☆2恒常聖女キャラだけど、ピーキーな性能で解雇されないようにしたいっ!   作:立場が逆転するやつ好き

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僕っ娘TS聖女は、裸の付き合い(物理)をする。

 

 

「なるほど。勇者様は突然この世界に連れて来られて、訳もわからず『魔がなんだ、世界がなんだ』と言われ、嫌気が差して逃げて来たわけですね。」

「勇者〜!勇者、勇者またそれ!?」

 

 むきーっと、猿のように駄々をこねる勇者様を尻目に思考する。どうやら彼女は別世界から転移させられたようだった。それならば、彼女の格好も納得できる。

 

 しかし、転移か。まさか、この世界は『なろう系』だったのだろうか。

 それでも、僕のやる事は変わらない。主人公(ゆうしゃさま)に着いて行き、なるべく追放されないようにする。僕の磨き上げてきたピーキーな性能なら、よっぽどの事がない限り外されないはずだ。たとえチーム人数が固定されたゲームだとしても、割って入るだけの性能には仕上がった。

 

 大丈夫なはずだ、と僕は自分に言い聞かせた。

 

「まだ名乗っていませんでしたね。僕はハレナシ・アメナシ・クモリナシ。この教会に駐在している聖女です。」

「は、ハレナシ?それってニックネーム?」

「勇者様は失礼ですね。本名ですよ。」

 

 出来る限り話を円滑に進めようとしたのだが、彼女はずかすかと割って入ってくるタイプであるらしい。話の腰を折られたって感じだ。

 

「ご、ごめんね?私の世界だと聞かないタイプの名前だったから……。」

「気にしてませんよ。」

 

 叱られた犬みたいに、露骨に落ち込む勇者様。彼女の身長は僕なんかよりも二回りは大きいのに、今はすっかり縮こまっている。

 

 別段強い言い方をした覚えはないが、怯えさせてしまったらしい。考えてみると、彼女はこの世界に誘拐紛いの方法で強引に連れて来られたのだ。友人も家族もいない世界で、理解者もおらず、利用されるだけ。

 僕はもう少しだけ優しくあろうと思った。

 

「あぁ!そうだ!私の名前!勇者様なんて言われるの嫌だし、教えとくね。」

 

 彼女は大袈裟な仕草で、ぽんと手を打ち、話を変える。まさに創作の世界の住人といった感じである。コミカルな動きや忙しなく変わる表情、取っ付きやすい性格は、まさに主人公のようだった。

 

「私の名前は————。気軽に——って呼んでね。」

「え……?」

 

 おそらく、勇者様は自分の名前を告げている。しかし、肝心の部分がノイズのような音に邪魔をされて、どうやっても聞き取れない。まるでゲーム世界のテキストのように、彼女の固有名詞が否定されている。

 

 勇者は、勇者でしかないのだというように……。

 

「あぁ、My name is〜って今は使わないんだっけ?だったら私の名前は〜ってのも可笑しい表現になるのかな。たはは……。」

 

 僕は間抜けな顔をしていただろうか。目の前の彼女は面白くもない一人ツッコミをして、作り笑いをしてしまっている。けれど、それほどまでに衝撃だったのだ。

 このような奇怪な現象が起きるだなんて。

 

「すみません、勇者様。どうしても貴女の名前が聞き取れませんでした。」

「え〜?ハレナシ聞いてなかったの?私の名前なんて興味ないってか?ラストチャンスだからね?私の名前は————だよ!」

 

 やはり聞き取れない。彼女の名前はどうやっても耳まで伝わらない。僕の耳が遠くなったとかそういう次元ではないようだった。

 

「……。」

「え、どうしたの……?」

「本当に聞こえないんです。まるで誰かに邪魔されているかのように、勇者様の名前だけ。」

 

 どうにも気まずくなって、無言になってしまう。すると、彼女は此方の様子を窺うように話した。彼女に事情を話しておかない理由も無い。我々を取り巻いている現象を明け透けと告げた。

 

「え……、マジで……?マジでそんな事になってんの?」

「ジーマーです。」

 

 勇者様は、ぽかりと口を開いて、精一杯状況を飲み込もうとしている。たとえ此処がファンタジー世界だろうと『あんたの名前だけ聞こえへんわ。ガハハ。』なんて言われたって理解できるはずがない。

 僕は彼女のローディングが終わる迄待つことにした。

 

「——!——!————!!」

 

 僕が温かい目で見守っていると、彼女は急に叫び出した。自分の名前を繰り返し口に出したのだろうが、それは声にはならず、言葉にはならず伝わらない。

 僕も何か手助けをしてあげたいけれど、解決策は思い浮かばない。

 

