Multicolored Beliefs   作:坂ノ下

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第21話 日本の敵

 荻窪南部にある神庭女子藝術高校。その敷地を外部と隔てる門壁の周りを、小銃を抱え迷彩柄の野外戦闘服を着た兵士たちが囲む。

 野外訓練場も含めたガーデンの敷地は広大で、外壁の全面を包囲するのは流石に不可能だが、定期的に一個分隊ないし半個分隊規模の人数を動かして外周巡回を実施している。

 また正面の校門ゲートと裏門の前には角ばった車体の装輪装甲車が横付けされ、即席の検問所まで設置される有様。

 その更に外周から注がれる不安げな住民の視線を見ないようにして、緑衣の集団は粛々と任務を遂行していた。

 この異様な光景を前に、渦中のガーデンは静けさを保っているように見える。

 しかしそれは外から見た姿に過ぎず、校舎内では生徒たちの騒めきが()()()と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことなんですか!? 灯莉が連行されたって! 神庭が出撃禁止って!」

 

 生徒会室に姫歌の叫びが木霊する。

 彼女の訴えをあらかじめ予想していたのか、秋日は椅子から離れて会長席の机の前に立っていた。

 

「昨日の夕刻、部室棟にあるアイドルリリィ部の部室内で、特別監察本部から来た監察官補佐の男性が灯莉さんに突き飛ばされて転倒するという事件が起きたの」

 

 秋日は努めて冷静にゆっくりと話しているようだった。

 

「監察中とは言え彼らが部室内で行っていた行為については、無断で、立ち会いも居ない、いわば不法行為。普通に考えたら灯莉さんに公務執行妨害罪が適用される可能性は低いでしょう。暴行罪に当たるかどうかというところ。ガーデンはそう捉えていたわ。最初は」

 

 一旦言葉を区切ってから、再び秋日の口が開く。

 

「だけど特別監察本部は、トップレギオン所属の灯莉さんのこの行為をガーデンによる監察への妨害、ひいては政府からの監督不服従と認定したわ。更には内乱罪の嫌疑有りとして捜査も――――」

「そんなっ! 滅茶苦茶じゃないですか!」

「ええ。勿論内乱罪がどうのというのは、吹っ掛けてきただけでしょう。でも監督不服従だけでも、神庭の出撃を停止させる措置を取るには十分だった」

 

 形の上では私立校のガーデンも、その任務の性質上防衛省や文科省を通して政府からの監督を受けている。

 この監督という文言が曲者で、どこまで踏み込むべきかは常に議論が絶えなかった。

 国防に直結する事柄ゆえに行政と私人における関係を準用するわけにはいかないし、かと言って上級行政庁の下級行政庁に対する指揮監督権と同程度に私立校を扱うこともできない。

 結局、普段はガーデン側に広範な裁量を認めつつ、個別具体的な案件が浮上した際に介入するようになっていた。

 

「それで、これから灯莉はっ! そもそも何だってそんな挑発に乗るようなことを!」

「灯莉さんは現在、防衛軍の警務隊に身柄を拘束されてるわ。近い内に然るべき施設に護送されるとか」

「そんな……」

「ただ、どうにも奇妙なの。東京都内の軍の施設に移されるのが当然のはずなんだけど、何故か鎌倉方面へ護送するつもりみたいで」

「…………」

「ごめんなさい。これ以上はガーデンでも掴めなかったわ。本当に、ごめんなさい」

 

 秋日は己の無力を恥じるかのように目を閉じて顔を伏せる。

 リリィとしても生徒会長としても尊敬すべき彼女にそうされては、姫歌も感情の向けどころを見失ってしまう。

 

「灯莉さんが事に及んだ理由は、恐らくこれでしょうね」

 

 横から話に加わってきた高嶺が腕の中に抱えていた服を見せる。

 フリルをあしらった純白のドレス。

 姫歌が見間違えるはずもない。アイドルリリィ部のステージ衣装である。

 

「部室の中には、この衣装が汚れた状態で床に落ちていたそうです。何が起こったのか大体想像がつきますねえ。そして灯莉ちゃんがどうしたのかも、姫歌ちゃんには想像できるのでは?」

 

