マイニチペダル ~deep and love~   作:御沢

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世界観はオメガバースで一緒だけど、ちょっと違う雰囲気

香咲side

最初数行は高校生、そこから小4→小6→中学生…って感じに成長してます。
最初はひらがな多め


knocking the door

―――“ガチャリ”と、玄関の扉が開く音が嫌いだった。

その音は、必ず誰かが帰ってくる音だったから。母さんだったり、父さんだったり、姉さんだったり、兄さんだったり。

私の未来を勝手に決めて、勝手に干渉してくる支配者たちの足音が聞こえる前触れの、その音が嫌いだった。

 

 

―――わたしの家は、有名な家だった。小さいころは、それがなんでかはわからなかったけど、有名だってことはわかった。

でも、まわりの人からかんじるのは、うらやましいって思うのとはちがうかんじだった。なんていうか、つめたいかんじっていうか。

そのわけがわかったのは、4年生のとき。―――わたしの家族が、みんなアルファだからなんだって。

アルファっていうのは、かんたんに言うとすごい人だってお母さんが言ってた。

運動も勉強もできて、みんながうらやましいって思う人はアルファなんだってさ。お母さんもお父さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんもアルファなんだ。

小さいころはその話をきいてもあまりピンとこなかったけど、4人ともすごいんだって思うとうれしかった。

それが、いつしかプレッシャーになって、そしてこわくなった。

 

 

わたしをだきしめて、よろこんでるお母さんとお父さん。なんでかきいたら、わたしがアルファだったからだって言ってた。私もほめてくれてうれしかった。

でも、私はお兄ちゃんやお姉ちゃんとはちがった。

お兄ちゃんは中学校で“せいとかい”ってやつをやってて、みんながたよりにしてるんだって。あと、サッカー部でもすごいんだってお父さんがじまんしてた。

お姉ちゃんはちょっととおくの学校に行ってて、なかなか会えないけど、すごいんだって。その学校がすごいところで、しかもものすごく勉強も運動もできるんだって。お母さんが自じまんしてた。

でも、私はそんなことなかった。色々がんばったらできたけど、だけどすごくできるものはなかった。お母さんもお父さんも、さいしょはまだ、小さいからできないんだよって言ってたけど、それはだんだんかわった。

 

そして、いつのまにか、お母さんもお父さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、わたしをほめてくれなくなった。かわりに、だんだんこわくなっていった。イライラしてるっていうか、なんていうか。

「小さいから、できないのかな」って言われてたのが、気がついたら「アルファなのに、なんでできないの」とか「アルファなのに」って言われるようになった。

―――あぁ、わたし、アルファきらいだな。アルファだから、お母さんもほめてくれなくなった。アルファだから、お父さんもほめてくれなくなった。

アルファならできることが、わたしは出来ないから。お兄ちゃんは、わたしことをこう言った。―――“出来そこないのアルファ”だって。

 

 

小学6年生になった頃には、私は家族の中に居場所がなくなった。

お父さんもお母さんも有名な政治家で、家にいることは少なくなった。自然と話すことも少なくなった。

お兄ちゃんはちょっと怖くなったけど、サッカー部ではキャプテンをやってたし、生徒会はやってたし、すごい人なんだなって思った。お兄ちゃんも忙しくて、話す機会はなくなった。

お姉ちゃんはやっぱり遠くの寮のある学校にいたから、全然会えなかった。でも、きっと会っても怖い顔で私を見るだけだと思う。

それが怖くて、自分の部屋にこもることになった。

 

