雷陽と黒龍   作:久遠れもん

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 二つ名あるのかな。調べても出なかったから自分で考えたけど……。あ、短いかもです。



『“撃滅の氷華(エイリアガール・マイオウス)”』

 

 『永世学園』。吉良星二郎の運営する私立中学で、私のような『お日さま園』の孤児達の多くも通っている学校。

 

 休み時間開始のチャイムが鳴り、私は軽く息を吐きながら脱力した。数学は嫌いでも好きでもないが、一問一問に時間がかかるから疲れてしまう。

 

「──クララ!」

 

 突然、ひょこっと机から紫の頭が飛び出してきた。一瞬の出来事だったが、私を驚倒させるには充分なほどの衝撃で、思わず椅子の上でよろけてしまう。

 そんな私を面白がるように笑いながら私の眼前に立ち上がったのは、数学で使用したばかりであろうノートを手に持ちながらクラスメイトで、私の幼馴染である『凍地愛』。

 まあ、この学校は幼馴染がほとんどなのだが、そんなことは関係ない。

 再び凍地に目をやると、何か言いにくそうにもじもじとしている。

 

(あー、そういう……)

 

 違和感も感じられなくなった自分と相変わらずな凍地に対して、私は思わず呆れ笑いを浮かべた。

 今更思えば、数学の直後に凍地が話しかけてきている時点で気がつけたはずだった。

 

「数学やるなら図書館行く?」

「えーっ! ホントに!? ありがとうクララ!」

「そういう演技良いから、行こ」

 

 あからさまに表情が明るくなった凍地に適当な返答を返しながら私たちは教室を後にした。

 

 廊下を歩く私の隣を凍地が軽い足取りでニコニコと並び歩く。

 この子そんなキャラだったかな、なんて思わされながら、私は階段を登り始める。

 

「っていうか毎週毎週来るくらいなら、修児に頼めば良いじゃない」

「お兄ちゃんの勉強の邪魔したら悪いから」

「私は良いって?」

「そんなこと言ってないでしょ……!?」

 

 凍地に本来のツンツンとした雰囲気が戻る。

 私が何となく安心していると、凍地がこちらを再び向いた。

 

「……何よ」

「何でもないよ」

「もう……!」

 

 小さく頰を膨らませそっぽを向いてしまう凍地。

 割と理不尽な行動だとは思うが、普段から仲良くしているからか腹は立たない。何なら彼女の容姿のせいで、自分は女子のはずなのに少しだけドキドキさせられている。

 すると、凍地が口を尖らせながらもう一度こちらへ向いた。かわいい。

 

「……クララ、サッカー楽しい?」

「え、何突然。気持ち悪い」

 

 私の言葉に凍地がぎこちない表情で笑う。さっきよりずっとかわいい。この顔を観られるのは私だけなんだと思うと嬉しくなった。

 

「……真剣な話だったんだけど?」

「ごめんごめん。サッカーだっけ? 楽しいよ。最近になって、フケ散らしたパーマみたいな不良くんが入ってきたから大変だけど」

「……ヒロトさんだってわかる私も私だけど、やめな? あの人怖いし、あんまり関わらない方がいいよ」

 

 『吉良ヒロト』。最近、サッカー部に入ってきた変人で、一匹狼気取ってる不良。腹立つミミズ頭。でも、サッカーの実力は確かで、『フットボールフロンティア』予選の試合は殆ど吉良の独壇場。最近は『究極の個人技』なんて呼ばれ出して、調子に乗ってる。そんな霜降り蕎麦頭。……蕎麦屋さんごめんなさい。

 

「…………まだヒロトさんのこと考えてるでしょ」

「全然?」

「はぁ……、まあ良いわよ……」

 

 誰があんな奴のこと考えるか。ただ頭の中で悪口言ってるだけだし。

 

「クララ〜?」

「……心読まれてたりする?」

「もう、いつかポロッと言っちゃっても知らないからね?」

「吉良ってあれで馬鹿だから平気だよ」

「そういうことじゃないし……」

 

 階段を登り切って、廊下を曲がったところで一人の教室を過ぎた。その瞬間──。

 

「あ」

 

 図書館も目前、といったところで、他方に歩いていく倉掛達に気がついた者がいる。

 

 まあ、良いか。

 

「ちょっ! なんで無視すんの!」

 

 倉掛は、聞き覚えのあったその声に呼ばれ、諦めたようにその場に立ち止まった。

 

「何? 杏」

 

 『蓮池杏』。凍地や私と同様に『お日さま園』の孤児。

 私と凍地の属するグループと蓮池の属するグループは、犬猿の仲で会うたび少し気まずさを感じてしまうのだが……、蓮池はいつも変わらず話しかけてくる。良くも悪くも公平性を大切にする人物なのだ。

