マイニチペダル ~deep and love~   作:御沢

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オメガバースパロ。

男性妊娠とかあるんで、苦手な人は注意です。


秘め事

私は“出来損ないのアルファ”だった。

父も母も、姉も兄も、祖父も祖母も、叔母や叔父、さらにはいとこまでアルファというエリート一家だった。

アルファの性にふさわしく、私以外のみんなは様々なことで業績を残していたし、誰がどう見てもアルファだと言われていた。そう、私以外は。

 

 

アルファは世界人口の7%しかいないエリートタイプ。大きなところで言えば国のトップ、小さくても常に生徒会長を任されるとか、そういう人はほとんどアルファだ。

アルファは風邪をひきにくいからいい役職に就くことも可能だし、運動神経も頭脳もいいから信用されたり頼りにされることも多い。

運動神経や頭脳は、アルファだなと感じることが多かった。何もしないでも人並み以上には出来ていた。だが、私のアルファっぽいところはそれだけ。

両親は政治家、兄も姉もカリスマ性を発揮しているというのに、私は全くだった。アルファであることを辞めたいと思った理由の1つとして、そういう環境だったこともあるかも知れない。ずっと「なんでアルファなのに」と言われ続けた。

 

もう1つ、私がアルファを辞めたい理由があった。―――幼馴染の荒北のことだ。

現在私も彼も中学2年生。中学生になってから家が隣同士になり、さらに私の部屋と荒北の部屋がすぐ向かいにあるという感じになっていた。

窓から隣の荒北の部屋を見ると、窓もカーテンも開けたまま、荒北はベッドに横になっていた。真昼間、それがただの昼寝じゃないことを知っているのは同級生だったら私だけだろう。

 

「荒北ー」

名前を呼ぶと、すぐに反応した。そして、いつもどおりの不機嫌そうな顔で私を見る。

「なんだヨ、相良ァ」

「体調悪そうだね。まぁ、しょうがないんだろうけど。大丈夫かー?」

「…おめーには、これが大丈夫そうにみえんのかァ?」

そう言って指さされた荒北の腹は、少し膨らんでいた。

 

 

彼はオメガだった。オメガは社会的地位が低く、アルファとは真逆のものだ。世界人口でも3%ほどしかいないといわれる。ちなみに残りの90%はベータだ。

荒北はオメガだったが、努力で県の新人賞をとれるくらいのピッチャーになった。もっとも、肘を壊して今では野球もしていないけれど。

 

オメガには3ヶ月に1度、発情期というものがある。発情期には、発情しかできなくなるらしい。今では抑制剤などがあるらしい。

オメガから漏れるフェロモンはすごい。アルファの私も理性を保つのが辛い。当然だ。そのフェロモンは、アルファやベータをだれかれ構わず引き寄せてしまうのだ。抑制剤を使わなかったら、フェロモンに引き寄せられたアルファたちの理性は相当気を張っていないとあっけなく壊れる。そして、すぐにオメガを襲ってしまう。

何より、発情期のオメガは男女構わず妊娠することができる。

 

荒北は、初めての発情期が街中で起きてしまった。

暗い路地で見知らぬ若いベータに襲われ、ガタガタ震えながら私に助けを求めてきたことがあった。オメガのフェロモンは、アルファだけでなく、もちろんベータも引き寄せてしまう。

かなり長いあいだ、襲われていたらしい。荒北の体の中には、誰かもわからないベータの子供が宿ってしまった。

 

 

荒北はそれ以来、アルファやベータに恐怖を抱いている。特にフェロモンに引き寄せられやすいアルファに。ベータは通常はあまり引き寄せられないはずなのだが、初めてだったということもあってすごい量のフェロモンが出てしまったのだろうと医者は言っていた。

だから、私は荒北に自分の性を言っていない。聞かれたこともないし、聞かれてもベータだと答えるつもりでいる。現に、学校側にも既にベータだと嘘をついている。

幼い頃に「なんでアルファなのに」と言われたことも影響している。

しかし今は、出来損ないのアルファであったことがせめてもの救いだった。

 

アルファ用の抑制剤もある。フェロモンに耐えられるよう作られたものだ。

荒北は発情期が来たらすぐに抑制剤を飲んでいるが、効くまでに3時間ほどかかる。

その間、私はとなりから漂うフェロモンと戦わなければならない。理性を強く保つ。その助けになるのが抑制剤だ。私はこれを毎日飲んでいる。1錠で1日半もつ。いつどこでオメガの発情期に出くわすか、わかったもんじゃない。

