Multicolored Beliefs   作:坂ノ下

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第3話 リリィとして

 軍事機関でもあるガーデンの医務室は設備も規模もさながら病院のようである。

 明るく清潔感のある白の内装、比較的軽症の者が収容される大部屋で、校医や保健委員に交じって薄い銀髪を二つ結びにしたリリィが看護に励んでいた。

 

「鈴夢さん、気分が悪いのー。背中撫でて?」

「あっ、はい」

 

 リリィたちの中を小柄な体でせかせかと動き回る。

 

「鈴夢さーん、任務でミスしちゃった。ギュってして慰めてー」

「はい」

 

 精神的なケアも治療行為の一つとして間違ってはいない。

 間違ってはいないのだが。

 

「貴方たち」

 

 横開きの扉を勢いよく開けて、「病室では静粛に」という鉄則を若干破りながら秋日が入ってくる。

 

「鈴夢に何させてるの」

「えーっ、鈴夢さんに癒されたいですー」

「会長だけ鈴夢さんに膝枕してもらうんだ。ずるーい」

「ずるくありません」

 

 荻窪地底湖ネスト戦以降、校内での鈴夢の人気はにわかに高まっていた。非公認のファンクラブが出来上がるほどに。

 そのため時折こうして生徒会長が目を光らせているというわけだ。

 

「えっと、あの……」

「鈴夢、仕事よ。生徒会室に来てちょうだい」

「はい、秋日様」

 

 当の鈴夢はこの医務室での看護を嫌がってはいない。むしろ率先してこなしているぐらいだ。それがかえって問題なのだが。

 

「手が痺れてお箸が持てません~。鈴夢ちゃん『あーん』ってしてくださ~い」

 

 部屋の隅、カーテンで仕切られた向こう側からの声に、秋日はくるりと振り返る。振り返ってつかつかと歩いていくと、カーテンをむんずと掴んで思い切り開け放つ。

 中のベッドの上では茶髪のロングを枕に横たえたリリィが優雅に横寝していた。

 

「あらら、ごきげんよう秋日さん」

「ごきげんよう。さて、私の拳骨を食らいたい子はどこかしら」

「……あっ、治ったみたいです~。ほらこの通りピンピンですよ」

「だったら退院しましょうか」

 

 秋日は茶髪ロングのリリィ――――石塚藤乃(いしづかふじの)の首根っこを掴んで引き摺るように連れて行く。

 何を隠そうこの藤乃こそ『鈴夢ちゃんファンクラブ』発起人その人であった。

 

「あぁ、そんなご無体な~。もっと鈴夢ちゃんと触れ合いたいです~」

「代わりに生徒会室で書類と触れ合わせてあげるから」

「ええっ!? あの仕事の虫、ワーカホリックの秋日さんが人に仕事を振るなんて……。明日はヒュージが降りますね」

「お陰様で、人に頼ることを覚えたわ。鈴夢に余計なちょっかい掛けられないようビシバシこき使ってあげるから、覚悟しておきなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、残暑厳しい秋の日。よく晴れた空の上には小さな雲が疎らに漂うだけであった。

 神庭のある荻窪の南東を流れる川に沿うよう緑地が広がっており、その緑地に隣接する道路の一角で複数の工事車両が動いていた。

 そして緑地の木陰や川縁にはチャームを装備したグラン・エプレのメンバーたち。纏う衣装はグラン・エプレの隊服、ブルーミングノネット。道路工事の警備が今回の彼女たちの任務である。

 

「グラン・エプレ、フルメンバーでの警備任務……。もしや付近にヒュージの群れの目撃情報が!?」

「今のところ、そういった情報は入ってないわ」

「えっ、じゃあどうして」

 

 勢いを削がれた形の姫歌の疑問に叶星が答える。

 

「神庭のリリィが街を守っていますって安心してもらうためよ。平時の市街地の巡回と同じようなものね」

「ああ、成る程……」

「ここは住宅地域からは離れているけど、都の復興事業に基づく工事だから色々と力を入れているの」

 

 叶星による丁寧な説明を、遠くの紅巴も耳にしているようだ。敢えて聞こえる声で話してくれているのだろう。

 

「そういうわけだから、あまり肩肘張らずに、だけどしっかり警備しましょう」

「はい!」

 