 

「お二人は図書館行くの? なら、私も──」

 

「杏って勉強できないんだ」

「数学以外は私より下だったはず」

 

 蓮池がギクリと固まった。この子、分かりやすいからいじり甲斐がある。

 蓮池は基本的に負けず嫌いな性格なのだが、勉学面だけは別。そのためか──

 

「……まあ、そういうことよね!」

 

(開き直ったな……)

 

 蓮池の言葉に私がそんなことを考えながら歩き出すと、いつの間に準備が出来たのか、私の隣を歩いていた蓮池に、もう一方の凍地が尋ねた。

 

「南雲くんは大丈夫なの?」

「え、なんでいきなり晴矢が出てくるの」

 

 ニヤニヤと口角を上げながら、唇を動かす凍地の表情へ不可解そうな表情を浮かべている蓮池が即座に尋ね返す。

 面倒なことを聞いてくれたなと、思った。

 確かに中学女子といえば彼氏ができるできない云々の話が出るのが普通なのかもしれない。だが、その自覚がない子に対してその手はまずい。

 私は一瞬のうちに思考を巡らせて、蓮池に対する最適解を探す。

 

(杏ってサッカー好きだったっけ)

 

 突如、一つの案が頭に浮かんだ。

 

「でも、そんなに南雲と仲が良いなら杏もサッカー部入ったら良いのに。世界一……いや、宇宙一になれるよ」

「えー、私が? 無理無理、ボールも触ったことないもん」

「あ…………、確かに……」

 

 たまに起こる他の孤児達とのすれ違い。

 レアンは宇宙一のサッカー選手という夢があって、アイシーは試合に出れば、オールラウンダーとしての活躍を見込める。

 そんな、自分にも心当たりのないような、突然脳内に浮かぶ思い込み。

 

(あれ……?)

 

 知らない人の名前で、彼女らを呼んだ。

 蓮池杏も、凍地愛も、サッカーなんてやっていたことはなかったのに……。

 

「──誰の話……?」

 

「「……?」」

 

 蓮池と凍地が首を傾げながら、私のことを見下ろしている。

 心配させないように、何でもない、という旨の言葉を伝え、他の雑談をしながら図書館の扉を開けようと蓮池が取っ手に手をかける。

 そして、三人が図書館に入ろうとした時──。

 

「──あれ? あの子、倉掛さんじゃない?」

 

 知らない生徒。恐らく『お日さま園』の子供でもないただの永世学園生の女子二人。

 蓮池と凍地との会話に夢中で私に聞こえていないと思い込んでいるのかわからないが、小声でコソコソと話していても話の内容ははっきりと聞こえた。

 

(いや誰──?)

 

「……ホントだ。確かタツヤ君のこと狙ってるっていうサッカー部の人でしょ?」

「え? 私は八神さんに近づきたいから、サッカー部に入ってるって聞いたよ?」

「あはは、どっちにしても凄い性格。タツヤ君たちが可哀想だね」

「八神さんもあんな気持ち悪い人、何か言ってあげたら良いのに」

「八神さんは優しいから、仕方ないよ」

「それもそうだね」

 

 

(……私って何か言われてるの?)

 

 

 まず、そう思った。

 自分たちから歩き離れていくあの二人との面識はない。なら、自分の性格の噂に尾鰭がついた結果だろうか。

 基山も八神も女子達の人気の激しいチームメイト。元々あった噂と私がサッカー部であることが上手いこと絡められて嫉妬の対象にされている、ということなのかもしれない。

 

 倉掛はふと顔を上げた。

 

「……!」

 

 蓮池と凍地の表情を見ると即座に倉掛は、蓮池の代わりに扉を開けて図書館に足を踏み入れた。そして、二人に振り返る。

 

「私は大丈夫だから、後で何か仕返しでもしとく」

「……! そっか、流石クララって感じ」

「……強い子だものねクララは」

 

 蓮池と凍地もそれに続くように図書館に入った。それを見て、倉掛は小さく息を吐いた。

 何を言われても倉掛は気にしない。というか、自分の欲求に従うならば、適当な陰口程度、適度に言ってもらえた方が相手に手を出しに行きやすくなるからそちらの方がありがたい。

 

(だけど……)

 

 再度少し視線を持ち上げると、そこにあるのは、苦々しく笑っている二人の横顔。その表情からは、確かな優しさとあの生徒達への怒りが感じ取れた。

 再び倉掛は抱えているノートに視線を落とした。

 

 

(……友達にこんな顔をさせるのは……、違う)

 

 

