マイニチペダル ~deep and love~   作:御沢

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アオハライドアニメ6話のパロ。
…あの洸はずる過ぎる。


世界は恋に落ちている

「じゃ、学級委員、あと頼むわ」

「うぇー…はーい」

先生に託された大量のプリントを抱えながら、1人きりの教室でため息をつく。

 

3年生になって何の成り行きか学級委員に選ばれた私。

正直めんどくさいしやりたくはなかったけど、誰も立候補は出ないし、こういう空気は幼いころから苦手だし…そんな事を考えてたら、いつの間にか挙手してしまっていた。

その後に立候補してくれた副学級委員の荒北とともにこの仕事をしなければならないのだが、本人はどこにも見当たらない。大方部活にでも行ったのだろう。

部活に行きたいのは私も同じだ。しかし、仕事がある事実は変えようがない。

 

 

どすんっ、と大きな音を立ててプリントを机に下ろす。音を聞いただけでも仕事が嫌になる。

もうすぐ遠足があるため、クラス35人分の遠足のしおりを作らなければならない。

だが、全てのプリントを集めて、揃えて、ホッチキスで止めて…そんな事をしていると、1時間はかかると思う。

「あー…ヤバい。終わる気しないんですけど…」

荒北を探しに行く手間すら惜しまれて、1人でやろうとしてしまう。2人でやった方がはかどるのは確実なんだけど。

 

4分の1くらいがやっと終わったころ。1つ1つの冊子が結構分厚くて、かなり大変だ。

「終わるのかなぁ…なんか、門限までに終わる気、しないんですけど…」

あたりは徐々に暗くなって、電球の明かりがともり始めてきた。外からは“お疲れ様”などの声が聞こえてくる。部活が終わったのだろう。そういえば、休部届を出していなかった。不審に思われちゃっただろうな。

「まぁ、終わらせなきゃだもんね、うん」

深くため息をついて、新たに冊子を作りだそうとしたその時。

 

 

「何やってんだヨ…相良…」

ドアを開けてやってきたのは、タオルを肩にかけて汗を拭く荒北だった。カバンを肩にかけてるから、まだ寮には帰っていないみたい。

「えーっとねー…仕事?」

「それってよォ…学級委員と副委員の仕事じゃナァイ?」

「うん、まぁ、そうなんだけどさ…」

苦笑しながら頭をかくと、荒北は何やら怒りだしてしまった。

「ハァ!?そーいうこたァ言えヨ!!一応副委員長だからァ!!」

「う、うん…ごめん…」

勢いにのまれて思わず謝ってしまったけど、私は悪い事をしていない気がする。いや、全くしていない。

 

目の前に座ってホッチキスで一緒に留め始める荒北。

私より白くて細い指が目の前で踊るように動く。全体的に色白だけど、指先は特に綺麗だと思う。まるで雪をかぶったみたい。

ちらっと視線をあげてみると、綺麗な黒髪からのぞく瞳が目に入る。決して大きくてつぶら、とは言えないし、周りからは怖いといわれている。それはよくわかっているけど、私からすれば幼いころから慣れ親しんだ優しい瞳だ。

他にも特徴的な文字とか、意外とがっしりしてる肩とか…。

―――何私、荒北に見とれてるんだろう。仕事、一向に進んでない…。

「相良、どんくらい終わったのヨ?」

言われてはっとして手元を見られる。

「…オメー…進んでねェだろ!?」

「わーっ、ごめんなさいっ!!」

「ったく…早くすませろヨ?」

「…うん、分かってる」

私、自分がわからない。荒北の行動1つ1つにドキドキしてる気がする。

こんな気持ち、中学1年生以来―――荒北に恋していたあのころ以来な気がする。

 

 

もしかしたら、私、今でも荒北の事…。

そんな思いが湧き上がって、次に脳裏に浮かび上がってきたのは、とあるクラスメートの子。

 

荒北は見た目もアレだし、性格も若干荒いから怖がられてるのは確か。それは本人も自覚してるみたいで、オレはモテないを連呼している。

確かに近くにいるのが新開や東堂で、ファンクラブがあるほどのモテっぷりだからそう思うのも当たり前かもしれないが、荒北は普通にモテる。

そして今日、偶然にも私は聞いてしまったのだ。

 

 

―――今日の昼休憩の出来事。

3年にもなればさすがに少しは女子の友達もできて、ときどき女子と昼食を取ったりするようになった。とはいっても、10回中1回くらいのペースで、残りはチャリ部のメンツなのだが。

その1回が偶然にも今日で、偶然にも恋バナになってしまったのだ。

 

『はー…東堂くん、かっこいいよねー…。自転車も上手なんてカッコよすぎ!!』

『東堂くんもかっこいいけど、新開くんもカッコよくない?筋肉とかヤバい!!』

『でも私、荒北くん好きだなぁ…。ワイルドっていうかー…』

『わかるー!!福富くんもかっこいいけど、可愛いよね!!』

オールチャリ部のそんな話を聞いて、なんか胸の奥がくすぐったかった。特に荒北なんか、くすぐったいだけじゃなくて、チクチクしたような気もした。

『いいよねー、相良さんは。全員と仲いいし』

『えっ!?そ、そんなことないよ!?全員モテるけど、なんて言うか…自転車乗ってない時は普通だし、バカなこともしてるし…』

反射的に悪いことばっかり出てくる。すると、背後に何かの気配。一緒にいた女子は頬を染めている。

 

