ラージ級前進の報は戦場に展開するリリィたちの間に緊張を走らせた。
ヒュージは大まかなサイズ差によってスモール級からアルトラ級まで等級分けされるが、中でもラージ級はある種の
ラージ級以上から通常兵器が通用しなくなる点もそうだが、通常の場合リリィが単独で倒し得る上限でもあるからだ。
しかも今回現れたのはただのラージ級ではない。
ミドル級でありながらラージ級相当の戦闘能力を秘めたファルクスⅡ型。そのラージ級がやって来たのだ。苦戦は必至と思われた。
「ふむ」
AZの一人として二機のチャームを振るいながら、藤乃は戦況を俯瞰的に見ていた。
全体的に優勢とは言え、大人数を引き抜いてラージ級の迎撃に向かわせるのは難しい。今もまだ残存するミドル級の群れが激しい抵抗を続けているせいで。
そうなると、やはり少数での迅速な撃破が最適解になるだろう。
「皆! 頭上に注意して!」
姫歌が叫ぶ。極めて大雑把な警告だが、それは緊急性の裏返しか。
直後、リリィたちの上空に赤い光線、いや光の束が伸びた。極太の束はここいらの建物の中で一、二を争うほど背の高いマンションに命中すると、ど真ん中を貫き爆散させた。
避難済みで無人とは言え、そこは確かに多くの人の営みが育まれていた場所。それが一瞬の内に消し飛ばされる様は、目の当たりにした者に無念と悲痛を抱かせる。
「今のはもしかして、ラージ級の砲撃!?」
「そうみたい。線路の傍から撃ってきてるよ!」
紅巴が狼狽すると、近くにあるアパートの天辺に登って天の秤目を発動させた灯莉が肯定した。
「灯莉、その線路ってここから真っ直ぐ西に伸びてる線路のこと?」
「ううん、違うよ。南にちょっと逸れてる線路」
「南ってことは、多摩川線? そんな距離から撃ってきてるの……?」
姫歌は唖然とし、次いで目元口元を引き締め難しい顔になった。だがすぐに意を決したかのように口を開く。
「藤乃様、灯莉を連れてラージ級の撃破に向かってください」
「はい、了解ですよ」
「灯莉! 天の秤目でラージ級の位置を把握しながら行くのよ! 相手は足が速いんだから!」
「分かったー☆」
姫歌の決断に微笑み返すと、藤乃は隊列から離れていった。灯莉もアパートから軽やかな身のこなしで着地した後、藤乃の背中に続く。
叶星と高嶺に加えて藤乃と灯莉の分派によって、グラン・エプレ本隊は五人となった。
「秋日様、あたしがAZに戻るのでTZまで下がってください。悠夏、二人で鈴夢をフォローするわよ! 紅巴、忙しいけどこのまま援護射撃お願いね! きっともう少ししたら叶星様と高嶺様が帰ってくるから!」
そんな忙しない指揮を背中で聞きつつ、藤乃は自分の戦場へと急ぐ。
◇
ヒュージの特色はその体躯の大きさにある。ヒュージ細胞が巨大化細胞と呼ばれる点からもよく分かるだろう。
基本的に大型のヒュージほど脅威度が高くなるが、例外も存在する。特型と呼ばれる変異種と、同種同型の中でも他より際立って強力な
人類サイドから個体名を与えられたヒュージというのは、どれもヤバい奴らばかりである。
かつて鎌倉府の百合ヶ丘を襲った『オートケプヒン』、新宿を火の海にした『エヴォルヴ』、そして幕張奪還戦にて数多のリリィの前に立ちはだかった『黒爪』等々。
それら名前持ちが戦場に出現した場合、激戦は避け難い。
「ふじのん先輩! ラージ級が真っすぐこっちに向かってきてるよ!」
「あら? こちらの接近に気付いたのでしょうか?」
右後方から付いてくる灯莉がそう言うと、藤乃は前方を見据えたまま小首を傾げる。
二人とも当初は低高度のジャンプで移動していたが、今はマギで強化した脚力により道路の上を駆けていた。
「うーん……先方からお越しくださるなら手間が省けて良いのですが。灯莉ちゃん、近くにミドル級は居ます?」
「えっとね、えっとねえ……。すぐ近くには居ないけど、ちょっと離れた所に一匹居るよ」
「そうですか。では灯莉ちゃんはラージ級の方に近付かないようミドル級の相手をしてあげてください。無理に倒さなくてもいいので。その隙にわたくしがラージ級を片付けちゃいます」
