この章は結構、構成で冒険してみています。
※過去捏造あり
鬼道有人のいなくなった帝国は、静かだった。
影山がいなくなり、世宇子に敗北し、鬼道は帝国を去った。
俺は帝国の新たなキャプテンに任命され、翌年の『フットボールフロンティア』の優勝を新たな目標に掲げ、帝国イレブンは再スタートを切った。
全員が今までの自分たちを鍛え直した。
『皇帝ペンギン二号』等の既存の必殺技の改良。一人一人の技術向上。新たなタクティクスの研究。
俺も、様々なことに挑戦した。
そんな日々を過ごすうちに四月に入った頃、一件の練習試合の申し込みが、俺たちの元に入ってきたんだ。
◇◇◇
『強化委員』である風丸に呼び出され、帝国学園のサッカー部員達がミーティングルームに集められた。
佐久間が静止を呼びかけると全員が、敬礼と共にその場に直立する。
佐久間ような常識人たちも違和感に感じていない帝国特有の異様な風習に苦笑いしていた風丸が、わざとらしく咳き込んだ。
「今日、集まってもらったのは他でもない。練習試合の誘いを受けた」
「「「……!!」」」
帝国学園の一軍メンバー達が驚きを露わにする。
今まで影山が練習試合を組んでくることはあったが、相手側から挑まれることは中々なかった。影山の手引きだったのか、帝国が『最強』の二つ名を持っていたからか、今となってはわからないことたちが、佐久間たちの所属する現在の帝国の立場を示していた。
「……どこからだ? 風丸」
いつにも増して気迫に満ちた源田が風丸に問う。
風丸がモニターを切り替えた。佐久間たち全員の目が見開いた。
見慣れない黒のユニフォームによく見慣れた赤のマント。
自分たちの弱さで、追い込んだ。
自分たちの弱さで、置いて行かせてしまった。
そんな男。かつての帝国に歩む道を示し続けてくれていた、佐久間の知る『最強』。
モニターに映されていたのは、鬼道有人。
「──『星章学園』。それが、今度の練習試合の相手だ」
(『天才ゲームメーカー』。今は、『“ピッチの絶対指導者”』だったか……)
そんなことを佐久間が考えていると、他方から挙手する者が出た。
「すみません、星章学園……って、どこなんですか?」
「私も同意見です。ククク……」
成神と五条の問いに風丸は頷き、答える。
「……『“フィールドの悪魔”』。お前たちは知っているな?」
佐久間は、隣の源田と顔を見合わせた。
「何って……、あれだろ? 今年になって噂が出回り出した都市伝説の」
「ああ、まだどこも数回しか練習試合を始めていないのにそんな噂が流れ出して、珍しいなとは思っていたが……」
佐久間と源田の答えに風丸が口角をニヤリと上げた。
佐久間はそんな風丸の態度に疑問に思いながら双眸を瞬かせる。
「『“フィールドの悪魔”』は実在する。それも星章の新入生だ」
帝国の選手達がどよめく。
当然だ。『“フィールドの悪魔”』は噂によると一試合ごとにハットトリックは当たり前の凄腕FW。そんな選手が実在すると言われ、納得できないのは当然だ。
そんな全員の反応を予知していたのか風丸がもう一度モニターに映る画像をきりかえる。
映し出されたのは、銀髪褐色の赤瞳の男。
(コイツが……!)
「『灰崎凌兵』。奴が『“フィールドの悪魔”』であり……、星章のエースストライカーだ」
よく画像を見ると、佐久間たちの知らないペンギンが映っていた。
ペンギンを見て、佐久間たちが思い浮かべる人物は、もちろん鬼道しかいない。
「なるほど……、鬼道が『“フィールドの悪魔”』を作ったのか……」
「確定ではないが、恐らくな。だが決して油断はするなよ」
「ああ、もちろん」
佐久間が頷く。それに続くように全員が納得した様子で応えた。
そして、佐久間は立ち上がった。
「みんな、聞いてくれ!」
佐久間はモニターに背を向け、部員達に話を始める。
風丸は、自分には理解できない話だと察しとったのか、特に口は出さない。
「……俺はこの練習試合、勝って当然だと思って挑む。それをお前達に強要するつもりはない……。だが、これだけは言わせてくれ……」
佐久間は、皆にこの想いを届けることが出来るよう祈りながら、息を吸った。
「俺は取り戻したい……! 世宇子にやられたあの日からずっと、俺たちが無くしてしまった帝国の意思を! プライドを! ──俺たちならもう一度頂点に返り咲ける……!」
「「「おおっ!!」」」
この時の佐久間は知らなかった。自分達の実力、自分達の立場。出来るはずがないと心のどこかで思っている自分にも気が付かず、そんな幻想を語る程に佐久間は盲目だった。
──惨敗。
手も足も出なかった。
前半は、確かに戦えていたはずだ。
相手のシュートを源田が止め、行けると確信した俺たちのペースだったはずだ。
だが、後半。鬼道がコートに立ってから、全てが逆転した。
鬼道の指揮によって、FW陣の連携によって灰崎の個人技が限りなく最大に発揮された。
そのせいで、連続失点。灰崎の必殺技に源田とDF陣がやられるのを眺めていることしかできなかった。
「何なんだよこれ……!」
「俺達……、『帝国学園』だぞ……?」
「俺がもっと強ければ……!」
佐久間は何も言えずにその場に立ち尽くす。
「違う……こんなはずじゃ……、何で……ッ」
膝をつく風丸の言葉が、佐久間の胸を深く抉り取った。
自分たちは、『帝国学園』を終わらせた張本人であると、自分たちは最強などではないのだと、自覚させた。
『帝国学園』VS『星章学園』第一試合終了。
[0-12]で、『星章学園』の勝利。
「……良くやったな。灰崎」
佐久間の視界の端に鬼道が灰崎に声を掛ける様子が映った。
「『良くやった』……? どこがだ……!