夜になって、ドアが開く音がする。部屋の中で、思わずビクッとなる。

「帰ったわよー」

りんとしたお母さんの声だ。私にとっては、怖いだけなんだけど。

「香咲ー、帰ったわよー?」

「…おかえりなさい、お母さん。お仕事お疲れ様」

「あぁ、ありがとう。加純はまだ帰っていないの?電話あった?」

電話…。そういえばあったようななかったような。そんなあやふやなことを言えば、また怒られるんだと思うと怖い。

「…わかんない。ずっと部屋に居たから」

「また?電話くらい気にしときなさいよ。気が回らないわね、アルファなのに」

ほら、また。“アルファなのに”。その言葉が、今はとても怖い。

「…ごめんなさい」

「…まぁいいわ。食事は買ってきたから食べておいて。私はまだ仕事があるから」

「…わかった」

お母さんからスーパーの袋を受け取って、リビングに向かう。

アルファだって分かってから、食事も楽しいものじゃなくなった。特に家族全員で食べる食事は嫌いだった。1人で食べるほうがよっぽどまし。

 

 

中学生になるときに、私たちは引っ越した。偶然にもその家は、小学校6年間ずっと同じクラスだった荒北靖友の家の隣だった。しかも、私と彼―――靖友は部屋が隣同士だった。

「まぁ…よろしくネ、香咲」

「うん、よろしく」

正直、この環境に感謝していた。家にい場所がなかったから、靖友と話しているといくらか気が楽になった。

だけど、それもすぐ終わった。―――彼は、オメガだった。

そして、初めての発情期が来て、妊娠してしまって―――…

 

 

「―――香咲、大丈夫か?」

「…あ、うん、大丈夫」

―――そして現在に至る。25歳、大学も4年前に卒業した。卒業後、靖友は番を見つけたし、子供もできて幸せそうでなにより。

そして私は、恋人で婚約者の新開隼人と結婚の挨拶に来ている。

久々の実家。親に会うのも久しぶり。しかも、兄さんや姉さんもいると言っていた。正直恐怖で足がすくむ。家に向かう足が重い。

「…香咲、高校の時に家族の話、全くしなかったけど…何かあったのか?」

隼人は変なところで鋭い。

「…まぁどうせわかるだろうし、言っとく。私さ、家族の中でも出来損ないのアルファだったんだ。だから、誰からも期待されなかったし、むしろ“なんでアルファなのに”って言われ続けてさ。私、家族の中に居場所がないの。だから、大学時代は実家に帰らなかったし、数年ぶりの帰省で…番、連れてこなかったし…なんて言われるのかなーって考えると、ちょっと怖くなって…」

隼人には失礼なことを言ってると思う。だけど、いずれ全て分かること。

「…大丈夫、香咲。おめさんは俺を信じとくだけでいいぜ」

「…うん」

 

荒北家の横の相良家は変わらない。荒北家のアキチャンがワンワン吠える声が聞こえる。

チャイムを押すと、変わらない凛とした声が聞こえる。母さんの声だ。

『はい、相良です』

「母さん、私…香咲」

『あぁ、香咲。やっと来たのね』

リビングから玄関の鍵を操作して開ける。高機能にちょっと驚く隼人が可愛くて、リラックスできた気がする。

家の中は、何か張り詰めた空気を感じる。それがアルファの気配なのかもしれない。出来損ないではない、普通のアルファの。

「待ってたのよ、香咲。それに…」

隼人を一瞥すると、部屋に入るよう指示される。2人で頷いて部屋に入ると、そこには既に父さん、兄さん、姉さんがいた。みんな怖い顔をしている。

「お前が、あれ?香咲のフィアンセ?」

どこか挑発するような口調の兄さんに、隼人は冷静に頷く。その様子に、面白くなさそうに舌打ちする兄さん。

姉さんが冷たい口調でいう。

「あなた、アルファなのね。相良家は昔から、番を作る決まりになっているの、香咲から聞いている?」

「はい、聞いています。それでも、俺は香咲さんを愛してます」

「…私も、隼人を愛してる」

「あんたは黙ってなさい、香咲」

「…はい」

私にそっくりの顔の姉さん。常に高いところにある、まさに高嶺の花。

冷酷な性格で、私も苦手。優秀なアルファだから尚更。

 

