Multicolored Beliefs   作:坂ノ下

23 / 29
第23話 荒野に吹き荒ぶ

「神庭が動くぞ」

 

 上司からの連絡を受け取った二人の青年は「はぁ」だの「ふぅん」だのと、やる気の感じられない相槌を返す。

 これが対面でなければ、蛇のような目で射られていたところである。

 

「んな身構えるようなことっスかね? どうせ大したことできないでしょ」

 

 ノッポの青年が疑問を呈すると、通信の向こうから鼻で笑われる。

 

「連中が問題なんじゃない。連中の背後が問題なんだ」

「はい?」

「神庭の校長、ただの凡愚かと思いきや、とんだ食わせ者だぞ。神庭から外部への通信記録を洗ったが、御台場は勿論、百合ヶ丘やメルクリウスともやり取りしている。通常の回線とは別の手段を使ってだ。内容までは掴めていないが、ろくでもないことを企んでいるのは間違いない」

 

 それを聞いた青年たちは驚きの声を上げる。

 

「ええっ!? 盗聴っスか!? 何だかストーカーみたいっスね!」

「あの校長、確かに美人かもしれないけどさぁ。三十越えたおばさんじゃーん」

「ボスってもしかして、BBA(ババア)専? うぷぷぷぷっ」

 

 直後、歯を強く勝ち合わせる音が鳴った。

 

「お前たち……ぶち殺されたいか?」

「フヒヒッ、サーセン!」

 

 くだらないコントみたいな会話を終えると、太っちょの青年は少しだけ真面目な顔つきになる。

 

「だけどさ、こっちはこっちで厳しいんじゃないんスか? 幾ら何でもあの程度で内乱罪は、ちょーっと無理があるような」

「フン、当たり前だろうが。何を言っているんだ、お前は」

「へぇっ? でもさっきは……」

「あの程度ではガーデンの責を問うのは難しいだろう。監察を名目に出撃停止措置を取ってはいるが、じきに解除せねばならん。大した罰も下せぬままに」

 

 ガーデンの機能を半ば麻痺させる措置。政府からそれだけの権限を与えられているのが、彼ら特別監察本部である。

 しかしそんな特監にとっても今回の件は強引が過ぎた。このまま事態が動かなければ、逆に自分たちの立場が危うくなる。

 にもかかわらず、監察官は余裕ある尊大な態度を崩さない。

 

「だが神庭のリリィが送致対象の仲間を奪還するために、護送車両を襲撃し警務隊を惨殺したなら話は別だ」

「えっ」

「彼のガーデンに反逆の意図があるのは明白。首脳陣は処断され、その役目は国に引き継がれる。私企業に簒奪された()()を国家が取り戻すべし。この流れはすぐさま全国へと波及するはず。神庭を落としガーデン体制打破の先鞭をつけたその時こそ、後世、『日本の独立記念日』と称えられるだろう」

 

 これまで彼ら特監が陰になり日向になり動いてきたのはこのためだった。ようやく計画の概要が示されたのだ。

 もっとも、実現可能性については大きな疑問が残る。特に初っ端、一番初めの前提となる部分について。

 

「えぇーっ? でもあの連中がそこまでやりますかねえ?」

「やりますかねえ、じゃないんだよ。やるんだよ。絶対に」

「あっ、ふーん……」

「念のため強襲班も支援に出す。お前たちはテロリストどもを確実に殲滅しろ。いいか、確実にだ。逃走は論外だし、投降するフリを見ても騙されるなよ?」

 

 くどいぐらいに作戦内容を念押しされて、それが済んだらあっさりと通信を切られた。

 打ち捨てられた空き家の中で待機していた青年二人はお互い顔を見合わせる。

 

「最初から分かってたけどさあ……。やっぱあのオッサン、やべーよ。洒落になんねー」

「だからって今更どこ行くよ? 約束通り百合ヶ丘に入れてもらうまでは、大人しく言うこと聞いてないと」

 

 手始めに神庭を乗っ取り、続いて他のガーデンも国の支配下に置いた暁には、一度は追い返された百合ヶ丘女学院へ職員として赴任させてもらう。それが監察官と交わした約束であった。

