雷陽と黒龍   作:久遠れもん

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リベンジ(VSシャイニングサタンズ②)

 

『止めたああああッ!! 『シャイニングサタンズ』MFベリアルとCBベルフェゴールのオーバーライドが、稲森、吹雪、アフロディの開幕の一撃を殺しきったぞ!!』

 

 閉ざされた視界に自由が戻ると、相手の小柄な女子選手、ベリアルがボールに足を付き、明日人達の『エレメントブレイク』を完全に収め切っていた。

 

 その光景が信じられず正気を失っていたが、アフロディと吹雪の背中を見て、逆に元の状態を取り戻す。

 

 吹雪士郎と亜風炉照美の全力が明日人の『クロスドライブ』に重なっている現時点における最高の超距離砲撃(ロングシュート)だというのに、ゴールに到達する以前、しかもたった二人のオーバーライドに止められた。

 

 それは何故なのか、と明日人は逡巡する。

 

 相手の放った必殺技の威力が『エレメントブレイク』を上回っただけだ、と切り捨ててしまうのは簡単だ。だが、今回はそうするわけにはいかない。

 

 ──何故なら、コート上の誰が見ても『サングレーザー』には、『エレメントブレイク』を止められるほどの出力はなかったはずだからだ。

 

 その証拠というには些細なことかもしれないが、当のベリアルやベルフェゴールもこの数瞬の思考の間でまだ動き出していない。

 

(やっぱり、あの時と同じだ……)

 

 破れるとは思えない。破れる筈がない。

 そんな必殺技をたった一人に破られた経験が、明日人にはあった。

 

 ベリアルがベルゼにパスを出す。

 それを読んでいた一星が、即座にベルゼにプレスを掛けた。

 

 明日人は一星のパスコースを作りながらとある選手を探し、見つけると同時に口を開いた。

 

「吹雪さん──!」

 

「ああ、間違いないと思う……!」

 

 同じ考察だったのか、吹雪が明日人の呼びかけの意図を察知してすぐに頷く。

 そのおかげで明日人の考えは、確信に変わった。

 

(それなら……、別のシュートで……!)

 

 そこまで考えきった明日人はオフェンス面のことを一度考えるのを止め、全力でディフェンスに戻る。

 

 そして、『シャイニングサタンズ』FWの二人がDF達のラインまで攻め上がっていることに気がついた。

 

(攻めの自信ありすぎでしょ……!?)

 

 明日人は認識すると同時に、目標に向けて急速に足の回転を加速させる。

 

 その走り出しとほとんど同時に、ベルゼと一星のマッチアップが本格的に激突した。

 

「──行かせませんよ……!」

 

 一星が行き先を防ぐと同時に、ベルゼが一星の足に割り込まれるより先にボールを引き込む。

 

「チッ──」

 

 ベルゼがフェイントを仕掛け続けるが、一星はその細かいボールタッチに一切釣られることなくひたすらに足元のボールを追い続ける。

 

「何なんだお前……気持ち悪い──ッ!」

 

 ベルゼの言葉に一星が、あっ、と目を見開いた。

 一星の動きが鈍る。ベルゼはその瞬間を隙だと考え、横に走り並んだ一人の悪魔へボールを蹴り渡す。

 

「──サタン!」

 

「ナイスパスだね。ベルゼ・ブブ」

 

 サタンがボールをトラップすると同時に、サタンと鬼道と相対する。

 

「キミ──、ボクと似た雰囲気があるね……」

 

「俺のとこにも育ち盛りの悪魔がいるんでな」

 

「へぇー、じゃあキミは関係ないんだ──」

 

 鬼道にそんな煽りを吐くと、サタンの動きが加速する。

 鬼道はそれに合わせ、バックステップのテンポを上げながらサタンの意識を自分に向け続ける。

 

「悪いが、先に行かせるつもりはないぞ!」

 

「? 何か狙って……」

 