ベータに襲われた時の荒北が、親ではなく私のところに来たのは、少なからず私を信用してくれているということだろう。その気持ちを裏切りたくはなかった。

 

 

「大丈夫じゃ、ないよねー。にしてもあんたさ、妊娠したのにフェロモンでるってどういうことさ?兄さん達がなんかムラムラするって言ってたけど、フェロモンだよね?」

「んなの知らねーヨ。オレだって、好きでフェロモン出してねェかんな」

兄さんが言っていたのは事実だが、感じるのは私も一緒。

妊娠してから、荒北からは常にフェロモンが出ていた。なぜかはわからないらしい。私が抑制剤を飲んでも理性が切れそうになるくらいだ。まぁ、アルファだし仕方がないのかもしれないが。

子供に悪いからって、荒北は薬を飲まない。私もそれには賛成だ。だが、私の負担はかなり大きい。

 

荒北が切ない眼差しで私を見る。

「どーしたのさ、そんな弱気な顔して」

この妊娠は荒北のせいではない。発情期がいつ来るかはわからないし、初めてのことで戸惑いが隠せずあたふたしていたら、あっという間に襲われて、あっという間に孕まされた…といった感じだったらしいし。

それでも、この歳で妊娠するということは異常だ。隣の家からは毎日怒号やら罵声やらが聞こえてきていたし、彼の部屋からは毎日すすり泣く声が聞こえていた。

荒北は学校を休んでいて、その間荒北のことに関して噂が流れたりしていた。その噂は事実から、度を越えたものまで様々だった。荒北がオメガで、妊娠したかもしれないということも噂されていた。学校の先生もしょっちゅう職員会議をしていた。

挙句の果てにはうちの両親は、隣にそんな家族が住んでいるのは嫌だ、引っ越そうと言い出す始末。結局両親は別のマンションを買い、そっちへと引っ越していった。兄はめんどくさいからとこの家に住んでいるが。姉は寮生だから関係ない。

 

「オレさァ…親になんだヨね…」

不安げに俯く姿は、見慣れないもので思わず戸惑う。コイツの腹にいるのは、どこの誰かもわからないベータの子供。どれだけ不安なのか私がわかるものじゃない。

「そーだよ。だからさ、しっかりしろって!」

窓越しに声をかける。それに力なく答える荒北は見てて切ない。

「そーだなァ…でも、相良、おめーは子供には合わせたくねーわ」

「はぁ!?なんでよ!?」

「だって、そんなピンク髪見たらびっくりすんだろ」

そう言われて、かなり派手なピンクの髪を見る。確かにそれもそうだ。最近舎弟とかにも飽きてきたし、そろそろこんなふざけたことからは足を洗ってもいいかもしれない。

「んー、まぁそうだよな。了解、真っ黒のストレートにでもしとくわ」

「清純派かヨ」

「悪いかー?悪影響はないぞ」

そんな会話をしながらも、やっぱり不安らしい。荒北の両親は、妹を連れて実家に帰ったと聞いている。荒北にはうちで作った料理を差し入れしている。

 

 

翌日私は髪を染めて、足を洗った。驚かれたし、少なからず殴られたりしたけど、まぁしょうがない。

荒北には本当にやったのか、と驚かれたけど、私はこれでも一応根は真面目。それに、アルファだから困ったことはなかった。もっとも、友達がいたわけじゃなかったけど。

やがて私たちは中学3年生になった。荒北の家もうちも両親は帰ってきていないし、兄は今年から寮に入った。結局お互い一人暮らし。

料理は私が作るのは変わらず、もうすぐ臨月になる荒北はあまり体を動かすことができず、身の回りの世話まで私がすることになった。その間も、フェロモンに対して気を張りまくってかなり疲れたが。

そしてあっという間に生まれる日はやってきて、オメガ専用の産院に私が連れて行って数時間後には大きな産声が聞こえてきた。

 

生まれた子供は、荒北にそっくりな女の子らしい。助産師さんに聞いた。

病院の先生は、私がただの友達だと知っていたのに、荒北の病室に連れて行ってくれた。オメガで子供がいるのに番がいないということは、何かしらの事情持ちだと察したらしい。

 

 

番というのは、アルファとオメガの間にだけ発生する関係のこと。結婚なんかよりももっと深い、本能的なつながりのこと。

アルファとオメガにはそれぞれ運命の番というものがあるらしい。それぞれ、一目見た瞬間に気づくらしい。だけど、私と荒北はそれじゃない。世界に7%しかいないアルファと、世界に3%しかいないオメガがお隣さん同士。こんな奇跡的なことはないと思うのだが。

