雷陽と黒龍   作:久遠れもん

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 ラストリゾートは好きなんだけど……、豪炎寺は本当に好きなんだけど……、許してくれ


アフロディ、覚醒の予兆(VSレッドバイソン③)

 

 豪炎寺が『ラストリゾート』で先制点をもぎ取り、円堂がペクの『レッドブレイク』を止めきる。『イナズマジャパン』の中心とも言える二人のプレイをベンチメンバーたちは落ち着いて観戦していられるほど冷静を保っていられない。

 

「すごい! 流石、円堂さんです!」

「ああ、そうだぜ! 何たって俺の『ファイアレモネード』を止めちまうくらいだからからなァ! アッハッハッハ!」

「あのスケジュール内のいつそんなことしたんだお前は……」

 

 何故か自分の唯一の個性を『止められた』と自慢げに笑う剛陣に引き気味に佐久間が呟く。

 

「でも、ホントにすごいですよ! あのソク・ミンウさんにはいまだに好き勝手にされちゃってますが、みんななら、きっと……!」

「はい。きっと勝てますよ」

 

 大谷と神門杏奈の会話にベンチの面々が頷く。

 そんな応援ムードに包まれるベンチの中にいる倉掛は、ふと隣の少年の小さな異変に気がつく。

 

「……嬉しくないの?」

 

 ニコニコと笑顔で他のベンチメンバーと同様に喜んでいた一星に倉掛が、大事にするつもりもないため小声のまま尋ねた。

 

「えっ? な、何がですか……?」

 

 一星は一気にぎこちなさがわかりやすく浮き彫りになった笑顔を倉掛に向け、答える。それに対して、倉掛は「わからないなら良い」とだけ答え、試合に視線を戻す。

 

(『何が』って……、真面目そうなコイツが、ね)

 

 倉掛は一星に感じた違和感について思議するが、試合に関係のないことであると気がつき、一度考えるのをやめた。

 

 ◇◇◇

 

 円堂が止めたボールは風丸に投げ渡され、明日人に再びパスが通る。

 

(円堂さんが止めてくれたから良かったけど……、まさか必殺タクティクスを使うだなんて……)

 

 明日人は先程、使用された黒煙を放つタクティクス『デッドバッファー』について思考を巡らせる。

 試合数日前、明日人はミーティングの際、大谷の口から『レッドバイソン』について、『連携意識が薄く、タクティクスを持っているというデータはないチーム』と伝えられた。だが、実際は違った。『レッドバイソン』はチーム意識の低いチームなどではなかったし、タクティクスを持っていないチームでもなかった。

 なら、考えられる可能性は一つ。

 『試合前数日でタクティクスやオーバーライド等の連携を仕上げてきていた』。

 これならば、納得できるかはともかく理解はできる。何なら敵のキャプテンであるソク本人がそれっぽいことを少し前に発言していた。

 

(侮ってたつもりはなかったけど……、俺たちが思っていた以上に強いチームなのかも……)

 

「鬼道さん!」

「わかっている。今は中盤を抜けるぞ」

「はい!」

 

 そうして明日人たちは中盤を抜けようと走り出した瞬間、突如として明日人たちのこの試合で課せられた必須項目(ミッション)の一つが始まる。

 

「──ここで止めるよ。イナズマジャパン」

「来たか……! ソク・ミンウ!」

 

 ソク・ミンウが、明日人と鬼道に立ちはだかった。

 

 

 

「──やべェ! ソクが抜かれたらソアたちしかいねェぞ!」

 

 明日人たちの後方、未だ自陣の守備へ走り戻っている最中のドンヒョクが叫ぶ。それに頷きながら、ジウォンも自身の足の回転を加速させる。

 

「だけど……ッ、ペクはどうするんだ! オフサイドライン外(あんなところ)にいられたら反撃ができないぞ!」

「知らん! どうせアイツならすぐに元に戻るだろ! 今は守備!」

「確かに……!」

 

 チーム内でソク以上に長い付き合いかつ、ペクのことをよく知るジウォンとドンヒョクは『友人』であり、『仲間』であるペクを信じることにした

 ドンヒョクの言葉が届いた訳ではなかったが、二人の会話の直後、ペクが再び動き出した。

 ドンヒョクはそのことに気がつくことなく走り続ける。

 

 

「──始めるか」

 

 

 前に進み出したペクの双眸に『意思』はなく、身体の奥深くから湧き出たかのような狂気じみた『怒り』だけが燃えていた。

 

