雷陽と黒龍   作:久遠れもん

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アフロディの告白(VSレッドバイソン⑥・終)

 

「ここまでシュートが保たれんのか……!」

 

 明日人と坂野上の連携ブロック技『カウンタードライブ』はGKにあっさりキャッチされてしまった。

 小僧丸ではなく坂野上を新たにパートナーに据えた『カウンタードライブ』はまだ未完成。敵のゴールにカウンターシュートが辿り着くまでに威力が大気中へ分散し、必殺シュートとしての最低限必要とする威力を保てないのだ。

 だが、シンはそもそも相手のシュートをブロックする形で放たれるシュートという高度な技巧を要する技を二人がここまで形にしていたことに驚いていた。

 

「……気をつけろよ! ペク!」

「っるせぇなぁ! んなことわかってんだよ!」

 

 シンの警告をペクの八つ当たりをシンが無視する。ペクは唾を吐き、自陣のゴールに背を向けた。

 シンがボールを他の選手に投げ渡す。

 

「ナイスだ。二人とも! 最後まで全力で行くぞ!」

「「はい!」」

 

 円堂の言葉と共に明日人は即座に試合に戻り、坂野上もまた、元のポジションに戻る。

 その間にレッドバイソンは高速でパスを回していき、あっという間にペクにボールが戻った。

 

「なんであんな砂利どもにオレ様のシュートが弾かれなきゃなんねぇんだ……!」

 

 憤激するペク。だが、ここまで取り乱していても実力はペク自身の実力は確かなものらしく、鋭いラフプレーにフェイントを混ぜながら、灰崎を抜き去り、イナズマジャパンの陣地に攻め入る。

 

「行かせないぞ!」

「邪魔だ……ッ! バーニングサマー!!」

「ぐぅ……ッ!」

 

 鬼道がペクの蹴りを顎から喰らい、そのまま大きく突き飛ばされる。

 

「鬼道さん!」

「俺は大丈夫だ。今は奴を止めるぞ!」

「……! はい!」

 

 明日人がペクに向かって行こうとした瞬間、ペクの双眸が赤く燃えた。

 先程の『カウンタードライブ』などという技で円堂守を貫くはずだったペクのシュートを止めた忌々しい選手の片割れでありながら、その更に前にはオーバーライドで失点のきっかけを作った選手。今のペクがそんな存在を見逃せるはずがなかった。

 

「テメェだけはブチ殺してやる……」

「──! ペク! それはダメだ!」

「……バイソンホーン

 

 未だ眼前に立つ明日人への憤怒が収まらないペクは、ドンヒョクの静止を無視して、ロングシュートを狙いながら、明日人をシュートの軌道上に捕捉する。

 明日人は至近距離でのその行動に、反射で腕で顔面を覆う。そして、ペクの意図を理解するが、なにか対策を講じられるわけではなく、心臓が早鐘を鳴らす中、ペクのシュートの瞬間を覚悟した。

 だが──、

 

 

 ──黄金色の翼が、ペクと明日人の間に割り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ペク・シウという男は、どこか自分と似ていた。

 自分の行いがやってはいけないことだと理解していながら、狂気から逃れることができず、無限に罪を犯し続ける負のループの中にいる。そんな様が、かつての自分、影山零治の手のひらで踊らされ続けていた過去の自分とそっくりだと。

 

 アフロディはそう()()()()()

 

 だが、アフロディはペク・シウと自分は絶対的に違う存在なのだと試合を通じてうんざりするほど理解させられた。ペクのように自分の行った行動の与える意味を理解せず、行った行動の責任を他者に押し付け、八つ当たりをする。自分はここまで愚かな存在にはならない。

 そうなってしまうのは簡単だ。ただひたすらに、我儘に、暴れ回って他者との関係を破壊してしまえばいい。自分の意思も持たずに他人を悪だと決めつけ、貶め続けるのはさぞ気持ちがいいことだろう。

 

 だが、アフロディはそんな真似をしない。

 一度失った信頼を取り戻すのは、種のわかっている手品に「驚け」と言われているようなもの。何一つ知らないふりをして、今まで通りにその者と付き合うのは誰にも不可能だ。

 ならば、ペクが正しいのか。

 一度失った信頼を見捨てて放り投げ、更にズタズタに追い打ちをかける。そんな真似をして良いものか。

 

 ──良いわけないだろうが、馬鹿野郎。

 