もちろん運命の番じゃなくても番になれる。番になればオメガはだれかれ構わずフェロモンを撒き散らすことはなくなる。番になった相手にはフェロモンは感じられるのだが。

 

だったらいっそ、私が番になればいいんじゃないかと思ったりもした。でも、荒北はアルファを怖がっているし、私がアルファだと告白するのも怖かった。

番はアルファ側からだけ、一方的に解除することができる。もし、私に将来、運命の番なり好きな人ができたりすれば、荒北との番は重りになる。それは私でもわかる。それに、番を解除されたオメガは一生番を作ることなく、一生1人で生きていくのだ。発情期は一生なくならないため、ずっと抑制剤を飲まなくてはならなくなる。

そういうことも含めて考えると、やっぱりそんなことは言えない。

 

 

病室に入ると、すやすやと寝息を立てる荒北と、その隣にそっくりな女の子。

私は子供を産んだことはないし、アルファ女性はほかの女性を孕ませることができるというオメガ男性とは真逆の性質を持つため、これからも結婚したとしても子供を産むことはないかも知れないが、それでも子供をも産むということがどれだけ辛いことなのかはわかる。病院に連れていく途中、深夜でよく顔は見えなかったけど、所々で立ち止まったりしているのを見れば、辛かったのはよくわかった。

「…よく頑張ったね、荒北。あんた、母親になったんだって。すごいよ、荒北」

こいつの細く柔らかい髪を撫でる。こんなこと、今日しかしてやらない。

でも、大変なのはこれから。子供を育てていくのは大変だし、何をすればいいのかわからないし。私はあくまで他人だから、深いところには立ち入れないし。

 

 

「荒北、高校どうすんのさ。今のご時世、最低高卒じゃないとどこも雇ってくんないよ。雇ってもらえないとさ、その子、育てられないし」

残暑の厳しい9月。荒北は相変わらず学校に行ってないけど、中学校の勉強は私が毎日教えているから勉強には困っていないはず。こういう時、アルファであったことがちょっとだけありがたい。

子供が生まれてからは、荒北のフェロモンは元通り3ヶ月に1度になったし、抑制剤を飲んでいるから、私が気を張る必要もほとんどなかった。私自身も抑制剤を飲んでいたからなおさらだ。

 

高校について荒北に問いかけると、彼は子供の頭を撫でながらうーん、と唸った。

「高校ねェ…行けんのかな、オレ」

「行けんのかなって…行くしかないでしょ。将来に関わるんだし。…子供、お母さんたちが預かってくれるんでしょ」

子供が生まれてしばらくして、荒北は両親の住む実家へと足を運んだ。まだあどけなさの残る中学生の男子が赤ちゃんをだくのはあまりに不自然だったため、私が化粧してなんとか20代前半になりきって一緒に向かった。

結局ご両親にあったのは荒北本人と子供だけだけだけど。

話し合いの結果、若いこそしていないが高校には行け、ということになったらしい。大学にも行って欲しいと言われたそうだ。その間、子供に会いに来るのはいいが、育てるのはご両親らしい。

「そーだけどォ…オレ、頭よくねェし」

「それはさ、頑張らなきゃ。…それでさ、荒北にぴったりの高校見つけたんだけど」

そう言って私はパンフレットを見せる。

 

―――私立箱根学園。

荒北が事故で辞める羽目になってしまった野球部もなければ、うちの中学校からは志願者が私だけという条件。まぁ、ここからは遠いし当然かと思う。それに、何より寮がある。そこに住めば、この嫌な思い出の詰まったこの街には帰らなくてよくなる。

「どう、よくない?」

「へェ…結構いいんじゃナァイ?」

意外といい反応だ。

「じゃあ、ここ目指しなよ。私は別のところ、探すし」

「ハァ!?んでおめーが辞めんだヨ!?」

いきなり怒鳴るから子供が泣きそうになってる。必死にあやす姿はだいぶ板についてきていた。

「だってさー…私がいたら、辛いこととかいやでも思い出すでしょ?それで辛いの思いされるの嫌だし。私も家出たい気持ちはあるけど、それは寮のある別の高校探せばいいだけの話だし」

それに、一緒に居れば私がアルファだとばれる危険もあるし。実際、私立高ではバース性について性別ごとにクラス分けをして授業をするところが多いらしい。そのために、今一度検査をしなおすとも聞いた。尚更危険な条件付きだ。

 

