ラージ級以上のヒュージは全身にマギを用いた防御結界を張って、マギを介さない通常兵器を無効化してしまう。
リリィもまた似たような結界を備えており、生身でも驚くべき防御力を発揮できる。
マギによる強固な守りと三次元的機動、そして携行火器の常識を覆すチャームの火力。かつてリリィ脅威論が叫ばれ危険視されたのも、ある意味では無理からぬことだった。
しかし今、その防御結界を纏っているはずの紅巴は、本来では考えられない事態に目を剥いていた。
「なっ……何なんですか、あの武器は……」
紅巴の左肩のすぐ横を通り過ぎていった弾丸。それは掠めただけだが、彼女の結界を激しく打ち付け結界の下の身体を揺さぶった。
直撃ならば有効打になっていたと予想させるのに十分だった。
(チャームではないはずです。あのような機体は見たことも聞いたことも無いし、そもそもコアが見当たりません)
疑惑の代物――銀色の鈍い光沢を放つ大型拳銃はその口を紅巴へと向けていたが、持ち主である太っちょの青年が右腕を曲げたことで青空を見上げた。
そもそも現代において、男性がチャームを携え戦うことはほぼほぼ無い。全体的に女性に比べてスキラー数値が大きく劣る上に、ノインヴェルト戦術を始めとした連携必殺攻撃に適性が無いからだ。
なので男性に関してはチャームを持たせて中途半端な戦力とするよりも、一般の軍隊で戦車兵や砲兵に養成する方がまだ理に適っていると言えた。
では彼らが手にする武器は一体何だというのか?
紅巴が未知の銃器に驚いていられたのも束の間、今度は太っちょの隣に居たはずのノッポの青年が消えていた。
直後に紅巴は何かしらの気配を察知して、咄嗟にシュガールの機体をかざす。
すると真横から加えられた力に引っ張られていき、機体ごと宙へと放り投げられた。
硬いアスファルト道路の上を転がり、その脇の歩道を越えて、草地の中に突っ込んでようやく止まる。
この草地、かつては畑だったのか、土が比較的柔らかい。今では雑草が生えるばかりだが。
(みっ、見えなかった。縮地……? そんな、まさか)
神庭の赤い標準制服が土塗れになる中、紅巴は先程の現象について考える。
リリィでない者にレアスキルの行使は不可能。リリィに至らずともある程度のマギがあれば身体能力の強化は可能だが、仮にもグラン・エプレのリリィである紅巴が対応できなかったとなると、ただ事ではない。
(何かの装備で身体能力を更に強化している? それとも、私の知覚の方が鈍らされているのでしょうか?)
その間にも、二人分の足音が己の存在を誇示するかの如くゆっくりと近付いてくる。
一人は拳銃を肩上に掲げ、もう一人は刀を仕舞った鞘を手の中に握り、地に膝を突いた紅巴の近くまで堂々かつ無防備に歩いてくる。
「あ~~~、とっきーには悪いけど、幾ら考えても無駄だから」
「そうそう。俺らの力は神様に貰った力だから。でも戦いに卑怯だ何だと言わないよなあ?」
最初、紅巴は耳を疑った。次いで相手の正気を疑った。
しかしすぐに何かの比喩ではないかと考え直す。この二人、どう見ても信心深いタイプには見えないからだ。
とは言え彼らの力のカラクリについて、これ以上考えても答えは出そうにない。
「驚いたっしょ? まあ目立って厄介事に巻き込まれるのが嫌だから、この力は極力見せつけないようにしてたけど」
「これだけの戦力が手に入るんだ。神庭にとって願ってもないチャンスだろう。俺らは敵には容赦しないが、仲間には優しくするからな」
ぺちゃくちゃとお喋りしながら更に近付いてくる二人組。
一旦難しいことを考えるのを止めた紅巴が、今度は感じたままに発言にする。
「たとえ神庭に来たとしても、貴方たちが望むようなことにはなりません」
「はぁ? 何だって?」
「ガーデンも私たちも、それを許しません」
