雷陽と黒龍   作:久遠れもん

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奇跡の一撃を(ドラスティック・カウンター)(VSレッドバイソン⑤)

 

『まさかの味方同士での接触事故……? 『レッドバイソン』ソク・ミンウが倒れてしまいました……』

 

 アフロディはソクの元に駆け寄る。ペクはアフロディが近くに来たと同時にその場を離れた。

 

「……亜風炉照美……?」

「ああ、ごめんね。守れなかった」

「なんで……、お前が……」

 

 『──謝るんだ』と、口にすることができないまま、ソクは音を空振らせ、細かく息を吐いた。

 ──アフロディに謝る理由なんてないはずなのに。

 

「君の同意が欲しいんだ」

「ぇ……?」

 

「──僕たちは、勝つ。構わないね」

 

「……ッ!! ………………アイツを頼む」

「ああ、そのための宣言だ」

 

 敗北から得られるものもある。だが、この試合だけは勝たなければならない。

 彼らは、アフロディと同じだから。倒れない限り、理解することのできない愚か者だから。

 アフロディは決意の双眸でペクを見やった。

 

 

 ペクがアフロディの決意を笑う。

 滲み出る『怒り』を出来る限り抑えながら、平静を保つ。

 すぐにでも目に映る全てを蹂躙したい。

 自分の障害を全て消し去ってしまいたい。

 何故なら、ペク・シウは自分の以上の存在を許さないから。

 だからこそ、あの日、『財団』の取り引きに乗った。

 

 更なる領域に己のサッカーは進化を遂げる。そのためだけに、今まで、『調整』を繰り返した。

 

 そのためだけに、己のサッカーを捨てた。

 

「あれ?」

「……? どうした、ペク……?」

「いや、何でもねぇよ。気を引き締めろよドンヒョク。負けるようなことがあれば……」

「──大丈夫だ。……もう負けられない……!」

 

 友であるペクの言葉を信じ、ソク・ミンウを嵌めた。その罪は、勝利という形で償う。

 

(何を言われても……、俺は……!)

 

 (ペク)と共にあると決めたのだから。ドンヒョクはそう覚悟している。

 

「……? まあ、何でもいいが」

 

 果たして『友』と呼べるのか、という話だが。

 

 ◇◇◇

 

『さあ、突然攻守の要であるソク・ミンウを失った『レッドバイソン』! ソン・ミンスに交代し、一体どのように戦いをしていくのでしょうか!』

 

 ソクが不在となったまま、試合再開する。

 ミンスからドンヒョクにパスが渡ると同時にフィールド上の選手の動きが加速し始める。

 

「──ペク!」

 

 ドンヒョクからペクにパスが回る。鋭いパスをトラップすると、ペクが走り出した。

 

「──よ。クソ神」

「……ああ」

「へぇー、今度は答えるんだな」

「僕はもう神じゃない。神になろうだなんてことは考えない」

「見習いだとかほざいたのはお前だろうが……ッ!」

 

 ペクの鋭いドリブルがアフロディとの間合いを詰める。

 走り出せば抜かされてしまいそうな距離。だが、何故かペクは決めきれない。

 

「何かしたな……?」

「人は変わることが出来る、という話かい?」

「黙れ」

「連れないね」

 

 ペクが舌打ちをする。

 その間も、アフロディは一定の距離を保ち、ペクと対峙し続ける。

 

(何でこの程度の奴を抜けていない? オレなら、普段のオレなら、こんなニヤケ面とっくに……)

 

「……人は変われるよ。ペク・シウ」

「──あ?」

「時間稼ぎは終わったという話さ」

 

 アフロディがペクにそう言うと、同時に。

 ペクの時間が止まったかのように感じられた。そして、そこに付け入られるように。

 

「──大河!!」

「は────?」

 

 周囲に広がる盆地。山々の陰から姿を見せる眼前の来光。己の人生において見たこともない絶景に自然と涙がこぼれ落ちそうになる。これは──

 

(必殺技──!)

 

 ペクが正気に戻った瞬間、絶景が晴れ失せる。ボールは坂野上の足元に移っていた。

 

「ナイス! 坂野上!」

「へっへーん! 利根川魂は世界に届くんですよ!」

「それはちょっとわからないでゴス……」

「え〜っ? ちょっとカッコつけたのにーっ」

 

 坂野上が走り始める。

 

「……十分、カッコよかったよ」

 

 アフロディは小さく呟くと、前線へ走り出した。

 

 

「さて……、どうしましょうか……。届きそうなのは、前線に走ってる吹雪さんと真ん中にいる鬼道さん……」

 

(……!!)