 サタンが気がつくと同時に鬼道は口角を吊り上げ──、

 

 

 

「──イナビカリダッシュ!!」

 

 

 

 稲妻が大地を駆ける。瞬間的な稲森明日人の最速が、鬼道に苦戦するサタンのボールを背後から掠め取る────だがその瞬間、サタンが動く。

 

 サタン自身、そこまで瞬間でのボールタッチやドリブルの判断を得意としている気はない。

 

「──アスモ・デウス!」

 

 だが、それでも今まで無敗を貫いていたという戦績に見合う実力が、彼にはある。

 

「おおー♪ あぶなくねー?」

 

 サタンからアスモへとパスが渡る。

 その地点にちょうど追いついたアフロディが、トラップをした瞬間のアスモを狙ってボールに足を伸ばす。

 

 だが、アスモはこれをワンタッチで回避。

 

「く……ッ!」

 

 相手の視認していない背後の死角から『ワンダートラップ』を使ったところで意味はない。

 それでもアフロディの思考の内に一瞬の後悔がよぎった。

 

 

「倉掛──!」

 

「もちろん……」

 

 鬼道の指示に従い、倉掛がアスモと交戦する意思を見せる。

 サタンはそれを察知し、アスモに一つの指示を出す。

 

「アスモ・デウス──」

 

「もち〜♪ ってか、かわいい子じゃーん。ラッキー♪」

 

 呼びかけと同時に、倉掛とのマッチアップを受け入れたアスモが走り出す。

 そんな無防備なオフェンスに倉掛が片手をもう片方の手で支えながら頭上に掲げる。

 

「あら、かわいい♪」

 

「初対面なのに気持ち悪いわね……」

 

 だが、それは倉掛を女子と油断している証拠とも取れる。

 

「グラビテイショ──」

 

 

「──アルターセブン

 

 

 倉掛の必殺技を遮るその宣言と同時にアスモがその場に立ち止まり、己の指を絡め、手を合わせながら、祈るように目を閉じる。

 

「──ッ!」

 

 数瞬後、倉掛の足元に魔法陣が出現し、それと同時に倉掛を七の人魂が包み込んだ。

 そして、倉掛の世界を白の光が包み込む。

 

「──っ、んぁ……ッ!?」

 

 溢れ出した感情が、自分の脳内を掻き混ぜる。

 身体を貫かれるたびに、身体を切り裂かれるたびに、倉掛の身体が大きく揺れる。

 

「……ぁ、ん……く……っ、ああっ!」

 

 痛い筈なのに、苦しい筈なのに、その地獄のような光景を正しく認識できずに、顔が火照り、呼吸が乱れる。溢れ出した心の悪魔が、自分の感情から肉体までを蹂躙している。

 自分であることが永遠に嫌になっていくのと同時に、欲望の犬に成り下がっていく最低な感覚。それに伴う罪の意識。涙が流れた。怒りに震えた。

 

「だめ……、これ……ぇ……」

 

 それでも、止められない。

 

 

「はい、ヨユー♪」

 

 

 ──心はすぐに、限界に達した。

 

 幻の中で無限の攻撃を受け続け地面に蹲っている倉掛を、アスモが平然とした様子で歩き去る。

 

「技見てみたかったかな〜♪」

 

「──なら、僕が見せてあげますよ!」

 

 坂野上が岩戸をゴール前に残し、アスモと一対一を作る。

 流石リベロだけあり、即座の判断能力に長けているらしい。

 

「えー……、良いよ別にー」

 

ザ・ウォール!!」

 

 既に対抗も意味を持たない状況を作られていることを察知したアスモは、山のように形を造られた眼前の壁が自身に倒れるのを目を閉じ、受け入れた。

 

 岩戸の得意とする必殺技『ザ・ウォール』。どうやら坂野上は、その複製模倣(コピー)に成功していたらしい。となると、『大河』と『ザ・ウォール』の使用する場面の区別をあの一瞬で行ったということになり、坂野上の反射神経が凄まじいことになってしまい……。