 たとえどれだけ腹が立っていようと、たとえどれだけ期待を裏切ろうと、それでも信頼しようとしてくれている仲間を捨てるなんてことをして良いはずがない。

 仲間がいなければ、誰も己の罪の連鎖を止めてくれなくなる。一つでも人との繋がりがなくなれば、信頼は手品のようにあっという間に消え去ってしまう。そして、いつか自分も誰のことも信頼できなくなる。

 

 そんな人間の辿る結末は、破滅だけだ。

 

 アフロディの目に覚悟が宿る。

 その目標は眼前に立つ制御の効かなくなった暴虐の突撃獣。

 アフロディがペクの必殺技の隙をつき、ペクに接近していくと、ペクはひたすらに自分に突っ込んでくるアフロディを嗤った。

 

 

 アフロディ(ラスボス)が無策で自分を狙っているのだと、他の選手に気が狂ったのかと思われてしまうような解釈を本気にしてしまった。

 

 

 ──一歩一歩、アフロディの辿る道に己の残像が残る。辿った過去を忘れぬように。先の未来を信じられるように。そんな願いと共に……。

 

「──ワンダートラップ

 

 アフロディがペクに向かって足を突き出した瞬間、何者かのスライディングでペクの足元にあったボールが消える。

 ペクはぽかんとしながら、即座にボールを奪った人間に目を向けた。そして、その人物を認識した瞬間、ペクは更に赤く燃えちぎった。

 

「このクソ神……ッ!」

「ああ、そうだ。その呼び方はやめてくれ。仮にも僕の仲間たちが君の対処を任せられると信じてくれた人間なんだ」

「黙れ! 何をしやがった……ッ!」

「……『ワンダートラップ』。残像を見せながら接近することで、相手を惑わす必殺技。一度成功したら次は読まれてしまうかもしれない諸刃の剣。まあ、ちょっとした手品みたいなものさ」

「……ッ!!」

 

 ペクがようやく自分がされたことに気がつく。

 子供騙しの簡単な仕掛けの技にこのペク・シウが騙された。

 ペクは顔面を真っ赤に噴き上げる。

 

「──ソク! アイツを止めろッ!」

 

 咄嗟に求めた相手はこのコートにいない。ペクの絶叫だけがコートに広がった。

 

「──ッ! 使えねぇ! もう誰でも良い! 早く止めろ! そのクソ神を止めろッ!」

 

 ペクの言葉に弾かれるように走り出したレッドバイソンのMFのうち二人がアフロディを挟み込んだ。だが、その動きにはどこかキレがなく。どこか苦しそうだ。

 アフロディは自身の手を頭上に掲げた。

 

ヘブンズタイム!!」

 

 アフロディを指を弾きいた直後、突風が敵選手二人を吹き飛ばす。

 

「僕は本当に恵まれていた……。円堂くんたちと出会わなければ、君と同じ道を辿っていたかもしれない。僕は彼らに救われた。だから……」

 

 アフロディが前線へパスを蹴り上げた。その先を走る一人の少年がボールの落下地点に入り込んだ。

 

「……だから僕は、君のことも信じているよ。灰崎くん」

 

 『“フィールドの悪魔”』灰崎凌兵が、ボールを収めた。

 

「フン、訳わかんねぇこと言いやがって……。良いぜ? 見せてやるよ。俺の新技『ペンギン・ザ・デビル』をなぁ!」

 

 ボールをトラップした瞬間、灰崎の足元を中心に深い黒を纏ったペンギンが地面から顔を突き出す。

 灰崎がボールを蹴り上げ、ペンギンと共に飛び上がる。

 

 そして、己の翼で灰崎を追い越し、ボールを狙う『もう一人』を見届け、アフロディは笑みをこぼす。

 神と悪魔、相反する存在であっても互いを信頼し合えるはずだと、アフロディは信じている。

 勿論、『神』とはアフロディのことではない。

 

「──このゴッドストライカー様を忘れてんじゃねーだろうなぁ!」

 

 『“ゴッドストライカー”』吉良ヒロトの声が下界の選手たちに降り注ぐ。

 灰崎の空に放ったボールを空中で収めると、翼を大きく旋回させ、吉良が足を振り上げる。

 吉良の収めたボールの下に灰崎が黒色のペンギンと共にオーバーヘッドの姿勢につく。

 ペンギンの纏う深い黒が鮮烈な白に侵食され始めた。その瞬間、二人の足が振り下ろされ──

 

