Multicolored Beliefs   作:坂ノ下

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第27話 出撃

 荻窪。神庭女子藝術高校。

 校庭に、校舎に、ヒュージ出現のサイレンが鳴り響く。

 検問を設けていた防衛軍の包囲は既に解かれており、出入りを阻むものは今は無い。

 騒然とした学び舎へ帰還するに当たり、紅巴たちを乗せた比呂美の車は正面の校門から堂々と入場すると、そのまま校庭内を走って校舎の前まで乗り付ける。

 その行動は、今までずっと陰で動いてきた比呂美の特務に一区切りがついたことを意味していた。

 車寄せに車が停止した直後、助手席と後部席のドアが一斉に開いて一年生三人が降り立つ。一拍遅れて運転席から比呂美が降りる。

 そうしてちょうどタイミング良く、ガーデンにて待機していたグラン・エプレの面々が玄関の外にやって来た。

 比呂美の姿を見ても誰も驚かない辺り、話は聞き及んでいるらしい。

 

「皆、無事に帰ってきてくれてありがとう。早速で悪いのだけど、グラン・エプレは奥多摩方面から進出してきたヒュージ群に対処するため出撃します」

 

 待機組の先頭に立つ叶星が掻い摘んで現状と方針を説明する。

 ブリーフィングは往路の車中で開かれることになった。どうやらあまりのんびりしていられる状況ではなさそうだ。

 そんな中、校舎内からもう一人紅巴たちの前に歩いてくる。校長だ。

 

「安孫子比呂美さんは後詰としてグラン・エプレの後方警戒に当たってください」

「了解致しました」

 

 元々レギオンとして動いていなかった彼女が支援に回るのは妥当だろう。支援とはいえ、勿論簡単な任務ではないが。

 

「あのう……。神庭の出撃停止措置は、もう解除されたんですね」

 

 紅巴も比呂美から事前に話を聞いて知ってはいたが、実際に出撃させようというガーデンの態勢を見て校長に確認する。

 

「正式にはまだです。ですが、先んじて配置を済ませて万全の迎撃態勢を取るべく動きます」

 

 ガーデンの長がはっきりとそう示した。手続きや形式よりも、現実の戦況を重んじると。

 ガーデンの方針に基づいて、グラン・エプレの九名ともう一名が迅速に準備に取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必要な物資と人員(リリィ)を乗せた装甲バスが本校舎裏の車両格納庫から今まさに出立しようとしたその時、幸先の悪い知らせが届けられた。

 連絡は裏門付近の監視所に詰めていたリリィから校舎の教導官へ、そして最後には校長へ。それだけ判断に迷う微妙な事態であった。

 時間が惜しい中、校長はグラン・エプレの乗る装甲バスに同乗して問題の裏門手前に向かう。

 ゲートを開いた門のど真ん中に、スーツ姿の中年男が一人仁王立ちしている光景が待っていた。

 チャームを携えた秋日と藤乃を左右に伴って、校長が歩み寄っていく。

 ある程度間合いを保って立ち止まると、蛇の目のような鋭い視線で刺してくる男が口を開く。

 

「お前たち、何をしている……。神庭の出撃停止命令はまだ解除されてないはずだ!」

 

 リリィたちから困惑の眼差しを浴びる中、叫ぶように咎めた。

 ぎらついた気炎を上げるその姿は、まるで手負いの獣のよう。

 

「東進中のヒュージ群は広範囲に散開しています。少しでも多くのガーデンが直ちに動かなければ、市街地にまで被害が及ぶと判断しました」

「誰の許しを得てそんなこと! そのような横紙破り、許されると思っているのか! ヒュージを口実に、安全保障を人質に、お前たちガーデンはどこまで勝手を働く気だ!?」

「志賀監察官こそ、政府から出頭命令なり何なり出ているのでは?」

 

 校長が質問に質問で返すと、監察官は口を引き結んで沈黙する。

 政府内で何かしらゴタゴタがあったのか。苦汁を飲み干したかの如き男の顔がのっぴきならない事情を窺わせた。

 そこへ、校長らの後方から、グラン・エプレと別車両に乗り込んでいた比呂美がやって来る。

 

