Multicolored Beliefs   作:坂ノ下

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第7話 全てさらけ出して(前編)

 神庭の校舎にサイレンが鳴り響く。各所のスピーカーを通して発令されたヒュージ出現警報だ。

 全校生徒の耳に、主任教導官の低く威厳ある声が流れてくる。

 

「荻窪西方、吉祥寺方面にファルクスⅡ型の群れが確認された。数は十五。グラン・エプレ並びに待機中のリリィは直ちに出撃準備に掛かれ。繰り返す、敵は新型ヒュージ、ファルクスⅡ型。グラン・エプレ並びに待機中のリリィは直ちに出撃準備に掛かれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荻窪の西端。片側二車線の大通りに面した空き地に三台の装甲バスが駐車している。

 ここは元々あったマンションを潰して売りに出されていた土地なのだが、今では区が管理する公有地となっていた。

 その広い土地に二十余名の神庭のリリィ。装甲バスに分乗してやって来たのだ。

 濃赤のセーラー服のリリィに交じる紺色のジャケットは、言わずもがな、トップレギオンのグラン・エプレである。

 降車したリリィたちは円陣を作り、司令部からの通信を受け取っていた。

 

「一旦は荻窪に侵入したヒュージ群だが、我が方の出撃後に反転、再び吉祥寺方面に退いている。現在は同地の市街地付近で停止中だ。住民の避難は既に完了。よって我が方は現在地で待機、敵の出方を見る」

 

 神庭司令部は慎重策を採った。

 避難の期間が長引けば長引くほど住民の負担が増えるのは事実。

 だがそれでも慎重になる理由があった。

 

「グラン・エプレが初めて遭遇して以来、神庭のリリィとファルクスⅡ型は何度か交戦してきたけれど、敵はいつも深追いしてくることなくあっさりと退いていた。そして今、私たちを誘き出そうとするようなヒュージのこの動き。敵の狙いは神庭と見て間違いなさそうね」

 

 秋日はそう結論付けた。

 神庭のリリィは各々のチャームを握り締めながら息を呑む。

 

「今や神庭は都心にとって西からの脅威を食い止める守りの要。敵は統制の取れた並々ならぬ相手だけど、これ以上は進ませない。私たちの力、新型ヒュージに見せつけてやりましょう!」

 

 生徒会長に発破を掛けられて、円陣から「おぉー!」と気勢が上がる。

 士気は十分。

 しかし当面の命令は待機であり、今すぐ動くわけではない。

 そこで何人かの手すきのリリィが、乗ってきた装甲バスの方へ向かう。装甲バスには長期戦に備えた物資が幾らか積まれていた。

 足を折り曲げた折り畳み机やパイプ椅子を降ろし、空き地の片隅に用意された仮設テントまで持っていく。即席の休憩スペースを作るため。

 司令部から新たな指示が出るまで、交代で休息を取ることになるだろう。

 無論、敵の出方待ちだからといってやるべきことが何も無いわけではなく、周辺の偵察や地図の確認等は済ませておかなければならない。

 

「ヒュージが居るって分かってるのに、待機だなんてもどかしいですね……」

「ふふふ、まあここは司令部を信じてゆっくり待つとしましょう。せっかくの大舞台、あっさり終わってしまうのも詰まらないですし」

 

 悠夏をはじめ幾人かのリリィが逸るのを、藤乃の鷹揚とした口調と仕草が宥めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神庭のリリィたちが駐屯する空き地から南へ道路を二本越えた所に小さな公園がある。

 公園内のお手洗いで用事を済ませ、壁に貼り付けられた鏡の前に立つ叶星へ、横から腕組みした秋日が問い掛ける。

 

「それで? こんな時に、何か話があるから誘ったんでしょ?」

 

 ハンカチで手を拭いつつ叶星はゆっくりと振り返った。

 

「ええ。こんな時だから気になって。鈴夢ちゃんのこと」

「……ゲヘナは鈴夢のことを諦めていない。ヒュージを送り込んでくるなら、来た端から倒していけばいいのだけれど。やっぱり、対処療法だけだと限界がある」

「そうよね。たとえヒュージを撃退できても、『気にしないで』って言っても、鈴夢ちゃんには酷な話よね」

 