 

 

「クソッ、しつこい……!」

 

 ソクと明日人は一定の距離を保ちながら、ボールタッチで互いを揺さぶるが、全く隙が生まれない。サイドの基山とアフロディは相手のサイド選手二人ずつにそれぞれ目をつけられているうえ、そもそも出した瞬間ソクがそちらに『ボルケイノカット』を放つだろう。明日人が仕方なしに隣の鬼道へパスを出すと、ソクは立つ位置を変え即座に対応してくる。

 

 鬼道は左右にボールを振りながら、自分に対応してくるソクのことを観察する。ソクは鬼道のキレのあるフェイントにも対応をしていながら、どこか余裕そうな様子。

 

「最悪ラフプレーでどうにかできるとでも思っている、か……?」

「さあ? 抜きに来てみたら?」

「……ッ」

 

 ソクが鬼道を挑発すると、鬼道が顔をこわばらせる。だが、鬼道自身、それが一番良い方法なのではないかとも感じている。鬼道が明日人にアイコンタクトを送ると、察した明日人は小さく頷いた。

 鬼道が挑発に乗り『イリュージョンボール』を構えると、明日人がソクにボールを取られてもフォローに回れるよう『イナビカリダッシュ』を行うため、その場で低姿勢を取る。ソクの身から火の粉が散り始めた。

 瞬間────。

 

「──鬼道さん!」

 

 右手側の後方からパスの要求が鬼道の耳に届く。明日人は咄嗟にそちらを向く。

 

「万作!」

 

 鬼道が今まで行っていたすべての工程をボールを一度止めてリセットし、自陣内を駆け上がる万作にボールを蹴り渡すと、ソクの裏手へ走る。これならば、ソクが必殺技を放つこともできない。

 

「今までSB使わなかったじゃん……!」

 

 ソクの吐き捨てるような文句を鬼道は耳にしながら、万作のパスコースを作るべく動く。明日人は万作のフォローのためにその場にとどまる。

 

「行くぜ……!」

 

 万作が走り出す。前方でアフロディがマークを外し、走り去るのが見える。アフロディの行動のおかげで万作の目標が定まった。

 すると、相手FWのドンヒョクが万作の眼前に割り込んだ。

 

「行かせない!」

「ならどっか行け!」

「何言ってんだお前」

 

 万作は止まらない。ドンヒョクは身構えながら、時間を稼ぐことに重点を置いてディフェンスに努める。

 

スパークウイn──……ッ!?」

 

 必殺技を放つ瞬間、大きな衝撃に万作の視界が揺れた。万作の身体は足と上半身の重心がズレ、滑るように地面に倒れてしまう。

 万作が理解できないままに見上げると、そこには赤髪の選手が一人。

 

「ペク・シウ……!」

 

 万作がペクを見上げながら呟く。

 

『おおっと!? ペクと万作のぶつかり合いの影響でボールがコートの外へ弾かれてしまった! これは、イナズマジャパンからのスローインです!』

 

「今のショルダーチャージは反則じゃないのか!?」

「難しいところだね……」

 

 が審判に意を唱えるが、吹雪がそれを宥める。二人以外にも選手たちは不満そうであったが、仕方がないのだと受け入れた。

 しかし、受け入れられない者がいる。

 

「おい、お前!」

 

 突き飛ばされた万作がペクに対して、怒りを露わにする。

 ペクは一度も振り向くことなく、万作の下から歩き去った。

 

「アイツ……!」

「止めた方がいいでゴス」

「どうしてだよ……! アイツが悪いのは明白だ!」

「それでも! あんまり変なことはしない方がいいでゴス!」

「何だと……! 大体お前も──」

 

「──ストップ! 万作、ストーーップ!」

 

「明日人?」

「ふぅ……、ゴーレムは元のポジション戻ってていいよ」

「…………わかったでゴス……」

 

 岩戸が万作と明日人たちから離れ、CBとしてのポジションに戻る。

 そして、明日人が万作に向き直った瞬間、ボールがコートに帰ってきてしまった。

 

「行こう、万作。次からは気をつけてね」

「ああ……、お前も相手の動向には注意しておけよ」

「…………わかった」

 

 明日人は渋々頷くとその場から離れた。

 

 

 

「ペク! おい、ペク!」

 

 後方から自分を呼ぶ声が耳に迫ってくるのに気がついたペクはため息をつくと、視線を自分を呼ぶ男、ソクに向けた。

 ペクの態度にソクは僅かに眉を顰めた。

 