「貴方が彼らを切り捨てたように、政府も貴方を切り捨てた」

 

 自らの子飼いの部下さえ捨て駒にした男への事実の提示。それは当人にとって、言外に因果応報と断じられたように聞こえただろう。

 全体のために一部を切り離す。そういった判断が必要な場面も存在するのは確か。ただ今回は、彼にその切り離される順番が回ってきたというだけだ。

 

「黙れ。俺は間違ってない」

 

 監察官は細い目を大きく見開く。

 

「日本は主権ある法治国家だ。外国メーカーのハゲタカどもにも、お前らクソガキどもにも、好きにはさせない、絶対に……っ!」

 

 たった一人丸腰でガーデンの前に立ちはだかる様は、まるで大路の真ん中で斧を振りかざす蟷螂のよう。

 

「何が出撃選択制だ! 何様のつもりだ! じゃあ何か? ガキの気分次第で、この日本が滅んでもいいってのか! ふざけるな!」

「神庭の校長としてお答えしますが……その時はその時です。それだけのリスクを承知の上で、我々は未成年を戦場に投入しているのですから」

「ふざけるなぁ!!!」

 

 口から泡と唾を散らして義憤を燃やす。

 何が彼をここまで駆り立てるのか。

 疑問は尽きないが、しかしいつまでもこの茶番染みた劇に付き合っている余裕は無い。

 

「止むを得ません。排除してください」

 

 校長がそう言うと、元々裏門に詰めていた二人のリリィが左右から監察官の二本の腕を捻り上げ、そのまま地面の上に組み伏せた。接近から制圧まで、あっという間のことだった。

 忌々しいガキどもの手でいとも容易く取り押さえられた監察官は、土に擦り付けられた顔を屈辱で赤く染める。

 ところが車両の進路を確保するべく脇にどかされる前に、監察官はバッと首を持ち上げる。

 校長を、その場に居るリリィたちを一瞥した後、彼は奥歯を思い切りかち合わせた。

 秋日と藤乃が咄嗟に校長の前へ庇うように立つ。

 

日本(にっぽん)、万歳」

 

 万感の想いと共に滾る信念を吐き出した監察官の口は、直後に赤い血を流して沈黙した。僅かな痙攣を最後に、その身も動かなくなった。

 歯の中に毒物の類を仕込んでいたのか。

 

「何てことをっ!」

 

 その瞬間を真正面から見ていた秋日が憤慨する。

 こんなご時世で、リリィをやっているのだから、人の死は割と身近にある。ただそれでもこんな何の意味も見出せない死には、嘆き怒らずにはいられないのだろう。

 本当に呆気ない幕引き。

 人間は死のうと思えばこうも簡単に死ねるものだと、まざまざと見せつけられてしまった。

 しかしいつまでも呆けているわけにはいかない。非情なようだが、本来やるべきことをやらなければ。

 

「この場の処理は職員に任せて、皆さんは出撃してください」

 

 校長の指示によって、重く固まっていた空気が再び慌ただしく動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車中でのブリーフィングで詳細な状況が分かってきた。

 奥多摩方面から出現したギガント級ヒュージは確認されただけでも五体。その内の三体を相模女子高等学館を始めとした鎌倉のガーデンが迎撃し、一体を多摩地区の諸ガーデンが担当、そして残る一体には依然として東進を許しているらしい。

 そしてそれらギガント級は単騎というわけではなく、それぞれ大規模な群れを伴っている。

 全て合わせると新たな陥落指定地域が一つ増えてもおかしくないほどの戦力だ。

 だが幸いなことに、ここは東京。周囲には幾つものガーデンが存在する。

 神庭はそのガーデンの中の一校として、残るギガント級含む一群を迎え撃つ。

 時間を掛ければ御台場やイルマといった強豪校の援軍を得られるが、都心部へ接近される前に打ち倒すべく神庭が前に出る。

 

「このままいけば、小金井市北部の緑地帯で迎撃態勢を取れそうです」

 

 装甲バスの兵員座席にて、タブレット端末と睨めっこしていた鈴夢が変わりゆく現状を報告する。

 