「えーっ? ふじのん先輩一人で?」
「ふふふ、大丈夫ですよ。先輩はとっても強いので」
「うん、知ってる☆」
何とも気の抜けるようなやり取りの後、二人は左右に分かれる。
灯莉が遠距離射撃でミドル級を釣り出してから、藤乃がラージ級を横合いから強襲して分断を図るという至ってシンプルな計画を立てた。
こちらが多勢ならともかく、
果たして藤乃の思惑通り、ヒュージたちは誘いに掛かってくれた。
遠方から伸びてくるレーザーに気を取られてミドル級が動き出す。
やや遅れてラージ級も続こうとするのだが、こちらは藤乃から射撃を受けて早々に足を止めた。
体に黒煙を纏いつつラージ級がゆっくりと向きを変える。全長10メートルを超す図体にもかかわらず、その動きは機敏に見えた。
ラージ級ファルクスⅡ型。ミドル級の倍以上のサイズを誇るそれは、当然両腕の鎌もラージサイズである。内蔵された速射砲や主砲も胴体に比例して大口径に違いない。
「さあさあ、わたくしと一緒に踊りましょう」
藤乃は手斧を模したチャーム、グングニル・カービンで牽制射撃を繰り返しながら灯莉とは逆方向に駆けていく。
するとラージ級は藤乃の方を追い掛け始めた。
これまでの経緯を見るに、この新型ヒュージが安易な挑発に引っ掛かるとは考え難い。藤乃を野放しにする方が脅威だと判断したのだろうか。
家々の隙間や路地を利用して動き回る藤乃に対し、ラージ級は高機動のホバーを持ちながらも捉えあぐねていた。邪魔な障害物を薙ぎ倒しながら追うこともできるはずだが、そうはしていない。強引に間合いを詰めて逆襲されるのを警戒しているのが見て取れる。
「中々賢いヒュージですねえ」
煽るようなことを言いつつ、藤乃は時折振り返っては左手のグングニル・カービンで弾丸を叩き込む。
速射砲の反撃に際しては、すぐさま建物の陰に滑り込んで狙いを付けさせない。
グングニル・カービンとはその名の通り、名機グングニルから派生したチャームだ。元の機体から外見は大きく変化しているが、高い操作性や整備性を継承しつつ、小型化と変形機構の簡易化によって取り回しを向上させている。ルドビコ女学院や御台場女学校などの市街地戦が多いガーデンで好まれており、『円環の御手』保持者にもしばしば愛用される。
戦いの主導権を握りつつある藤乃だが、無論敵も為すがままではない。
ラージ級の背部から白煙と共に十を超える誘導弾が打ち上げられて、上空から藤乃の周囲一帯に襲い掛かってきた。
振り切ろうと走る藤乃の背中から、誘導弾は狭い路地の中まで低空飛行で追い掛ける。
何発かはグングニル・カービンに撃ち落とされた。が、残る一発が爆風を突っ切って標的に迫る。
その一発は藤乃のすぐ傍のブロック塀に命中。
咄嗟に右手の大剣、クリューサーオールを盾にして藤乃は爆発の衝撃を受け流す。
だが危難を凌いだのも束の間、上空には追加の誘導弾十発が舞っていった。
(これは……このままだと嬲り殺しですかね)
藤乃はこの場からの移動を決めると、地面から塀の上へ飛び乗り、そこから更にマギの力で遠方へと跳んだ。
住宅の建ち並ぶ路地から離れ、民家の屋根伝いにジャンプを繰り返し、普通の一軒家よりも高い足場に着地する。そこは高架上に設けられた鉄道線の上だった。
追ってきた誘導弾を迎撃する藤乃に遅れて、ラージ級が高架上に上がってくる。本来なら線路ごと高架を踏み潰されるはずだが、ホバーで浮かんでいるため体のサイズも重量も関係無かった。
「それじゃあ、ちゃんとついて来てくださいね~」
ラージ級に一瞥すると、藤乃は背中を向けて駆け出した。線路に沿って西の方へ。もしもラージ級が砲撃の素振りを見せたらすぐに飛び下りるつもりだった。
ところがラージ級は両腕の速射砲も胴体の主砲も出さず、そのままホバー移動で藤乃のあとに追従している。
(どういうことでしょう? もしや、あちらも横槍が入らない場所で戦いたがってる?