「お前、さっきのプレイはやりすぎなんじゃないか……?」

「何の話だ」

「惚けるな。あの男へのショルダーチャージ。お前、反則ギリギリを狙っただろ!」

「言いがかりはやめろ。ソク」

「何……?」

「オレがあんな砂利共に『反則際』なんてわざわざ狙うと思ってんのか……?」

「は? お前、何を言って……ッ!?」

 

 ソクはあまりにも理解できないペクの言動に絶句した。

 いや、ペクの言葉自体には何も大した問題はない。本当にソクが理解し難いのはペクの態度の変化。ペクは反則を疑われるプレイに関してソクから問い詰められている状況で、笑っていたのだ。

 そんな中、コートにボールが帰り、ボールを万作が拾う。

 

「……ほら、始まるぜ?」

 

 ソクがペクに疑いの眼差しを突きつけながら、その場を後にする。それを見たペクは再び僅かにほくそ笑んだ。

 

「アイツはもうダメだな。おい、ドンヒョク、ジウォン……」

 

 ペクはソクを見つめながら、二人のことを呼んだ。

 二人は顔を見合わせると、ペクの下へ駆け寄る。

 

「──話がある」

 

 そう話しながら、ペクはボールを追いかけ始めた。

 

 ◇◇◇

 

 万作のスローインで、アフロディにボールが渡り、試合が再開される。それと同時にアフロディが明日人へパス。そこから順々にパスが回り、基山にボールが届けられた。

 

ホーントレイン!!」

 

(あの選手……。やっぱり俺がトラップする瞬間を狙ってる……。なら……!)

 

 基山がトラップをする瞬間、ボールを完全に足元で抑える。

 

「もうやられないよ! ワープドライブ!!」

「何……ッ!?」

 

 基山が走り抜けるのを確認し、鬼道が再び手を掲げる。それを見た瞬間に基山から明日人にボールが蹴り上げられた。

 

【柔と剛】!!』

 

「──灰崎くん!」

 

 最後にボールを受けたアフロディから灰崎にダイレクトパスが通される。

 

「ソア! ヨンウ!」

「「ホーントレイン!!」」

 

 CB二人がボールをトラップした直後の灰崎に猛進し始める。

 

「……チッ!」

「──ドレッドホーン!!」

「ぐぁあああっ!!」

 

 灰崎が超速に轢き飛ばされ、ボールがCBのソン・ソアに奪われる。そして、ボールは左DFであるパク・ユファンに渡された。

 ユファンがボールを足元に収め、ソクにパスを出すために顔を上げた。そんなユファンの目に真っ先に映ったのは────。

 

「──は!?」

 

 ──ユファンの顔面に両足を向け、飛び込んでくるアフロディ()()だった。

 

「うわあああああああ!?」

 

 咄嗟に両腕で顔面を守りながらユファンが絶叫する。すると、ボンッと、眼前のアフロディが弾け、地面を滑り込む音が自分の真後ろから聞こえた。

 

「……ボールがない!?」

「──豪炎寺くん!」

 

 目を開けたユファンを置き去りにして、ボールを奪ったアフロディが立ち上がる時間も惜しむようにボールを蹴り飛ばし、豪炎寺へとボールを送る。

 ボールは大きく弧を描きながら、豪炎寺の元へ飛んでいき、『レッドバイソン』の選手たちに緊張が走る。

 

「豪炎寺くん!」

「ああ! 任せろ、アフロディ!」

 

 かつての敵からのパスを受け取ろうと、豪炎寺が跳び上がり、ボールの軌道上に入る。

 豪炎寺は見事にアフロディからの『信頼(パス)』を受け取め、再び『ラストリゾート』を放つ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はずだった。

 

「──……ッ!?」

 

 ボールをトラップする直前、豪炎寺の視界が光の深淵に閉ざされた。更に何者かが競り合いに入ったのか豪炎寺の身体が重い衝撃によって地面に叩きつけられる。

 

「が……ッ!?」

 

 豪炎寺の身体がコート上を転がった。

 

「豪炎寺!」

 

 円堂の絶叫。

 鬼道の焦り。

 ざわめく観客たち。

 ベンチ陣の困惑。

 目を丸くする趙金雲。

 

 審判が試合を止めた。それと同時に豪炎寺と激突したペクが両手を上げ、事故だと主張する。ペクにイエローカードが出された。

 