ペンギン・ザ・ゴッド!!」デビル!!」

 

「……ッ!? ファイアーウォール!!」

 

 吉良と灰崎、神と悪魔。白と黒の極光が激しく拮抗しながらシンの護るゴールを進撃する。

 

「──……ッ!! 止めろッ! シン!」

 

「あああああああああああ────ッ!」

 

 ペクの理不尽な命令を聞くまでもなく、シンはこのシュートを止めにかかる。だが、途絶えることのない白と黒の光音の絶叫がシンの全身を驚倒させ続けている。そんな地獄のような状態に、シンは腕の力を緩めてしまった。

 

 ──悪魔と神はその瞬間を見逃さない。

 

「──ぐああああああああッ!」

 

 悪魔が己に甘える人間を徹底的に嘲笑うように。神が尽くさない人間に恩恵を与えることはないように。灰崎と吉良の放った凄絶の一撃がゴールを叩き割った。

 

 ピ────ッ!

 

 イナズマジャパンのリードを証明するホイッスルが鳴る。

 

「……ぁ……ッ、まだ……! まだだ! おい、シン! 何倒れてやがる! 早くボールを──」

 ピ────────ッ!!

 

 ペクの声と重なりながら、試合終了のホイッスルが鳴った。

 

 ◇◇◇

 

 

 

『ここで試合終了──ッ!! [3-1]でアジア予選第一試合を制したのは、『イナズマジャパン』だっ!!』

 

 ホイッスルが響いた瞬間、観客たちの歓声が明日人たちイナズマジャパンを包み込んだ。

 

「やったな。円堂」

「ああ! 優勝への第一歩、だな!」

 

 風丸と喜びを讃えあうと、円堂はベンチに目を向けた。すると、円堂のことを見つめていた豪炎寺と目が合う。

 円堂は拳を突き出し笑う。すると、豪炎寺も小さく微笑んだ。

 

「勝った……、──っ、勝ったんだ!」

「すごい! すごいです!」

「ああ! 本当にすごいよ!」

 

 明日人と坂野上が飛び跳ねながら喜ぶ。興奮で語彙力が著しく低下する二人に誰も突っ込む者はいない。

 そんなやり取りの途中、明日人はふと敵陣から歩いた戻ってくる灰崎と吉良を発見した。

 明日人はすぐに点を決めた二人の元に駆け寄る。

 

「すごいよ、二人とも! なんだよあの連携シュート! 俺、もう最初からゴールに入るまでずっとぽかんとしちゃっててさ!」

「「……」」

 

 灰崎と吉良が互いにそっぽを向いて、口を尖らせている。

 明日人は首を傾げた。

 

「灰崎? ヒロト?」

 

「……コイツがいなけりゃもっと綺麗に点が入ってたがな」

「おいおい、悪魔さんよ。テメー一人じゃ入るわけないからわざわざ手伝ってやったんだぜ?」

「──嘘ついてんじゃねぇ!」

「何だと!」

 

 また喧嘩が始まる。呆れ笑いを浮かべながら、明日人はそそくさとその場を後にした。

 

「あの二人、変わらないなぁ……。──あ! アフロディさん!」

 

 今度は、一人で相手のコートを眺めているアフロディが視線に入る。

 アフロディに手を振りながら近づくが、アフロディはこちらに気がつくこともなく、ただ一点を見つめていた。

 

「アフロディさん……?」

「うん? ああ、すまないね」

 

 その視線の先を覗いてみると、そこにはペク・シウと黒服の大人たち数人がもみくちゃになっているようだった。

 

「──ふざけんな! オレ様が負けるはずがねぇ! おい! 何掴んでやがる!」

 

 ペクの身体が黒服たちによって持ち上げられ、スタジアムの外へ運び出される。何が起こっているのかわからない明日人はそれをアフロディの隣で見ていることしかできなかった。

 

 アフロディはペクたちがコートの外へ行くのを静かに見届けると、目を閉じ、胸に手を当てる。そして、小さく頷いた。

 

 

 

 ──観客席の一角。

 不動は試合が終わったばかりのコートを眺めていた。隣では音無が他の観客と同じようにキャーキャーと飛び跳ねるように喜んでいる。

 

