雷陽と黒龍   作:久遠れもん

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 ──彼女の手記。

 彼らは仲間じゃない。
 もう二度と、皆で歩むことはない。

 でも、きっと心の奥底で、彼らは繋がっている。




反逆の波(リベリオンウェーブ)①】『“孤高の反逆児”』

 

 あの日から、刺激を探している。

 

『──以上が、『イナズマジャパン』だ』

「やった……! やったぞ……!」

「良かったな、佐久間」

「ありがとう源田! これでやっと──」

 

 あの瞬間(とき)から、刺激を探している。

 自分の闘志を燃やし、その名を轟かせられる──。

 

「ま、頑張れよ。佐久間クン?」

「フンっ、お前に言われるまでもなくだ……!」

「……あっそ」

 

 そんな、国を揺るがすほどの『刺激』を探していた。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 夕日が赤く照る頃、その日の部活が終わり、不動は自分が住まわせてもらっているアパートへの帰路についた。

 キャプテンである佐久間次郎と『強化委員』の風丸一郎太が日本代表に招集され、一時的に源田が活動を取り仕切るサッカー部は、中々に締まりがない。

 過ぎていく日々の生活にどこか焦燥と退屈を感じながら、河川敷を歩く。

 

 ──『日本代表になれなかった敗者大勢の一人』

 

 不動のことを第三者が評するならこうだろう。

 数日後には『イナズマジャパン』のアジア予選第一試合が始まる。

 そんな中、かつての栄光が消え去った『帝国学園』、そして、不動明王を見てくれる存在なんているはずがない。

 『“孤高の反逆児”』は何にも抗うこともなく、この時間の波に押しつぶされる。そんな残酷な予感が不動を毎日のように固く締め付けてくる。

 不動は手に持っていたボールの入った網を蹴り飛ばした。

 すると、その衝撃で少し腕が揺れ、網が手から離れる。

 不動はそれを別の手で即座に掴み取った。

 

「このままじゃ終われねぇ……」

 

 漠然と『代表選考会』の時からずっと考えていた。

 不動はその場にしゃがみ込み、首の裏を掻きながら息を吐く。

 

「でないと、お前らにも……、会わす顔がねぇな……」

 

 とは言っても、不動には何もできない。

 

 日本代表になれば良いじゃないか。

 確かに日本代表には追加選手の枠があるらしい。だが、『天才ゲームメーカー』鬼道有人と『“戦術の皇帝”』野坂悠馬のいるチームで不動のような捻くれた性格の指導者は必要とされないだろう。

 なら、日本代表の座を奪い取るか?

 いや、それこそ不可能だ。不動明王という『帝国の無名選手』が、そんな信用のできない評判を看板に貼り付けても人は集まらないだろうし、そもそもどうやって『イナズマジャパン』に挑む舞台を作るのか、という話だ。

 

「あーあ、どっかにパイプ広くて仲間集められる奴と、日本代表に口出しできる奴いねぇかなー」

 

 半ば八つ当たりのような発言だったが、不動は、確かにその言葉通りの都合の良い存在を探し求めていた。

 そんな者がいるかはともかくとして、だが。

 

 静かな街道で不動は立ち上がると、再び足を運び始めた。

 耳に入るのは、烏の鳴き声と隣を過ぎ去る車の音。たまに知らない老人が声をかけてくれるが、軽く礼をするだけですぐにその場を離れる。

 そんな静寂の雰囲気の中──、

 

 

 ──プルルルルルルルルル!!

 

 

 不動の肩に提げられていた鞄の中から、携帯の着信音が鳴り響いた。

 夕刻の静寂を鋭く割いたその音によって、一斉に周囲の目がこちらを向く。

 

(クッソ、めんどくせぇ……!)

 

 不動はすぐに鞄のジッパーを開け、手を突っ込むと鞄の中を(まさぐ)る。

 そして、携帯を取り出すと画面に映された番号を確認もせず、電話に出た。

 今の不動に来る電話の着信なんて、ほとんどが源田からの連絡のみ。そのため、不動は勘違いに気がつくことなく電話に出た。

 

「オイ、源田! 俺がまだ帰ってる途中って知ってるよなぁ! 連絡なら後か明日に──」

『──残念だが、私はお前の言う人物ではない。不動明王』

「──……!!」

 

 不動は携帯越しに自分に語りかける人物に驚愕する。

 そして、

 

「……へぇー? まさかアンタの声をまた聞くことになるとはな。色々と大変なんじゃねぇのか?」

『御託はいい。本題から入ろうか。『“孤高の問題児”』不動明王』

「──“反逆児”だ!」

『……どちらでも良いだろう。そんな二つ名如き』

「(お前が間違えたんだろうが…………)」

 

 不動が携帯に音が乗らないようにボソリと言葉を吐く。すると、携帯越しに相手が、ゴホン、と咳き込む声が聞こえた。

 

『改めて、本題から入ろうか。不動明王』

「名乗らねぇのかよ」

『お前は私を知っているのだろう? ならば、自己紹介など非効率。お前はそう思わないのか』

 

 確かにそう思いがちなタイプではあったが、一対一で相手側からそんなことを言われたのは初めてだったため、少し驚かされた。

 