「……ッ、ぁ……、ッ!」

 

 汗を流しながら地面で脚を抱える豪炎寺の呻きが『イナズマジャパン』に絶望が来襲したことを告げていた。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 豪炎寺がコートの外へ運び出され、試合が再開する。

 『イナズマジャパン』たちは負傷により仕方なく、豪炎寺に代わる交代選手を場に出さなくてはならない。

 趙金雲はベンチを見た。

 

「出ますよ。ヒロトくん」

「ハッ、ようやく俺様の番か」

 

 吉良ヒロトは軽く屈伸運動を繰り返すと、即座にコート内に入場する。

 吉良のポジションは豪炎寺の入っていたFW。そして、吉良はポジションに着くと基山に笑いかけた。

 

「よう。タツヤ」

「まさか、こんな形で同じコートに立つことになるとはな……。突然で動けるのか……?」

「おいおい、俺様を誰だと思ってやがる? 世界で戦ってきた『“ゴッドストライk───

「何が『“ゴッドストライカー”』だ。こんな奴に豪炎寺の代わりが務まるはずがねぇ……!」

「ああ?」

 

 鬼道に対して放った灰崎の言葉が吉良の耳まで届いた。吉良はその言葉にカチンと反応すると、灰崎の下に歩み寄る。

 基山が慌ててそれを追いかけた。

 

「……二つ名の癖に試合で何もできてない『“フィールドの悪魔”』の言うことは他の奴らと程度が違うな?」

「何だと……?」

「やる気か?」

 

 吉良と灰崎の間にバチバチと火花が散る。

 

「おい、やめろよ。二人とも!」

「そうだぞ、灰崎。一点差があるとはいえ、緊急事態だ。気を引き締めろ」

「……ッ! だとしても豪炎寺の代わりなんて──!」

「灰崎!」

「……!」

 

 鬼道の力強い言葉に灰崎がたじろぐ。灰崎が鬼道に目を向けると、鬼道はゴーグル越しでもわかるほど表情を歪めている。鬼道の豪炎寺への感情を察しとった灰崎は冷静になり、ポジションに戻る。

 

「この二人……、どうなるんだ……?」

 

 基山は小さく呟くと、ポジションに戻った。

 

「みんな! まだ試合前半、俺たちが勝ってる!落ち着いて戦えば勝てるぞ!」

 

 円堂が全員に訴えかけると、全員が「おう!」と、応える。しかし、自分たちの優勢だった状況も豪炎寺のシュートが切り開いたものであるからか全員の瞳に陰が落ちていたようにも感じられた。

 

「サッカーを楽しむ……」

 

 明日人は一人、仲間に糾弾されるペクを見つめながら呟いた。

 

(ペク……、本当にこんなことをする奴だったのかな……)

 

 明日人は試合前から今までのペクの変化に戸惑っていた。

 

 

(豪炎寺……、お前は日本のサッカーの歴史をかえるかも知れない。こんなところでリタイアするなんてことは許されないぞ……)

 

 鬼道はベンチで手当を受ける豪炎寺を見つめながら、試合の再開を待った。

 

 

 

 一方、この時。

 静まり返る観客たちの中で、一人この状態を疑問に思った者がいた。

 試合が止められているコートにカメラを向けながら、サッカー関連の雑誌の記者として働く男は今までにない不可解さを感じていた。

 

「豪炎寺ほどの選手がただの接触事故でここまで……? 何か腑に落ちないなぁ……」

「ただの接触じゃないわ」

「お、君もそう思う?」

 

 隣に座る幼女が再び男に話しかけた。男が幼女に答えを求めると、幼女は口を開く。

 

「ええ、スパイクに鏡が仕込まれているのよ」

「え?」

「鏡の角度で日の光を反射させて、豪炎寺修也の目を眩ませた」

「いやいや、まさかそんなこと……。もし仮にそうなら、あの審判は節穴もいいとこだ」

「節穴……。それで済むのならいいけれど」

「……?」

 

 幼女は自分の発言に疑問符を浮かべる記者の男からそっぽを向くと、試合が再開するコート上を見下ろした。

 

 

 

 イナズマジャパン側の直接フリーキックから試合が再開。灰崎と吉良がじゃんけんをし、勝った灰崎がボールを蹴るが、シンに弾かれてしまった。

 

「ソク!」

 

 相手DFがボールを大きく蹴り飛ばし、盤面が動き始めた。

 前半も終盤の現在。鬼道たちが警戒を強めながら守備へ駆け戻る中、明日人の眼前を突っ走って来るソクがボールを受け取る。

 

(俺の『イナビカリダッシュ』で……!)