彼らが何故ガーデンに入りたがっているのか不明だが、まともな理由ではなさそうだった。これまでの彼らの言動や、神庭のリリィに向けてくる好奇という一言では片付けられない視線を見れば、紅巴のような鋭敏でない人間にも察せられるというものだ。
そしてそんな紅巴の非好意的な感情は、口に出された言葉以上に当人たちへ伝わったようで。
「あのさあ、とっきーさあ……この期に及んで『自分は女の子だから、そう酷い目には遭わない』とか思ってない?」
ノッポからの問い掛けに答えるよりも先に、紅巴の身体は再び宙を舞った。
彼が手にしていた刀の鞘に真横から殴られたのだと気付くのに、若干のタイムラグが生じていた。
紅巴はまたも柔らかい土の上で転がり倒れ伏す。
くらくらと揺れる頭の中に、男の声が響く。
「甘い甘い甘い、甘過ぎるっ! そんな不公平・不平等は信義に悖るっ!」
紅巴の腹部へ、下から掬い上げられるかのような力が加わる。細い足に思い切り蹴り上げられたのだ。
サッカーボールみたいに山なりに弾き上げられて、また地面に落ちる。
「男女平等キィーーーック!」
「ぶっ、はははははっ!」
何がそんなに面白いのか、手を叩いて笑い合う青年たち。
落下時に受け身を取り、マギの防御もあって、見た目ほどダメージを負ってない紅巴は土に汚れた顔を持ち上げて声を絞り出す。
「どうして、貴方たちはどうしてそう簡単に人を傷付けられるんですか」
答えは半笑いの声で返ってくる。
「人間皆そんなもんだろ? 大体、とっきーは人様の性癖にケチつけられる身分かぁ?
「そりゃあ俺らだって百合アニメぐらい見るよ。でもそれはあくまで創られたお話、二次元の世界だから良いんでしょ。実際にやってたらドン引きだよ」
「現実と空想の区別をつけましょうね~」
彼らがどのようにして紅巴の私的な嗜好を知ったのか、謎だ。
しかしそれ以上に、今の紅巴は理不尽な物言いへの抵抗の方がずっと強かった。
「空想じゃありません。色々理由を付けて、貴方たちが目を逸らしているだけです」
顔と制服を泥に汚しながらも、自らの足でしっかりと立ち上がってそう言い放った。
「あぁ?」
口の端を歪めたノッポの姿が、次の瞬間には掻き消えた。
その直後、紅巴はシュガールの機体を己の側頭部にかざす。
すると激しい金属音と共に、紅巴の細腕を電流が流れるかの如き衝撃が襲う。
目の前のノッポは、鞘による横薙ぎを防がれて意外そうに目を見開いた。
こう何度も甚振られていれば、流石に紅巴も対応できるようになる。
「あー、めんどくせーなー」
「ちょっとお灸を据えてやろうかと思ってたけど、もう殺すか?」
後ろへ飛び退いて紅巴から距離を取ったノッポが苛立たしげに唸り、その横の太っちょが銃口を向けてきた。
紅巴は彼らに対して半身の構えを取ると、シュガールを鎌状のブレイドモードに変形させて自身のマギを防御結界へと注ぎ込む。
重厚な大型拳銃の口に光が灯った。かと思えば、光は瞬く間に拡大していき、紅巴の視界一杯に広がった。
咄嗟に背けた目をあとから恐る恐る開けてみるものの、ただ眩い白光が映るばかり。
まさか本当に死んでしまったのかと一瞬疑うが、両手に握るチャームの感覚が健在なため考え直す。
やがて光が収まり始めると、紅巴の耳に騒めきが流れてくる。
「―――――っ!!!」
「―――――!!!」
内容はよく分からない。耳まで入ってこない。
その代わり、改めて目蓋を持ち上げた紅巴の瞳は、黒のジャケットに包まれた背中を捉えた。
すぐ目の前での光景だった。紅巴よりも頭一つ高い位置に、くすんだ金色のセミショート。紅巴はその人物に守られたことに気付く。
「…………比呂美様っ」
幅広の両刃剣を盾のように眼前にかざした安孫子比呂美は振り向かず、前に何歩か踏み出して背後の紅巴から距離を取る。
一方、何が起きたのか紅巴よりも先に理解していた青年たちは、遠方からでも分かるほど顔を歪ませ口から唾を飛ばしていた。
「てめえ邪魔しやがって! 何なんだよ!」
「こいつ、イベストのモブの三年生じゃねーか。今更何しに来た! お呼びじゃないんだよ!」