 

「けど、本当に上手くいくのか? たとえこれが成功しても、神庭はともかく他のガーデンまで言うこと聞かせられるのかよ?」

「ガーデン国立化は悲願だ何だ言ってたけど、オッサンのお気持ちだしなあ……」

「それにさっき、言いたいことだけ言って通信切りやがった」

「あ~、何か前に歯医者行くとか聞いたような」

「こんな時にかよ。てかオッサン虫歯なの! ウケる!」

 

 ひとしきり騒いだ後、二人は重い腰を上げる。

 異臭がきつかったり床板が腐り落ちたりすることはないが、それでも生活感が無く薄気味悪い空き家でくつろげるというのは、重宝される性質かもしれない。

 

「そろそろ潮時だなあ」

「そんじゃまあ、保険を掛けに行きますか」

 

 玄関から扉を開け放つと、その先には放棄された住宅街が広がっていた。

 街角には未だ走れるのか定かでない自家用車がチラホラと見え、道路脇には転倒したままの自転車も。

 ただしこの二人が乗ってきたと思しき交通手段は見当たらない。

 ところが次の瞬間には、玄関先から二人の姿が掻き消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全国的なヒュージの浸透は陸上交通に大きな影響を及ぼしていた。

 取り分け都市間道路。東京・鎌倉間という要衝さえ、ヒュージの侵攻の前では全く安全とは言い切れない。

 重要物資を運ぶ際には鉄道路線に装甲列車が用立てられた。

 そんな中、鉄道とは敢えて距離を置いたルートを一台の単車が走る。

 両脇に雑草が侵食しアスファルト舗装があちこちひび割れた直線の道路を、貸し切り状態で駆け抜けていく。

 急カーブ以外に行き足を阻む物の無い道で、二つのタイヤが小石や砂埃を踏み散らし、ひたすらに南西を目指していた。

 やがて前方に『R=300』と曲線半径を示した黄色の看板が見えてくる。

 すると単車はそのカーブに差し掛かる前に段々と速度を落としていき、そのまま薄れた白線を越えて幅広の路側帯に停車した。

 車体後部で運転者にダ〇コちゃん人形の如くしがみついていた紅巴が先に降車する。

 

「ふぅ……」

 

 ヘルメットを外して息を吐いた紅巴の若葉色の髪が揺れた。ロングヘアを後ろでアップに纏めているので変に乱れたりはしなかったが。

 

「もう鎌倉府内に入ってるわよ。油断しないで」

 

 単車を固定した姫歌が通信機片手にそう戒めてきた。

 運転中は紅巴が二人分のチャームケースを背負っているので、彼女の責任もまた重大だった。

 

「はい。ヒュージサーチャーのイヤホンもしっかり付けてますから、走行中でも聞き逃しません」

 

 当初こそ市街地で商業店舗や住宅に囲まれる中を走っていた二人だが、今ではすっかり寂れた空間に入り込んでいた。

 辺りを見渡してみても、視界に並ぶのは荒れ果てた家屋やぼうぼうに伸びた草。お茶碗状に抉れた地面は砲撃跡だろうか。

 ともかくそんな有様なので、紅巴が政府の人間よりもヒュージの存在を危惧しているのは当然と言えた。

 

「校長先生の話だと、灯莉を乗せた護送車は進路を変えず真っすぐ南西に向かっているみたい」

 

 約束通りガーデンは車両の特定に成功し、大方の進路まで調べて姫歌へ連絡してくれていた。

 

「速度もそのまま。ゆっくり走ってるから、追い付こうと思えばその内追い付けると思うけど」

 

 勿論そんなことはしない。

 二人の目的はあくまでも灯莉の送致先の確認であり、力尽くでの奪還などではない。

 そこから先は大人の、校長たちの役目だろう。

 

「…………」

 

 紅巴は生じた違和感を口に出さず、その場で飲み込んだ。

 エリアディフェンス範囲外の地域なのに、何故こうものんびり移動しているのか。

 紅巴が感じたぐらいだから、姫歌が思い至らないはずがない。

 ただそれでも、紅巴は最悪の事態に発展するとは考えていなかった。自分たちは護送車の目的地を見届けてガーデンに報告するだけだと、そう思っていた。少なくともこの時までは。