「周辺住民の避難状況は?」

「防衛軍立川駐屯地と東京方面に移動中だった鎌倉駐屯地の部隊が協同して、八割方完了させています」

「流石、早いわね」

 

 鈴夢から返ってきた答えに秋日が舌を巻く。

 実際、敵を倒すよりも我の損害を無くす方が遥かに難しい。

 

「ヒュージの動きはどうなっているの?」

「スモール級とミドル級の混成群が複数個、南北に散開して前進を続けてますねえ。いずれも戦力密度は薄いので、展開中のうちのリリィたちで問題無く対処できそうです」

 

 叶星の問いに答えるのは藤乃。

 

「ただ問題なのは、敵群後方からゆっくりと進軍しているギガント級。先行した一隊が足止めを試みていますが、どうやら状況は芳しくないようで」

 

 件のギガント級の詳細が藤乃の口から語られる。

 種別・型式――――共に不明。特型に分類される可能性大。

 機動性――――ギガント級基準において、やや鈍重。

 装甲――――シューティングモードによる遠距離射撃を受け付けず。

 火力――――五人制レギオンの一斉射撃を凌駕。

 

「現時点で統合司令部に上げられている情報はそれだけよ。今も先行部隊は戦闘を続けているから、追って詳しい情報が入るはず」

 

 秋日がそう補足した後、自分たちグラン・エプレがこのギガント級を含む敵中央に相対する、と付け加えた。

 神庭のトップレギオンでありノインヴェルト戦術に対応できる部隊なのだから、近場に他校のレギオンでも居ない限り、当然の配置だろう。

 

「何だか厄介そうな相手ですね。いや、ギガント級が厄介じゃないことなんて、無いでしょうけど」

 

 悠夏の言う通り、リリィたちにとってギガント級未満とそれ以上とでは脅威度に大きな壁が存在する。

 単体の戦闘能力も別格なのだが、それ以上に、率いる群れの規模や行動様式に差があった。

 ギガント級が本格的に動けば、都市一つが落ちるかどうかという瀬戸際に立たされるのだ。

 グラン・エプレが九人制へと移行してノインヴェルト戦術を身に着けた今でも、難敵であることに変わりはない。

 

「私たちは、いつも通りにやりましょう。私たちの後ろには守るべき人たちが居るけれど、でもいざという時に力を貸してくれる仲間も居る。それを思えばどんなヒュージが相手でも戦えるわ」

 

 叶星が皆を前にそう纏めた。

 状況は決して楽観視できないが、絶望視するにも至らない。

 荻窪ネストとの死闘は神庭のリリィたちに大きな力と自信をもたらしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神庭女子の位置する荻窪より西、小金井市北方の緑地帯に装甲バスを含めた八台の車両が留まっていた。

 この広大な土地は以前、ヒュージとの戦闘で西半分近くが大きな被害を被り荒れ地と化したが、東半分は未だ公園やレジャー施設として活用され続けている。

 本作戦において、ガーデン間統合司令部はこの緑地帯西部を中心に迎撃ラインを定めて神庭のリリィを配置することにした。

 戦線中央を担当するグラン・エプレは勿論、その周辺に布陣する神庭の臨時レギオンも車両から降車し戦闘準備を進めている。

 公園利用者用に設けられた駐車場の片隅。街道沿いに走る上水道からチョロチョロと流水の音が聞こえる傍で、敷地を囲む鉄柵を背もたれ代わりに紅巴は己がチャームの最終チェックに勤しむ。

 と言っても戦闘開始直前に設備の無い現地でやることだから、外装パーツを取り外して中を清掃したり、留め具の緩みを確認したり、試射や変形機構の動作テストぐらいのものなのだが。

 

「ふぅ……」

 

 一通りのチェックを終えた紅巴は視線を手元のチャームから周囲へと移す。

 紅巴と同様に機体の簡易整備をする者が居れば、駐車場内から前線へ忙しく駆けていく者や、逆にその辺の芝生の上にシートを敷いて寝っ転がる者の姿も見える。

 出撃停止措置に係わる一連の騒動にもかかわらず、少なくとも表面上は神庭のリリィたちに士気の低下は見られない。むしろこれまで溜まっていたフラストレーションをぶつけようと言わんばかりに意気盛んであった。