 

「──稲森!」

 

 鬼道の叫びを聞き、明日人は即座に判断を変える。明日人はソクとの距離を一定間隔に保ちながら、ソクとの一対一を形成する。

 だが、ソクの下に二人の選手が駆けつけてしまった。

 

「──ソク! やるぞ!」

「……! 一体、お前は何を考えているんだ……!」

「……ソク! ペクの言う通りにしたほうが確実だと思う……っ!」

「ドンヒョクまで……。……わかった」

 

(来る────!)

 

 明日人が身構えると同時に赤の超速牛が再臨する。

 

特攻!バッファロートレイン!!」

「うわああああっ!!」

 

 三人の突撃に吹き飛ばされた明日人の絶叫が響く。

 

「ソク! ペクにパスを──!」

「ああ……!」

 

 ソクがペクにボールをパスした瞬間、ソクは目を丸くした。

 

「──ペク! まさかお前……!」

 

 まだまだ円堂との距離がある中でのペクの行動にソクが驚愕する。

 ペクが先程とは異なるシュートを構えていることを察知した円堂が再び必殺技を構えた。そして、前方にボールを蹴り出すと、超速でそのボールを打ち飛ばした。

 

「行くぞ──。バイソンホーン!!」

 

 ペクのもう一つの秘技。その名は『バイソンホーン』。

 ボールに闘牛のように爆速でヘディングを打ち出すことで、直線上にシュートが弾き出される。ペクが成長の過程でいつからか使用することのなくなった必殺技。だが、その精度はこの場の誰よりも極まっている。

 つまりこのシュートは──、亜音速に迫る。

 

「な……っ!?」

「ゴス……ッ!?」

 

 ペクのシュートが立ち尽くす吹雪と岩戸の間を認識も出来ない内に通過。円堂の護るゴールを狙う。

 

「風神雷神!!」

 

 ペクのシュートに応えるように円堂がペクがシュートフォームをとった時点で構えさせてあった双神を呼び寄せる。

 そして、シュートと円堂が激突する瞬間──。

 

「──行け」

 

 円堂に向かって何者かが真空波を放った。

 一瞬の間、視界を塞がれた円堂は双神の制御が出来なくなる。

 

 そこに…………。

 

『──ゴール! 円堂守、まさかのミス! 前半終了目前というところで、レッドバイソンの『“超速の闘牛”』ペク・シウが、円堂の護るゴールを奪い取った!』

 

「な……っ! アイツら、卑怯な真似を……!」

「ラフプレーとかの話じゃねーぞ。あんなの」

 

 灰崎と吉良が口々にペクたちの一連のプレイを非難する。

 

「あんなのキーパー妨害じゃないですか……!?」

 

 明日人が審判に訴えかける。

 

「どうやら、ペク・シウが本性を表してきたようだな……」

「…………」

 

 苦しげに言葉を吐く鬼道を視界の端に入れながら、アフロディは自陣に駆け戻るペクを見つめていた。

 

 ◇◇◇

 

 

 前半終了残り十分を切った状況で同点に追いつかれた『イナズマジャパン』側から試合は再開されようという中、灰崎は一人怒りに燃える。

 

「さあ、こっから本番だ……」

 

 FWであるペクの言葉が灰崎にも届く。

 

(やり返してやる……!)

 

 灰崎の頭に血が上っていく。

 審判が試合開始の音を鳴らし、灰崎が鬼道にボールを下げ、前方へはしり上がった。

 明日人はは数分前との試合の空気感の違いに違和感を感じながら、鬼道と共に走り上がる。

 

「ソクは……!」

「……!」

 

 確かに、ソク・ミンウがいない。

 そう思った明日人が前を向き直ると、ソクは何かに気を取られているかのように、試合の状況に意識が集中できないでいるようだった。

 明日人たちを散々苦しめたソク・ミンウが明日人たちの下に圧をかけてこない。明日人はやはり違和感を感じていたが、現状が今までにないレベルでのチャンスなのは事実。

 鬼道が明日人にパスを落とし、明日人が灰崎にロングパスを繰り出す。

 

 灰崎が見事に明日人のパスをトラップ。前線に駆け上がっていくというところで、灰崎がソクと対面した。

 