 鈴夢が本当にヒュージを呼び寄せていたかどうか、未だに定かではない。グンタイアリ種のヒュージが活発化する際に彼女のマギが反応していたのは事実だが、ヒュージ誘引の証明には至っていなかったのだ。

 とは言え、鈴夢本人は自分が原因であると認識していた。

 

「私には、強化実験の詳しいことは分からないから、絶対大丈夫なんて言えない。秋日だってそうじゃないかしら?」

「その通りよ。私も強化リリィだけど、私が受けたのはスキラー数値を引き上げるだけの軽い施術だから」

「でも、他にするべきことがあると思うの。鈴夢ちゃんのためにも、秋日自身のためにも」

 

 秋日は黙って叶星の次の言葉を待つ。

 少々の間を置いて、叶星が再び口を開く。

 

「秋日がそこまで鈴夢ちゃんを気に掛けているのは、神庭に行くよう勧めた責任があるから? それとも酷い実験を受けさせられたことへの同情?」

「……もしかして、藤乃に何か言われた?」

「別に変な話はしてないからね」

「…………」

「それで、どうなの?」

 

 秋日は眉根を寄せて難しい顔を作り、今にも低い声で唸り出しそうだった。

 

「最初は、叶星の言う通り責任感や同情だったのかもしれない。今は、それ以上は踏み込めない」

「どうして?」

 

 口を噤む秋日。

 そんな彼女をじっと見つめる叶星。

 公衆トイレの手洗い場の前で時が過ぎていく。場所柄どうしても気になる臭いも、だんだんと慣れてくる。

 やがて根負けしたのは、小さく溜め息を吐いた秋日の方だった。

 

「だって、私はあの子からしたら庇護者なのよ? 生徒会長って立場もある。そんな私に向けられる好意が、純粋な好意だって言い切れる?」

「だからそれ以上の関係には踏み込めない、と……」

 

 秋日は観念して奥底に溜めていたものを晒した。

 薄々察しはついていたのか、叶星はさして驚いた様子でもない。

 ところがそんな二人は話を進める前に、別件で驚かされることになる。トイレの出入り口から人影が二つ現れたから。

 

「はぁ~、秋日さんそんなこと考えてたんですねえ」

「藤乃っ……それに高嶺も」

 

 腕組みした藤乃と、その後ろに高嶺が立っていた。

 気取られないようわざわざ気配を消していたのだろう。

 

「盗み聞きなんて、趣味が悪いわね」

「誤解ですよう。たまたまお花を摘みに来たら、盛り上がってたので出て行けなかっただけですよう」

「よく言うわ」

 

 秋日の刺々しい追及を、藤乃が軽い調子で躱す。

 

「高嶺ちゃんまで、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないわ。叶星が秋日さんと二人していなくなったから、嫉妬でどうにかなりそうだったのよ」

「もー、高嶺ちゃんったら」

 

 叶星と高嶺は、叶星と高嶺であった。

 

「先程のお話、わたくしも交ぜて頂けません?」

「……何よ」

 

 身構える秋日に対し、藤乃は軽く咳払いして勿体振ってから口を開く。

 

「秋日さん……貴方お馬鹿さんですか」

「んなっ」

 

 予想外に直截的な物言いをされ、秋日は絶句した。

 

「鈴夢ちゃんは、自分が近くに居ると神庭が大変な目に遭うと思い込んで、一人でネストに乗り込むような()()()()()()ですよ? そんな子が恩だけで人の好意を受け入れると思いますか?」

「それはっ」

「そもそも、元々人付き合いが苦手な鈴夢ちゃんが、好きでもない相手と進んで一緒に居たがるはずないでしょう? どうしてこんな単純なことが分からないんです?」

「…………」

 

 いつになくズケズケと入り込んでくる藤乃。

 秋日はぐうの音も出ない。心のどこかで、藤乃の主張に納得してしまったのかもしれない。

 

「はぁ~~~っ。全く、どうしてこんなことに。すぐ身近に叶星さんと高嶺さんというカップルのお手本がいらっしゃるのに、何故我らが生徒会長はこんなに恋愛ザコザコなんでしょう? これでどうやって生徒からの相談に乗っているのか、神庭七不思議の一つですね。いっそのこと鈴夢ちゃんはわたくしが貰っちゃいましょうか」