「一応、文字でも書いてみます……?」

「……やめとく。会話は何故か普通にできてるけど、文字は伝わらなかったから。」

 

 どうやら逃げ出してくる前に試したことがあったらしい。それなら名前だって気付きそうなものだが、皆『勇者様、勇者様。』と言って此方の話を聞かなかったそうだ。無責任な人達だ。

 

 彼女が逃げ出したくなった理由を同情できたところで、彼女の今後を考える。

 

 僕としては勇者様の近くに居られればそれでいいが、世界としてはそうはいかない。呼び出した目的を果たしてもらわなければ、骨折り損のくたびれ儲けである。勿論、彼女からしてみれば、知ったこっちゃないだろうが。

 

「それで、逃げ出して来た勇者様は、これからどうされるんですか?」

「え……。」

 

 正直意地悪な質問をしたと思う。悪戯心が働いてしまった。変化技の優先度がプラスイチ加算されそうだ。けれど、聖女としては失格だった。

 

 にこにこと頬を緩めて、勇者様の出方を窺う。そうすると彼女は、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「わ、私を泊めてください……。」

「はい、構いませんよ。」

 

 ——まぁ、出て行くと言われても僕が着いて行ったんだけどね。

 

 その後、教会内を案内したり、この世界について話しながら「聖女は魔に抗う人々の保護も役目なんですよ。もちろん勇者様も対象です。」なんて、本来お願いされなくても身を置ける事を説明した。すると——。

 

「ハレナシって、ちょっぴり意地悪だよね?」

「はい、聖女なので♪」

 

 いじけたような顔をしてしまった勇者様に、僕は最近マスターした女の子らしい笑顔で答えた。

 

 ——あぁ、どうしてこんなにも、彼女との会話は楽しいのだろうか。これが、主人公ってことなのだろうか……。

 

 

***

 

 

 勇者様が教会にやって来てから数日が経過した。しかし、彼女を逃した王国軍は、未だ探しには来ていない。本当に無責任な連中だった。逃した魚は大きいぞ。身長も態度も()()

 

 本来、聖女であるなら彼女を引き渡した方が良いだろう。それでも本人の望まぬ事を強いるわけにはいかない。聖女としての役割の前に人としての良心が、そう訴えていた。

 

 ここ数日。勇者様が来たからといって、生活が大きく変わったわけではない。勇者様が居るからといって、僕の日課は止まらない。今日は教会周りの雑草を抜くことで、有意義な日を過ごしたのだった。

 

 けれど、僕がいつもと変わらぬ日常を送っていても、彼女はそうはいかないらしい。

 

 やれ教会の飯は味が薄くて、少ないだの、シャンプーやトリートメントが無いだの。僕だって我慢していた事を遠慮もしないで話していく。だけど、こうやって気も使わないで居てくれるのは、彼女が僕に心を許している証拠なのかもな。

 

 毎度のように日課を終えると、もう日が暮れる。

 日中勇者様が何をしているのかは知らないけれど、明日は遠出して市場にでも連れて行ってあげようかな、なんて。

 

「ねぇー?ハレナシも一緒に入ろうよー!」

 

 我が儘な子供みたいに僕の躰を揺すぶる勇者様。普段は手が掛からない彼女であるが、困った事が有るとすれば、これだった。

 

 彼女、スキンシップが激しいのか、一緒に風呂に入ろうなどとほざくのだ。

 

「私の世界にはね、『裸の付き合い』って言葉があってね?つまり、心に何も着せないで裸のように腹を割って話そうよって事で〜」

 

 彼女は、それらしい理由をぺちゃくちゃと話してはいるが僕の耳には入らない。そもそも裸の付き合いって本当に裸になって触れ合う必要なんて無いはずだ。

 

「狭いですから、二人で入れるほどのスペースは有りませんよ。どうぞ勇者様、お先に入ってください。」

「詰めれば入れるって。」

「僕は夕食の準備も有りますから。」

 

 いつものように受け流し、意思が無いことを示す。そうすると彼女は「ちぇっ。」と言い残し、一人で浴室へ向かった。

 

 なんだか、子供を言い聞かせる母親の気分だ。と言っても、本当に浴槽は狭くて、彼女の躰はデカいから、二人で入るには一苦労するのは明らかなのだ。そうまでして、二人で入る理由は無い。

 

 

***

 

 

「僕も、お風呂に入りますか……。」

 

 あれから、お風呂から上がった勇者様に夕飯を振る舞い、ようやく一息ついたのだった。今日も人間として最低限の労働を果たした僕の躰は、汗濡れだ。眠気はとうに限界であるが、一風呂浴びて、汗を流すことにしよう。