 高嶺のあとを藤乃が引き継いだ。

 藤乃の言わんとするところを理解して、姫歌は更にぶつける相手のいない感情を滾らせて口を強く引き結ぶ。

 

「今、校長先生が監察官の人と話をしているわ。私たちは何があってもすぐに動けるように待機していましょう。灯莉ちゃんも勿論心配だけど、神庭の出撃停止も問題よ。ここ荻窪だけじゃなく、東京西部にヒュージの大規模侵攻が起こったら危険な事態になるから」

 

 トップレギオンの長として最後に叶星が方針を示した。

 いつ来るか不透明なヒュージに備えるのは姫歌も同意見だった。頭では分かっているのだ、頭では。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 応接室のソファの上で、校長は監察官の男と三度(みたび)対峙していた。

 

「我が校のリリィに、政府の監察を妨害する意図はありません。ましてやガーデンを挙げての内乱など……。丹羽灯莉の送致と神庭に対する出撃停止措置を直ちに取り止めてください」

 

 通常、リリィのガーデン内における行為や作戦行動中の行為に関しては、一般的な司法警察職員ではなく各校横断の風紀委員が取り締まることになっている。

 即ち、リリィを擁護しリリィを監視する者もまたリリィというわけだ。

 ただしこれには例外があった。

 一般社会に対して重大な影響を与えると認められ、かつ、悪質な行為については防衛軍の警務隊による取り締まりを受ける。警察でなく軍なのは、リリィの戦力を考慮してのこと。

 実際、かつて鎌倉府でヒュージの逃亡を幇助したとされる百合ヶ丘のリリィは、政府の命を受けたガーデンのみならず警務隊指揮下の装甲部隊から追跡されるはめに陥った。

 そういうわけで、単なる暴行事件と国家への反逆行為とでは、ガーデンは勿論、灯莉個人の扱いも大きく変わるのである。

 

「どうやら校長先生は事態を理解していないようだ。確かに私の部下は軽く突き飛ばされ軽傷と呼ぶのも憚られるようなかすり傷を負ったのみ。だがしかし、実際に受けた被害の程度はこの際大した問題ではない」

 

 監察官は校長の訴えを意に介さず続ける。

 

「問題なのは、リリィという一個人にあるまじき強大な武力を有する存在が、丸腰の人間に暴力を働いたという事実。これを許しては国家全体の秩序を毀損しかねないし、そのようなリリィを擁するガーデンは国と市民社会に対する背信を抱いていると疑わざるを得ない」

「それは、過剰反応というものです。そもそも彼女が手を出したのは、あなた方による不法侵入行為と侮辱行為が原因ではないですか」

「ふむ、つまり理由があれば凶行に及ぶのも仕方ないと言いたいわけか。感情を理性で抑制できないような者がヒュージ対策の名目で野放図に闊歩する。これでは無力な市民は恐怖で気が気でないだろう」

 

 鼻で笑う監察官の態度は、まともな議論や交渉など元よりするつもりが無いと表明しているようなものだった。

 

「今まさにあなた方の行なっている行為こそ、権力(ちから)による示威でしょう」

「笑止。国家秩序の擁護者たる我々に恐れを抱くのは、犯罪者か犯罪者予備軍ぐらいのもの。無法を自ら証明するとは、語るに落ちたな」

 

 もはや何を言っても糠に釘。

 ただそれでも校長はガーデンの長として、教育者として、言わねばならないことがある。

 

「監察官は彼女たちを酷く恐れておられるのですね」

「恐れて、いるだと? 私が?」

「リリィといえども、彼女たちは日々の部活や行事に一喜一憂する学生に過ぎません。私たちと同様に笑ったり泣いたりするただの人間なのです。それを――――」

「ただの人間はっ!!!」

 

 諭すような校長の声を鋭い怒声が遮った。

 

「ただの人間は生身で銃弾を弾いたりビルを飛び越えたりしない! 現実から目を背けた感情論はやめてもらおうか!」

 

 それはある種の悲鳴にも聞こえた。

 発した直後に冷静さを取り戻したようだが、尋常でなかったのは馬鹿にでも分かる。

 彼の過去に何があったか、校長には窺い知ることはできない。

 けれども相手の方は校長の過去を調べているようで。

 

