Multicolored Beliefs   作:坂ノ下

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第8話 全てさらけ出して(後編)

 住民の避難した街中に爆音が轟き渡り、あちこちで黒煙が立ち昇る。

 ホバーによる高速移動で位置転換しながら熱線砲で砲撃を繰り返すヒュージの群れ。

 リリィたちによる制圧射撃も、数の優位が無いため十分な効果が発揮できず、敵の火力を減衰できない。

 後詰の部隊は居るが、これを投入するのはここぞという時。未だそのタイミングではないと司令部も判断しているのだろう。

 グラン・エプレを守るヘリオスフィアの光の壁は軋みを上げているようだった。

 

(鈴夢、私は……)

 

 最前衛でレアスキルを行使し続ける秋日に向かって、一体のミドル級ヒュージが迫る。

 全長5メートルの体躯を滑るように走らせて、民家のブロック塀を薙ぎ倒しつつ急接近。両腕の速射砲を秋日へとかざした。

 大出力のホバーから響く風音が耳に障る。

 二つの砲口の中に光が灯る瞬間を目に映す。

 家々が煙に巻かれ、炎の赤が迫り来る光景の中で、秋日は消え入りそうなほど線の細い少女を想う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はっ! ヒュージにもゲヘナにも、鈴夢は渡さない!」

 

 速射砲を展開するファルクスⅡ型の胴体に一本の槍が突き刺さる。

 その黒色の槍はチャームだった。投擲を前提とされた槍型チャーム、ゲイボルグ。

 装甲に穂先をめり込ませ短い三本脚でたたらを踏むヒュージに対し、地を蹴って駆け出した秋日が肉薄する。

 迎撃しようとする速射砲は、遠方から飛ぶ援護のレーザーによって上手く狙いを付けられない。

 その隙に懐へと潜り込んだ秋日は投擲したゲイボルグを再び手に取ると、銀灰色の装甲から無理矢理引き抜いて、暴れ狂うように振るわれたヒュージの大鎌を跳躍で回避。そのまま相手の頭頂部へゲイボルグの穂先を深々と突き立てた。

 

「皆、前線を押し上げて!」

 

 すかさず叶星が攻勢に出る判断を下す。

 叶星ならこの機を逃さないはずだと、秋日は確信を持っていた。

 一方、ヒュージたちは突出してきた秋日を狙って動く。二体のファルクスⅡ型が左右から迫り、フレンドリーファイアを全く考慮せず速射砲を連射してきた。

 地面に次々と着弾した敵弾が煙と飛散物を噴き上げる。

 しかし秋日の体には傷一つ付いていない。未だ光の壁は健在だった。

 

「ヘリオスフィアをあれほどの強度で使い続けてるのに……」

 

 後方から援護射撃に徹している紅巴が驚嘆の声を上げた。

 その間にも、ファルクスⅡ型は両腕の砲口を収めて真正面から秋日との間合いを更に詰める。

 同時に、秋日の後方に回り込んだもう一体が急停止して砲撃姿勢に入る。彼女を味方ごと主砲で貫くつもりなのだ。

 だがしかし――――

 

「フフッ」

 

 腹の中の主砲を展開させたファルクスⅡ型は横合いからレーザーと実弾の猛射撃を浴びて体勢を崩した。

 

「秋日さんばかりでなく、わたくしとも遊んでくださいな」

 

 藤乃だ。

 大剣型のチャームと手斧型のチャーム、それぞれを左右の手で操る藤乃が秋日のフォローに入っていた。

 砲撃姿勢を解いたヒュージが旋回して矛先を闖入者へと向け直す。

 一方、秋日は正面から突っ込んできた敵と一対一で相対していた。

 ファルクスⅡ型が両腕の大鎌を鞭の如く自在に操り、嵐のような乱舞を披露する。鈍重な見かけに不釣り合いな激しい連撃が一人のリリィに対して振舞われる。

 秋日は槍を斜めに掲げ穂先を前方に突き出し迎え撃った。鎌の猛攻を弾くのはヘリオスフィアではなく、ゲイボルグに備わる防壁機構。前面に展開された不可視のマギの壁がヒュージの刃を通さない。

 一歩も退かず、秋日は地面をきつく踏み締めて真正面の敵を睨む。

 

「私がお節介を焼くのは、責任でも、同情なんかでもない」

 

 秋日がゲイボルグを構えたまま一歩一歩前進すると、ヒュージは鎌を振るいながらも後ずさっていく。

 

「愛してるからよ! 鈴夢を! 『わたくしが貰っちゃう』ですって!? 馬鹿言うんじゃないわよ! 誰が渡すもんですか!」

 