 

「そろそろ行きましょう。ここから先は神庭と連絡を取れなくなるかもしれないわよ」

「負のマギ濃度にも、気を付けます」

 

 ヒュージが放つ負のマギが高濃度になると、人体へ悪影響を与えたり通信機器に異常をもたらす。

 チャームのマギクリスタルコアを介した通信なら負のマギにもある程度の耐性があるが、それでも万全とはいかない。

 たった二人で半ば孤立した状況にある以上、慎重になってなり過ぎるということはなかった。

 小休止を終えた後、二人を乗せた単車が再びエンジンの唸りを大きくして走り出す。

 ところが幾らも進まぬ内に、二輪はまたもや行き足を止めた。

 

「紅巴っ、今の聞こえた!?」

「は、はい! 前の方から……!」

 

 停車するなり後ろを振り返ってきた姫歌に、困惑顔で紅巴が頷いた。

 車上でもはっきりと届いた砲撃音。前方、即ち護送車が居るであろう方向からの報せ。

 護送車には少数ながら軍の護衛が随伴しているはずだが、ヒュージの襲撃があったのか、あるいはそれとも別の何かか。

 

「降りるわよ。チャームを構えて」

 

 姫歌がそう言い終わる前に、既に二人とも単車から距離を取りケースの中のチャームを展開済みだった。

 マギによる身体強化があれば、そう遠い距離ではないはず。

 しかしながら、仕切り直して進もうとした彼女らの出鼻を挫くように、もう一度砲撃音が轟いた。衝撃で舞い上がった土煙が顔に掛かるぐらい、すぐ傍で。

 

「後ろからも!?」

 

 倒れるようにその場に伏せた紅巴は腹這いの姿勢で器用に180度向きを変える。

 シュガールの銃口と視線を彷徨わせて砲撃地点を探すものの、すぐにはそれらしきものが見つからない。

 一方姫歌もまた同様に伏していたが、彼女の場合は砲撃前と変わらず進行方向を向いている。どこから何が来るか分かったものではないため、二人で死角を補い合うのは当然だ。

 

「もうっ! こんな時に一体なんなのよ!」

 

 焦燥を露にする姫歌。今にも飛び出していきかねない様子だが、不用意に頭を上げたりはしなかった。歯を食い縛って堪えている。

 最初に砲撃音が聞こえてきた方、即ち本来の進行方向からはその後も断続的に戦闘の音が響いているようだった。

 それに比べて紅巴が警戒する後方からの砲撃は一度切りだが、かえって不穏であった。

 彼女らは選択しなければならない。

 慎重策を取るならば、撤退するのが一番だろう。

 だが今このような状況で退けば、ここまでの行動が水泡に帰すかもしれない。

 故に答えは決まっていた。

 

「姫歌ちゃん。背後は私が警戒するので、先に行ってください」

「でも、紅巴一人でなんて……」

「私たちの目的は灯莉ちゃんの所在の確認であって、戦闘ではないはずです。なので私も無理はしませんから」

 

 たとえ一時的でも単独行動など、無茶を言っているのは分かっている。

 こちらに戦う意図は無くとも、砲撃を仕掛けてきた相手にはその意図がある。

 残って足止めをするのなら衝突は避け難いだろう。

 

「……分かった。お願い」

 

 少し悩んだ後、姫歌は紅巴の提案を受け入れた。

 

「相手がヒュージでも、そうでなくても、可能な限り戦闘は避けて。逃げ切るのが難しいようなら連絡をちょうだい。合流しに行くから」

 

 適性ポジションがBZとはいえ、紅巴も困難な状況を戦い抜いてきたリリィの一人だ。姫歌とてそれは認めているはず。

 時間的余裕も無い中で、採れる手段は決まり切っていた。

 

「はい。姫歌ちゃんも気を付けて。必ず皆で、神庭に帰りましょう!」

 