父さんは単刀直入に言う。

「簡単に言えば、香咲と別れてほしい。香咲には、番を作る義務がある」

「そんな義務、どこにもないと思いますけど」

「…番を作ることが、相良家の幸せだとされてるんだ。それを理解しろと言っているんだ」

「無理な話ですね。俺は香咲さんと別れるつもりはないですから」

静かに火花が散ってるのが分かる。このままじゃ、らちがあかない。

「…父さん、母さん、兄さん、姉さん、聞いてよ」

私が口を開く。みんな、黙れって顔で見る。だけど、もう臆しない。

「香咲、あなたは黙ってなさい」

「嫌だ。私にだって話す権利はある」

「黙れって言ってるの、聞こえないの!?この出来そこないが」

また出来そこない。何度も言われたその言葉、今度は私が返す。

「じゃあ最後まで出来損ないでいさせてよ!いいじゃん、出来損ないなら番なんか作らなくても!私は母さんや父さんや兄さん、姉さんみたいに番を作った上でほかの人と結婚するなんてできない!それが出来損ないだって言われても構わない!だって、愛してる人と添い遂げたいって…普通の願いでしょ?番関係が全てなわけじゃないんだから…」

初めて反抗した。今まで、出来損ないはただ黙って従ってた。だけど、初めて自分の意思を言った。

「いいじゃん、愛してるんだから!隼人が好きなんだから!散々出来損ないって罵倒して、番を作れってとこだけは守れって!?冗談じゃない!出来損ないでも異端児でもなんでもいいから…もう、私の人生に干渉してこないで!!」

 

リビングが沈黙に包まれる。4人とも怒ってるのが分かる。

「香咲…あなた、そんなこと思ってたの…?出来そこないでも、アルファなのよ!?相良家の娘なのよ!?政治家になれっていうアドバイスも聞き入れないし、異端児どころじゃないわ!!私たちの顔に泥を塗るつもり!?」

「泥ならいくらでも塗ってあげる!!アドバイス?そういうのが嫌なの!干渉しないでって言ってるの!」

不思議と言葉が出てくる。だけど、体の震えが止まらない。

そんな体を抱きしめてくれる隼人。優しい温もり。

「あなたたちがなんと言おうと、香咲さんはもらっていきます。もう俺のものですから」

「隼人…」

「行こう、香咲」

優しい隼人の声にかぶさるように、父さんの怒鳴り声。

「お前は騙されている、香咲ッ!!」

「隼人は騙さない!!高校からずっと一緒だからわかる!!隼人は優しくて、誠実で、まっすぐな人だよ!!それに、もし騙されてても、隼人なら構わない!!…行こう、隼人」

隼人に差し出された手をとる。大きくてがっしりした手が愛おしい。

4人が怒鳴っているのが聞こえたけど、全部無視して2人で家を出る。

 

 

「あー…初めて反抗した…」

家を出てしばらく歩くと、ふいに足に力が入らなくなった。隼人はただ微笑んでくれた。

「ありがとな、香咲」

「…ううん、こっちこそありがとう」

なんとか立ち上がる。

「香咲さ、扉が開く音が嫌いだって言ってただろ?」

―――高校時代、唯一話した家のこと。

「うん、言ったよ?」

「じゃあさ、今度は…今度は俺が、その音を好きにさせてあげる。大好きな人が帰ってくる音に変えてあげる」

 

 

―――“ガチャリ”と、玄関の扉が開く音が嫌いだった。

その音は、必ず誰かが帰ってくる音だったから。母さんだったり、父さんだったり、姉さんだったり、兄さんだったり。

私の未来を勝手に決めて、勝手に干渉してくる支配者たちの足音が聞こえる前触れの、その音が嫌いだった。

 

だけど、これからは違う。

 

―――“ガチャリ”と玄関の扉の開く音が好きになる。

その音は、かならず誰かが帰ってくる音のはずだから。隼人だったり、もしかしたら大切な人が増えるかも知れない。

私の未来を作って、一緒に歩んでくれる、愛おしい人たちの足音が聞こえる前触れの、その音が大好きになる。

 

 

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