「……貴方が今そうしてガーデンに、それも出撃選択制などという代物を掲げた神庭に与しているのは、文科省時代に左遷された過去への意趣返しのつもりなのか? 自分を疎んじた省と国に対する当てつけなのか?」

 

 詰問するかのような問い掛けを受け、校長は一時口を噤んだ。疎んじられ左遷されたという部分は事実だったからだ。

 校長がガーデン職員として神庭にやって来る前、文部官僚時代、交換留学生連携推進事業のための東南アジア地域出張の際、彼女は同省職員による現地歓楽街巡りについて苦言を呈したことがあった。

 無論、組織として実施したわけではないし、公費に計上したわけでもない。そんなことをすれば大問題になる。

 しかしそれでも教育行政に携わる者の振る舞いとして相応しくないと彼女は思ったのだ。

 結果、校長は上から疎んじられるようになった。空気が読めず組織の和を乱す逸脱者と見なされて。

 当時の文科省幹部は以下のように語っている。

 

「我々日本人が金を落とすことで現地経済が活性化し、また歓楽街における貧困女性の実態を把握できるという良い面もあるのに、一概に悪しように非難するのはいかがなものか」

 

 この件に関して、どこからどのように聞きつけたのか、日本のチャームメーカー月読技研のベトナム支社長にしてチャーム起動理論の世界的権威でもある吉村晋(よしむらすすむ)博士が、日越の報道陣の前でこの文科省幹部を暗に指して歓楽街を訪れる日本人観光客に強い不快感を示した。

 博士は研究者の現地人女性と結婚しているので、あんなのが日本人のスタンダードと思われたくなかったのだろう。

 以降、風向きは変わった。日本政府も流石にヤバいと気付いたのか、件の文科省幹部を別件で更迭に追い込んだ。

 ただ校長が省内で浮いていた状況に依然変化は無く。

 ちょうどそんな折だった。彼女が神庭の理事会にスカウトされたのは。

 

「私は確かにあの時、省内に居ずらくなっていました。身内に『火をつけて燃やした』などと思われたことでしょう。ですが、復讐心によって神庭からの勧誘を承諾したわけでは決してありません」

「どうだかな。男社会の霞が関を否定し理想の世を実現するため、ガーデンへ入ったように私には思えるのだが」

「そんな、大それた信念のためではないのですよ」

 

 校長はフッと口元を緩める。

 

「子供が好きだから。ただそれだけの理由で、神庭(ここ)に来たんです」

「……クッ、フフフフフッ、何を言い出すのかと思いきや」

 

 一方の監察官は口の端を歪める。

 

「その子供を戦場に送り出す立場にありながら、よくもまあ抜け抜けとそんなことが言えたものだ。いっぱしの教育者面をしているのも噴飯物である」

 

 リリィという未成年者の戦場への投入は社会、いや世界全体の罪過である。

 それをあろうことか、仮にも国家に所属する者がガーデンへの()()として言及するなど、中央政府による安全保障機能の麻痺を自ら証明するも同然の言動だろう。

 だが校長は気を悪くした様子を見せず、むしろ監察官の言葉を予期していたかのように反応する。

 

「ええ、正に監察官の仰る通りです」

「…………」

「相手を好いているからと言って、必ずしもその相手のために行動しているとは限らない。相手のためと思ってした行為が、実際に相手のためになるとは限らない。我々大人は肝に銘じなければなりませんね」

「……何が言いたい?」

 

 監察官が細い目を更に細めて静かな圧を送ってくる。

 乾いた空気、沈黙が暫し続いた。

 相手の態度が変わらないのを見て取って、監察官は鼻を鳴らして再び口を開く。

 

「フンッ、何をどう取り繕おうが、今の貴校をガーデンとして働かせるわけにはいかない。この一件で、世の人々も無法者たちの危険性に気付くだろう。大人しく沙汰を待つんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京23区、その西の入り口に当たる神庭の作戦行動停止措置は、東京のみならず近隣地域へ大きな動揺をもたらした。

 まず第一に危惧されたのは、都心部の守りが低下する恐れ。神庭の西に広がる多摩地域は面積の割にガーデンの数も規模も小さく、どうしても戦力が疎らになりがちだった。彼女らに23区へ向けて東進するヒュージ群の全てを撃退するよう望むのは酷というものである。