 紅巴の激励を背に受けた姫歌が走り出す。足元に発生させたマギの力場を蹴り付け、左右斜めに蛇行しながら跳躍を繰り返す。

 高度を抑えたジャンプだが、障害物の少ない平地では狙撃される恐れがあった。

 紅巴はシュガールを構え目を皿にして警戒する。何者かの発砲炎を見逃さないために。

 姫歌がこの場から離れていくちょっとの時間が紅巴には何倍にも感じられた。

 ところがそんな彼女の決意とは裏腹に、何も起きない。姫歌が十分に離れ、安全圏に脱するまでは。

 その後、紅巴が伏せていた上体をゆっくりと起こしたところで、彼女の視界にゆらりと二つの人影が映った。

 人影は発砲してくることもなく、急接近してくることもなく、通常の歩行速度で近づいてくる。

 やがて互いの顔がはっきり視認できる距離まで縮まると、警戒を崩さない紅巴の正面でその二人は足を止めた。

 名前は知らないが、見た顔だった。

 神庭の校舎に監察にやって来た、特別監察本部の監察官補佐たち。彼らこそが――――

 

(灯莉ちゃんが連れていかれた原因の人たち……)

 

 見る限りでは二人とも武器らしき物は勿論、荷物と呼べそうな物すら持っていないようだった。とても戦闘地域での振る舞いとは思えないほど無防備な様子。

 そんな彼らが、顔を強張らせて警戒する紅巴の前で口を開く。

 

「まあまあ、そんな怖い顔しなさんな」

「そうそう、こっちは話し合いに来たんだから」

 

 気さくに話し掛けてくる二人だが、辺りに人気のない荒涼としたこの風景の中では、底気味の悪さが感じられるばかりであった。

 

「単刀直入に言うけどさあ。このままだと()()()()のお友達、死ぬよ?」

「……えっ?」

「護送車のあとをつけて助け出すのかどうか知らないけど、君らがガーデンを抜け出してやって来るのも、志賀のオッサンの想定通りってわけ」

「な、何で、そんな……」

「そんでもって、君らが護送車を襲撃したことにして、俺らにまとめて始末させる筋書きなんだよなあ」

 

 青年たちの話を耳にしながら紅巴は困惑していた。

 内容に驚いたのは当然として、それ以上に、当然現れるなり敵である自分にペラペラ悪事を喋り始めたことが不可解過ぎたのだ。

 そんな紅巴の心境を慮ったわけではなさそうだが、ノッポの方の青年が疑問の答えを口にする。

 

「でも本当は俺らも、そんなんやりたくないの。だって皆殺しとか、どう考えたって頭沸いてるでしょ? だからこうしてとっきーに教えてあげてるんだよ」

 

 青年たちの話を聞いている間、紅巴はずっと違和感を覚えていた。

 彼らとは今日初めて言葉を交わしたはずなのに、妙に馴れ馴れしいのだ。まるで以前からの友人・知人を相手にするかのような、気安い調子で接してくる。

 

「そういうわけだから、俺らはとっきーたちとやり合うつもりはないよ~」

「……それじゃあ、この後、貴方たちはどうするつもりなんですか?」

「そのことなんだけど、とっきーから叶星ちゃんや秋日ちゃんに頼んでよ。俺らを神庭で雇うように、ガーデンへ推薦してくれって」

「えぇ?」

「俺ら使うんだったら、お勧めは教導官! でも用務員なんかでもいいよ。普段はのほほんと雑用なんかしちゃったりして」

 

 元々丸い瞳を更に丸くしてますます混乱する紅巴をよそに、青年たちの自分語りが続く。

 

「いや、本当は百合ヶ丘に入るはずだったんだよ。そんであのヒュージぶっ倒して、結梨ちゃん救う予定だったのに」

「それなのにあのジジイが『煽るわけでも何でもないが、戦いたいなら何故防衛軍に入らなかったのか?』なーんてほざきやがって……! そんなムサい所、居れるかよ!」

「これって俺らが男だからだよな? アニメでは聖人ぶってたくせに、とんだ差別主義者の老害だよ」

「あ~~~、思い出したらまたムカついてきた!」

 

 紅巴には彼らの発言の意味が、全部は理解できなかった。しかしろくでもないことを言っているというのはよく分かる。

 