 肩肘張らないというのは即ち余裕ある振る舞いを見せるべきという意味なのだろう。

 なので姫歌も返事は張り切りつつも、できるだけ落ち着いて事に当たれるよう心掛けることにした。

 実際、緑地周辺は平和そのものだった。

 朝の八時から始まった警備任務中、昼前になっても何の異常も見られなかった。

 そんな中、緩やかな丘陵になっている緑地から工事箇所の道路を見下ろしていた灯莉が声を上げる。

 

「あっ、また何かでっかいの来たよ?」

 

 低速で現場にやって来たそれは、よく目立つ黄色に塗装された作業機械だった。車体の前部にあるカゴ状の大きな空洞が特徴的だ。

 ピンと伸ばした右手を目の上にかざして物珍しそうに眺める灯莉の傍へ、微笑を浮かべた高嶺が歩み寄る。

 

「あれはフィニッシャーよ」

「ふぃにっしゃー?」

「あの大きなカゴの中にダンプカーで持ってきた合材……アスファルトの材料を投入するの。そうすると車体の下から合材が均等な厚さで出てくるから。朝の内に痛んでいたアスファルトを綺麗に切り取っていたでしょ? そこへあのフィニッシャーを走らせて、新しく舗装し直すのよ」

「ふ~ん」

 

 やり取りを聞いていた姫歌は思わず突っ込みを入れる。

 

「高嶺様、やけに詳しいですね……」

「ふふふふふ」

 

 蠱惑的な微笑みで誤魔化されてしまう。

 大抵の女子は溜め息を吐きそうになる高嶺の笑みだが、幸か不幸か、同じレギオンで過ごしていく内に姫歌は慣れつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も工事・警備任務共に順調に進んでいき、グラン・エプレは交代で休息を取っていた。九人の内、三人ずつ三交代という形で。

 木陰の下へ敷いたシートにお弁当を広げながら、作業ズボンにタンクトップというラフな格好の女性と藤乃が会話に花を咲かせていた。

 

「え~っ? 皆さんわざわざ水戸から来られたんですか? 大変ですねえ」

「そうなんだよね。ダンプも舗装屋もどこも人手不足だから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど」

 

 いつの間に打ち解けたのか、ダンプカーを運転していた金髪のお姉さんと昼休憩を共にしている。藤乃のコミュ力は――女性限定で――目を見張るものがあった。

 

「でも町のど真ん中で仕事させられるよりマシだよ。このぐらい長閑だとこうしてゆっくり昼もとれるし、うちの新米(ぺーぺー)どものいい練習になる」

「そう言えば皆さんお若いですね」

「嬢ちゃんたちには負けるが……。二十四の私が職長やってるぐらいだからね」

 

 作業が順調に進んだお陰か、既にお姉さん自身は担当分を回り終え、あとは後輩たちの仕事を待つばかりであった。

 普通なら合材を運び終えたらさっさと帰るところだが、今回ばかりは運転席で早飯せずに、ゆっくり遅めの昼食をとることにしたそうだ。

 

「水戸も……茨城の方もやっぱりお忙しいんですか?」

「リリィの嬢ちゃんたちのお陰で復興が進んでるから。特に道路関係は引っ張りダコだね」

 

 姫歌は近くで手作りのおにぎりを頬張りながら、二人のお喋りに熱心に聞き入っていた。

 

(成る程、何気ない会話の中から町の人たちの様子を把握するためなのね。流石は藤乃様だわ)

 

 藤乃もグラン・エプレの一員であると同時に生徒会役員である。

 姫歌は黙したまま尊敬の眼差しを向けた。

 

「わぁ、凄い! 鍛えてらっしゃるんですねぇ~」

「ちょっ、あははっ……! お腹くすぐったいって!」

 

 しかしすぐに考え直す。

 

(あっ、違う。これただ女の人と触れ合いたいだけだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が赤く染まるよりも早く、全ての作業は終了した。

 新しく生まれ変わったばかりのアスファルト舗装は黒く輝いて見え、道路標示の白線とのコントラストはある種の美しささえ感じられた。

 

「綺麗になりましたねぇ」

 

 完成品を見渡した紅巴が感慨深そうにそう言った。

 芸術を修める者として、分野は違えど、何かを作り上げることへのリスペクトには通じるものがある。

 

