雷陽と黒龍   作:久遠れもん

1 / 28




雷陽と黒龍

 

 遂にこの舞台に立った。

 

 正真正銘、サッカーの『てっぺん』を掛けた最高の試合。

 コートをぐるりと囲うように配置された席全てから降り注ぐのは、観客達の熱狂と興奮の豪雨。

 真上を見上げると、夕日がギラギラと赤の光を届け入れながら両チームを迎え入れるのがわかる。

 

 その中心に、俺達は立っていた。

 

 この後、二時間も経たない内に、この試合の決着がつき、俺達の挑戦は終わる。

 だから、後悔したくない。

 

 この大舞台で、最高のライバルと、俺達の夢を賭けて競い合う……。

 

 負けたくない。

 

 俺達の全てを、この戦いにぶつけるんだ──。

 

「──オイ、明日人」

 

「……? 灰崎?」

 

「膝ガクガクしてるぞ。平気か?」

 

「な──!?」

 

 思わず自分の膝を覗き込んだ後に顔を上げると、灰崎がケラケラと笑う。

 急速に頰が熱くなるのを感じながら、俺は灰崎に掴み掛かった。

 

「はーいーざーきー!?!?」

 

「悪かった悪かった。俺も落ち着かないのはお前と同じだ」

 

 その言葉に、ハッとさせられる。

 俺が改めて緊張に馴染もうと小さく俯くと、隣で聞いていた一人がこちらに近づいて来た。

 

「──僕も同じだよ。雷門との決勝戦では緊張なんてしていなかったはずなのに……、僕も少しは成長出来ているのかな? 明日人」

 

「野坂……」

 

 皆、思いは一つだ。

 この最終決勝での勝利という『てっぺん』に向かって進んでいく。

 そのために、ここにいる。

 

「覚えてるか? 明日人。俺がお前らボコボコにした時、お前らは諦めずに俺の必殺技(オーバーヘッドペンギン)のことを追いかけて来やがった……」

 

「あはは……。あの時は追い込まれてたから、それ以外選択肢がなかったって感じだけど……」

 

「だとしても、きっとあの時から始まったんだ。キャプテン達の世界への挑戦とはまた違う、俺達の運命との戦いがな……」

 

「……。そうなのかもな……」

 

 『光』を、『仲間』を、『約束』を、俺も皆もそれぞれの背景があって、壁があって、全て乗り換えながら辿り着いた。

 

「なら、最後は……」

 

 ──あの最高の『親友』。いや、『ライバル』に……!

 

「掴もう……! 世界の『てっぺん』! 世界の『玉座』を……!」

 

「「おう……!」」

 

 誰にでも、負けられない瞬間がある。

 自分に従えば、道はその先に見えてくる。

 

(見てて、母ちゃん……)

 

 明日人は指で象った銃口を相手に向け、宣言する。

 

「──楽しもうぜ! ペトロニオ!!」

 

 稲森明日人と、イナズマジャパン。彼等の最後の試練が、始まる──。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 この舞台に、立ってしまった。

 

 正真正銘、全ての『テッペン』を掛けた最後の試練。

 私達を監視するかのように配置された席全てから降り注ぐのは、観客の視線と心臓を握られるような緊張感。

 真上を見上げると、夕日が赤い炎でぼうぼうと、私達を追い詰めようと狙っている。

 

 その渦中に、私達は立たされた。

 

 きっと二時間もしない内に、全ての決着がつく。

 この舞台は、明日人達の夢は、ここで終わる。

 後悔は消えない。裏切りの恐怖が収まることはない。

 

 この大舞台で、最高の『親友』を……。そうすれば、私達は……。

 

 そうだ、思い出せ。覚悟は決めたはずだ。

 

 私の全てを、この戦いにぶつけるんだ──。

 

「──大丈夫か」

 

「……。何が」

 

「……全部、かな」

 

「…………」

 

 その返答に、何も言えなかった。

 俺が言い淀んでいると、気を遣わせてしまったのか、彼は再び口を開く。

 

「──俺達は皆、覚悟を決めてここにいる。だから、いつだってお前についていく……」

 

「…………」

 

 その言葉に、改めて自分の覚悟を決める。

 俺が力強く頷くと、彼は不安そうに俺を見つめていた。

 

「それに──、稲森明日人。アイツ、友達なんだろ? 自分のこと考えてくれても俺達は──」

 

「……いや、彼は優しい奴だ、だから、私達のこともきっとわかってくれる……」

 

「…………そっか」

 

 きっと、皆、思いは同じだ。

 この最終決勝での勝利という『テッペン』を奪いに行く。

 我らが『姫』がそれを望むのなら、私達は守護者として、それを実現してみせる。

 そのために、ここにいる。

 

 ──君、強いね。でも、ボク達は負けないよ……!

 

「──ッ!」

 

 準決勝で戦ったあの男の笑顔を思い出す。

 

 あの者だけではない。

 今まで戦った敵達全員が、自分のサッカーを持って、全員が、サッカーを楽しんでいた。

 

 逡巡の末、黒龍が静かに鳴いた。

 

 思わず天を仰ぐ。夕日によって染まった黄と赤の空に、黒が差し始めていた。

 

「どう思う? 明日人……」

 

 間違うことを恐れるな。

 

「勝つぞ。優勝は私達のものだ」

 

 怖いのは、諦めることだ。

 

 

(その玉座が虚栄のものだとわかっていても……)

 

 

 絶対に勝つ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 『フットボールフロンティア・インターナショナル』。通称、『FFI』。

 少年サッカーの世界大会、稲森明日人とイナズマジャパンの挑戦が、幕を開ける。

 





 これは、雷陽の少年と黒龍の少年の大切なものを巡る戦いだ。

 ───

 稲森明日人→主人公。雷陽。

 灰崎凌兵→明日人のライバルでチームメイト。

 野坂悠馬→アレス期のラスボス。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。