『……不動明王。『イナズマジャパン』の座を奪い取れ

「……!! 『奪い取れ』だあ……!?」

 

 不動は携帯越しの声から聞かされた提案に驚く。

 だが、そんな不動の様子を気にも留めず、その声は更に言葉を続ける。

 

『お前の実力を見込んでの話だ。同じ目標を掲げる仲間を集め、『イナズマジャパン』を討ち倒せ。そうすれば、代表の座は、お前と集めた仲間たちのものだ』

「──待て。いきなりそんなことを言い出されて、俺がお前を信用すると本気で思ってんのか? 大体お前は──」

『──ならば、この話は忘れろ。お前の代わりになる選手はいる』

「……!!」

『愚かな真似をするなよ、不動。この選択がお前の今後を決める』

「…………」

 

 あの日から、何度も何度も思ってきた。

 日本中に不動明王の名を確実に広める方法。つまり、『イナズマジャパン』への加入。そんな手段はないと、諦めようとしてきた。

 

 ──不動さん!

 

 不動の脳裏に映るのは、自分を呼ぶ仲間の声。

 揃いも揃って笑顔で、俺を呼ぶ声。

 

 ──キャプテン!

 

 不動は他人を信用しない。

 

 そんな自分のした唯一の約束を、果たすことのできる最後のチャンスかもしれない。

 

 選択を悩む不動の目先を流れる河川が、不動に決意を固めさせた。

 

「…………ああ、やってやる……。やってやろうじゃねぇか……! 俺は『“孤高の反逆児”』! 俺以上の適任はいねぇ!」

『……そうか、期待している……』

 

 言葉を述べる声が遠くなる。

 

「──オイ! 待て!」

 

 不動は、電話を切ろうとした声の主に静止をかけた。

 声の主は黙り込み、不動の要求を待つ。

 

「……最後にいくつか質問をさせろ」

『構わない』

「なら一つ目、『イナズマジャパン』との勝負はどうやって取り付けるつもりだ?」

『奴らが勝ち進めば、その機会が訪れる。明確な日にちは後で送ってやろう』

 

「……二つ目、誰が監督になるんだ」

『──私だ』

 

「……!! わかった。じゃあ最後、三つ目、俺だけじゃ十一人以上も集まらない」

『……自分のような『無名選手』を看板に掲げたところで誰も乗るわけがないと?』

「……ッ! ……そういうことだ」

 

 不動は思わぬところで叩きつけられた第三者の評価に苦しげな反応を示したが、間違いなどどこにもないため、渋々その評価を受け入れた。

 

『……わかった。ならば、人脈作りに長けたマネージャーを一人送る。これで良いか』

 

「ああ、助かる。だが、どうやってソイツと合流するんだ」

『私があとでお前に連絡先でも教えればいい。それか……、数日もすれば『イナズマジャパン』の第一試合が『FFスタジアム』で行われるのは知っているな』

「ああ」

『なら、会場まで観戦に行け。二人分の席くらいなら用意してやろう』

「前のと後の両方頼むことは?」

『良いだろう』

「……おー、まじか太っ腹だねぇ」

『…………』

「もういいぜ? 全部納得した。俺がイナズマジャパンをぶっ倒してやるよ」

 

『そうか。私はお前に期待しているぞ。不動明王』

 

「おう、とっととどっか行──、け……。話の途中だろうが……」

 

 不動が通話の切れた携帯を鞄に仕舞う。

 そして、不動は口角を吊り上げた。

 

「……あははははははッ! まさか本当に見つかっちまうとはなぁ!」

 

 通行人が、突然高笑いをしだした不動から目を逸らしながら、不動に道を開ける。

 完全に不審者扱いを受けていることに気がつくこともなく、不動は笑う。

 

「鬼道有人! 円堂! 豪炎寺!」

 

 到底敵うことのないと思っていた男たちの名を高らかに叫ぶ。

 伝説の選手たちを超える今までにないチャンス。不動明王の名を轟かせるまたとない最初で最後のチャンス。

 こんな最高の機会を逃す訳にはいかない。

 不動が更に口角を上げる。

 

「楽しくなってきたなぁ! 佐久間!!」

 

 ここにいないキャプテンに向けた不動の叫びが夜空に轟いた。

 

 ◇◇◇

 

「今のは……、確か、『フットボールフロンティア』直前に『帝国学園』に転入してきたっていう……、不動明王、だったっけか?」

 

 偶然、不動とすれ違った眼鏡の男が振り向いた。

 『帝国学園』。数十年にも渡る無敗の歴史が、ここ数年で反転しつつある『元・最強』のサッカー名門校。

 男は顎に手を当てる。

 

「“反逆児”……運命に抗う者(レジスタンス)……、なんてね。……うん。代表の試合も楽しみだけど、『帝国学園』もいつか取材に行ってみたいなぁ……!」

 

 男は、アジア予選に持ち込む予定のカメラ一式が入った鞄を提げ直すと、宿泊予定のホテルへ急いだ。

 

 日本のサッカー界の新たな『革命』の波を求め、数日後に始まる試合に思いを馳せながら。

 





 【反逆の波(リベリオンウェーブ)②】『“熊殺しのアツヤ”』
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