 そしてもう一つが、戦力の低下したルドビコ女学院の穴を埋める形で組まれていたガーデン間連携体制の破綻。神庭が再び出撃可能となる日時が分からない以上は見直す必要がある。

 何にせよ、他校の負担が増大するのだけは確かであった。

 

「中野方面にラージ級を含めたヒュージの集団を確認。……ルドビコのリリィから応援要請が来たわ」

 

 生徒会室で、会長席に座る秋日が先程の電話の内容を皆に説明する。

 神庭の件は他校の知るところになったはずだが、情報が錯綜しているのか、それともダメ元で連絡を入れたのか。

 もっとも、それも最初の内だけだろう。

 

「東はまだいいわ。何だかんだ言っても動けるガーデンが多いから。問題なのは、北と西ね」

 

 会長席の下手(しもて)、大きな長机を囲む席の一角で叶星が言う。

 出撃できない今、グラン・エプレのメンバーはレギオン控室の代わりにここ生徒会室に集まるようになっていた。

 北の埼玉と西の多摩地域はどちらも警戒が必要な場所である。

 

「今のところ、多摩地域、と言うより、奥多摩方面に異常は確認されていません……」

「注意しましょうと話していた直後に、何とも間の悪いことですねえ」

 

 鈴夢と藤乃が目下最大の懸念事項に触れる。

 前回の外征の折、奥多摩方面からの再侵攻を危ぶんでいたばかりであった。

 

「ちょっと待ってちょうだい。周りの状況も重要だけど、何よりもまずこの荻窪の守りは本当に問題無いのかしら?」

 

 もっともな疑問を口にしたのは高嶺。

 彼女が話題にしなくとも、いずれ誰かが切り出したであろう疑問だ。

 これに対して、顎に手を当てながら秋日が答える。

 

「荻窪地域に侵入するヒュージに関しては、陸上防衛軍が派遣してきた戦闘団が対処に当たるのだけど……。大型ヒュージが出現した場合は当然、他のガーデンからの応援頼みになってしまうわ」

 

 東京の防衛体制は元々、エリアディフェンス発生装置等を駆使して御三家の守備範囲にギガント級以上を誘導する形で敷かれていた。

 ラージ級に関しても、神庭が一度に何体も相手取る機会はそうそう無かった。

 けれども可能性は決してゼロではない。

 そして相手がスモール級とミドル級だけなら大丈夫かというと、こちらも疑問が残る。

 

「この戦闘団は、二個歩兵中隊を基幹に重迫撃砲中隊や砲兵中隊、機動戦闘車中隊を有する有力な部隊よ。ただ……」

 

 防衛軍は広範囲に及ぶヒュージの出没に対応すべく、従来の師団から戦力を細分化させた諸兵科混成の独立部隊を幾つも編成していた。

 戦闘団、あるいは戦闘群というのはそういった独立部隊の単位であり、増強中隊規模から増強連隊規模まで幅がある。

 今回荻窪に送られてきた部隊は中々の火力編成のようだ。

 

「市街地まで戦闘が拡大すると、厄介なことになるわね」

 

 固い表情のままの秋日の言を、高嶺が引き継いだ。

 歩兵が携行するマギを介さない通常の小火器であっても、一般的なスモール級なら撃破可能とされている。理論上は。

 しかし足が速い上にマギによって跳躍したり壁面を這い上がったり、三次元的な機動ができるヒュージを相手にするのは大きな困難を伴うだろう。

 かと言って、廃墟が立ち並ぶ放棄地区ならともかく、市街地付近での戦闘になると支援火力の投射が難しい。

 リリィやレギオンの想定戦闘距離が比較的小さいのは、その高機動やケイブによって浸透してくるヒュージを考慮しているからなのだ。

 

「いつまでも荻窪に穴は開けられない。政府は、特別監察本部は、どういう落としどころを考えているのかしら……」

 

 叶星の問いに答えられる者はおらず、部屋の中に沈黙が流れた。

 こればかりはリリィとはいえ学生である自分たちにできることはなく、先生たち大人に任せるしかない。誰もがそう思っているはずだ。

 とろこが――――

 