 神庭の掲げる出撃選択制に対し、特別監察本部の役人は「統制の妨げ」「わがまま」と言って廃止させようと執念を燃やしていた。

 しかし今のこの光景を見れば、役人の思い込みが事実誤認であったと分かる。

 

「紅巴さん」

「あ、秋日様」

 

 ぼーっと辺りを眺めていた紅巴の傍に秋日がやって来た。

 生徒会長として神庭の他部隊の状況を確認したり他校と連絡を取り合ったりと動き回っていたはずだが、その中で時間を作ってきたのだろう。

 

「元アーセナルだけあって、見事な手際だわ」

「いえ、このぐらいは……。アーセナルとしては中途半端で終わってしまいましたし」

 

 謙遜ではなく紅巴は本心からそう思っていた。

 高等部に上がってアーセナルからリリィへ転身した紅巴だが、世の中にはアーセナルとして活動しつつリリィとしても戦場に立つ「戦うアーセナル」も少なからず存在する。

 そんな風に両立している者たちに比べたら、紅巴自身は中途半端であるという認識なのだ。

 

「このところ、短期間で色々とあり過ぎたわね」

「はい……」

「特に紅巴さんは」

 

 最初は慎重に言葉を選んでいるようだった秋日が、やがて改まった様子で表情を引き締める。

 

「私は貴方に謝らなければいけない」

「えっ?」

「比呂美様の件よ。知っていて黙っていた。同じレギオンの仲間に。紅巴さんが悲しみ苦しんでいたのに」

 

 生徒会からではなくガーデンから直接指令を受ける特務という立場にあった比呂美。

 しかし全生徒の長である立場上、秋日は比呂美の詳細な任務内容は知らずとも大まかな状況は知り得ていたのだろう。

 

「それは、仕方ないです。秘密の任務ですし。それがなければ、神庭は大変なことになってました」

「…………」

「私が比呂美様を気にしていたのは、私の勝手な都合です。本来ガーデンが配慮するようなことではないです」

「紅巴さん……」

 

 申し訳なさを顔に浮かべる秋日に対し、紅巴は聞き分けの良い殊勝な態度を見せる。

 このような心持ちになれたのも、比呂美本人と会って話をできたのが大きい。彼女もまた紅巴を気に掛けてくれていたのだと知れたから。

 

「もう心配事はありません。あとはヒュージを倒すだけ……ですよね? 今までご迷惑をお掛けした分、頑張りますっ」

 

 憂いが無いのは、神庭の他のリリィたちも同様だろう。

 押っ取り刀で駆けつけるはめになったが、ようやく本来の使命に専念できそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰色のコンクリートに覆われた大地が一定の間隔を空けて震える。

 その振動は、ビルの壁面や窓枠の傍に張り付いている少女たちの体をも揺らす。潜伏したこのコンクリートジャングルの中から炙り出そうとするかの如く。

 緋色のセーラー服に身を包んだ少女たちは本来の住人たちがいなくなった建造物にジッと身を潜めている。

 床にべったりと伏せたり壁にぴったりと張り付いたり、衣服を盛大に汚しそうなものだが、素材と製法が特殊なお陰でそこまで目立ってはいない。

 複数の建物に分散しチャームを抱えて街の中心部に視線を向ける彼女らは、その時を待っていた。大地を揺るがす震源、その正体が現れる瞬間を。

 

「見えた」

 

 程なくして、少女たちのリーダーが震源を肉眼で捉えた。

 中層ビルの最上階で半開きの窓ガラスの隙間から長銃身のライフル、即ちシューティングモードのアステリオンを突き出した彼女は、彼方に見える交差点を睨む。

 ビルとビルの間を抜け、メインストリートに沿ってそれは現れた。

 塔の如く太くて長い脚が四本、互い違いに動いて道路の上を踏みつける度、舗装のアスファルトが陥没して楕円状の足跡が生み出されていた。

 その動きは緩慢ながら、30メートルもの全高とそれを超える全長のせいで、一歩一歩の歩みは規格外に大きい。

 そして四つ足が支える巨体の前部には特徴的な顔が付いている。

 脚よりも細く、しかし脚に負けないぐらい長い鼻。鼻の左右には上方向に湾曲した鋭い牙。羽ばたけば風でも起こせそうな大きな耳。

 その姿は象だった。ただメカニカルな銀色の体表と、瞳の代わりに青白く光る三つの光点が灯っている様が、その者をヒュージであると証明していた。

 