 地面を蹴り前へ跳ぶと、ゲイボルグの壁にヘリオスフィアの壁が加わってヒュージの体をミシミシと押し潰し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリィはチャームに搭載したマギクリスタルコアを用いて通信を行なっている。

 コアの通信は一方行ではなく双方向。一般的な無線と違って電話のように同時に喋ることが可能。便利な面もあるのだが、今回はその性質が意図せぬ形で作用した。

 どういうわけか、送信状態になっていることに気付かぬまま秋日は吼えていた。

 即ち、戦場に居る仲間たちの耳に入っていたのだ。

 

「定盛、大変大変!」

「ちょっ、何よこんな時に!」

「とっきーが立ったまま気絶してるよー!」

「く、紅巴ーーーっ!」

 

 またグラン・エプレ以外の部隊にも当然聞かれているわけで。

 

「何だかよく分からないけど生徒会長がブチキレていらっしゃる!?」

「キレた秋日様も素敵ねえ」

「これもう勝負ついたでしょ。ヒュージは諦めて、さっさとうちらの鉛玉もらっちゃってください」

 

 俄かに湧き立つリリィたちの様子は司令部でも把握していた。

 

「皆の士気が上がっている……。後詰の城崎隊は前進、グラン・エプレを援護! 討ち漏らした敵を掃討せよ! この機に押し込め!」

 

 中央のグラン・エプレのみならず、南北の隊と後方の予備戦力も攻勢に加わり、盤面が大きく動こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会長、本間秋日の大告白によって勢いを得た神庭のリリィはヒュージの群れを突き崩しつつあった。

 戦いには流れというものがある。一度その波に乗れたら、いかにして流れを止めずに走り抜けるかが重要だ。逆に防御側からしたら、相手の流れを堰き止められるかどうかにかかっている。

 

「神庭司令部よりグラン・エプレ。左翼の東雲隊が苦戦している。妙に連携の取れた奴らが居るらしい。応援を回してくれ」

「こちらグラン・エプレリーダー、了解しました」

 

 通信に応答した叶星は素早く思考する。

 現状、秋日を含めたAZは前線の押し上げに欠かせない。また応援に回す者は少数で強力な敵と対峙することになる。そうすると選択肢は限られてくるだろう。

 

「私と高嶺ちゃんで左翼に向かうわ。姫歌ちゃん、ここの指揮をお願いね」

「はい、任せてください!」

 

 サブリーダーからの頼もしい返事を聞くと、叶星は90度向きを変えて隊列から離脱した。

 近くにバスター種が跋扈する戦場で大ジャンプは危険ゆえ、足元にマギの力場を作って小刻みな跳躍を繰り返していく。高嶺も叶星に倣って左後方からあとに続く。

 残された者たちは、上手くやっているようだった。姫歌は陣形を組み直すべく、BZをAZに寄せて火力と突破力を向上させている。後詰の味方部隊が来てくれたため、打ち漏らしが気にならなくなったのは大きかった。

 

 そうして叶星たち二人は通信にあった左翼に到達する。

 そこでは、建物の陰から半身を覗かせた神庭のリリィたちがグングニルやアステリオンで発砲していた。

 しかし直後にその三倍もの砲撃が返ってきて、忽ちリリィたちは建物の裏へと押し込められる。

 

「司令部が言ってたのは、あそこの三体のことじゃないかしら」

 

 高嶺に釣られて動かした視線の先に、神庭の部隊と射撃戦を展開するファルクスⅡ型が三体。

 一体は熱線砲を放ち、別の一体は速射砲で敵を牽制し、そして最後の一体は位置転換を図る。これを三体がぐるぐるとローテーションで繰り返し、リリィたちに反撃の隙を与えない。

 

「見事な連携だわ。位置取りも上手い」

「そうね。でも連携なら、上には上があるということを教えてあげないと」

「ええ。行きましょう高嶺ちゃん」

 

 叶星は戦闘に入る前に、左翼の味方へ通信を入れる。

 

「こちらグラン・エプレ今叶星及び宮川高嶺。この場は我々が引き継ぎます」

「……! お願いします。あの三体は強力ですが、他のヒュージとは距離を取っています。私たちは更に左側面へ進出してヒュージに半包囲を仕掛けますので」

 

