後ろを見れば、ゆるふわの髪を左右でお団子みたいに結った灯莉が二人の肩から覆い被さっていた。

 

「ちょっと灯莉! 重たい重たい!」

「そんな、恋だなんて。私にはとても……」

 

 紅巴が否定的な反応を見せると、灯莉はつぶらな瞳でぱちくりと瞬きする。

 

「えーっ? でもとっきーってそういうの好きでしょ?」

「私は()()()なんです! 私自身がお話の主体になりたいわけじゃないんです」

「んーーー、でもひろみん先輩のことすっごく気になるって」

「それは、そうですけど。それはそういう意味ではなくて……」

 

 天然な灯莉に直球で追及されて、しどろもどろになる紅巴。

 そんな彼女を見兼ねたのか、姫歌が口を挟む。

 

「これが恋かどうかは置いといて。紅巴の自己評価が低すぎるのは問題よね。戦闘で、リリィとしてはマシになってきたけど、女の子としての自己評価はまだまだ。もっと自信を持ちなさい」

 

 姫歌のフォロー。それは間違いなくフォローだった。少なくとも最初は。

 ところがすぐに雲行きが怪しくなってくる。

 

「まずはやっぱりファッションからよね。目に見える形から入れば自信もつきやすいし。紅巴は意外に背丈があるしスレンダーだから、かっこいい系かしら? 街に見に行くのもいいけど、いっそのことひめかが作るのもありかも」

「あ、あのっ、姫歌ちゃん、少し大袈裟じゃないでしょうか」

 

 事態があらぬ方向に進みかけ、紅巴は焦る。

 見ての通り、定盛姫歌というリリィは行動力の化身であった。それでいて戦闘時は頭脳派であり、グラン・エプレのサブリーダーを務めている。

 

「そんなことないわよ。紅巴、いい? 見た目は人の重要な要素の一つなのよ。第一印象でその人の無意識的な好悪が左右されるの。だから服装もとっても大事なわけ」

「えーっと、でも、それはそれとして、もうすぐ予鈴が鳴りますよ?」

 

 言った端から講義室にチャイムの音が鳴り響く。

 

「って、あーーーっ! 灯莉、あんた講義違うでしょ!」

「あっ、そうだった。教科書忘れたから定盛に借りに来たんだ☆」

「あたしが絵画科の教科書持ってるわけないでしょうが!」

 

 右往左往している内に、三人纏めて先生に叱られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての講義が終わった放課後。紅巴はシュガールを収納した直方体のチャームケースを背負い、控室へ向かっていた。

 常設レギオンのグラン・エプレには専用のレギオン控室が用意されている。ミーティングや反省会、メンバー同士の交流等、様々な用途で利用される。

 紅巴が扉を開けた時、本日の面子は既に全員揃っていた。

 

「遅れてすみません」

 

 紅巴の謝罪の言葉は喧騒に掻き消されてしまう。

 何やら議論が白熱しているようだ。

 

「だーかーらー! 最後のラージ級、あれはあたしが砲撃で倒したの!」

「違うわよ! その前にひめかのレーザーが当たってたわ!」

 

 テーブルの上に置かれたタブレット端末。そのディスプレイを前に姫歌と言い争っているのは、黒髪を左右でドリル状に巻いた一年生リリィ、横田悠夏(よこたはるな)。彼女も無論グラン・エプレの一員であり、同時に生徒会役員でもあった。

 

「これは、一体何事ですか?」

 

 喧騒から距離を置いてソファにちょこん座っている銀髪のリリィに尋ねてみる。

 

「先日の鷺宮迎撃戦の詳細な戦果が纏まって、それで、お二人が……」

「ああ、姫歌ちゃんと悠夏さん、ヒュージの撃破数を競争してましたね」

 

 答えたのは塩崎鈴夢(しおざきすずめ)。同じくグラン・エプレ兼生徒会役員。

 

「記録では、姫歌さんと悠夏さんの共同撃破になってます」

「でもそれじゃあ同数だから、口論してるんですね」

「はい……」

 

 鈴夢も、事情を悟った紅巴も、眉をハの字に垂れ下げ困り顔になる。

 姫歌と悠夏、レギオンでのポジションが同じAZ同士、張り合うのはよくあることだった。

 