「皆、暑い中お疲れ様! でももう少しだけ頑張ってね」

 

 叶星が仲間たちに励ましの言葉を掛けた。

 作業に従事していた人間や車両が撤収準備に入っているが、グラン・エプレはまだ早い。撤収を見届けるまでが警備である。

 

「鈴夢ちゃんも大丈夫? 飲み物は足りてるかしら?」

「あ、はい、叶星様。ありがとうございます」

 

 未だ温かな熱を宿す出来立ての道路を工事関係の車列が通り過ぎていく中、緑地帯で立哨を続ける姫歌は異変に気付く。

 

「……灯莉?」

 

 ほんの少し目を離した隙に、視界の端に映っていたはずの灯莉が消えていた。

 姫歌はシューティングモードのデュランダルを構えて後方を見回す。

 

「灯莉」

 

 もう一度声を掛けて、それでも返事が無い。

 捜索の許可を得ようと通信機のスイッチを入れようとしたところ、不意に奥の茂みがガサゴソと揺れた。

 

「定盛定盛!」

「灯莉! あんた何やってんのよ!」

「こんなの見つけた☆」

「ホイホイ物を拾ってくるんじゃない!」

 

 騒ぎを聞きつけた紅巴がやって来る中、灯莉は先程緑地の木々の中で見つけたという冊子を掲げた。

 それは本と呼ぶには少しばかり小さくて薄い。何かのパンフレットあたりだろう。ポイ捨てでもされたのか。

 

「これ何だろう?」

 

 灯莉が首を傾げているのは、中のページに描かれたイラストについて。二頭身で直立歩行のブサイクな鼠が札束を咥えている奇妙なイラストだ。

 

「ああ、それね……」

「定盛知ってるの?」

「今まさに、あたしたちも関わってるこの復興事業。その事業のパンフレットなんだけど……。そのイラスト、ヒュージの襲撃で家や仕事を失って戦災支援金を受け取ってる人たちを揶揄したものなの」

 

 横で静かに聞いていた紅巴が驚き目を丸くする。

 

「えっ。ど、どうして……。パンフレットを作ったのも支援金を給付するのも同じ行政ですよね? なのに、どうして被災者の方を揶揄するんですか?」

「この手の支援金は本人か代理人が申請しないと給付されないのよ。だから申請し辛い雰囲気になったら、その分だけお金を出さずに済むでしょ」

 

 過去の新聞記事で知ったことだった。姫歌は「これからのアイドルには教養も必要よ!」という考えの下、社会面経済面を頻繁にチェックしていた。

 

「勿論! こんなふざけたパンフレット、すぐに回収されて担当者も謝罪してたわよ? って言うか、こんなの描く方も描く方だけど、決裁の印を押す方もどうかしてるわよね!」

 

 唖然として立ち尽くす紅巴の姿を見て、姫歌はフォローするかのように付け加えた。

 行政も行政で、まともにチェックする暇も無いほど忙しいというわけか。

 しかしこの話にはまだ続きがあった。例のイラストに市民の非難が集まる一方で、ネット上の識者たちはパンフレットの回収騒ぎに警鐘を鳴らしたのだ。

 

『表現の自由の侵害かよ』

『二次元の絵に何マジになってるわけ? 現実と空想の区別ぐらいつけましょうね~』

『乞食どもは人様の金で生かしてもらってる自覚が無いの?』

『税金チューチュー! 税金チューチュー!』

 

 いつどこで誰がヒュージに襲われ家を焼け出されるか分からないこの御時世。にもかかわらず強気な発言ができるのは、肝が据わっているお陰か、はたまた自身の暗鬱とした未来を想像したくないせいか。姫歌には分からなかった。

 

「やっぱり、私の育った施設は恵まれていたんですね。あそこでは、食費が足りなくなって子供がお腹を空かせてしまうことはありませんでした」

「紅巴……」

 

 人の悪意に曝されず、あるいは悪意に屈さない環境で過ごせたのは確かに運が良い。そのお陰で土岐紅巴という心根の優しい少女が育まれたのだろう、と姫歌は思った。

 

「私たちにとっても他人事ではないのよ」

「秋日様」

 

 まだ任務中だというのに駄弁っていては叱られもするだろう。

 ばつが悪くなる姫歌だが、しかし秋日は一部始終を聞いていたのか、灯莉の手にあるパンフレットに視線を注いでいる。

 