 倉掛クララは、ドの付くサディストの一面を持ち合わせているが、決して常識が無いわけではない。

 

 その日から、倉掛は興味のない他者との関係を改めるようになった。

 

 ……

 …

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ──ミーティングルーム。

 趙金雲がステージに上がり、中途半端になったまま特訓に移ってしまった昨日のミーティングの続きを開始したのだと、明日人は理解した。

 

「はい、皆さん集まってますね。それじゃあ、ミーティングを始めますよ〜」

 

 その言葉に全員が「はい!」と応答する。

 

(あ、今日は自分でやるんだ)

 

 普段のミーティングはマネージャーに任せ、仕事を投げ出していた趙金雲が選手達の視線の先に立っていることに明日人は少しだけ驚いていた。

 

「えー、では今回のミーティングは一点だけ……。今日のお使い当番の発表を──」

「──待て待て待て!! ミーティングは!? 対策は!?」

 

 剛陣が趙金雲に突っ込むと、明日人達もそれに頷く。

 昨日見せつけられたサタンの『タイムトランス』や、『シャイニングサタンズ』の必殺技への対策、新たな必殺タクティクス特訓など、やれることは沢山あるのに何故それを指示してくれないのか。明日人には理解ができなかった。

 

「まあまあ、剛陣君落ち着いて下さい♪ 私だって何も無策という訳ではありませんよ〜♪」

「あー、そっか。わりぃわりぃ、早とちりしちまったぜ!」

「いえ、構いませんよ剛陣君……♪ では今回の試合、私達のやることとはずばり……」

 

 何の特訓をするのかと、明日人は思考を回す。明日人個人としては、前試合でディフェンス面での課題がわかったためそちらを特訓したいのだが……。

 

「……ずばり! 私達がやることとは、自主練です!!」

 

 その瞬間、一人が席から飛び出そうとした為、明日人と万作は即座に背後から抑えこんだ。

 

「──ダメです! 剛陣先輩! 俺たちもイラッと来ましたけど、流石にダメです!!」

 

 剛陣を抑えながら明日人が叫ぶ。

 

「オーッホッホッホ!!」

「ちょっとアンタは黙っててくれませんか!?」

 

 万作の叫びで、趙金雲の隣にいた子文の面が一瞬よろめいた。

 

 

 

 少しして、趙金雲と子文がミーティングルームを去る。

 数秒の静寂の中、円堂が立ち上がった。

 

「──よし、みんな! 自主練も立派な特訓だ! 監督の言う通りやれることを増やすんだ!」

 

 円堂の言葉に全員が「おおっ!」と返事をする。

 戸惑っている気持ちは皆あるが、全員勝利への思いはきっと同じ。だから今度もきっと勝てる。明日人は、そう信じながら、他の皆と同じように返事をした。

 

 

 

「何をしますか?」

「俺は元々未完成の技があるから、それを身につける特訓かな」

「佐久間さんの新技……! 凄そうでゴス……!」

 

 坂野上、佐久間、岩戸。

 

「アフロディ! 鬼道! 俺の特訓に付き合ってくれないか?」

「円堂くん……? 構わないよ」

「すまないが俺は遠慮させてくれ。代わりに……吹雪、頼めるか?」

「うん、わかった。よろしくねキャプテン」

 

 円堂、アフロディ、鬼道、吹雪。

 ……と言った風に少しずつ選手たちが部屋を後にする。

 

「私は何しよ……。ヒロトと……はダメか、灰崎と特訓だもんね」

「は? 何勝手なこと言ってんだクララ」

「いや、ヒロトと灰崎のあの技は次の試合必須でしょ。そっちが何言ってるの」

 

 そう言いながら、倉掛はその席に吉良を置いていき、ミーティングルームを出る為に皆の流れに続く。

 そして、明日人も皆に遅れまいと席を立つと、自分の課題について考えた。

 

(やっぱりやるならディフェンス面かな……。うーん……、MF考えること多くてむずい──)

 

 その時、ミーティングルームの扉が勢いよく開き、先頭を歩いていた岩戸と坂野上が驚き肩を震わせた。

 扉の先にいたのは、いつもの太っちょ監督、趙金雲。

 

「──ああ、皆さ〜ん! さっきの嘘です♪ 『稲森明日人』君と『倉掛クララ』さんには、特別特訓メニューがあるので、この後に私の部屋まで来て下さいね〜?」

 

「「……えっ?」」

 

 二人の間抜けな声が重なった。

 





 アレスの天秤編を通らずオリオンの刻印してるから、佐久間とクララの回想で同時に灰崎と吉良の話出来たらなぁって思ってたけど……、出来ないことはやるもんじゃないですね。
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