灰崎の憤怒の言葉。
それを聞いた瞬間、佐久間は理解させられてしまった。
「……ぁ、──」
咄嗟に口を手で覆う。
口にしてしまえば、認めてしまうことになる。
鬼道に甘えていたのだと、
それが、佐久間にできる最後の抵抗だった。
── 『帝国学園』VS『星章学園』第二試合について。
両校顧問である安西と久遠の合意の元、第二試合以降は中止。各校それぞれで本日の練習試合の解散を生徒達に伝えることを決定。
星章のゲスト用のロッカーに反射して、自分の姿が見えた。
情けなく息を切らしながら、膝に手をついた自分の姿。敗者のポーズを他人に晒す情けない自分の姿。
そんな自分が嫌になって、着替えてすぐにロッカールームを出た。
(帝国学園は、まだ戦える。証明してやる……!)
それが、佐久間の新たな指標。帝国が歩むべき道。
「──鬼道有人がいなくても、帝国は戦える」
その言葉は、決意と葛藤を含む歪なものだった。
◇◇◇
──数ヶ月後。
帝国学園の薄暗い廊下を佐久間と源田が歩いていた。
佐久間も源田もそれぞれが管理する秘伝書にある必殺技の特訓を始める前であったため、少しピリピリとした空気が互いに流れている。
「予選大会ギリギリとは……、時間が掛かったな」
「あんなことがあった後だ。学校側も慎重に選んだんだろう」
自動ドアが開き、二人はミーティングルームに立ち入った。
「新監督……、期待していいのか?」
「さあな」
既に何十人もの部員達が既に着席し、待機をしている。そして、全員がこちらに気がつくと、全員同時に敬礼をした。
最近部活に中々顔を出していない風丸から、『新しい監督を見つけた』とだけ連絡が届いた時は驚いたが、いざ対面というこのタイミングに来ると、緊張も然程感じない。
結局、監督は監督でしかない。実際にプレイするのは自分達だ。
佐久間はそんな思考を抱えながら、源田と共に段差を下りていく。
「もう揃っているのか」
「はい、全員います」
源田の言葉に、二人を迎え入れるように立ち上がった成神が答える。
佐久間はそれに続くように問いを投げかけた。
「今日は集まりが良いな?」
帝国学園サッカー部は百人以上の部員を抱えているというのに一軍以外、まともに試合が組まれることがない。そのため、二軍以下の生徒達はミーティングに出席する理由がなく、キャプテンのはずの佐久間も顔を覚えきれていないほど、滅多に顔を見せない者が多い。
「なにしろ新監督が来るんですから、みんな注目しているんですよ!」
「直に『フットボールフロンティア』も始まりますしね」
洞面、万丈が佐久間にそう答える。その二人の奥で、大野は一人前方の席を見ていた。そして、指を刺しながら佐久間に問う。
「──それより佐久間、アイツ誰だ?」
大野の問いを聞き、前列の席を見てみると確かに後ろから見てもかなり奇抜なモヒカン頭の後頭部がはみ出ている。
「ん……?」
佐久間はその者の元まで段差を下り、その者に尋ねた。
「お前、誰だ──?」
一瞬の静寂。
すると、その男は期待外れだと言わんばかりに目を閉じた。
「……さぁな?」
舐められている。ここまでの態度を取られて気がつかない人物はいないだろう。
佐久間はそう思いながら、自分の記憶を辿るが、やはりこの者の記憶はない。
「お前! キャプテンに失礼だぞ!」
「──キャプテン? コイツが?」
帝国の一軍メンバー達が偉そうなこの男に次々とそれぞれの意見を繰り出す中、一人が佐久間に訪ねた。
「佐久間さんも知らないんですか……? てっきり後で教えてくれるものだとばかり」
佐久間がもう一度記憶を巡らせるが、やはり見つからない。この男は一体何者なのか。安西先生の連絡忘れではないか。
そんなように思いながら、顎に手を当てた。
「いや、俺は聞いていないな……」
「──俺もアンタがキャプテンなんて聞いてねぇよ?」
「……!」
途端に佐久間の視線がキッ、とその者に向けられた。