 

 しかしながら、秋日にも言い分はある。盛大な溜め息に続いて吐かれた藤乃の言葉が秋日に火を付けた。

 

「――――じゃない」

「はい? 何です?」

「手本になるわけないじゃない! 叶星と高嶺よ!? いつもいつもイチャイチャイチャイチャ、喧嘩してたかと思ったらイチャイチャイチャイチャ! 手本にも参考にもならないわよ!」

 

 目を見開き大音量を発した秋日に、三人は一瞬呆気に取られた。

 

「えぇ? そこまでイチャイチャしてたかしら……」

「あらら。秋日さんたら、私たちのことそんな風に思ってたのね」

 

 戸惑う叶星。神妙な顔になる高嶺。

 一方で煽った藤乃はと言うと、普段以上に深い笑みを浮かべる。

 

「でしたら、わたくしを参考に――――」

「論外よ!」

「えーっ、酷いですぅ~」

 

 同じ二年生、同輩の三人へ思いの丈をぶちまけた。つっかえていた物が取れたというか、ある種の爽快感めいた物さえ覚えた。

 無論、羞恥心もあるにはあるが、今の秋日の心境では本音を吐き出せた心地良さの方が勝っている。

 

「ふふっ、だけど秋日さんの気持ちが知れて有意義だったわね。まさか私と叶星を羨ましがってたなんて」

「別に羨ましいとは言ってないわよ!?」

「でも鈴夢さんとそういう関係になりたいんでしょう?」

「…………」

「そこは認めないのね」

 

 秋日は再び口を噤む。

 だがそれは今更想いを隠しておきたいというわけではなく、今ここで口にするべきことではないと判断したからだ。

 

「まあまあ、それは今はいいじゃないですか。しかるべき時に、ご本人の前でちゃんと告白してくれますよ」

「勝手に決めないでくれる?」

「それじゃあ鈴夢ちゃんはわたくしが貰っちゃってよろしいんですね」

「認めないわ!」

 

 勢いよく否定した直後、秋日は咳払いして仕切り直す。

 

「藤乃が鈴夢のことに気を回してくれてるのはちゃんと分ってるつもり。だけどそれとこれとは話が別よ。実際に付き合い始めたら、他の子にちょっかい掛けないって約束できる? 鈴夢だけを愛するって誓える? それでいて、もし鈴夢自身が貴方を選んだとしたら――――」

「ふぇ~、重いです! 重過ぎます秋日さん!」

 

 半笑いの藤乃が耐え切れないといった様子で遮った。

 叶星と高嶺もまた、藤乃の意見にうんうんと頷いている。

 

「ちょっとそれは大袈裟じゃないかしら?」

「重いわねえ、秋日さん」

「貴方たちにだけは言われたくないんだけど! 貴方たちにだけは言われたくないんだけど!」

 

 大事なことなので二回言った。

 

「と言うか、皆して人の色恋沙汰に首突っ込み過ぎでしょう!」

「そんなっ、わたくしたちは良かれと思って背中を押してるのに。だって最近、校内で鈴夢ちゃんの株が上がり続けてるんですよ。わたくしに限らず、横から掻っ攫われるかもしれませんねえ」

「そうね! 誰かさんが作ったファンクラブのお陰でね!」

 

 住民が避難した街中の、小さな公園のトイレにて、四人の歯に衣着せぬお喋りは続く。

 それを中断させたのは、神庭司令部からの「ヒュージ群に動き有り」という通信であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吉祥寺にて停止していたファルクスⅡ型の群れが前進を開始した。進行方向は荻窪方面、諸君らの位置する地点に向け直進している。ただし進軍速度は通常のバスター種と変わらず微速。進路変更もあり得るが、我が方もこれより出撃して敵群を叩く」

 

 ガーデン本校舎に設置された司令部からの無線通信を、既に準備を整えた二十四名のリリィが傾聴する。

 

「グラン・エプレ、敵群中央に攻撃を仕掛けろ。井口隊、北西方向に進軍しグラン・エプレを援護。東雲隊、南西方向に進み同じく援護。城崎隊はグラン・エプレの後方にて後詰とする」

 