「すごいです! 私、感動しちゃいました!」

「まだ一回戦が終わっただけだ。勝って当たり前なんだよ」

「むぅ、不動さんは嬉しくないんですか! あんなにすごい試合をこんな良い席で見られて!」

「…………それはマネージャー(おまえ)の話だろ?」

「え……?」

「だとしたら今後、そんな発言は控えることだな。オレたちは感動する試合を観たくてここに来たわけじゃねぇ。オレはともかく、他の奴が合流して、それを聞いたらお前に何をするかわからない」

 

 音無が不動の言葉にハッとする。

 

「……すみませんでした」

「謝れなんて一言も言ってないだろうが。感動するしないはお前の勝手だ。発言だけ気をつけろって話」

 

 そう伝えると、不動が客席から発った。それを見た音無もまた、不動を追いかけるようにスタジアムの客席を後にする。

 

「……そういえば、アイツらは着いたのか? 若干距離が遠いから早めに声を掛けさせたが」

「あの四人ですか……? 一人からは北海道から東京に何度も往復するのは親の許可が取るのが面倒、とだけ連絡が来てて……、他の三人もうかなり前から学校に寝泊まりしています。あの三人いつも、早くグラウンドを使わせろ、と私と水神矢さんに言ってくるので疲れるんです……」

「……やる気がありすぎるのも考えものだな」

 

 そんな会話をしながら、不動と音無はスタジアムの外に待ち合わせた自動車の後部席に乗り込む。

 

「行き先は学校まででいいか?」

 

 男が不動に尋ねる。

 

「いや、今日立ち入りのアポを音無が取ってあるとこがいくつかある。とりあえず『雷門中』まで、頼んでもいいか?」

「ああ、わかった」

 

 男が頷き、アクセルを踏んだ。

 音無はじーっと運転をしているその男のことを懐疑の視線で見つめている。

 

「本当に送迎してくれるんですね……。あなたの立場が立場だからびっくりしました……」

「「…………」」

 

 音無の言葉を男と不動は無視。

 「似た者同士過ぎませんか!?」と喚いている音無をガンスルーして、不動はイヤホンを耳につけ、窓の外に目を向けた。

 

(さて、どうなるかな……)

 

 ──『反逆の波』が、ゆっくりと流れを加速させ始めた。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ──試合後日。

 昨日と同じような晴天の日だった。夏の晴れの日ということもあってか少し外にいるだけで昨日と同じような息苦しさを感じる。

 激しい戦いを制したばかりかつ、その日の特訓を終えたばかりのイナズマジャパンの面々はまだ疲れが残っているようで、全員がぐったりとロビーでくつろいでいた。

 そこに明日人と一星がタブレット端末を持ってエレベーターを降りて来た。

 

「すごいよ、みんな! 俺たちのことがもう記事になってる!」

 

 すると、選手たちが本当に疲れているのかわからないくらい俊敏な動きで立ち上がる。

 灰崎が明日人の持つ端末を覗き込むが、よく見えないからと言って奪い取った。

 

「灰崎のはもう少し下、『日本に新たな革命(かぜ)。イナズマ☆ゴッド&デビル』だって!」

 

 明日人の言葉に焦りながら、二人は自分の名前のある記事を探す。そして、発見した記事には

 

「ハァ!? なんで一括りにされたんだよ!」

「意味わかんねぇ! 俺様は『“ゴッドストライk──」

 

「──あのう!!」

「…………あ?」

 

 大声がロビーの時入り口からイナズマジャパンの鼓膜に届いた。

 吉良の間抜けな声に続くように、全員がロビーの入り口に視線を向けた。

 

「ア、アフロディさんにお客様がいらっしゃってますー……」

 

 そこにいたのは李・子文。さらにその後ろには誰かがいるらしく、子文が扉の迎え側で手招きをした。

 アフロディはソファから立ち上がると、入り口に歩く。それに続くように何人かの選手が入り口に集まり、その人物が現れるのを見守った。

 

 そして、入り口に現れたのは肌色のジャケットを羽織った同い年くらいの少年。側面を刈り上げた青髪、頰の辺りについたそばかす、細身ながらがっちりとした立ち姿。

 圧倒的既視を感じるその者の正体に気がついた者たちが、続々と口を開けて硬直する。それを見たメンバーたちも続々と入り口に集まってその人物の正体を知りに集まってきた。

 

「──お久しぶりです。皆さん」

「…………ソク、くん?」

 

 韓国代表『レッドバイソン』キャプテン、ソク・ミンウにがそこにはいた。

 