先程までの余裕ぶった態度から一転。どうにもイレギュラーな事態というものを毛嫌いしているように見える。
そんな彼らの方に向かって比呂美はまた歩き出す。
「気を付けてください! あの人たちはマギ結界に干渉する武器に、縮地のような力を持っています!」
遠ざかる背中へ紅巴が注意を促すと、横目を向けられ無言の首肯が返ってくる。
比呂美が携える銀色の両刃剣はダインスレイフ・カービンという第二世代型チャーム。ダインスレイフの変形機構を簡略化して取り回しと整備性を向上させた機体だ。神庭も少数ながら保有している。
片手に握り直したその両刃剣を中段の位置に構え、比呂美は敵と対峙する。
邪魔者に対して忌々しげに目を細める二人。いや、片方はその場から消えていた。
紅巴の時と同じだった。瞬きしている間にも、刃が迫ってくるはず。
しかし縮地めいた一太刀は、甲高い剣戟の音を上げて両刃剣によって弾かれた。
流石に三年生、初手からあの襲撃を躱してしまった。
しくじったノッポは比呂美の正面に姿を現す。
「今のは割とガチだったんだけどなー」
「…………」
「どうやって防いだ?」
「…………」
「……チッ、だんまりかよ」
無言で、ニコリとも笑わない真顔。そんな比呂美の態度は青年たちの癪に障ったらしい。
紅巴の場合はその見かけに反する毅然とした発言が彼らの怒りを買ったが、比呂美の場合は立ち居振る舞いの時点で嫌悪されているようだった。
高い上背、凛としたツリ目、泰然たる態度。同じリリィからは思慕される要素も、彼らにとっては正反対に働いているらしい。
「しゃーねーなー。リリィ相手にあまり本気出したくなかったんだが」
ノッポは面倒臭そうにそう呟いた。
それから間を置かずして、比呂美の周囲に突風が奔ったかと思ったら、チャームを構える彼女の右腕や反対側の左腕に、ジャケットの袖の上から裂傷が加えられた。
「神様から貰ったこの『無銘の刀』と『神速の脚』は、ヒュージやゲヘカスをぶっ潰してこの世界を救うためにあるんだよ。だから本当、リリィには使いたくないっていうのに」
大きな溜息を吐きつつ、さも彼女らから仕掛けてきたかのような物言いをする。
先程から言っていることが支離滅裂だった。これが皮肉や挑発でないとしたら、認知が歪んでいるとしか思えない。
両腕に血を滲ませながらも顔色一つ変えないでいる比呂美の周りに再び突風が吹く。
「でも降り掛かる火の粉は払わないと。俺らも聖人じゃあないし」
予備動作も太刀筋も見えない斬撃が棒立ちの獲物を襲い、スカートの下に伸びた黒のスパッツを切り裂いた。
そして三度目の風が吹く。
「なっ、あぁ!?」
紅巴が驚きの声を上げたのは、疾風の如き刃に比呂美の顔が切り刻まれたからではない。
恐らくは顔面を狙ったであろう斬撃は標的に傷を付けられなかった。
いつの間にか、比呂美の左手には柄が握られていた。柄の先には円形のパーツが付いており、更にそこから淡い黄金色の光が伸びて短い刃を形成していた。
あれは紛れもないチャーム。第一世代型チャーム、シャルルマーニュ。
比呂美は右手のダインスレイフ・カービンと併せて二機のチャームを起動させていた。
眼前にかざされた守りのチャームは持ち主の周囲に強力な防御結界を張る。
「どうしてっ。比呂美様は、レアスキル未覚醒だったはず……」
安堵しながらも困惑する紅巴以上に、彼女らの敵は混乱を極めていた。
「ふざけるなっ!!! 知ってるんだぞ、円環の御手は今の二年生世代から登場したレアスキルだ。それが何で、三年生が使ってんだよ! さてはテメー、チートだな!? この卑怯者! そんなことして恥ずかしくないのかよぉ!?」
何やら訳の分からないことを喚いている。
比呂美はそんな絶叫にも反応せず、前方の敵を見据えた状態で後ろの紅巴に語り掛ける。
「紅巴さんの言う通り、私はレアスキルを持っていなかった。私が円環の御手に目覚めたのは、あの愚かな事件のあとのこと」