 グラン・エプレ以外の、臨時編成された五人レギオンは隊長の名前を隊名としていた。

 司令部が大枠での指揮・命令を発しつつ、細かな判断は現場の隊長たちに広い裁量が認められる。神庭をはじめ多くのガーデンではそうなっている。

 

 かつて、まだリリィが軍の直接指揮下にあった時代においては、指揮車両に搭乗した指揮官――無論、大人の軍人である――が前線指揮を執っていた。

 ところがケイブというワームホールを駆使する上、従来の軍事常識から逸脱した行動を取るヒュージとの戦いで、指揮車両が直接襲われるケースが続出した。

 指揮官にリリィの護衛を付けたらその分だけ使える戦力が減少するので非効率的である。

 そんなわけで、現在では全体の指揮をガーデンの司令部が執って前線指揮をリリィが執るのが一般的となっていた。

 ただ中には現役のリリィでない教導官が前線まで出てくることもある。マギの減衰は急激なものではなく緩やかな曲線を描くため、二十代や三十代の元リリィでもある程度は自身の身を守れるのだ。

 もっとも、こうした軍人の指揮官を排したガーデンの防衛体制は軍事評論家を自認する一部の者から「ガーデンの専横! リリィ至上主義! 戦争を舐めるな!」と批判に晒されている。しかし実際に小銃や9mm拳銃装備でヒュージと相対させられる当の将校にとっては堪ったものではないだろう。

 

 

「諸君、悪い報せだ」

 

 司令部からの新たな通信に、秋日も他のリリィたちも黙って息を呑む。

 

「現在接近中の敵群より後方の避退地区にて、ケイブとヒュージ反応が確認された。ミドル級が二十五にラージ級が一、いずれもファルクスⅡ型と思われる。最初の第一群十五体と協同している可能性が高い。後背を衝かれないよう留意せよ」

 

 危惧していたことがついに現実となった。新型の追加、それに加えてラージ級まで。ヒュージにしては小勢だが、この難敵ならば小勢でも十分過ぎる脅威である。

 

「皆、大丈夫よ。ガーデンで考えてきた対新型戦術。それを駆使すればきっと勝てるわ」

 

 叶星が皆を勇気付ける。

 希望的観測を好まない秋日も同意見だった。

 難敵に対抗し得る()()を彼女たちは用意してきたのだ。

 前進を開始して暫くすると、前方、避難の済んだ吉祥寺の街に薄っすらと粉塵が見えてくる。

 今こそ準備の真価が問われる時。

 

「グラン・エプレ、フォーメーションS!」

 

 叶星の号令の下、九人の基本フォーメションに変化が生じる。

 TZの叶星と高嶺がBZに加わり、同時にAZの姫歌と悠夏と藤乃が前進速度を落としてTZの鈴夢との距離を縮める。全体的に敵との間合いを離した射撃戦重視の陣形へと変更された。

 砲撃を得意とするバスター種相手に射撃重視の陣形は悪手。普通の軍隊ならそう思われるところだが、生憎とリリィたちは普通の軍隊ではなかった。

 

「砲撃、来ます! 藤乃様、灯莉! 悠夏!」

 

 姫歌の警告から少し遅れて、遥か前方の建物の狭間でチカチカと光が明滅した。

 その直後、淡く赤い光の奔流が二筋伸びてくると、さっきまで三人のリリィが立っていた場所を薙ぎ払う。

 姫歌の『この世の理』が敵の射線を察知したのだ。

 

「ヒュージが四体、こっちに来るよ! なんかねえ、両腕をパカパカさせてる!」

「速射砲に注意! 隊を停止して陣形を左右に広げるわ! 包囲されないように!」

 

 目の良い灯莉が敵の接近を告げると、叶星は新たに指示を出す。

 すると灯莉の観察通り、四体のファルクスⅡ型が高速で突出していることが分かった。

 ヒュージの細長い両腕が折り畳まれて、関節部から覗いた砲口が発砲する。大音量かつ軽快な射撃音が連続し、グラン・エプレの陣に向けて多数の砲弾が降り注ぐ。

 砲撃はAZである姫歌たち三人に集中しているようだ。しかしその状況は彼女らにとって好都合。

 

「目標、敵最右翼!」

 