「鬼道がいないせいで、大した実力もない奴がキャプテンに抜擢されたんじゃねぇか?」
「何だと……!!」
前のめりになった佐久間を源田が腕軽く上げながら抑えた。佐久間はそれにより一瞬だけ、湧き上がった怒りを抑制することができた。
この者は何者で、何が目的なのか。なんであっても自分と合うことは一生ないだろう、とこの時点で断言できる。
そんな佐久間を無視しながら、その者は席から立ち上がり帝国イレブンに言い切った。
「──甘っちょろい気持ちでサッカーやってる奴らが、仲間だ何だとベタベタしてんのを見てると反吐が出るんだよ」
『不動明王』。己の天敵でもある彼との出会いが、佐久間の運命を変えることになることを佐久間自身、まだ気がつくことはない。
……
…
◇◇◇
…
……
『イナズマジャパン』合宿所敷地内。普段の特訓で使用しているスタジアムから離れた高台のミニコートに佐久間はいた。
「……は……っ、ぁ……はぁ……」
息を切らしながら、佐久間は再び指を口に運び、指笛の構えを取る。
──お前だけの『回答』。それを見つけた時、お前は改めて“『イナズマジャパン』のストライカー”になれる
耳の奥を反響し続けるのは、先ほどたずねた豪炎寺の言葉。
『これ』が完成したら、きっと届く。鬼道に認められ、豪炎寺を超える。そんな『回答』が、手に入る。
傷だらけになった脚を見つめて、佐久間は再び覚悟を決める。
(今度こそ──!)
息を吹こうとした。その瞬間──
「──佐久間次郎」
ふと耳に入ったのは、自分の名を呼ぶ声。
怪訝な声の主は、知られてはいけない物を見られた子供のように慌てて振り向いた佐久間に怪訝な表情を見せた。
「な、何か俺に用ですか……? 久遠コーチ」
声の主、『久遠道也』が現在佐久間が一人きりで使用するコートに進入すると、佐久間は小さく警戒を露わにした。
「用というほどでもない。もうすぐ朝のミーティングが始まるから呼びに来てやっただけだ」
(……意外と優しいよなこの人)
佐久間が安心して息を吐くと、久遠は更に口を開いた。
「──今の技は新技か?」
「えっ? あぁ、はい。新技というか……、改良中って感じでしょうか」
「改良?」
「はい、元となる必殺技の秘伝書を洞面と成神──、
「ほう……」
久遠が佐久間の言葉に顎に手を当て、佐久間の双眸を見つめた。
その威圧感に佐久間の背筋が自然と伸びる。
(何だ? この違和感……)
そんな佐久間の感覚を貫くように、久遠が言葉を発する。
「──それが、先程の絶叫と、その食いちぎられた脚に関係しているのか?」
「……!!」
図星。言わなくても分かるほどに佐久間の目が見開かれる。
佐久間は縋るように久遠の双眸を見つめた。
「やめろとは言わない。だが、お前は『イナズマジャパン』のメンバーだ。離脱するようなことがあれば他の者達は……」
久遠も指導者の端くれ。この少年の可能性を潰すような真似はできない。だが、一切佐久間のやり方を強要するつもりもない。
その旨を伝えたつもりだった
「……大丈夫です! 次の試合までにこの技は改良が終わって、身体への負担もなくして……、鬼道と共に並びたってみせます!」
佐久間のその表情は、久遠にとって信じられないものだった。
そして、久遠の瞳に失望が映る。
「……お前が良いなら、私からこれ以上何かを言うことはない。……決して忘れないように」
「ありがとうございます久遠コーチ……! 御期待に沿えるよう全力を尽くします」
この技が自分にとっての『回答』になると、佐久間は信じているからこそ、他の『証明』の手段に気が付かない。
佐久間が急いで走り出し、石階段を駆け降りる足音が辺りに鳴る。
取り残された久遠がため息を吐いた。
「意志は弱いが、思いは強い……。……確かに、これはかなりの問題児だな」
久遠はそんな小言を日の昇り出した空に語りかけた。
風丸の闇堕ちっぽい描写はアレスの天秤意識ですね。紛らわしかったかも。