「──暴れ回ってた割に静かになりやがったな」

「……!」

 

 ソクの反応が遅れ、灰崎が自身の個人技を用いて、ソクを抜き去る。

 

「何やってんだ! ソク!」

「え……、ああ、悪い……!」

 

 ペクの怒号に反応するとソクが辺りを見渡し、灰崎に抜かれていたことにようやく気がつく。

 そして、即座に足に炎を巻いた。

 

ボルケイノカット!!」

「がああああっ!」

 

 灰崎が火柱のアッパー攻撃により、ボールを手放し、ソクがそれをトラップ。ここからソクを中心とした反撃のターンが始まるのだと、誰もが理解した瞬間、『暴牛』が走り出す。

 ソクがその男の影に気がつくよりも早く。

 

 

 ──ドスッ、と、ソクの身体が地面に弾き飛ばされた。

 

 

 倒れるソクの傍に何故か走り込んでいたペク・シウはその場で立ち止まり、目を丸くした。

 鬼道と明日人も、灰崎や吉良も何が起こったのかを整理しようと、状況を整理し始める。

 

 黄金の長髪がソクの下で揺れた。

 

「アンタは……!」

 

 ソクは状況を整理しながら、目の前に立つ選手に僅かに声を漏らす。

 

「──ペク・シウ。君はやっては行けないことをした。豪炎寺くんに不正を働きこの神聖なフィールドを汚すに飽き足らず、仲間に手を出す? ふざけるのもいい加減にしておいた方が身のためだよ」

「チッ、誰だ」

 

 ペクが苛立ちながら振り向くと、そこにいたのはソクとペクとの間に姿勢を低くしながら割り込む一人の少年、アフロディ。

 アフロディはキッとペクを睨みつけながら、立ち上がる。

 

「……おいおい、何勘違いしてやがる? オレはただ、ソクの必殺技で吹っ飛びそうだったボールを収めようとしただけ、わかるか?」

「今日の試合でソクくんがそんなミスを一度でもしたかい」

「ミスってのはそういう過去のデータで語るもんじゃねぇな?」

 

 ペクがアフロディに腕を広げながら近づく。

 その表情はニタニタと笑みを浮かべていた。

 

「大体、ソクを突き飛ばしたのはお前なんだ。お前のチームメイトも何を言うかな」

「それなら心配はいらない。僕の仲間たちは僕を信じてくれるはずだ」

「はぁ? テメェ何言ってやが……」

 

 ────ピッ!

 

 ペクとアフロディに審判のホイッスルが割り込む。

 更に審判はアフロディの方を向いた。

 

『おおっと!? ペク・シウに続き、なんと『イナズマジャパン』アフロディまでもイエローカードを出されました!』

 

 審判の判定に、ペクが満足そうにアフロディを嘲笑う。

 アフロディは表情を一切崩すことなく、その結果を受け入れた。

 

「な? お前が今、このコート上の『悪』なんだよ」

「それでも僕は構わない。僕は僕の行いを間違いだとはないと、断言できる」

 

 アフロディはペクから目を離し、ソクに手を伸ばした。

 

「突然、すまなかったね」

「アイツが……あんなことを……?」

 

 信じられないものを見るかのように顔を歪めるソクの手をアフロディは両手で軽く力を込めて握る。

 そして、再びペクに視線を向けた。

 

「──覚えておくといい。僕が見習いの神である限り、君の過ちを絶対に許すことはないと」

「……はぁー、うっぜ」

 

 その瞬間、アフロディの双眸に『火龍の意思』が宿った。

 

 





[『パラレル現象』についての説明]
・この作品の独自要素。世界線の違いを利用した現象です。
・名前の通りパラレルワールド間での“ズレ”を世界が補填しようとすることで生じる現象で、この現象の起きた選手は『エイリア世界線』でのその選手が有する能力の一部を手に入れることができます。
【アフロディの場合】
『火龍の意思』。その名の通りアフロディが『3』での韓国代表『ファイアードラゴン』のアフロディの能力・精神・必殺技の一部(次回以降判明)を獲得したことによる変化。これに覚醒したアフロディは『ファイアードラゴン』のアフロディの能力・精神・必殺技が一部、『イナズマジャパン』のアフロディの能力に融合し、強化された状態に昇華します。

 なるべく外部での説明はしたくなかったけど、私の語彙力では作中での説明は難しかったので、こちらの方でさせて頂きました。

 次回は明日。
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