 アフロディは予想もできていなかったまさかの客人、ソクにアフロディは呆気に取られながらもソクの名前を口から溢した。

 すると、ソクは申し訳なさそうに俯いて、再びアフロディの目を見た。何か重大な決意をしたかのような表情にアフロディは首を傾げる。

 

「よければ……、先に外で二人で話せないかな? 亜風炉くん」

「え? ああ、構わないけれど……」

 

 アフロディは円堂に視線を送る。円堂はウインクをしながら親指を立ててくれた。アフロディはそれにフッと笑い、ソクと共にロビーを出た。

 

 アフロディのいなくなったロビーがざわざわと騒がしくなる。

 

 そんな中で、明日人は数日前のことを思い出していた。

 そして、ニヤリと小さく笑うと、隣に立っていた氷浦に話しかける。

 

「氷浦が呼んだの?」

「……? ……あーなるほど?」

 

 何かを察したかのようにやれやれと息を吐き、氷浦が軽く咳き込む。

 

「こほん、実はな……、俺が呼んだスペシャルゲストでーす♪」

「ぷふッ──」

 

 氷浦が明日人のボケに乗っかり、監督の真似をした。明日人はまさか氷浦が乗ってくれるとは思っていなかったせいで、失笑してしまったのだった。

 

 ◇◇◇

 

 

 

「二人で話したい……って、どうかしたのかい?」

 

 合宿所から離れ、湖のほとりに座る二人。勿論他には誰もおらず、ここなら良いだろうと、アフロディはソクに問うた。

 

「帰国の日時が決まったから、昨日の試合について早く謝りに行こうと思って来たんだ……」

「え……っ?」

 

 ソクの言葉にアフロディが驚く。アフロディの記憶では、ソクは反則プレイをしていないはず、それなのにどうして──

 

「──それにペクのこと。君には話しておかないとと思って」

「…………ペク・シウ、だね」

 

 アフロディの双眸に影が掛かる。

 

「ああ……。実は試合が終わってからずっとアイツと連絡が取れないんだ。ドンヒョクたちに聞いても、繋がらない。って」

「……! 本当かい?」

「本当だ。正直、ここに来たのももしかしたらここでペクが迷惑かけていたりするんじゃないか……って、少し期待してたくらい」

「…………」

 

 アフロディは黒服たちにペクが連れて行かれるのを目撃した。それがもしかしたら取り返しのつかないことだったのかもしれない、と、己の行動を悔やむ。

 ソクがそんなアフロディの表情に気がついた。

 

「……ごめん、君に気を遣わせるつもりはなかった。本当に、ただ謝りにきただけなんだ」

「……」

 

 二人に無言の間が生まれる。

 ソクが手元に転がってあった小石を掴み、湖に放り投げた。小石はぽちゃり、と音を立てて水面に沈んでいく。

 

「アイツさ……、すごく強いんだよ。それでいて、キャプテンの俺よりみんなを引っ張ってくれてさ……。本当に頼りにしてたんだ」

「……そうなんだね」

 

 ソクとペクの関係、アフロディは昨日のペクのことを思い返す。

 

「…………だから、裏切られた時はすごくショックだった。こんな奴だったのか、って思った」

 

 結局、試合で見せたあの暴君のようなペク・シウも人としての彼の一面に過ぎなかったことをアフロディは知る。

 そして、ますます自分にペク・シウを重ねてしまう。アフロディもそうだった。仲間の先頭に立ち、皆をまとめ上げ、敵を叩きのめす。そんな選手だった頃がアフロディにもあった。

 

「ソクくん」

「……? どうした? 亜風炉──」

「──“アフロディ”と呼んで欲しいな」

「そっか。どうした? アフロディ」

 

 アフロディが口を開くのを躊躇う。拒絶されても仕方がないような提案を、アフロディはしようとしているから。

 ソクが疑問そうにアフロディを見た。アフロディが口を開く。

 

「また、ペク・シウと会ったら……、どうか、もう一度だけ、彼を信じてあげてはくれないかい……?」

「え……?」

 

 アフロディは立ち上がり、ソクの隣から数歩だけ距離を作った。

 そして、自分の片手に視線を落としながら、ソクに話す決心をした。

 

「──実は、僕もペク・シウと同じだったんだ。かつて彼と同じように罪を犯して、沢山の人を傷付けた」

「君が……?」

 

 今のアフロディからは想像もできない事実にソクが目を見開く。

 そんなソクの表情に、アフロディは複雑そうに微笑んだ。

 