「引き付けて。正面を向いたところで、一斉射撃」

 

 ギガント級の巨体を視界に入れながらも、リリィたちは潜伏を継続する。

 無人の大通りを悠然と歩く巨象を、少女たちは唾を飲み込み手汗を滲ませながらジッと見つめる。

 今のところヒュージは攻撃行動を取っていなかった。にもかかわらず、進路付近に立つ街灯が地面から抜け落ち、自動販売機が引っ繰り返って中身を吐き出していた。

 ただゆっくりと通り過ぎるだけでも、暴力的な巨体は無人の街に破壊をもたらすのである。

 

「この~っ」

 

 一人のリリィが悔しそうな声を漏らした。

 我が物顔に振舞うヒュージへのヘイトが溜まっていく。

 そうして幾分か経った時、巨象の顔がリリィたちの潜む一帯の方に向いた。伏兵に勘付いたわけではなさそうだ。進路を予測し、真正面で相対できる位置に彼女らが陣取っていたためだ。

 

「撃てっ」

 

 合図を待ちわびていたかのように、各建物に発砲の光が瞬いた。

 三門のアステリオンと二門のグングニルがレーザーや実体弾を繰り出す。

 弾幕が殺到したヒュージの顔面はたちどころに黒煙に包まれた。

 それと同時に、真横から飛んできた砲撃がヒュージの腹に襲い掛かった。別角度に潜んでいたもう一隊が呼応して攻撃を加えたのだ。

 合計十機のチャームによる十字砲火。並のヒュージならば呆気なく制圧されるだろう。

 しかし生憎と今この場に居るのは並のヒュージではなかった。

 砲火を浴び煙の下に埋もれた巨体から二本の光線が伸びてくる。

 

「後退っ!!!」

 

 威力偵察を任されるだけあって、リーダーの判断は早かった。

 リリィたちが皆その場を放棄し退く。建物の外壁に張り付いていた者は壁から離れ、建物内に伏せていた者は別方向の窓から飛び降りる。

 その判断は的確だった。

 巨象の鼻の先端部、鼻孔の両脇に備わる二門の砲がレーザーを連射する。巨体の背中に載せられた連装の長砲身が極太のレーザーを放つ。胴体下部に懸架された三連装の大口径砲が実体弾を撃つ。そして全身至る所の装甲がスライドして開き、中から白煙を吐き出す誘導弾が解き放たれた。

 突如として牙を剥いたギガント級の砲撃によって、ついさっきまでリリィたちが詰めていたビル群は瞬く間に爆炎を噴き上げていく。

 粉微塵と化したガラスが飛び散り、コンクリート片が砲弾の如く落ちてきて、リリィたちが避難したすぐ傍の電柱も流れ弾を受け倒壊する。

 

「火力が違い過ぎる……!」

 

 紅蓮に染まる街並みを眼前にして、リーダーは通信機のスイッチを入れる。

 

「先遣隊第一分隊より司令部へ。目標ギガント級は極めて重武装。現戦力での遅滞戦闘は困難。本隊はこれより遠距離での目標監視に移行する」

 

 人数的にはノインヴェルト戦術も実行可能。

 しかし現状、神庭はグラン・エプレ以外のノインヴェルトを想定しておらず、他のリリィたちの役割はあくまで支援ということになる。

 後退を決断したリーダーは集まってきた隊員たちを手早く取り纏める。

 

「足止めは無理そうだけど、せめてあの厄介なミサイルぐらいは消耗させましょう。距離を取りつつアステリオンで射撃、グングニルは防御と迎撃に集中」

 

 直接敵を打ち倒すだけが戦いではない。

 来たるべき決戦に備え、戦場のリリィたちはその時できることをやる。

 

 

 

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