 

「いや、最長ドフリー! ──氷の矢!!」

「ナイス! 坂野上っ!」

 

 『イナズマジャパン』左SB、稲森明日人がハーフライン付近まで駆け上がっていた。

 明日人は坂野上の一矢を受けるため飛び上がった。

 

(いや、受けてどうする……!? もう地上はアプローチ寄ってきてるし……!)

 

 ── 相手に怯えちゃ君の強み活かせないもんね──!

 

「……俺の強み……?」

 

 脳裏に浮かぶのは、あの憎たらしい態度の少年。悔しいことに実力は自分より上、そんな少年の自分に言い放った一言。

 

「まさか──!」

 

 明日人は気づく。

 

(相手に怯えない、それってつまり俺は──)

 

 思い出されるのはあの少年のシュート。天から落ちる弾道。すなわち、ドライブシュート。それを明日人流にアレンジする。

 

「あれは……!」

 

「──クロスドライブ!!」

 

 空中で一撃。着地から再び跳ね上がり、また一撃。明日人の踊るようなシュートが、十の字にコートを縦断する。

 

「俺の場合、新技とかではない気がする……。何となく……」

 

 超次元な独り言。関係ないとばかりに雷撃の爪痕が空中を駆け抜ける。

 

「──あんな砂利シュートが今更、シンに通用するわけがねぇだろ!」

 

 ペクの叫んだ通り。『クロスドライブ』如きが世界で通用するなんて、明日人だって思っちゃいない。

 

「──!? そういうことか、稲森!」

 

 鬼道は明日人の考えを完全に理解した。

 明日人の放ったシュートにしては緩い弾道。かといってパスとするには鋭すぎる弾道。このためだとするなら、辻褄が合う。

 ならば、鬼道が選ぶべき選手。今、前線に上がっている五人の中で一番安定して戦える選手は……

 

「アフロディ! 吹雪! 『オーバーライド』だ!!」

「ああ──!」

「なるほどね……」

 

 応えると同時に、アフロディが翼を広げ大空を舞い踊り、雷雲を伴ったスタジアム全域に渡る大嵐を巻き起こす。

 応えると同時に、吹雪がシュートに重ねてコートに対し鉛直下向きに一撃。更に水平方向に一撃を与え、ボールが急回転。氷を纏ったボールから度を超えた寒気がコート中に広がる。

 

ゴッドノウズ────

エターナル…………

 

 

 二人のシュートが雷爪痕(『クロスドライブ』)に重なる──。

 

 

        ──インパクト!!」

       ……ブリザード!!」

 

 稲森明日人の『クロスドライブ』。

 亜風炉照美の『ゴッドノウズ・インパクト』。

 吹雪士郎の『エターナルブリザード』。

 

 雷、嵐、氷。天と地の間に名を轟かせる災厄のうち、三属性が混沌とせめぎ合い、七色の光球に変わる。

 後に『エレメントブレイク』と名の付くその技が、強大なエネルギー弾と化して射出された。

 

「絶対に止めるッ! ──ファイアウォール!!」

 

 落雷が、暴風が、豪雪が、シンの護るゴールを襲う。

 だが、[1-1]で同点の後半現在。失点は許されない。

 シンは臆することなくその神歌に挑む。

 

「ぐおおおおあああああっ!?」

 

 炎壁と七色の神歌が激突した瞬間、シンは絶叫を上げる。

 壁がボロボロと崩れ始め、じりじりとシンの足が押し込まれていく。

 

「さっきほどじゃないさっきほどじゃないさっきほどじゃないっ!」

 

 押されながらも拮抗しているといえる自分を奮い立たせる。

 シンの守護が引き千切られ、押し潰され────

 

「──何やってんだ! シン! その程度止めちまえよ!!」

「ぎっっ──ぐああああああああああ!?」

 

 ペクの怒声も掻き消され、シンの防御は粉々に爆散した。

 

『ゴーーーールッ!! まさかの隠し玉だ『イナズマジャパン』! 稲森、アフロディ、吹雪の三人の必殺技の超融合が、『レッドバイソン』のゴールに突き刺さったああああああ!!』