「でも、今回は仕方ないのかも。ラージ級ですし」

 

 紅巴は困惑しつつ、納得してもいた。

 ラージ級の単独撃破。一年生の時点でそれを為せるのは名門ガーデンの生え抜きだったり強化リリィだったり、限られたリリィだけだった。一つのボーダーラインと言える。

 二人が言い争いを続ける一方で、テーブルの端ではスケッチブックを広げた灯莉が熱心に絵を描いている。こちらもこちらで自分の世界に没頭気味だ。

 本日の放課後ミーティングは一年生のみの参加であり、上級生たちは皆それぞれ用事があって不在である。

 紅巴は取りあえず戦闘結果のデータを鈴夢の端末から確認させてもらうことにした。

 

『鷺宮迎撃戦。投入戦力、神庭女子藝術高校所属リリィ52名。戦果、ラージ級3体、ミドル級25体、スモール級198体。損害、神庭女子所属リリィ軽傷者多数、避退地域の家屋倒壊多数、避退地域に接続する都道427号線に損壊――――』

 

 実際に現れた敵戦力は事前の想定よりも弱体だった。

 これは割と珍しい事態である。対ヒュージ戦においては「1体見かけたら5体は居ると思え」が鉄則だからだ。

 ともあれ、被害が軽微なのは喜ばしい。

 

「ええと……出現ヒュージにも特におかしな傾向は見られませんね」

 

 更に紅巴は明示されたデータから子細な分析を試みる。実数が少なくとも、種や編成に不審な点があれば懸念の材料になり得る。

 敵戦力の過半を構成していたのはスモール級のテンタクル種スクラ型。その名の通り継ぎ接ぎのスクラップみたいな外見をしており、東京など大都市圏での出現事例が多い。他のテンタクル種に比べて内蔵触手が長く攻撃範囲が広い点以外は特筆すべき事項は無かった。

 

「気掛かりなのは、最後の掃討戦、苦戦したことでしょうか?」

「はい。私が正にそうでした」

 

 鈴夢の意見に紅巴が首肯する。

 敵主力を撃破後の掃討戦において、神庭のリリィたちは手際の悪さから過大に時間を費やしてしまった。

 

「それはやっぱり、神庭(うち)が大人数での戦闘に慣れていないせいね」

 

 いつの間にか口論を終えていた姫歌が話に加わってきた。

 

「あとは、あたしたちグラン・エプレは攻撃寄り、他の子たちは防御寄りの戦術が得意なのも連携に影響してるんじゃないかしら」

 

 こちらの意見は悠夏のもの。

 実際、グラン・エプレ以外の神庭のリリィはこれまで攻撃的な任務が少なかった。

 

「連携はすぐのすぐに向上するものじゃありません。取りあえず、三部隊ずつでの訓練を増やすのはどうでしょう?」

「そうね、それぐらいから始めるのが堅実ね」

 

 紅巴の提案に姫歌が賛同した。

 

「あとねーあとねー、皆ぼくみたいにヒュージをバンバン撃ちまくればいいんじゃないかな」

 

 そう言う灯莉はスケッチブックの絵を完成させていた。腹の中から黒色の大砲を突き出したヒュージの絵だ。

 

「確かに、集団戦は射撃戦だけど……。灯莉みたいな『天の秤目』持ちばかりじゃないから。でもアステリオンならうちでも数を揃えられるし、集中運用とかできたら強いかも」

 

 姫歌が灯莉のスケッチを見ながらブツブツ呟く。

 ところがその姫歌の目が徐々に険しくなっていった。

 

「あ~っ! このヒュージ! 紅巴を不意打ちした奴! 思い出したら腹が立ってきた!」

「定盛、どうどう。ぼくのスケッチに噛み付かないでね」

「噛み付かないわよ! あと定盛じゃない!」

 

 いつものように二人の仲睦まじい掛け合いが始まって、それを眺める紅巴は物言わずホクホク顔になる。

 その後も一年生たちは議論を続けていった。

 実はこれ、この場に居ない叶星や秋日が彼女らに課した自習であった。先日の戦闘結果を踏まえて問題点と解決策を検討するように、と。

 そして自習のテーマはもう一つある。

 