自虐的でも自嘲気味でもなく、決意のこもるはっきりとした口調でそう語った。
レアスキルにはリリィの生き様が反映されている。そんな説もあるにはあるが、血液型性格診断みたいな話であった。
ただ、そのリリィにとって何か精神的に転機となる出来事によってレアスキルが覚醒するという事例は、実際に起きていることだった。
「っシャァァァァァ!!!」
突如として甲高い吶喊が響く。
隙有りと見て取ったのか、それともまたもや無視されてプライドを傷付けられたせいか、ノッポが突風と共に飛び出していた。
両者の間合いはたちどころに詰まり、激しい打ち合いが展開される。細身ながらギラついた閃きを放つ刀と、剣としては大型で重厚な両刃の剣が。
自分で「神速」などと称するだけあって、少なくともスピードについてはノッポの打ち込みが比呂美を凌駕していた。
上段と中段を不規則に織り交ぜた斬撃の嵐はダインスレイフ・カービンによる受けをすり抜けて相手の身体に達していた。
ただそれでも比呂美が倒れないのはシャルルマーニュが固めた防御結界のお陰だろう。
これがもし武道の試合ならば、比呂美は何本も取られて完膚なきまでの敗北となっていた。
そんな状況だからか、ノッポは敵の防御ごと切り裂こうと剣速を更に加速させていく。
(さっき私が何とか防げたのは、斬撃が単発だったから。こうなってはもう、ついていけません……)
大気の裂かれる音を耳にしながら紅巴は比呂美の身を案じる。
その時、刀の横薙ぎに両刃剣を弾かれて、剣を握る比呂美の身体が体勢を大きく崩した。
その隙を突き、ノッポが刀をこれでもかと後ろに引いて切っ先を自身の斜め下に下げた。
次の一太刀で決めにくる。
細長い全身をバネと化して渾身の刃が奔る。
比呂美の右手が、両刃剣が間に合わないのは誰の目にも明らか。
地の上を這ってから振り上げられた刀の切っ先が比呂美を捉える前に、勝利を確信して口を歪ませた痩せ型の顔が真横に跳ねた。
「がっ」
短い呻きと同時に、両目を見開いたノッポの体が面白いように吹っ飛んだ。
比呂美の左手、シャルルマーニュの円形状のボディパーツが横っ面を強かに打ち据えていた。
シャルルマーニュは防御用の機体だが、攻撃に全く使えないというわけではない。
しかし不意打ちとはいえチャームの腹の部分で殴ったのだ。言わば峰打ちみたいなもの。相手もすぐに復帰してくるだろう、と紅巴は思っていた。
ところが地面に倒れ伏したノッポはそのまま体を丸めて右に左にもがき出した。
「痛いっ、痛い痛いいたいイタイィィィ!!!」
「殴られたら痛いに決まってるでしょう」
比呂美はそんな当たり前のことを言うと、転がり回るノッポの腹を今度は両刃剣の腹で叩く。
すると大音量を発していた青年が一転して沈黙するのだった。
先程までの剣戟からは想像もつかない呆気ない結末に、紅巴は首を傾げる。
「えっと……防御手段を講じていなかったのでしょうか? 私たちリリィみたいに」
「いいえ、マギの結界のようなものは備えていたみたいよ。そうでなければ、あの速度で動いた彼自身もただでは済まない」
「なら、どうして」
「威力を減衰させたはいいものの、その減衰させたダメージに耐えられなかった。心の方が」
「は、はあ。つまり私みたいにやられ慣れていなかった、と……」
俄かには信じ難い話だが、実際に剣を交えた比呂美が言うのなら、そうなのだろう。
「さて」
比呂美は残るもう一人の敵に視線を移す。
しかし太っちょの青年は引き金を引くどころか、右手に拳銃を持ったまま両手を頭上に上げた。
「あ~、終わりっ、おしまいっ。もうやり合う気無いから。てか、ネタなのに皆ムキになっちゃってさ~」
あまりに身勝手な言い草。
だが戦わなくて済むのならば、それに越したことは無い。
済ました表情で降伏のポーズを取る太っちょに向けて、比呂美はダインスレイフ・カービンの先端をかざす。