勿論ヒュージの思考など確かめようがないので、あくまで藤乃の解釈だった。
「ふっ、ふふふふふっ」
追跡を受けながら、藤乃は笑っていた。嬉しさからの笑みだった。自分の思い描くようなデュエルができると、そんな予感がしたからだ。
藤乃は連携や集団戦の大切さを知っていたし、彼女自身他人と連携できるリリィである。秋日や叶星、姫歌のような他者を指揮し鼓舞できるリリィを尊敬してもいる。
だがそれはそれとして、藤乃はデュエルを愛していた。血沸き肉躍るデュエルを秘かに待望していた。あの幕張奪還戦で体験した死闘のようなデュエルを。
ブーツの靴裏がレールの鋼材を蹴り、カンカンと甲高い音が足音が高架上に響く。
背後に神経を集中させながらも線路沿いを駆けていた藤乃は元の戦場からある程度離れたところで、くるりと180度向きを変えて立ち止まった。
追跡していたラージ級もまた急停止し、5メートルほど間合いを取って対峙する。
生暖かい南風の吹く高架の上で、数秒ほど奇妙な沈黙が流れた。
その間、藤乃はラージ級の胴体を静かに見つめる。
再度の戦端を開いたのは、ラージ級の右腕だった。大鎌を折り畳んで速射砲口を突き付けてきた。
ミドル級の倍近い口径が火を吹く前に、藤乃が足元のレールを思い切り蹴った。右手の大剣を前にかざして。
しかし砲撃は来ない。代わりに左腕の大鎌が藤乃の横合いから振るわれた。右腕の砲は陽動というわけだ。
草どころか高層ビルさえ刈り取ってしまいそうな長大で凶悪な鎌が藤乃のクリューサーオールを捉える。
ヒュージに比して卑小なリリィの体はまともにぶつかり合えば、一溜まりもなく弾き飛ばされるはず。
「フェイントとは、味な真似をしますこと」
しかし、そうはならなかった。
刃が交わる瞬間、藤乃は右手首を捻って剣の角度をずらすと、そのまま剣身で鎌の刃を上から叩いて飛び上がり、あろうことか鎌を振り抜いたラージ級の左腕に着地した。
後輩たちから「わけの分からない動き」と称される、藤乃の曲芸染みた芸当だ。
ラージ級は藤乃を振り落とそうと、左腕を激しく上下させる。
するとまたもや藤乃の体は空へと舞った。ただし振り払われたのではなく、自ら跳んだのだ。
空中から投擲された手斧が、ラージ級の平べったい傘状頭部に突き刺さる。次いで大剣を振りかぶって落ちてきた藤乃が、左の大鎌を根元から切断する。
ラージ級は左腕の付け根から火花を散らしながら、右腕の速射砲を突き付けてきた。
だが藤乃は一瞬の内に相手の懐に入り込むと、頭部に刺さっていたグングニル・カービンを引っこ抜き、クリューサーオールで10メートルの巨大を横殴りして高架の上から叩き出す。
ラージ級がホバーを吹かしつつ高架下の道路へ軟着陸すると、藤乃もゆったりとした所作で飛び下りた。
「はぁ~っ」
敵を前にして藤乃がわざとらしく大きな溜息を吐く。
「やれやれ、せっかく楽しめると思ったんですが」
トーンを落とした声で愚痴を零す。
そうかと思えば、グングニル・カービンをシューティングモードに変形させてラージ級の右前脚を無造作に撃ち抜く。
三本脚の内の一本を失った巨体が戦慄いた。
「とんだ期待外れですね」
藤乃が一歩一歩ゆっくり前に出てくると、ラージ級はじりじりと下がっていく。
相手に比べて圧倒的に小さな存在であるはずの彼女が、上をいっているのは明白だ。
「黒爪はこんなものじゃなかったですよ?」