 そんなやり取りの後、展開していた東雲隊のリリィ五人は立ち並ぶ住宅の裏側から迂回するように移動を開始した。

 叶星と高嶺は味方を支援しようと砲撃態勢にあるヒュージに射撃を加える。

 するとすぐさま残りの二体が速射砲と誘導弾で二人に反撃してきた。

 ステップで砲弾を躱しつつチャームで誘導弾を撃ち落とした後、二人は小高いアパートの裏に退避する。

 戦闘によってコンクリートのひび割れた外壁に身を寄せた叶星に、高嶺が顔を近付け問い掛けてくる。

 

「さて、どうする?」

「あまり時間は掛けたくないから……。高嶺ちゃん、ゼノンパラドキサならあの新型についていける?」

「一体なら。でも三体相手だと厳しいかもしれない」

「それで十分だわ」

「あら? 見た通りあのヒュージたちの連携はかなりのレベルよ。まるで意思の通じ合った三兄弟みたいに。一対一に持ち込めるかしら?」

「う~ん、確かに完璧な連携よ。でも、完璧過ぎる。ゼノンパラドキサを持たない私にも予測がつくぐらいに」

 

 叶星の答えを聞いた高嶺が口角を上げて笑む。

 

「だったら平気ね」

「ええ」

 

 あっさりと納得した高嶺はリサナウトをブレイドモードへ変形させて、身を隠しているアパートから離れるタイミングを待つ。

 叶星も自らのチャームであるクラウ・ソラスをシューティングモードのまま構え直し、高嶺のすぐ後ろに立つ。吐息がかかるほど間近に。

 当然、叶星から前は見えないはずだが、状況は分かる。彼女のレアスキル『レジスタ』には限定的な俯瞰視野能力も備わっているからだ。

 その俯瞰視野を以って、叶星は敵を捕捉した。

 三体のヒュージが付かず離れずの間合いを保ち、二人の居るアパートの裏側へ回り込むため大きく迂回中だった。

 ヒュージたちが建物ごと撃ってこないのは、瓦礫に紛れて逃げられる恐れを考慮してのことだろうか。

 だがそんな懸念は杞憂である。

 

「……」

 

 叶星が無言で鼻先を高嶺の背中に触れさせた。

 それが合図だった。

 地を蹴り物陰から飛び出した高嶺にヒュージたちが反応する。一体は停止して速射砲を乱射し、残る二体は相手の側面を衝こうと住宅街の道路を疾駆する。

 高嶺にはヒュージがどのように攻めてくるか見えているはずだった。ゼノンパラドキサはそういうレアスキルなのだ。攻撃のベクトルを視覚化させるこの世の理と高速移動の縮地、それぞれの能力をサブスキルレベルまで出力を落として複合させた、攻防一体のレアスキル。

 射線を読んで砲撃を躱していく高嶺に対し、ヒュージたちは複数方向から接近を試みる。

 しかし後方から叶星が牽制の射撃を始めると、住宅の陰に逃げ込みUターンして距離を取り出した。

 

「叶星、すぐにまた来るわ。それも正面から」

「分かったわ」

 

 間合い1000メートルを越えたところで、ヒュージたちが高嶺の予測通り反転して再びこちらに向かって来る。

 住宅と住宅の間に伸びる大通りの上をホバーで疾走する敵は一体。いや、一体に見えるだけだ。他の二体は先頭のヒュージの真後ろにピタリとつき、綺麗な一本棒となって進軍していた。

 叶星のクラウ・ソラスが砲火を放つ。真正面ゆえに緻密な狙いをつけるまでもないその攻撃は、確かに目標へと複数の直撃弾を出した。

 しかしヒュージの隊列は些かも動じることなく駆け続ける。

 先頭のファルクスⅡ型が両腕の鎌を自身の前面で交差させていた。あれがマギを高めて正面防御を強化しているのだろうか。もはやここまでくると、ラージ級相当と見做しても大袈裟ではないかもしれない。

 そうしてヒュージたちが今度は空に向かって多数の飛翔物を打ち上げた。垂直発射式のマイクロヒュージ誘導弾だ。

 と同時に、高速で前進しながら後ろの二体がそれぞれ左右にスライドして、道路脇の塀が押し潰されるのもお構いなしに縦一列から横一列へと隊列を変形させると、速射砲の一斉射撃を仕掛けてきた。

 流れるような連携、正に三位一体。

 

「仕掛けるわ」

 

 ところがそんな状況の中で高嶺は前に出た。六門の砲が苛烈な弾幕を張り、頭上から誘導弾が襲い掛かる最中に、敵へ肉薄するべく突貫したのだ。

 高嶺の動きが相手の想像以上に速かったお陰か、レアスキルの力も相まって左方のヒュージとあっという間に間合いを詰めた。

 誘導弾の誘導はまだ切れていない。獲物を追い掛け空から降ってくる。

 だが眼前で振り下ろされた大鎌を高嶺が地面を蹴って躱し、そのまま5メートルの金属塊(ヒュージ)の上を飛び越えると、獲物を追うのに夢中だった誘導弾の群れは勢い余って自分たちの仲間へ激突し爆炎を上げた。