「この警備任務の必要経費も、復興事業予算から支払われているの」

「……姫歌たちの働きも、問われているということですね」

「そうね。今日に限らず、リリィはいつだってそう」

 

 神庭を始めとした多くのガーデンは民間の組織だが、チャームの製造費やヒュージの撃破報酬など、一部に公金も投入されている。

 出撃選択制のように神庭で自由な校風が許されているのは他校よりも公金の比率が低いため。それでも外の目を全く気にしないわけにはいかなかった。

 

「いっぱいヒュージをやっつけて、街をしっかり守れってことだね☆」

 

 灯莉が端的に朗らかにそう結論付ける。

 

「貴方たちも皆も、十分以上にやってるわ。負い目に感じることなんて何も無い」

 

 固い表情のままの秋日の口から独白のように吐かれた言葉。

 気になった姫歌は秋日の二の句を窺っていたが、そんな彼女の耳に通信機からの音声が響く。

 

「南西よりヒュージ反応接近! グラン・エプレ、戦闘態勢!」

 

 叶星の指揮により、九人が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確認されたのはスモール級の反応が三つだけ。だけど大事を取って、残りの工事車両の撤収は中断してもらったわ。接近中のヒュージは灯莉ちゃんと姫歌ちゃんで対応。他のメンバーで周辺警戒に当たります」

 

 今現在目に見えているヒュージが全てとは限らない。それはリリィなら誰しも身を以って経験していることだろう。なので周辺の監視に労力を割くのは至極当然の判断だった。

 姫歌は灯莉を連れ立って緑地の丘陵部分、その頂まで移動する。

 南西の空に小さい点が三つ浮かんで見えた。姫歌には点のようにしか見えないが、灯莉にはもっと詳細に映るようだ。

 

「何かねえ何かねえ、頭がシャキーンって尖ってて、お尻からボボボボって火を吹いてるよ」

「ペネトレイ種か。こんな所にいきなり現れたんだから、まあそうなるわよねえ。群れからはぐれたのかしら?」

 

 姫歌は灯莉の極めて抽象的な説明から当たりをつけた。

 付近にケイブの反応は確認されていないので、大規模攻勢の前兆という線は薄そうだ。油断はできないが。

 

「さてと……」

 

 姫歌は顎に手を添えて考え込む。あのヒュージを倒せるかどうかという点ではなく、どのようにして倒すべきかという点について。

 

(人の目がある……。注目されてる……。ここは三体全部引き付けて、あたしと灯莉で一気に倒すべき?)

 

 そうすれば派手に魅せられる。グラン・エプレのアピールになるかもしれない。

 そこまで考えてすぐ、姫歌は(かぶり)を振った。

 

(何考えてんのよ! あたしは! 確実に、被害を出さないよう戦うべきでしょうが!)

 

 思い直すと、傍らで空の監視を続けている灯莉の肩を軽く叩く。

 

「灯莉、ここから撃ってヒュージに当てられる?」

「うん、出来ると思うよ。でも他のヒュージには逃げられちゃうかも」

「それならそれで仕方ないわ。今はここに残ってる作業員の人たちの安全を確保しないと」

「分かったー☆」

 

 元気よく返事をした灯莉はすぐさま行動に移った。丘の上の木陰に身を寄せて、白銀色のチャームを南西の空へとかざす。

 騎兵槍(ランス)を思わせるチャーム『マルテ』はその重厚な刃を上下に分離させると同時に、二対四枚の羽を模したパーツを展開させる。そして先端部には槍の穂先に代わってレーザーの発射口が口を開いた。シューティングモードへの変形だ。

 

「じゃあ一番前を飛んでるヒュージからやっつけるね」

「狙いは任せるわ」

 

 灯莉は金属の銃身を肩の高さへ軽々と構えた。

 次の瞬間、灯莉の右目の前に青白く発光する円が三重に重なって浮かび上がった。

 レアスキル『天の秤目』が標的を捉える。

 マルテのトリガーは躊躇なく引かれた。

 白光のレーザーが一直線に空を奔り、直後、空を行く三つのシルエットの内の一つが高度をぐんぐんと下げていった。

 

「やった! 残りは……こっちに来る!」

 