 

「は?」

 

 スタジアム中が沸き立つ。

 

「は?」

 

 日本のサポーター陣が、選手たちが、追加点に歓声を上げ続ける。

 

「……は?」

 

 冷静ではいられない。

 飼い慣らされた『闘牛』を演じることも、フィールドを支配する『闘牛士』となることも、もうできない。

 

 『怒り』が爆発する─────。

 

 ◇◇◇

 

 

 

「すごい……! すごいですよ! アフロディさん! 吹雪さん!」

 

 アフロディと吹雪の二人に駆け寄っていく者たちの中の一人に、明日人がいた。

 アフロディと吹雪は、明日人だってすごいだろう、と明日人の判断を讃え返す。

 

「どうして、あんなシュートを?」

 

 吹雪が明日人に尋ねた。

 偶然の連携がゴールに入り喜んでしまっていたが、今まであんな必殺技は会話の中にも、特訓の中にも、影も形も見られなかった。

 

「う〜ん。……吹雪さんって試合前に、無敵ヶ原富士丸って子に会ったの覚えてますか?」

「ラフプレーが強い帽子の子だろう? 確かに一緒に会ったけど……」

「あの子の使ってた……、空から落ちるシュート。あれを再現出来ないかな、って、空中で。あとは全部偶然とアドリブですね……!」

「なるほど、咄嗟の判断だったから少しシュートの弾道が遅かったんだね」

「そういうことかと思います!」

 

 吹雪が納得したように頷く。

 その瞬間、明日人の中に一つの考えが浮かんだ。

 

(これか……! 監督が俺をDFにした理由……!)

 

「だから、監督はそのために俺をDFに──」

「──いや、僕の頼みだから、それは違うね」

「え、アフロディさんってそんなことできるんですか……」

 

 ニコリと笑いながら、アフロディが明日人の考えを否定した。

 

 

 

「や、やべェ……。あんなロングレンジ……」

 

 ドンヒョクが戦慄する。

 その後、すぐに起こる感情は『後悔』。ソクの『ボルケイノカット』がないだけで、あんな長距離でのオーバーライドを許してしまった。ソクがいないだけで、ここまでなると考えられていなかった。

 そんな、『後悔』がドンヒョクを包む。

 

「ぺ、ペク……! どうする……!」

「うるせぇ……」

「え……」

 

「お前らみたいな雑魚を信じたオレが馬鹿だった……」

 

 信じられない一言にドンヒョクは絶句した。

 

「ペク……? 何を言って……」

「──黙れ」

「……ッ!?」

 

 ドンヒョクの肩を突き飛ばし、ペクがドンヒョクに背を向ける。

 

「おい、ペク! そんな言い方ねぇよ!」

「ジウォン……」

「…………」

 

 ドンヒョクのことをジウォンが庇うが、ペクはそれを無視。そのまま、中央に戻されたボールに足を置いた。

 

「おい、ペク! お前の言うこと信じて、俺たちはお前に着いてるんだぞ! 他の奴らのことを置いて……! なあ!」

「なら自分でどうにかしろよクソ奴隷共」

「──は?」

「それが出来ないなら、奴隷のままオレにパスだけ渡してろ」

「……ッッ!」

 

 何も言えなかった。

 俺は選択を誤ったのかもしれない。

 俺たちは『友』なんかですらなかったのかもしれない。

 でも、それでも……。

 

 ドンヒョクは立ち上がる。

 

「……行こう、ジウォン」

「でも……!」

「もう、戻っちゃいけないんだ」

 

 道は残されていないからなのか。自分を正当化させたいからか。

 ドンヒョクはペクを信じ続けることにした。

 

(お前がそう思っていなくても、俺はお前の『友』だから……)

 

 ドンヒョクの歪む表情をジウォンが心配そうに覗き込んだ。

 

 

 

 後半も中期を過ぎた。

 このワンプレーで試合が終わってしまうかもしれない。そんな予感を、灰崎と吉良は感じていた。

 

 一方は、試合中走り続けたせいか、体力が残りわずか。

 一方は、相手のプレイの影響で足に疲労が溜まり続けている。

 

 どちらも、限界。

 だというのに……。

 

((まだ、この試合に何も残せてねぇ……!))

