雷陽と黒龍   作:久遠れもん

10 / 28

 長いかも。



策略と覚醒の最終兵器(VSレッドバイソン②)

 

『なんと!? 『イナズマジャパン』が早々にピンチかと思われた中! 風丸一郎太の新必殺技がペク・シウに炸裂ッ! ピンチを脱しました!』

 

「ナイスディフェンス! 風丸!」

「ああ! もう一度行くぞ! ──基山!」

 

 風丸から基山への縦パスが通り、基山が敵の右SHと対峙した。

 

ホーントレイン!!」

「……くっ!」

 

 敵の速攻に対応が遅れ、基山がボールを奪われる。

 だが、即座に電光を散らす一筋の矢が差し込まれた。

 

「──イナビカリダッシュ!!」

 

 コートの中盤ゾーンでのやり取りであれば、明日人のフォローが行き届く範囲内だ。明日人は、あっという間に敵選手からボールを奪い取ると、基山と共に敵陣を駆け上がる。

 

「──鬼道さん!」

 

 明日人がセンタリングパスを鬼道へ送る。鬼道がボールをトラップすると、次は逆サイドを走るアフロディへパスが回った。

 アフロディが自分のマークに付いていた相手を抜き去り、ドリブルをし始める。アフロディがDFと対峙する、というタイミングで、一人の影が眼前に割り込む。

 

「──流石、チェ・チャンスウが韓国代表(こちらがわ)に呼び込もうとしていただけあるね……!」

「君は……!」

 

 ソク・ミンウはアフロディと対面した瞬間、既に空中で脚に火を纏わせていた。

 回避はできないと、アフロディは瞬時に理解し、仲間たちに心の中で謝罪しながら、ソクの必殺技を受ける。

 

ボルケイノカット!!」

「……っ! くっ!」

 

 ソクの脚から放たれたキックによりアフロディは自身の立つ周囲の地形を抉り取られ、火柱の噴出に巻き込まれる。

 アフロディからボールを奪ったソクが、再び反撃を開始した。

 

「すまない、みんな!」

「構わん! 行くぞ、お前たち!」

「「はい!」」

 

 アフロディの謝罪を鬼道が軽く流し、明日人と基山にハンドサインを出す。二人はそれに頷くと、各々の行動を取り始めた。

 そして、鬼道がソクと対峙する。

 

「自慢のラフプレーで抜いてみたらどうだ?」

「何を企んでいるのか知らないけど……」

 

 ソクが細かいボールタッチで鬼道を左右に揺さぶる。鬼道は一瞬の判断の遅れをつかれ、ソクに先へ進ませてしまった。

 

「僕たち自身、今までにラフプレーだけでは戦えないことくらい思い知らされ続けてきた。そんな煽りは通用しないよ……!」

「──ならば、こういうのはどうだ?」

「何──?」

 

 鬼道の挑戦的な言葉と同時に、基山がソクの持つボールへスライディングを仕掛けた。突然の基山の乱入にソクの反応が僅かに遅れてしまう。

 

「今のは危なかった」

 

 ソクは空中に飛び上がり、基山のスライディングを回避、余裕そうにボールを足元に収めながらコート上に着地しようと体勢を変え────

 

「──イナビカリダッシュ!!」

「!? ヒートタックル!!」

 

 二人の必殺技がぶつかり合った直後、火花が飛び散り、電光石火の明日人は炎を渦巻かせるソクのタックルに弾かれてしまう。

 

「うわああっ!」

 

 離れていく明日人の叫び声を気にも止めず、ソクは自分の額を手で拭った。

 

「……今のは本気で危なかった」

 

 そして、三人の連携を突破しきったソクが着地。

 

「──いや、さっきのジフンと彼の場面を思い出せたら良かったのか」

 

 ソクは自分のプレイを反省しながら、『イナズマジャパン』側の陣地を駆け抜ける。

 

「行くぞ! ペク! ドンヒョク!」

「「おう!」」

 

 ソクが再び、FW二人を自分の元に寄せる。先程見せられた『特攻!バッフファロートレイン』の陣形だ。だが、ソクが必殺技を発動させることはない。

 

「──岩戸くん!」

「了解でゴス!」

 

 吹雪がソクの必殺技の射程に入るギリギリまでに岩戸と口頭で作戦を共有する。接近するソク達に岩戸が立ち向かう。

 

「ああ? 何だアイツ」

「──気を抜くなよ」

「はいはい、う〜るせー」

 