 

(こんな時、他の二体は必ず仲間のフォローに入る)

 

 叶星の読み通り、中央と右方のヒュージは全身を黒煙に巻かれて行き足を鈍らせた仲間を無視せず、急旋回して高嶺の排除にかかる。

 その際、右方のヒュージは横っ面を叶星に曝す形になった。幾らホバーで高速移動が可能と言っても、急な転進時には多少は速度が削がれてしまう。

 ヒュージが見せた隙は僅かなものだが、あらかじめ動き出していた叶星にはそれで十分だった。幾ら足が速くとも、動きが読めれば先を越せる。

 

「そこっ!」

 

 マギの力場を蹴って跳躍した叶星が一息に剣の間合いまで詰めた。

 纏うマギをレジスタによって強化されたクラウ・ソラスの刃が銀灰色の脇腹に突き立てられて、煮え立つ溶鉱炉の如く火花を飛ばす。

 仲間が二体とも痛手を負ったことで、無傷の中央のヒュージは一瞬動きを鈍らせた。判断に迷ったのだろう。

 そこへ戦斧が振り下ろされて、右腕を関節部から叩き折られる。間髪入れず後方から刃を突き入れられて、左腕の付け根に深々と穴を穿たれる。

 それでも胴体を上下に開閉させて主砲を展開したため、脚の一本を叶星に斬り飛ばされ、よろめいたところを高嶺のフルスイングに弾き飛ばされて、地面に擱座していた仲間と衝突し爆散するのであった。

 

「……今叶星より司令部へ。左翼前面の敵を撃破しました」

「司令部、了解。依然として我が方が敵を押し続けている。今と宮川はそのまま左翼から前進し…………いや、待て」

 

 通信の不自然な中断によって、叶星の脳裏に良くない想像が走る。

 

「敵群後方に動きが見られた! 総員警戒せよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラン・エプレ本体。叶星と高嶺の離脱直後。

 流れが変わり、全体として戦況が好転し始めていた。

 しかし油断ならないことは変わらない。

 高速機動によって頻繁に移動と砲撃を繰り返すファルクスⅡ型には、局所的な火力の集中によって容易に戦局を打開せしめる能力があると思われるからだ。

 実際、今も戦場のあちこちで銃砲撃音が響き、建物の狭間からレーザーの輝きが見え隠れする。

 そんな中、AZセンターを務める秋日は一旦ヘリオスフィアを解除しマギの温存を図っていた。

 代わりにTZセンターの鈴夢が秋日を援護する。

 

(秋日、様……)

 

 その鈴夢は、無骨な刃の上に大口径の砲を備えたチャーム『ブリューナク』のトリガーを引き絞りながら、眼前で戦う先輩のことを戦闘とは別の意味でも意識しっ放しであった。

 

(通信が入ってたこと、秋日様は気付いてる?)

 

 先程の()()以後、秋日は普通に戦い続けていた。もしかしたら通信機の状況について失念していたのかもしれないし、たとえ気付いたとしても戦闘に集中しているだけかもしれない。

 どちらにせよ、鈴夢は気になって仕方なかった。

 

(さっきのは、どういう意味が……ううん、秋日様は軽々しくあんなこと言ったりしない。だとしたら……)

 

 だとしたら、あの発言は本気だということだ。

 

「……っ」

 

 鈴夢は顔が熱く赤くなっていくのを自覚する。

 戦闘中だからまだいい。顔の変化も激しい運動を理由にできる。しかしこれが平時だったら、周囲の人間から何事かと案じられるのは明らかだろう。

 

「秋日、様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 塩崎鈴夢と本間秋日の出会いは中等部時代のことだった。

 日の出町での作戦中にエレンスゲの実験部隊から逃げ出した際、同じエレンスゲの中等部生だった秋日に神庭女子へ行くよう勧められた。

 

「貴方は、実験部隊のマディック……? そう……逃げてきたのね。もし当てが無いのなら、荻窪の神庭女子藝術高校に向かうといいわ。御台場方面は監視が厳しいと思うから、他にゲヘナの息が掛かってないガーデンでここから近いのは神庭女子よ」

 

 その後無事に神庭で保護された鈴夢は思いがけず彼女と再会した。

 

「エレンスゲのやり方に嫌気が差してやめちゃった。これから神庭のリリィとして、よろしくね」

 