そう言って大剣を振り上げた藤乃に対し、ラージ級は急速後退。距離がみるみる開き始めた。
逃亡のためではない。後退しつつ胴体を中央から上下に開き、内に仕舞っていた黒色の主砲を撃ち放ってきた。
主砲は必ず地面に停止してから使用するというファルクスⅡ型の大前提。砲撃の余波で全身を左右に震わせながらも、この個体はその前提を破ったのだ。
横に跳ねてレーザーの赤い光を躱した藤乃が発射元を追う。
ラージ級は後ろ向きで下がりながら、インターバルをほとんど置かずに主砲の二射目を発射した。
またもや標的に避けられた極大の光線は後方の大通りに伸びていき、並び立つ無人の店舗やオフィスを飲み込んだ。
更に三射目、四射目と立て続けに繰り出される。
これもあり得ないことだった。バスター種が主砲を連射するなどと。
黒色の砲身は赤く焼け付き、ブスブスと黒煙を上げ、いつ暴発してもおかしくない状況。
それでもラージ級は想定外の行進間射撃に想定外の連続射撃を止めない。
ヒュージの心境など確かめようがないが、その様はまるで石塚藤乃という強敵を前に覚醒したかのようだった。
「ふっ、ふふっ」
一度は冷めた藤乃の気持ちがもう一度熱くなる。
「やればできるじゃないですか」
その直後、整った顔に常に浮かんでいた微笑がフッと消えた。
◇
大勢は決し、神庭は掃討戦に入っていた。
合流した叶星の指揮の下でグラン・エプレも残存ヒュージの殲滅に当たっていたのだが、紅巴と灯莉は秋日に連れられて藤乃の援護に向かった。
三人は道中でミドル級を二体撃破したものの、本来の目的は達成できないと思われた。あるいは、その必要がなくなったと言うべきか。
「あっ、あれ……」
「藤乃様……?」
灯莉と紅巴は高速機動でラージ級に肉薄するリリィの姿を見つけ、その様子に唖然とする。
「はっ、ぁぁぁぁぁっ!」
眉を吊り上げ、白い歯を剥き出しにし、鬼気迫る形相で咆哮を上げていたからだ。あの藤乃が。
ついでに言えば、元々着崩していた紺色のジャケットはあちこち焼け焦げ引き裂かれてジャケットの体を成していない。その下に着るオフショルダーのブラウスで戦っているような状態だった。
「あんな藤乃様、初めて見ました……」
「ふじのん先輩、何だかマギの色が濃いよ?」
紅巴も灯莉も困惑気味だった。常に微笑を絶やさず、優雅でありながら茶目っ気もある先輩。そんな藤乃の普段とは掛け離れた一面に困惑していた。
「一年生の二人はまだ見たこと無かったわね。あれが石塚藤乃の、本気のデュエルよ」
秋日の口振りからすると、二年生以上はこのことを知っているのだろう。
しかし先の荻窪地底湖ネスト攻略戦にてギガント級と対決した時には、今のような豹変は見せていなかった。
「……もしかして」
「とっきー?」
「藤乃様がいつも優雅に振舞われているのは、一緒に戦う私たちが
見本となる上級生に余裕が無ければ、その背中を見ている下級生は尚更張り詰めてしまうだろう。いつもそんな調子では、戦いの最中にプッツンと切れてもおかしくない。
隊長の叶星も一年生たちにはなるべく平常通りに振舞っているし、藤乃とは対照的な性格の秋日も指揮する時は悠然と構えている。
「そうね。紅巴さんの言うような面も勿論ある。一人だけで戦い続けることなんてできない。自分自身に余裕があるのに他者の気持ちを慮らないのは、合理主義でも論理的でもない。ただの独り善がりよ」
秋日は紅巴たちに背中を向けたまま語り続ける。