 

「うんしょっと……。」

 

 野暮ったい聖女服を脱ぎ、自分の貧相な四肢を眺める。若さからか、白く艶のある肌をしているが、魔と戦うとなると生傷が絶えない躰になるだろう。姉さんから『せっかく癖もなくて、綺麗な髪なんだから、長いほうが良い。』と言われて伸ばしてきた金髪も、戦うには不向きだ。

 

「いっそ、勇者様のように結んでしまおうか。」

 

 僕は髪の毛先を弄りながら、躰をある程度洗う。次に髪をお湯に浸けないように湯船に入った。温かい水に包まれる。極楽気分だ。

 

「有って良かったな、お風呂……。」

「——そうだね!」

「はわっ!?」

 

 僕が独りごちていると、独り言に乱入者が現れる。僕は、ばっと開かれた浴室の扉に反応して、女の子みたいに躰を隠す。

 

 現れたのは、真っ裸の勇者様。すっぽんぽんで一糸纏わぬ姿だというのに、満面の笑みを引っ提げている。憂鬱だ。

 他人に自分の躰を見られるのは恥ずかしいのに、僕はつい彼女の躰を見てしまう。

 彼女の躰は綺麗だった。綺麗以外の言葉が見つからない。彼女の世界では飢えなんて無かったのだろう。程よく肉の着いた四肢に、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。すらりと伸びた長い脚は、モデルみたいで、女性の上位何パーセントかの百七十センチを超えた身長。鍛えているのか、腹は引き締まっていた。

 だから、そんなだから、彼女の躰は綺麗以外に言いようが無かったのだ。

 

「ハレナシ大丈夫!?顔真っ赤だよ!?」

「す、少しのぼせたのかもしれないです……。」

 

 心配そうに慌てふためく勇者様。けれど僕は自分の顔を誤魔化すので必死だった。水面に映る自分の顔を見るだけでも、赤くなっているのが判るのに、彼女にはどう見えただろうか。気持ち悪いと思われていないだろうか。

 

「詰めて、詰めて。」

「あ、あの、勇者様?なんで普通に入って来てるんですか……?蹴飛ばしますよ?」

 

 それはそれ。これはこれ。彼女は何故、何食わぬ顔で浴槽に入って来ているのか。

 

「おかしい……おかしいですって!?」

「あぁ、もう!よいしょっと……。」

「うわっ!?」

 

 僕は彼女によって持ちあげられる。手を脇の下に入れられて、彼女が座った膝の上へと下ろされた。狭い浴槽の中に二人で入る方法としては、合理的といえば合理的な方法だった。

 しかし、恥ずかしい。恥ずか死んでしまう。

 

「ハレナシ軽いね。」

「お、下ろして!と言うか、わかりました!僕が出ます!」

「だめだよ〜♪」

 

 彼女の拘束から抜け出そうとすると、腰の辺りを掴まれて、引き戻される。

 女性同士にしては過剰なスキンシップ。孤児院で三歳や四歳の赤ん坊を風呂に入れた事は有ったが、姉さんと一緒に入った事は無かった。それとも、彼女からしてみれば僕なんて幼児と変わらないのだろうか。干支なんて一回りほど違うし、そうなのかもしれない。

 

「あぁ、ポカポカだ。ハレナシって温かいね。」

 

 そう、呑気に口にする彼女は、僕を逃さまいと腕を回したままだった。肌と肌が密着していて、嫌でも彼女の温度を感じてしまう。

 

「なんで、なんですか……。」

「ん?」

「なんで一緒に入ってるんですか!?」

 

 僕は頭上の彼女に問いかける。当然の疑問をぶつけたのだ。

 

「言ったじゃん。ハレナシと裸の付き合いがしたかったんだよ……。」

「えっ、それだけ……?」

「だって、()()()()()()()()()()()()んだもん。私の話をちゃんと聞いて、優しくしてくれたの、()()()()()()なんだよ?」

 

 自分は損得勘定で彼女に近付いただけだった。しかし、彼女からしてみれば違うのだ。今この世界で、彼女には僕しか頼れる人がいないのだ。そんな僕が素っ気ない態度をしていれば不安でしかないはずだ。

 僕は自分の言動を恥じた。

 

「ごめんなさい。僕、勘違いしてました。勇者様は物好きで女性と一緒にお風呂に入るのが好きなのかなって……。」

「え、あ、えぇっ!?そ、しょんな、しょんな事はないよぉ!?」

 

 やっぱりこの勇者様、変な人かもしれない。

 

 

 

 

 





 お湯は魔道具から出てます。勇者様は女好きです。

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