 二体のヒュージがこちらに向けて増速したのが姫歌の目にも分かった。

 逃げないなら逃げないで好都合。二体だけなら突破を許さない心算があった。

 姫歌も射撃に加わるべくシューティングモードのデュランダルを前方へと突き出す。

 マルテと同じく刀身を上下に分離させ、マルテ以上に大型化した機体。姫歌の小さな体と細腕で支えられたその大型機は機体中央のリング部分に青光りを迸らせて、極太の光線を撃ち出した。

 マルテもデュランダルも、フランスのチャームメイカーであるグランギニョル社によって開発された高級機だ。高出力の光学兵器を搭載した高性能機と言っていい。

 そんなチャームが二機がかりで弾幕を張り、レーザーの光が目も眩まんばかりに頭上の青空で瞬く。

 ところが二体のヒュージは空中を泳ぐように機動して弾幕を掻い潜る。矢尻の如き形状の胴体に、大空を翔けるためのジェットの噴射口。その姿は正しく一本の矢だった。苛烈なレーザーの雨を物ともせずに突き進んでくる。

 

「定盛ぃ~、当たんないよ!」

「分かってるわ!」

 

 先の狙撃による奇襲から一転、巡航速度から戦闘速度へと移行したペネトレイ種ファイ型は姫歌たちの迎撃行動を翻弄し切っていた。

 

「当たらなくていいのよ! 今は!」

 

 しかし姫歌に負けるつもりは毛頭ない。

 ぐねぐねと不規則な旋回を繰り返しつつ迫る敵を、姫歌は一瞬たりとも意識の外に逃さず捉え続ける。

 やがてその時が来た。

 

「正面、撃ちまくって!」

 

 姫歌の指示を微塵も疑うことなく、灯莉は空に向けていたマルテの銃口を水平に下げる。

 するとそれに前後して、片方のヒュージが機首を下げて急降下を図った。まるでマルテの弾幕の只中に自ら突っ込んでいくかのように。

 正面からレーザーに貫かれたヒュージが空中爆発を起こすと、僚機をやられたもう片方は姫歌の方に機首を傾けた。

 姫歌には敵の攻撃が分かる。敵意の指向が分かる。レアスキル『この世の理』が敵味方の攻撃のベクトルを視覚的に姫歌へ示していた。

 相手の動きに追いつけないなら、向こうからやって来たタイミングで叩けばいい。

 

「待ってたわ!」

 

 上下に分離していたデュランダルの刀身が再び一つに戻った。

 ブレイドモードへと高速変形し、突貫してきたヒュージへ刃が振るわれる。

 頭部から背部の噴射口にかけて水平に切り裂かれ、三体目のヒュージは突貫の勢いのまま地面に墜ちていく。

 すれ違いざま、姫歌の纏う紺のジャケットがファイ型の鋭い頭部に接触されていた。

 

「ステージでのお触りは禁止よ。覚えておきなさい」

 

 しかし切り裂かれたジャケットを翻しながら墜落していくヒュージへ振り返った姫歌は、自身の健在をアピールするかのように声を上げるのだった。

 これで三体。他にヒュージ発見の報は入っていない。

 

「姫歌より叶星様、叶星様。南西方面より接近するヒュージを撃破しました」

「ありがとう姫歌ちゃん灯莉ちゃん。新たなヒュージは確認されてないわ。グラン・エプレは戦闘態勢から警戒態勢へ移行します」

 

 無線通信でのやり取りの後もチャームは展開したまま。戦闘前にも確認したように、守るべきものの安全を確かめるまでが任務である。

 姫歌と灯莉が丘の頂から麓の道路付近まで降りてくると、ドッと歓声が轟いた。

 

「えっ?」

 

 道路上で待機していた工事車列から、今まさに出発しようと動き出す中、二人のリリィに向けて感謝と激励が手向けられる。

 スモール級がたった三体。数字の上ではそれだけだが、救われた者にとっては大きなことだった。

 

「定盛ニヤニヤしてる~」

「ニヤニヤなんてしてないわよ!」

 

 姫歌は緩みかけていた顔を引き締める。

 ステージではアイドル的笑顔でなければならないのだ。間の抜けた顔ではなく。

 

「でも嬉しいね☆」

「まあ、そうね……」

 

 

 

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