「藤乃もそれが分かっているから、いつも他人と関わろうとするし、誰かと肩を並べて戦うことを好んでる。私はそう思っているわ」
三人の見守る中、デュエルは佳境を迎えようとしていた。
息も吐かせぬ左右へのステップで極太のレーザーを掻い潜り詰め寄る藤乃に対し、ラージ級は健在の右腕を薙ぐ。
袈裟斬りに繰り出された神速の鎌は長いリーチも相まって必ず敵を捉えるはず。
ところが次の瞬間には鎌の湾曲刃は空を切り、ラージ級と正面から対峙していた藤乃は巨体の真後ろに立っている。
胴体上部をザックリと斬り裂かれて断面に青い体液を滲ませた金属塊は、やがてホバーの送風を停止させて道路のアスファルトへと墜ちた。
「諸君、たった今全てのヒュージ反応の消失を確認した。敵後方のケイブも既に東雲隊が撃破している。我々の勝利だ!」
司令部からの通信が朗報を運んできたが、紅巴の肩はまだ力を抜かなかった。尊敬すべき先輩の出迎えが残っていたからだ。
◇
神庭は全てのヒュージを打ち倒し勝利を掴んだ。
だがそれはそれとして、紅巴には絶対に確かめねばならないことがあった。
「あっ、あのあのっ、秋日様っ! 通信機が入ったままだったことには――――」
「紅巴さん、今は触れないでちょうだい。……口に出した言葉に、偽りは無いわ」
「はわわわわわっ!」
なお神庭女子の中に設立されていた『鈴夢ちゃんファンクラブ』は後日解散、それに代わって『あけすずファンクラブ』が新編されるのだった。
ガーデン内の芸能事情に詳しい定盛姫歌もこれには舌を巻く。
「これ絶対紅巴の仕業でしょ……」
◇
東京霞が関、中央合同庁舎群。
陽が落ちて空がどっぷりと暗闇に浸かる中でも、幾つかの窓ガラスから灯りが漏れ出ていた。
地上十数階建ての堅牢な鉄骨鉄筋コンクリート造り。その中の一室にデスクと椅子、ホワイトボードに書類棚といった最低限の物だけ設置された空間がある。壁際に荷解きの済んでいないダンボールが積まれている辺り、移転してきたばかりなのだろう。
部屋の最奥部にあるデスクでは、椅子に浅く腰掛けた四十代の男性が蛇のような目を更に細めて手元のタブレット端末を見下ろしている。
「……実験体全個体撃破か。ゲヘナめ、存外に使えない」
心なしかくたびれたグレーの背広を着る中年男性は忌々しげに吐き捨てた。
するとデスクの前に立つ二人の青年が我が意を得たりと食いついてくる。
「だから言ったじゃないですかぁ、ボス~」
「そうそう、ゲヘカスなんて当てにしないで、俺らでやった方が早いって」
一人は痩せ型ノッポ、もう一人は太っちょ。どちらも二十歳に満たないぐらい若い見た目。彼らも同じくグレーの背広姿だが、ボスと呼ばれた中年男性と違って背広に
「そういうお前たちの提案した『善意の告発作戦』とやらも、効果が無いようだが?」
「やだなぁ、こういうのはボディーブローみたいにゆっくり効いてくるんですよ~。ゆっくりその内ね」
「フンッ、調子のいい奴らだ」
へらへらとした調子で答える青年たち。形こそ敬語を使っているが、そこに敬意が含まれていないのは誰が見ても明らかだろう。
「で、どうするんですボス? 処す? 処す?」
「プランB? プランB?」
嘲り笑って問うてくる二人をよそに、ボスは机上で両手を組み深く考え込む。
彼の首から紐で吊り下げられた名札入れの中には、特別監察本部関東支部監察官という肩書が記されていた。