振り返ると案の定、そこにはチャリ部のメンツ。

『ンだヨ、相良ァ。そんな風に思ってたのか、あ!?るっせ、ボケナスが!!』

そして頭をぐりぐりされる。いじられる時はよくされる。でもこれ、かなり痛い。

『い、痛い痛い痛い!!やめてください、靖友様ッ!?』

『何をしているんだ、荒北。相良も相良だ。今日は女子と食べるなら言ってく入れればよかったのに』

『あーっと…ごめん、東堂。まぁ、そういうことだから。ごめん!!』

『香咲の気にすることじゃないさ、大丈夫。じゃあな』

手を振って去っていく4人の後ろ姿を呆然と見送りながら、目の前にいる女子たちは頬をバラ色に染めてキャーキャー言ってる。

その中の1人が発した“その言葉”が、私の頭から離れない。

 

 

『あー…荒北くん、かっこいいなぁ…』

 

 

グループの中でも控え目なその子が発した、控え目な発言が頭の中で響く。

東堂でも、新開でも、福富でもなく、荒北という単語に変に反応してしまう。

でも、その反応を表に出すのは気まずいため、必死に隠して昼食時間を過ごした。

 

 

「相良、どうしたンだヨ?」

荒北の事を考えて、荒北の声で現実に引き戻された。

「え…あ、何でもない!!早く終わらせないと…って、あれ?荒北…」

荒北の黒いセーターに、何か白い物体がついている。

「何かついてるよ」

「ハァ!?ちょ、取ってくんナァイ?」

私のセーターにもひっつきそうだったから袖をまくって、取りにかかる。

―――猫みたいに柔らかい黒髪…女子もうらやむくらい。なんかくすぐったい。

 

セーターについていたのは付箋。どこかの山神の文字で“女子には優しく”と書いてある。今日の部活で何があったのだろう。

「とれたァ?」

「うん。これ…部活で何かあった?」

付箋を見て苦笑いをこぼした荒北。その姿にも少し胸躍る。

「アレだヨ、昼のォ。グリグリしたのを言われて、相良も一応女子だ、とか言う話になって」

「あー、それかー…って、私女子だよ!?ひどいよー、荒北ーっ!!」

「るっせ!!だからァ…オレが女子なのにグリグリはやりすぎかな、っつったンだヨ!!」

そんな不器用な優しさに、また胸が高鳴る。

「そ、そっか…うん。ありがと」

「…オウ」

胸が高鳴って、荒北に見とれていたら、全然仕事が進んでない。外はもう真っ暗だ。

 

 

「オメー、仕事終わらせるの遅ェヨ!!結局オレがほとんどやったんじゃナァイの!?」

「う…ご、ごめんなさい…」

仕事が終わったのは門限の8時半の30分前の8時くらい。

荒北にはたくさん迷惑をかけてしまった。ならばせめて、職員室に持っていくくらいしなければならないと思う。

「私、これ職員室に持っていくよ。だから先行って待ってて」

「ハ!?ちょ、重い―――」

荒北の言葉も聞き終わらないうちに大量のプリントを奪い取って、職員室へと足早に向かう。ぎりぎりに帰寮するのは何となくいけない気がするので、荒北は早く帰った方がいいと思う。

「失礼しまーす…」

プリントを無人の担任の先生の机に置いて、簡単に挨拶を済ませて足早に寮に戻る。私もぎりぎりだとヤバい可能性もある。

 

小走りで靴箱まで向かうと、思いもよらない光景があった。

「え…」

「遅ェヨ。早く帰らねェとやばくナァイ?」

―――なぜ荒北が目の前にいるのだろう。思考回路が停止する。

「なんで…荒北が…?」

「ハ!?オメー、自分が言ったコトも忘れたのかヨ!?待っててっつっただろ!?」

「あれ…先帰っていいよって意味だったんだけど…」

「ハァ!?ンだよそりゃ!?…まァいいヨ。同じ寮に帰るんだからな」

そんな荒北の優しさに、また胸が高鳴る。駄目だ、私。このままじゃ、荒北の事、また好きになってしまう。でも、あの子も荒北の事…。

「相良ァ、おせーヨ」

「あ…うん、今行く」

 

寮までの道のりが妙に長く感じる。門限には間に合うだろう。

「はー、委員ってメンドくせーなァ」

「…そうだね」

「他の委員会はねェのかね。またムカつくヨ」

「…うん」

―――駄目だよ、私。せっかく仲良くなれた女子なのに…。

友達と同じ人を好きになるのは、本当に辛い。私は隠し事をしているのだ。こんな思いをするなら、いっそ、荒北の事なんか、好きにならない方がいい。

 

 

「なんとか間に合いそうだなァ。よかったな、相良」

荒北にそう言われて、目の前に寮が迫っている事に気づく。

―――こんな思いをするなら、誰かがこの思いを決めてくれたらいいのにとさえ思う。誰かが決めた選択なら、従うしかないから。

「あ…荒北っ」

寮に入ろうとする荒北を、考えるより先に呼びとめていた。

「あ?」

「あ、あのさ…私…こ、校舎に忘れ物したみたい!だから、取りに帰るね!」

 

 

―――もし、荒北がついてきてくれたら…私は荒北が好き。

―――もし、荒北が寮に入って行ったなら…そうじゃない。

 

 

たった2つの選択肢が、頭の中でループする。時計の針は、あと10秒で8時半になる。

10秒後、目の前に荒北はいるのだろうか。不安になってしまう。思わず目を閉じる。

 

10,9,8,7,6,5,4,3,2,1……

 

うっすらと目を開けると、そこには確かに1つの人影。

「…あ、らきた…」

「忘れ物、取りに行くんだろ?もう門限すぎたけどさァ、少しくらい大丈夫なんじゃナァイ?」

やばい。体が熱い。

私はどうしようもない嘘つきだ。本当は最初から分かっていたはずだ。誰がどう決めたって、私の心は変わらないことくらい…。

「相良…体調悪ィの?大丈夫ゥ?」

「…うん…多分…」

 

 

―――私、荒北が好きなんだ。

 

 

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