 元エレンスゲという経歴にかかわらず、秋日は持ち前の誠実さや面倒見の良さによって瞬く間にガーデンや生徒の信頼を築いていった。神庭自体、そういった過去の事情に囚われない気風があるようだ。

 

「何か神庭の役に立ちたい? だったら、もし鈴夢が良ければだけど、生徒会に入ってみない? うちは生徒の自主性が大きいから、生徒会も仕事のし甲斐があるわよ」

 

 神庭に編入後も、秋日はいつも鈴夢のことを気遣ってくれた。人付き合いの苦手な鈴夢に、黙って寄り添ってくれた。

 

「もう戦闘に出られるの? そうね、鈴夢もリリィ。戦わなくてもいい、なんて言わないわ。だから一緒に戦いましょう。生徒会役員には生徒会防衛隊っていうレギオンを編成してガーデンを守る役割があるの。私たちを受け入れてくれたこの神庭のために、戦いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋日が自分の面倒を見てくれるのは、責任感ゆえのことだと鈴夢は思っていた。優しくしてくれるのは、不幸な強化実験を受けてきた自分への同情心だと思っていた。

 よくよく考えてみればそれだけでは説明のつかない点も多々あったのだが、それまでの境遇のせいで悲観的な思考をしがちな鈴夢は自身に都合の良い解釈を戒めていたのだ。

 しかし今、鈴夢は己の思い違いを知った。実際に言葉によって示される意義はとても大きい。

 

(どうしよう……。戦いの最中なのに、真面目にやらなきゃいけないのに、凄く嬉しい……)

 

 溢れ出る感情を何とか抑えようとする鈴夢。痛みや苦しみの気持ちを押し殺すのには慣れていたが、今のこのような状況には耐性が無かった。

 

「二時方向! 誘導弾(ミサイル)多数!」

 

 突然、姫歌から悲鳴みたいな警告が入る。

 反射的に顔を上げた鈴夢は、上空から炎を噴きつつ迫り来る飛翔物の群れを見つけた。

 迎撃のために後方から幾条ものレーザーが伸びた。鈴夢のブリューナクの砲撃もそれに加わった。

 ところがほとんど直角に近い角度で軌道を変えた何発かの誘導弾がグラン・エプレの弾幕を掻い潜り、真下の地面まで急降下を図った。

 

「駄目っ!」

 

 鈴夢は叫ぶ。こちらは正真正銘の悲鳴だ。

 凶弾の落ちた先は秋日の眼前。強烈な爆風に煽られた彼女の体が後ろへ吹き飛ばされる。

 受け身はしっかり取っていたし、藤乃がすぐさまフォローに駆けつけた。

 しかし喜びの感情から一転、鈴夢は憤怒に染まる。

 

「よくも」

 

 瞳の黒目が赤く濁る。それは鈴夢のレアスキル発動の証。

 

「よくも、私の秋日様をっ。塵も残さず粉々にしてあげる……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「定盛ぃ! 大変大変!」

「ちょっ、今度は何よ!?」

「とっきーが戦いながら鼻血噴いてる!」

「く、紅巴ーーーっ!」

 

 叶星から指揮を受け継いだ姫歌は目まぐるしく動く状況にてんてこ舞いになるものの、どうにか踏ん張っていた。

 レアスキル『ルナティックトランサー』を発動させて仲間との連携を度外視し前がかりになった鈴夢については、無理に抑えようとせず、秋日と交代させる形でAZを任せてむしろその突破力を活かすことにした。

 元々敵の連携が崩れつつあったお陰か、鈴夢の暴走的攻勢も型にはまったかの如く有効に機能している。今も一体のヒュージを大上段から殴打したかと思ったら、滅多刺しにして戦う力も意志も打ち砕いていた。

 

「良い流れを保ててる。このままいけば、勝てる。あと心配なのは……」

 

 多少は落ち着けるようになってきた姫歌が視線を動かすと、待ち構えていたように紅巴が目を合わせてきた。

 

「ご心配なく。不肖土岐紅巴、まだまだ戦えます。この戦場に湧き上がる尊みのオーラによって、失われたマギがみるみる回復していきますよー!」

「でも鼻血と一緒に出ていくからプラマイゼロなんだよね☆」

「駄目じゃないの!」

 

 灯莉の解説に姫歌は思わず突っ込んだ。

 それぐらい余裕ができていた。

 そしてその余裕を戒める現実が司令部からの通信によって突き付けられる。

 

「敵群後方に動き有り! ラージ級が前進を開始した! 総員警戒せよ!」

 

 

 

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