 

 灰崎も、吉良も、思うところは同じだった。『“フィールドの悪魔”』と『“ゴッドストライカー”』。その名に相応しいプライドと共にこのコートに立つ自分たちが、何もなく試合を終える。そんなことを二人とも許せない。

 そして、何より、自分は隣に立つこの者よりも強いのだという意識。

 互いに互いを強者だと認めているからこそ、負けられないし負けたくない。

 

((次に決めるのは……、俺だ!!))

 

 灰崎と吉良はセンターサークルのすぐ外に立った。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 試合再開のホイッスルが響き渡り、試合が再開する。

 ペクがドンヒョクにパスを出すと、コートに立つ選手たちが動き始めた。

 ペクを先頭に、レッドバイソンの前線選手の三人がゴールに向けて、一直線に走り出す。

 

「また動きが変わった……」

「そのようだな」

 

 鬼道の言葉を受け、アフロディは警戒を強める。

 どことなく敵全体の並びが先程よりも乱れている。アフロディはそう思いながら、ドンヒョクに向かっていく。

 

(何か様子が……──)

 

「成功、失敗。安定しないから使いたくなかったんだけど……。使えって言われてるよなァ……」

 

 ドンヒョクがボールに炎を纏わせる。

 

「ちょっと危ねェから気をつけな? バウンドフレイム!!」

 

 ボールが左右に振れながらバウンドし、火の粉を散らす。

 それは無理矢理カットに入るDFたちに考える時間も与えず、不規則にゴールへ迫る。

 

(いや、シュートじゃない──!)

 

 ドンヒョクのボールがジウォンの足元で動きを止めた。

 

「ナイス、ドンヒョ──……ぐあッ!」

「……サンキュー、ジウォン」

「ペク……! お前……ッ!」

 

 ペクがジウォンを弾き飛ばし、ボールを奪う。

 イナズマジャパンのメンバーたちがその行動に驚かされる中、ペクがシュートを準備する。

 

バイソンホーン!!」

 

 ペクの最速の一撃が再び、イナズマジャパンに襲いかかる。

 

風神雷神!!」

「なら今度は(コッチ)で……」

「何……ッ!?」

 

 またしても妨害を受け、円堂がよろめく。それと同時に円堂の背後に顕現していた双神が掻き消されてしまう。

 もう一度手に入れたリードをここで失うわけにはいかない。

 ペクの超速の一撃に身体が倒れていく円堂は策を探す。

 そして、何かに気がつくと、円堂は無理矢理足で踏ん張り、上半身をぐんっと持ち上げる。

 

「目には目を……! ──ヘディングには……アタマだああああああっ!!」

 

 円堂の額とペクの紅蓮の砲撃が激突する。

 

「……ッ! 舐めてんのかコイツ!!」

 

 ペクが怒りを湧き上がらせる中、円堂はペクのシュートを受け続ける。

 

 すると、異変が起こった。円堂の額が光り出したのだ。

 

「!?!?」

「はあああああああああああっ!!」

 

 巨大な光の塊が円堂の額から飛び出し、ボールが空に放り出された。

 ペクは再び笑みを浮かべ、円堂が今度こそ地面に倒れた。

 

「止め方が甘ぇよ……! レッドブレイクッ!!」

 

 炎の一撃がイナズマジャパンのゴールに叩き込まれ──。

 

「──来い! 坂野上!」

「はい!!」

 

 明日人と坂野上が駆け出した。

 起きあがろうとしていた円堂がニッ、と笑う。

 

「──信じるぞ! 二人とも!」

「「──はい!」」

 

 円堂の言葉と共に、ゴール前で合流した二人がペクの炎に立ち向かう。そして、足でそれを受け止めた。

 

「「──カウンタードライブ!!」」

 

 シュートに押され続けながらゴールラインギリギリまで踏ん張りきった明日人と坂野上がペクの豪速球を蹴り返した。

 『“雷陽のサッカー小僧”』と『“ミラクルリベロ”』の奇跡の一撃が、ペクの耳元を掠めて、レッドバイソン陣を駆け抜けた。

 





『カウンタードライブ』
→稲森、坂野上の山属性ブロック技。元々は稲森が雷門中で小僧丸と共に使用していた技だった。坂野上との特訓中に一星が二人にこの技を提案し、習得に至った。GO?帝国?まあまあ……

 次回、レッドバイソン戦、決着。
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