「でもこれ以上あのオッサンにもついていけないし、あいつの陰謀邪魔してやるから、神庭に入れてくれよなー、頼むよー」

 

 幾らお人好しの紅巴でも、流石にこんな話を信用したりはしない。

 とは言え一応表面上はフレンドリーな態度を取ってきてるので、一応それなりに話を合わせることにした。

 

「……それじゃあ、護送中の灯莉ちゃんはどうなるんですか?」

「あー……、あっちには強襲班っていうリリィのレギオンが向かってるんだよね。それにオッサンのことだから、他にも何か用意してるかも。まあ仕方ないから、あっちは諦めてよ」

 

 軽い調子でそう言われて、紅巴は慣れぬ腹芸をする予定を早々に放棄した。

 

「それは、できません。私は行きます」

「ちょっ、行ってどうすんの」

「姫歌ちゃんと一緒に、灯莉ちゃんを助けに行きます」

 

 肩を上下させ、こぶしを強く握って宣言する。

 すると太っちょの方の青年が盛大に溜息を吐いた。

 

「はぁ~~~~~~。あのさぁ、俺らはとっきーのためを思って言ってんの。善意の忠告は素直に聞くもんだ」

 

 無論、危険だというのは百も承知。

 しかしだからこそ余計、行かねばならなくなった。

 

「それに、貴方たちのことも信用できません」

「は? なんて?」

「神庭で、叶星様や秋日様に酷いこと言ってましたよね? そんな人たちのことを、完全には信用できません」

 

 いつになく毅然とした振る舞い。

 それに対し、ノッポも太っちょも小馬鹿にするように鼻で軽く笑って口元を吊り上げる。

 

「いやいやいや、そういうお気持ちはいいから。もっと現実を見ようよ」

「神庭のアレだって、最初に向こうがこっちを痴漢扱いしてきたのが原因だろうが」

 

 紅巴の意志は固まっていた。もはやこの程度のことを言われたぐらいで動じはしない。

 シューティングモードのシュガールを構えたまま、油断なく相手を見据えてジリジリと摺り足で後ずさる。

 その様子を前にして、吊り上がっていた二人の口元が一転して()の字に下がる。

 

「そういう態度取るんだ。ふ~ん……」

「俺らがリリィじゃないからって、舐めてんな?」

 

 顔色を変えた彼らの手には凶器が握られていた。どこかから素早く取り出したわけではない。ほんの一瞬の内に、手の中に現れたのだ。

 ノッポの手には黒鞘に収められた刀が。太っちょの手には大口径かつ長銃身の拳銃離れした拳銃が。

 当初から普通でないとは思っていた紅巴だが、これには驚き二度三度と瞬きする。

 

「ンフフフフフッ。こんな所に何の力も無しにやって来たりはしないんだな、これが」

「あまり人様舐めてると、死ぬよ?」

 

 人にチャームを向けるなど本来なら言語道断。

 しかしながら、先程から紅巴の頭の中で警鐘が鳴りっぱなしになっていた。

 

「本当は俺たちも、こんなことしたくないんだけど」

「でも仕方ないよなあ? 現実ってもんを分からわせてやらないと。本人のために」

「そうそう、これはとっきー本人のためだからね。てか、チャームを人に向けるなって親から教わらなかったの?」

「おい! やめてやれよ! とっきーは()()()()とっきーなんだから!」

「フヒヒッ、サーセン!」

 

 二人は肩も武器を持つ手も揺らしながら、笑い話に花を咲かせている。

 

「確かに、私は孤児ですが。それでも貴方たちよりは恵まれているという自信はあります」

 

 神庭での一件を聞いた時も、今回も、紅巴には彼らが満ち足りているようには何故だか思えなかった。一見すると自由気ままに振舞っているはずなのに。あの飄々とした態度も、どこか白々しく感じられた。

 そして当人たちは彼女の言葉を聞いた途端、荒野に響かせていた嘲笑をピタリと止める。

 

「とっきーのくせに、なにイキってるわけ?」

「こりゃ本当、きつーいお灸が必要みたいだなあ?」

 

 紅巴からの挑発を受け、ようやくまともに武器を構え出す。

 そこから銃声が轟くまでは、すぐだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。