 ソクの言葉にペクが呆れながら応じる。

 そんなペクにため息を吐くと、ソクがハンドサインを出した。すると、ペクとドンヒョクがソクの後方から走り抜けた。

 

「何でゴス!?」

「継続して!」

「ゴス!」

 

 岩戸が動揺するが、吹雪がそれを宥める。岩戸はハッと理解し、ソクに意識を集中する。

 

「あくまで狙いは俺……、ね」

 

 ペクとドンヒョクに判断を揺さぶられることのない岩戸をソクが冷静に分析。そして、一対一での戦いを決めた。

 

「──行くよ」

「……ゴスッ!」

 

 互いの距離が縮まっていくが、両者必殺技を発動しない。先手で発動して仕舞えば、不利になる。両者共にそんな意識を持っていた。

 ソクと岩戸。既に必殺技の発動に必要な工程は両者共に完了している。あとは放出するタイミングの粘り合い。

 

「良いの? ぶつかるよ!」

「…………まだでゴスッ!」

 

 粘る。

 

「あと数メートル!」

「ゴスゥ──ッ!」

 

 粘る。

 

「────!」

「……ッ!」

 

 ねば──、無理だ。

 

「ッ! ザ・ウォール!!」

「──ヒートタックルッ!!」

 

 岩戸の作り上げた選手らの身長の数倍以上ある岩壁にソクが突撃。炎塊が岩戸の壁を貫通し、バラバラに叩き割った。

 元から相性が不利なのは明白だったが、耐えきれていたらここでボールを奪えていた。それを理解していた岩戸が反動で顔面を殴られたかのように体勢を崩しながら、己の不甲斐なさを恥じる。

 

「もう少し粘れる技を構えられていたら取られてたな」

 

 ソクはボールを足元に収めながら足の回転を速めた。

 一瞬後、ソクはペクのマークに付いていた吹雪がいつの間にか離れていることに気がつく。岩戸がやられ、作戦を変えたのだろうか、と、CB二人の対応力の高さにソクは素直に感心した。

 

「──アイスグランド!!」

 

 自身の足元の氷上を滑る吹雪がソクを氷結させ、進行を妨害。空に放られたボールを盗み出した。

 仰向けのまま顔を上げる岩戸がニコリと笑った。

 

「──鬼道くん!」

 

 吹雪から鬼道へとロングパスが蹴り出され、遠くの鬼道が吹雪のパスを胸でトラップした。

 

「何やってんだよソク!」

「悪い! すぐ取り返そう!」

 

 ペクの怒声にソクが謝罪を口にしながら、コートを速攻で走り戻る。

 

「やろうと思えば、アイツがパスコース作れたんじゃ……」

 

 傍から見ていた風丸はペクの態度にそんな独り言を吐きながら、DF陣に最終ラインを上げるよう指示を出した。

 

 鬼道がドリブルで攻め上がるのを明日人たちが再び囲い、序盤の基本陣形を転用しながら敵陣を突破していく。鬼道からアフロディ、アフロディから明日人、といった具合で高速のパスワークでボールを繋いでいく。

 

 『レッドバイソン』の守備を突破するのに必須な行程は、ソク・ミンウの守る中盤を突破しきること、トラップする際などに仕掛けられる速攻ディフェンスを回避すること、DF選手たちのオーバーライド『ドレッドホーン』を攻略すること、のざっくり三つ。

 そして、明日人たちMF陣がチームのため、確実にやらなくてはならない必須項目(ミッション)は……、『ソク・ミンウの突破』『オーバーライド技の攻略』の二つ。

 明日人は自分たちの後方を走るソク・ミンウのことをチラリと確認した。既に思った以上に近くまでソクが迫ってきていて時間がない。

 

「鬼道さん!」

「ああ! 行くぞ!」

 

 鬼道がMF陣にハンドサインを掲げた。明日人は急ブレーキを踏んでその場に止まる。

 ソクはその行動に不審さを感じたが、ボールが取れなかった場合よりも取れた場合のメリットの方が大きいと判断し、その不審感を排除。明日人にスライディングを仕掛けた。

 

(掛かった──)

 

 ソクを引き寄せきった明日人が基山へ高さに特化させたループパス。それを真似るように基山、鬼道がダイレクトループパスを繋げる。

 

「何だ……?」

 

 ソクがそのパスシステムの違和感に気がついた。だが、その頃には既に取り返しつく状況ではない。その間、アフロディの足元に鬼道からのループパスが落下していく。

 