 叶星が無線でそう告げた。

 五人に増強されたBZから砲火が放たれる。

 ただ一体のヒュージを狙いに定めた一斉射撃は標的の足も矛も抑え付けるのに十分だった。

 弾幕に包まれ立往生していたところに、一条のレーザーによって右腕の鎌を切り落とされた。

 それを好機と、損傷を負ったファルクスⅡ型に影が迫る。ひしめく住宅の隙間を伝って間合いを詰めた悠夏である。

 悠夏が斬り掛かったところ、ファルクスⅡ型は健在の左腕で彼女の刃を弾き返した。グラン・エプレの集中砲火を浴びて尚、この反応。相変わらずのミドル級離れしたタフネスさ。

 それを織り込み済みの悠夏は横方向にステップを踏んで相手の側面に回る。

 

「たぁぁぁっ!」

 

 両手持ちしたティルフィングの切っ先が真っすぐに伸びて、レーザーで切断された右腕の付け根に突き刺さった。

 傷を抉られたファルクスⅡ型はヨタヨタとふらついた後、地面に擱座して沈黙するのだった。

 

「悠夏! すぐ下がる!」

「分かってるって!」

 

 この世の理で()()姫歌が叫ぶように警告した。

 一人突出した悠夏目掛けて速射砲弾や誘導弾が襲い掛かる。

 接近時と同様に、悠夏は周辺の建物を利用して後退し始めた。彼女を支援するべくBZが牽制射撃をヒュージたちへ浴びせる。

 敵を集中射撃で釘付けにし、隙を見て接近戦で仕留める。それが神庭が考案した対新型戦術だった。シンプルだが堅実な選択だ。

 ヒュージ側の砲撃は姫歌のレアスキルで察知できるし、高嶺のレアスキルや灯莉の異能でも限定的ながら同じことが可能である。

 グラン・エプレ以外の部隊も距離を空けての牽制射撃を仕掛けていた。こちらは無理な接近をせず、敵の消耗と足止めにとどめている。

 一体一体、確実に敵の数を減らしていくこの戦法には問題点もあった。一気に近接戦を仕掛ける戦法に比べて周辺家屋への被害が増える点。そしてもう一つは、数的優位を前提とする点。

 

「ヒュージの第二群が間も無く戦域に入る。ラージ級は遅れているが、時間の問題だ。各員警戒せよ」

 

 司令部からの通信が懸念の現実化を報せてくる。

 数の優位の逆転。

 敵の火力が明らかに増してきた。主砲の熱線、速射砲、誘導弾。神庭側の弾幕を凌駕する勢いだった。

 南北に布陣する味方の隊がじりじりと押され出し、グラン・エプレも踏み止まっているものの、防戦気味に陥っている。

 傾きかけた流れを食い止めなければならない。

 

「ここが正念場よ。叶星、消耗した姫歌さんと交代するわ」

「ええ、お願い秋日」

 

 最前衛でレアスキルを駆使しながら敵の攻撃を引き受けていた姫歌。彼女とポジションをチェンジするためBZの秋日が前に出る。

 その途中、TZの鈴夢とすれ違う。

 

「秋日様……お気を付けて……」

 

 チャームを握り締めた鈴夢がそう呟いた。

 

(鈴夢……)

 

 秋日は横目で頷き、更に前へと進む。

 最前衛ではヒュージの苛烈な砲撃がアスファルトの地面を耕していた。

 住宅が倒壊して更地になりつつある中で、姫歌は回避と防御に専念して敵の注意を誘引し続けていた。

 

「姫歌さん、一旦後ろに下がって援護に回ってちょうだい!」

「了解です!」

「紅巴さん、テスタメントをお願い!」

「は、はい!」

 

 後方の紅巴からマギが流れ込むのを感じた秋日はすぐさまレアスキルを発動させた。

 ヘリオスフィア。不可視の光の壁が秋日自身の、そして左右に散開するレギオンメンバーの眼前に展開して盾となる。

 光の壁は速射砲弾を弾き、誘導弾の爆風をシャットアウトする。極太の熱線には激しく揺さぶられながらも耐え切っている。

 しかし防御一辺倒では、いずれ破綻が訪れるのは自明。どこかで反撃に転じなければ。

 

(鈴夢、私は……)

 

 そんな切羽詰まった状況の中、秋日の脳裏には一人のリリィの姿が浮かんでいた。

 

 

 

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