「あっ、あのっ!」

 

 今まで口を固く閉じて目の前の机上を見つめていた姫歌が、顔を上げるなり声を発した。

 

「こんなこと、今言うべきじゃないって分かってるんですけど。でも、それでも! ずっと気になって!」

 

 決意を秘めた姫歌の顔を、部屋の皆がジッと見守る。

 

「灯莉がどうなるのか、知りたいです! だって絶対変じゃないですか! 東京じゃなくて、わざわざ鎌倉に送るだなんて! 絶対に普通じゃないです!」

 

 これもまたこの場の誰もが思っていたことだった。

 仲間が心配でないはずがない。特に姫歌は平静でいられないだろう。灯莉が連れていかれた経緯を考えれば。

 

「あたしに、灯莉を追いかけさせてください! グラン・エプレとしてではなく、あたし個人として、一人で! 必要ならチャームを置いていきますから! だからっ!」

「姫歌ちゃん……」

「姫歌さん……」

 

 握りこぶしを自身の胸元に当てて姫歌は訴える。

 グラン・エプレの隊長も、神庭の生徒会長も、即答ができなかった。

 たとえガーデンからの外出が許されたとしても、この情勢下で単身鎌倉へ向かうのは危険過ぎる。

 かと言って姫歌の想いをただ無下にするのも憚られるのだろう。上級生たちは言葉を選んでいるようだった。

 そんな中、一人おずおずと挙手する者が。

 

「えーっと、ちょっと提案があるのですが……」

 

 紅巴だ。

 皆の視線が姫歌から紅巴へと移る。

 

「神庭が禁止されているのは『何らかの軍事作戦に係る出撃及び不要不急の外出』なんですよね? だったら、以前に御台場から供与されたバトルクロスを整備に出すという口実で、御台場に向かうフリをするのはどうでしょうか? 私は元アーセナルだから不自然ではないし、姫歌ちゃんはその手伝いということで……」

 

 紅巴に注がれる視線がより一層力強くなってくる。

 

「私たち二人だけならレギオンの作戦とは疑われ難いし、チャームも持っていけるかもしれませんし」

「待って! 二人だけなんて危険よ! それならAZのあたしと姫歌で行った方が……!」

「いいえ、生徒会役員の悠夏さんがこんな時にガーデンを離れては怪しまれちゃいます。同じ理由で鈴夢さんも、勿論秋日様や藤乃様も。叶星様と高嶺様は学外まで有名なスターリリィですし、やはり一応はアーセナルの端くれだった私が行くのが一番自然なんです」

 

 そんな説明を聞き、誰もが、取り分け二年生たちは複雑そうな顔をする。

 

「や、やっぱり駄目でしょうか……?」

「そうね……危ない橋なのは当然だけど、まず前提として大きな問題があるわ。灯莉さんを乗せた護送車の把握手段と、その追跡手段よ」

「うぅっ、それはっ」

 

 高嶺に指摘されて紅巴は口ごもる。

 手厳しくも何ともない、よく考えてみれば当然の指摘であった。

 ガーデンの機能が麻痺しかけている中で、自分たちで出来ることには限度がある。

 しかしながら、己の軽率な考えを恥じる紅巴に対し、叶星が思案顔を向けた。

 

「……詰めてみる意義はありそうね」

「ちょっと叶星! 貴方まで何を!」

 

 慌てて声を上げる秋日へ、叶星は片手を上げて制止する。

 

「状況がどう転ぶか分からないから、動ける準備だけはしておいても良いんじゃない? 勿論、できる範囲で」

「それはっ、う~ん……」

 

 叶星と秋日のやり取りを皮切りに、生徒会室がざわざわと賑やかになる。議題は当然、紅巴の案の修正内容について。

 もしこの場面を特別監察本部の監察官が見かけたならば、謀議の現場として嬉々として飛びつくだろう。

 議論が熱を帯びてきたその時、部屋の鍵がガチャリと音を鳴らした。

 次いで一斉に口を閉じたリリィたちの見ている前で、出入り口の扉が開かれた。

 

「失礼します。ノックはしたのですが、白熱されているようだったので」

 

 この神庭の、校長だった。

 

「ところで、私もお話に加えて頂けませんか?」

 

 

 

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