「……でも、そんな僕や僕の仲間のことを止めてくれた人たちがいた。だから罪を償うチャンスを得られた」

「……」

「だからと言って、そう簡単に僕の罪は償えるものじゃない。世間から非難を浴びせられ、二度と試合には出られないとすら思った……。でも、僕には信じられる仲間がいた」

「仲間……」

「ああ、同じ罪を犯した仲間。君たちとは状況が違うけれど、僕にとっては仲間だけが唯一残った大切なもので、かけがえの無いものだったんだ」

「…………」

「仲間との信頼の大切さを僕はこの一年で知った。互いに信頼し合って、支え合って、自分たちを鍛え直した。辛かったけど、信頼する仲間が笑ってくれたから、立ち上がって前に進むことができた。……もう道を踏み外すわけにはいかない、って思えた。そんなどうしようもなかったはずの僕だから、彼の気持ちがわかるんだ。だからこそ、君にお願いしたい……」

 

 アフロディが真剣な表情でソクの双眸に今一度視線を置く。

 

「──彼を信じてあげてはくれないかい?」

「……!」

 

 やはり無茶苦茶な提案だった。と、頭を下げるアフロディは思った。いくらなんでも、アフロディたち『世宇子中』のように全員が共犯者という訳でもない中で、信じてくれ、だなんていくらなんでも話が都合よ過ぎていて、飛躍し過ぎていた。

 

「…………」

 

 ソクが黙り込む。頭を下げ続けるアフロディは目を閉じた。

 そもそもソクはペクの被害者。被害者が直接の危害を加えてきた加害者を信じるだろうか。ありえない。きっとアフロディがその立場になっても絶対に納得しないだろう。

 すると、ソクがアフロディの肩に手を置いた。

 

「……当たり前だ」

「──!」

 

 アフロディが驚いて、顔を上げた。

 ソクは立ち上がると、口角をニッと上げ、自分の手で空を握りしめる。

 

「俺は、絶対にペクを見つけ出して、改心させて、そっからまたみんなでサッカーをする。……そうでなきゃ、あんなクズに初めから心配なんてしていないさ……!」

「……! ……確かにその通りだね」

 

 ソクの心の強さがアフロディを癒す。何故だか零れ落ちた透明な涙を拭い取り、アフロディは笑った。

 

「──きっと、叶うよ」

「……! ああ……!」

 

 アフロディの言葉にソクが力強く頷いた。

 

「そうだ──! アイツが帰ってきたら、イナズマジャパン(キミたち)にリベンジさせてくれ! 次は俺たちが勝つから……!」

「ふふっ、僕たちは負けないよ?」

「お、言ってくれたなぁ?」

 

 ソクはアフロディの挑発的な笑みに対して、ニヤッと笑う。そして、もう一度、小石を拾い上げ、それを湖に投げた。

 小石がぽちゃり、と音当てて再び水面に沈む。

 ソクが少し大袈裟に頭を抱えて悔しがるそぶりをした。

 

 それを真似るようにアフロディが足元にあった小石を放り投げた。

 すると、小石は、水面を跳ねて、跳ねて、跳ねて、跳ねて、跳ねて、跳ねて……、──偶然通り掛かったボートの中に収まってしまった。

 

「「…………」」

 

 アフロディとソクが顔を見合わせ、目をしばたかせる。

 直後、小石を虫だと勘違いした女の絶叫が湖の外まで響き渡る。その瞬間、二人は思わず吹き出してしまった。

 

「ははっ! 何今の!」

「あんな叫び声、試合中にも出さないね! あははっ!」

 

 笑い声が広がり、周囲の視線が二人に集まる。

 二人はそんなことにも気が付かずに涙を流すほど笑い転げていた。

 

 

 いつの間にか夏の日の息苦しさが和らいでいた。

 

 




『ワンダートラップ』
→アフロディの風属性ブロック技。天馬のと同じ技。既にアフロディは大分応用させてるから、アフロディ版のイナビカリダッシュみたいな枠になるかも?


 この作品をお気に入りに入れてくださったり、毎回読みに来てくださったりしてくれた読者様方、マジで感謝です。ありがとうございます。今後も自分なりに工夫しながら書かせていただくので、よろしくお願い致します。

 今日の夜だか明日の朝にもう一話だけ出します。時系列的には試合前の話です。よろしくお願いします。
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