「さてと、じゃあそろそろもう一つのお題に移りましょう」

「お題って」

 

 悠夏の茶々を無視して姫歌が司会を進行する。

 

「ずばり! 卒業後にしたいこと、なってみたいもの!」

「お~、どんどんパフパフ☆」

 

 灯莉に囃し立てられた後、姫歌は咳払いを一つ挟んでから続ける。

 

「ひめかたちまだ一年生だけど、高校生活なんてあっという間よ! 今から考えておいても早過ぎるなんてことないわ! 流石先輩方ね! というわけで一番手はこのひめひめが――――」

「はいはいアイドルね。じゃあ次」

「ちょっとー! 雑過ぎるんだけど!」

「だって毎日毎日聞かされて、()()()よ」

 

 面倒臭そうな顔と仕草で姫歌をあしらった悠夏が自分自身について話し出す。

 

「あたし、実は教導官にちょっと興味があるのよね」

「えっ、悠夏さんがですか?」

「意外に思うでしょ? でも生徒会に入ったのはそのことも関係してるの」

 

 紅巴は思わず聞き直してしまった。教導官の固いイメージと悠夏が結び付かなかったからだ。

 

「こう見えても故郷のお台場や今の神庭には愛着があるし、何かしらの形で守りたいって思ってる」

 

 いつになく真剣な調子に、紅巴は尊敬の念を覚えた。

 普段の悠夏からすると「高嶺姉様に付いて行く!」と言い出しても不思議ではない。

 

「ぼくはねー、ユニコーンを探しに色んな所に行ってみたいなー。それで色んな所の絵を描く!」

「ふふふ、灯莉ちゃんらしいですね」

「そう言うとっきーは?」

「私は、昔私がお世話になった施設のために何かしたいです」

「おぉ~。とっきー、えらーい☆」

「い、いえっ。具体的に何ができるかとか、そういったことはまだ全然なんですけど……」

 

 年相応の話題で年相応に盛り上がる少女たち。

 そんな中、ソファへ静かに腰掛けている鈴夢の隣へ灯莉が移動する。

 

「じゃあ、すずめっちは? 何やりたいの~?」

「えっと、私は……特に思い付かないんですけど……」

 

 口ごもり、目線を伏せた後、答える。

 

「生きていたいです……」

「暗い暗いくらーい!」

 

 姫歌がすかさず割って入った。

 

「それは卒業するまでの話でしょ! そうじゃなくて、卒業後に何をやりたいか、よ!」

「えっ……」

 

 鈴夢は再び考え込んで、言おうか言うまいか迷うような態度を見せた末に、やがてゆっくり口を開く。

 

「あ、秋日様に、ご飯を作ってあげたいです」

「それもう結婚してるのでは!?」

 

 今度は紅巴の乱入だ。

 

「やはりそうなんですね? そうだったんですね!? はぁ~~~っ、はっ、はっ、はっ……」

 

 突然、興奮の余り過呼吸を起こす患者。

 これがグラン・エプレの控室でなければ、仲間たちに搬送されていたことだろう。

 しかし今は控室なので、皆そのまま流すことにした。

 

「でも鈴夢って料理できたっけ?」

「いえ、実は、そんなに得意じゃないです」

 

 声を沈ませた鈴夢の答えを聞くと、悠夏は力強く頷いた。

 

「だったら特訓しないとね。大丈夫よ、そういうこと教えるの得意だから。姫歌が」

「あたし!? いや、得意だけどさ。……はあ、仕方ないわねえ」

 

 突っ込みながらも、世話焼き気質を発揮し満更でもなさそうな姫歌。伊達にサブリーダーや一年組の纏め役はやっていない。

 こうして全員の目標が出揃ったことにより、先輩たちからの自習は達成できた。

 

「う~ん、ひめかたちの中だけ見ても、芸術方面の目標を持ってるのは意外に少ないのよね」

「こんな御時世だから仕方ないんじゃない?」

「こんな御時世だから、明るく盛り上げていかなきゃいけないのよ。音楽にも絵にも花にも家にも、その力があるわ」

 