「やらせるか……!」

 

 敵の右SHがアフロディのトラップ後を狙う。『イナズマジャパン』の策略(タクティクス)の一部。

 アフロディが敵選手を限界まで引き寄せ、逆サイドにいる基山に直にロングパスを飛ばした。

 

【柔と剛】。流れるようなダイレクトパスで相手のマークとプレスのタイミングに“ズレ”を生じさせることで、守備陣形を崩す必殺タクティクス。そして、その最後には──」

 

「──はああっ!」

 

 言葉が続く前に基山がダイレクトパスを空中で放ち、鬼道の言葉の先を実践した。

 呆然とする『レッドバイソン』の選手たちを置いて、ボールは最前線、オフサイドラインのその先へ。相手のDFたちが焦ってボールを追いかけるが、既に手遅れでその先にいた一人の選手がボールを足元に収めた。

 

「やっとこの時が来たか……」

「行け! 豪炎寺!」

 

 鬼道の言葉と同時に豪炎寺がシュートフォームに入った。

 

 豪炎寺がボールにオーラを溜める。

 虚空の螺旋。迸る無数の紅。轟音を立てながら大地を揺らすその球体を豪炎寺が静かに捌いていく。

 縦に、横に、豪炎寺が両足と全身をフルで動かしながら、一撃ごとに魂を乗せ、絶無の究極を放つ。

 

ラストリゾート!!!!」

 

 世界が鳴動する。

 渦の中心から波動が突破。崩れ巻き上げられた地面の欠片が収束し、一頭の巨龍を象った。

 

 豪炎寺のシュートを包む『龍』がコートを大きく跳ねながらゴールを狙う。

 その圧倒的な威力に、『レッドバイソン』のGKの表情が真っ青に変わった。

 

「──ッ! ファイアウォール!!」

 

 本能レベルで無理だとわかっていながらも、GKが全力でボールに手を伸ばす。しかし、そんな想いも届くことはなく、シュートにぶつかった瞬間から、自慢の炎石製大壁が崩れ始めた。

 

「──ぐあああああああ!?!?」

「シン!」

 

 絶叫と共に、『レッドバイソン』GK、シン・レウォンの身体はゴールネットに叩きつけられた。

 

『ゴール!! 何ということだ豪炎寺修也!? 破壊的な一撃が『レッドバイソン』の守りを破壊したァ!』

 

「──そうだ。私はあのプレイに魅せられた」

 

 遠く離れたスペインの地で豪炎寺のシュートが評価を受ける。

 

「…………」

「豪炎寺さん、すごい……」

 

 客席の不動は無言でコートを見下ろし、音無は感嘆の言葉を吐いた。

 

「な、何あれ……!?」

 

 明日人は圧倒的な豪炎寺のシュートにまともに言葉が出ないでいる。

 

「あの日、クラリオが日本に来た理由はお前だったか」

 

 鬼道は何かに納得したようで頷きながら、豪炎寺のことを讃える。

 

「すっげーよ! 豪炎寺! 何だ今の!?」

 

 円堂が堂々と歩いて自陣に戻る豪炎寺の下に駆け寄る。

 豪炎寺は僅かに口角を上げた。

 

「……世界と渡り合うために特訓と研究を重ねて来た。これが、俺のサッカーにおける『回答』だ」

 

 豪炎寺と円堂が固く手を結んだ。

 

 ◇◇◇

 

「あのシュート……。まさかシンが止められないだなんて……」

 

 豪炎寺の放った 『ラストリゾート』の破壊力を見せられたソクがゴールに倒れたシンを引き上げながら呟く。

 

「悪いな、ソク。俺も全力で掛かったんだが……」

「……今後、あの男にシュートを打たせるのは危険だ。全力で止めるようソアとヨンウに指示を出しておく」

「あるいは俺がもっと強くなる、か……」

「……そうだな。まあ、俺たちも善処する。それでもやられたなら……」

「次こそ止める……!」

「ああ」

 

 シンの額から汗が伝う。ソクとしても彼に負担を掛けたくないが、今後の試合がどうなるかはわからない以上断言はできなかった。

 

 

「何だよ。あのシュート……!」

 

 見たこともない威力にペクは動揺を隠せない。

 

「あんな、球……、オレには打てな──ッ」

 

 ペクのイレブンバンドが振動した。ペクは自身の手首に視線を落とす。

 

 ──始めろ

 