「ハッ、バッカチャンがァ」

子供をベットに置いて、窓から身を乗り出して私にデコピンする。実はこんなに近いのだ。おそらく窓と窓の間は30センチない。

「いでっ!何すんのさ!バカはそっちだっつーの」

「いや、テメーのほうがバカだヨ。なんでオレのために第一志望校諦めるワケ?オレ、おめーと一緒にいたくねェっつたか?あ!?」

久々に見たメンチ切った態度。子供産んでかなり柔らかくなってたからびっくりした。

「い、いや…でも、辛くなるんじゃ…」

すると頭を掻いて、ちょっと恥ずかしそうな顔になる荒北。

「…オレが、1人じゃもたねーの。時々、でいいから、甘える…じゃねーけど、発散?みたいなのしとかねーと、こいつとも会えなくなるし、1人で誰も知らねェところにほっぽり出されると、すぐ崩れる…と思うからさ」

それはやっぱり、私を少なからず信用してくれているということでいいんだろう。

その信用に答えない私じゃない。

番にはなれないし、だからって恋人にもなれないし、性別だって嘘ついてるし、元ヤンだし…ってそんな私でも、信用されているなら力になってあげたいと思う。もしかしたら、アルファであることが役に立つかも知れない。少しだけ、そう思えた。

 

 

見事箱根学園ことハコガクに合格した私と荒北。

荒北は子供を実家にあずけ、私は合格したから家に戻って来いと親に怒鳴っておいた。

もちろん2人とも寮に入った。

荒北は一匹狼を貫くためとか言って、リーゼントにヤンキーという昭和のヤンキーを演じた。入学翌日からこんなのだったから、別の案はなかったのかと後でメールで聞くと、中学時代の私を参考にしたと返ってきた。恥ずかしい。でも、私はあんなんじゃなかったはずだ。

 

そこで私は東堂と出会い、福富や新開と出会い、荒北が福富と出会い、結局5人で仲良くなって、チャリ乗って。

荒北も楽しい高校生活が送れてるようで良かった。私は女子の友達こそ少なかったが、この5人でいるのが安心だったし、楽しかった。

ただ、ハコガクで出会った3人は、全員運の悪いことにアルファだった。つまり、荒北以外はアルファだということになる。

ここでも私は、自分はベータだと言った。荒北に聞かれたことは今でもないが、聞かれてもベータだと答える気持ちは変わらない。

ほかの3人は自慢や鼻にかけることはしないが、隠すこともしなかった。荒北はよりたくさん抑制剤を飲んだ。発情期でも、辛い時そばにいるのは私の役目だった。支えてあげるために、私はここに来たんだから。

だがやっぱり、隠していて、出来損ないとは言えアルファはアルファ。フェロモンは正直きつかったし、薬と理性でなんとか保つのは結構なストレスだった。

荒北は私のバース性を考えていないらしい。もしくは、同じオメガだとでも考えているのか。まぁ、妊娠中もフェロモンに関して文句を言わなかったから、そう考えるのは当然かも知れない。

 

私はここで、初めて人に自分がアルファだといった。言ったのは東堂、新開、福富の3人。荒北がオメガであることや子供がいることは伏せ、彼はアルファが苦手だということだけを伝え、私は彼に限らず人の前ではずっとベータだと偽ってきたと言った。彼が私のことをオメガだと思っているということを言ってしまえば、福富なんかはつまり荒北がオメガだと気づきそうだと思い、言わなかった。

ハコガクには性別分けされた授業があった。

荒北の子供がいることは、一応学校側も把握していた。私は詳しく事情を話して、授業はベータで受けさせてもらうことにした。いつどこで、私がアルファの授業を受けているところを見られるかわからなかったからだ。

その分、アルファの授業で習ったことはその3人に教えてもらうことになった。

 

 

そんな生活を繰り返し、3年間、私がアルファだと荒北にバレることなく私たちは卒業した。

大学は推薦をもらえたから洋南に行った。辛い思い出として枷になる、幼馴染みである私から、少しでも遠ざけてあげたい一心だった。正直、荒北の頭じゃここにはいけないと思っていたし、ちょうどいいと思った。だが、荒北は努力して洋南に入った。

洋南には工学部があった。工学部で専門的なことを習えば、仕事に就きやすいと考えたらしい。実際、オメガは工場とかで働くのが一般的だと聞いたことがある。

私の親は法学部に行って欲しかったらしい。政治家になって欲しいから。でも、そんな上を目指せば、私がアルファだとバレるかも知れないと思った。それに、私は政治家にはなる気はなかった。だからとりあえず、無難に好きな文系の道を歩むことにした。

 

4月、荒北と出会い、本当の性別を隠して13回目の春が来た。

 

 

 




続きます。次回もオメガバース注意、金荒入ります。
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