 悠夏の現実的な意見に対し、姫歌の言は些か理想主義的ではあるが、姫歌本人が実践しているのでそれを馬鹿にする者など居ない。少なくとも神庭には。

 

「だけどやっぱり、あたしみたいにガーデンの教導官や職員を目指す子が多いんじゃないかしら」

「そうですねえ。神庭の主任教導官をはじめ、先生方は母校や他のガーデンの元リリィだったりしますし……」

 

 過呼吸から立ち直った紅巴が悠夏の言葉に同意する。

 紅巴はすぐに限界状態へ陥るが、回復もまたすぐだった。

 

「あっ、でも校長先生はリリィじゃなかったそうですよ。文科省の出身だとか」

「そうなのよね。ガーデン関係者でも軍関係者でもない人が校長なんて、結構珍しいことよ」

 

 自習という名の交流の時間は賑やかに過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本校舎一階最奥部、校長室。

 生徒会長の本間秋日とトップレギオン隊長の今叶星は執務机を挟んでガーデンの長と対面していた。

 机上に書類の山や分厚い冊子、携帯端末などが几帳面に並ぶ中、椅子に腰掛けた三十過ぎの女性が直立する二人の生徒と視線を交錯させている。

 ブラウンのショートボブ、落ち着いたワインレッドのレディーススーツを身に付けたこの女性が神庭女子藝術高校の校長である。

 

「結論から言うと、神庭の理事会は防衛省からの『出撃選択制』撤廃要請を丁重にお断りしました」

 

 生徒に対しても常に丁寧な言葉遣いの校長の弁。

 それを聞いた秋日も叶星も表情を固くする。

 出撃選択制とは、所属リリィたちに最低限の出撃義務しか課さず、それ以外の戦闘参加は個々人の判断に委ねるという神庭の制度・理念のことだ。

 

「防衛省も政府も、よく引き下がりましたね」

 

 秋日が疑問を呈すると、校長はやや間を置いて答える。

 

「先日の鎌倉府での一件。恐らくあの件が尾を引いているために無理強いできなかったのかもしれません」

 

 秋日が両の瞳を細め、叶星が目を伏せて表情に暗い影を落とす。

 あの一件について、思うところの無いリリィは居ないだろう。

 鎌倉府人造リリィ脱走事件。ヒュージ由来の細胞から生み出されたリリィをヒュージと認定して捕獲を命令。後に人間と認められて捕獲命令も撤回されたが、直後に出現したギガント級ヒュージとの戦闘で件のリリィは戦死認定された。

 グラン・エプレも直接の関りこそ無かったが、一時は捕獲命令を受けて鎌倉方面へと移動していた。

 

「政府の審議会である安全保障審査委員会は誤った情報に基づき誤った判断を下しました。一度下した命令を撤回するのは政界・官界において重大な意味を持ちます。安保審査委は政治的影響力を大きく損ねたのでしょう」

 

 何も喜ばしいことなどない。事件の結末を考えれば。

 それに神庭とて今回の出撃選択制の件では難を逃れたが、このままで済むとは限らない。

 

「政府は直に次の手を打ってくるはず。元々安保審査委はその能力を疑問視されていたので、後継機関に譲って発展的解消に至るのは規定事項でした」

「まだ出撃選択制の廃止を諦めていないということですか……」

 

 神庭の理念の危機に叶星も心穏やかではいられない。彼女と高嶺が御台場から神庭へ移ったのは、この出撃選択制があったからなのだ。

 神庭は東京でも中堅のガーデンだが、自由な校風で有名だった。取り分けその象徴である出撃選択制が、国家の統制を重視する者たちにとって目障りなのは自明の理というもの。

 ルドビコ女学院の崩壊以降、東京の防衛体制再構築は喫緊の課題となっている。政府側の圧力も当然予想できた。そのための東京圏防衛構想会議と神庭の作戦範囲拡大方針なのだが、どうやらそれだけでは不足らしい。

 

『リリィの戦いは今日が最期かもしれず、命を賭すに値するかどうかはリリィ自身が決めるべき』

 

 今、神庭の校訓が問われようとしていた。

 

 

 

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