 その文字が見えた瞬間、ペクはイレブンバンドを殴りつけ、ベンチに座る監督を見た。監督がこちらのことを無言で見つめている。

 ペクが目を見開く。

 

「ふざけるなよ……。オレ様が点を取りまくればいいんだろうが……ッ! まだいくらでも巻き返せるだろうが……ッ!!」

 

 勿論、監督にその言葉は届かない。

 ペクの友であるドンヒョクとジウォンが息を荒げるペクのことを心配そうに見つめていた。

 

 

 

 『イナズマジャパン』の先制点で試合再開。相手のFW、イ・ドンヒョクがペクにボールを渡すと、ペクがドンヒョクと共に駆け出し、そのバックにMFのソクが着いていく。

 

「動きのキレが増した!?」

「恐らく焦りから来ているものだ。よく観察しろ。絶対に止められる」

「はい!」

 

 鬼道と明日人はそう会話を交わし、ペクたちの進撃を妨害、ボールを狙ってディフェンスに掛かる。

 

「チッ……。おい! ソク!」

「いや! ここでは使わない!」

「ハァ!? 何ふざけたこと言ってんだ……!」

「良いから行ってくれ! 俺が必ずお前にシュートを打たせるから!」

「何訳わかんねぇことを……!」

 

 ペクがドンヒョクを隣に着かせ、キレ気味にドリブルで鬼道と明日人に挑む。その両サイドにはSH陣二人がそれぞれ駆け上がっている。

 そして、ペクはその先に見える景色を見────。

 

「──そういうことか……!」

 

「来たぞ! 稲森!」

「はい!」

 

 鬼道と明日人が警戒体制に入った瞬間、ペクが気がつく。ペクがソクの方に振り向くと、ソクは力強く首を縦に振った。

 

「まじで行けんのか……! こんな土壇場……!」

「ああ! ジフン! ジウォン! 二人に合わせろ!」

「「了解!!」」

 

 ペクたちが大掛かりな陣形を取り、ボールを高く上げた。他の三人が足元から炎を散らしながら、鬼道たちの周囲を駆け回り始めた

 

「これは……、()()()()()()()()か!?」

 

 鬼道が気がついた瞬間、明日人も事前情報時点では必殺タクティクスを持たないはずだったと思い返す。しかし、更なる時間をペクたちは与えない。

 

「今更遅ぇ……! 必殺タクティクス──」

 

「「「──『デッドバッファー』!!」」」

 

「……ぐああああっ!!」

 

 ボールが着弾した瞬間、灼熱の黒煙がコート中を襲う。

 しばらくして、黒煙が晴れるとソクの足からボールが宙に蹴り出された。

 

「これで行けるだろ? ペク!」

「ああ! 行けるッ! オレなら行けるッ! 豪炎寺修也とイナズマジャパン(オレ以下の砂利共)に負けっぱなしでいられるはずがねぇッ!」

 

 ペクは己を鼓舞するようにCBの奥を駆け上がる。明日人たちはタクティクスの影響で動くことができず、DF陣が今から必殺技を構えて間に合わない。いくつもの偶然が重なってできた今この瞬間、ペクを止めることができるのは、コート上でただ一人の『イナズマジャパン』の守護神、円堂守だけになってしまった。

 炎を見に纏うペクが大地を踏み締め、この偶然(チャンス)をモノにせんとばかりに跳躍する。

 

レッドブレイク!!」

風神雷神!!」

 

 今のペクの放てる全力。ペクの足先をなぞる火炎の砲台から最高火力で打ち下ろされた一撃が円堂の双神と激突した。

 円堂と共に手を伸ばした魔神たちが必死にボールを押さえ込むが、円堂がジリジリとゴールに押し込まれ始める。

 

「──うおおおおっ!!」

 

 押し切られるより早く、円堂がボールの威力を完全に殺し切った。

 

『止めた──ッ! 円堂守がペクのシュートをなんとか止めました!』

 

 観客たちが湧き上がり、『イナズマジャパン』の選手たちが笑顔で円堂のプレイを絶賛する。『レッドバイソン』たちは苦しげな表情を浮かべながら、ソクの指示を中心にディフェンスに駆け戻っていく。そんな中……。

 

 

 ただ一人、ペク・シウだけがゴールの前で立ち尽くしていた。

 

 





【デッドバッファー】
→『レッドバイソン』のオフェンス新タクティクス。制御装置をショートさせ、黒煙を出してるイメージ。バッファローは全く関係ないっすね。『レッドバイソン』が覚醒し、手に入れた必殺タクティクス。

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。