そうしてじりじりと近付く比呂美の見ている前で、太っちょは右手に持つ拳銃を地面へ放った。
これ見よがしに捨てられた銃へと注意が向くのは無理からぬことだろう。
だが次の瞬間、発砲音が轟いた。
無手であるはずの太っちょの左手から光の線が伸びていた。
光線は比呂美の顔面を正面から捉えるコースだったが、寸前で割って入ってきた両刃剣に逸らされて、明後日の方向に弾かれていく。
「下衆の考えそうなことね」
比呂美がそう吐き捨てる間に、外見に似つかわしくない俊敏な動きで拳銃を回収した太っちょが両手を敵の方へと突き出した。
「ハッ、言ってろよ。この対怪物拳銃『バイソン』と内臓銃『サーバル』でハチの巣にしてやんよ」
彼もまた相棒ほどではないが、非凡な足の速さを見せていた。
彼はすぐさま比呂美との間合いを広げ直し、右手に握る巨大拳銃の口と左手の指の狭間に埋もれた銃口からレーザーを連射する。
「俺らは、神に選ばれてここに来たんだ。力を授かって。だから特別な存在なんだ」
チカチカと真昼に光が瞬く中、二丁拳銃が絶え間なく獲物を追い掛け殺意を振り撒く。
幾ら防御結界を強化していても、こう防戦一方ではマギが消耗するばかり。遠からず耐えられなくなるだろう。
しかし紅巴の危惧とは裏腹に、比呂美の守りは崩れそうな気配がしない。
よく見れば、比呂美は直撃コースの銃撃ばかりを剣の刃で受け流し続けていた。
苛烈な攻勢にもかかわらず、追い詰められていたのは青年の方だった。
「神にぃ……神がっ……神――――」
「神を言い訳にするな」
底冷えのする低い声を発した比呂美が一足飛びで間合いを縮めると、二丁拳銃の猛攻をいなしていたダインスレイフ・カービンの先端をもう一度相手に突き付けた。
マギの結界だけでは至近距離のレーザーを減衰し切れず、すぐ真横を掠められた比呂美の頬が赤く焦がされる。
だがそれと同時に、両刃剣の柄が収縮した。カービンの簡易変形機構だ。
「自分で仕出かしたことは、自分自身で受け止めるしかない」
剣から砲と化したチャームが光の奔流を放つ。
咄嗟に両手を盾にした太っちょは上半身をレーザーの光に飲み込まれた。
思わず両目を一瞬瞑ってしまった紅巴だが、比呂美の言った通り、彼らが何らかの防御手段に守られている事実を目の当たりにする。
背中から倒れてブスブスと煙を上げながらも生きていたのだ。
「熱い、あついあついあついっ、アツイィィィっ」
黒焦げの拳銃を取り落としてもはや戦うどころではない太っちょの傍に比呂美が立つ。
「貴方たち、紅巴さんを散々いたぶったわね?」
「いぃ!? ボコったのはあいつだ! お、俺は一発撃っただけだ!」
「そう。一発ね、一発」
比呂美は頷くとシャルルマーニュで太っちょの横っ面を軽く打つ。「グエ」と呻いた彼の脇腹を、今度はダインスレイフ・カービンの腹で打つ。
「一発って、言ったのにぃ……」
あたかも理不尽な目に遭ったかのように恨みがましい声を漏らすと、太っちょは先にノックダウンしていた相棒と同じく意識を手放した。
目視とヒュージサーチャーによって周囲の安全を確認した紅巴は、チャームを構えたまま恐る恐る比呂美のもとへ歩いていく。
そうして傍で対面すると、ダインスレイフ・カービンを地面に突き刺し立てた比呂美の右手が紅巴の左頬に延びてきた。
「泥だらけよ」
「はぁっ、わわわわっ! 比呂美様の方こそ、お顔が! 腕と足が!」
土塗れの顔を長い指で拭われながら、紅巴は全身傷だらけの比呂美に取り乱す。
しかし落ち着いてみると、命に関わりそうな致命傷は貰っていないことが分かった。流石は三年生の先輩と言ったところか。
「そうだ! 姫歌ちゃんと灯莉ちゃんが! 急いで追い掛けないと……」
障害が無くなった以上、本来の目的を果たさなければならない。
マギを纏って駈け出そうとする紅巴の肩に、比呂美の右手がそっと乗せられる。
「あの二人なら大丈夫よ。応援を呼んでおいたから」