 

「──いや『“ミラクルリベロ”』どころじゃないし!?」

 

 明日人は即座に方向転換をし、オフェンスに向かう。

 

 直後、坂野上を冷気が包んだ。

 

氷の矢!!」

 

 氷塊に固められたボールが抵抗を軽減され、ロングパスの軌道に乗る。

 そして、選手達の頭上を通り過ぎ逆サイドにいる選手。一星の足元にボールが落ちた。

 

「ナイス! 坂野上君!」

 

 再び一星の元にボールが戻り、一星は走り出す。

 

「速攻リベンジマッチかあ──!?」

 

「FWの奴らは……」

 

 ベルゼの言葉を無視し、何かを見定めながら一星がベルゼへと突進する。

 同時に、ベルゼの表情が困惑に染まる。

 

「何だコイツ……、さっきと雰囲気が──!?」

 

 その動揺と同時に、一つの光粒が流れた────

 

 

「光のために……!」

 

 

 静寂の中、光波が蒼く駆け抜け、ベルゼの理解が追いつくよりも早く『それ』は、起こる。

 

 

 

「──サザンクロスカット!!」

 

 

 

「──!? ぐぁああああッッ!」

 

 ベルゼを中心に起こる十字星の裁き。空虚と共に依存を纏う蒼炎の居合。

 

 一星は、地面に叩きつけられたベルゼに振り向くこともなく、再び走り出した。

 

 

「あれが一星の必殺技……!?」

 

 明日人が思わず口にした。

 

「性格に見合わず強烈だな──!」

 

 続くように風丸が一星の後方で逃げ道を用意するように動きながら、評を述べる。

 

 

 それをあえて無視をしているのか、そもそも聞こえていないのか、一星は敵陣を突き進んで行った。

 

『おおっと、一星充! 前衛選手達を引き連れ敵陣に切り込みます!』

 

 一星がふと横を向くと、自分の速度に並ぶように、鬼道、吹雪、アフロディ。その先を佐久間が走っていた。

 

「これで、貢献一回分にはなるか?」

 

 一星が急停止をしセンタリングを上げる。

 

「──佐久間さん!」

 

 足を振り抜きながら佐久間を呼ぶ一星を見て、鬼道が疑問を覚えた。

 

 

「……あれが、パスだと──?」

 

 

 その言葉に思わず「えっ?」と声が漏れた。明日人はゴール前に再び目を向ける。

 するとその時ちょうど──、

 

「ぐ……ッ!」

 

 佐久間がパスとは思えないほどのボールの威力に思わずボールを弾く。

 だが佐久間もただで己のミスを許す気はない。彼自身、『“帝国の銃士”』という二つ名を持つだけあり、咄嗟の銃弾(ボール)の扱いには手慣れている。

 

「勘違いするな。俺はお前を認めない──」

 

 佐久間のスパイクの側面に当たったボールが右サイドに跳ねる。

 佐久間のトラップミスに反応し、左SBのアムドゥが動いた。

 

「溢れ玉来t──」

 

 

「──ワンダートラップ!!」

 

 

 あの日の敗北から、『闇』に苦しまされた佐久間次郎。

 あの日の勝利から、『闇』に身を委ねた亜風炉照美。

 

 共に歩む道はないのだと、思っていた────。

 

 

「──行くぞ。アフロディ」

 

「ああ……。佐久間君!」

 

 

 そんな二人の運命を、とある男から継承された必殺技が強引に結びつける。

 

 佐久間が止まることはない。アフロディが引き返すことはない。

 だが、協力をし合えないわけではない。

 

 呵責も糾弾も、今は後に投げ、『光』へ自身を歩ませる二人が偶然にも交わることで、放つことの叶った必殺技────。

 

 

「「──ツインブースト!!」」

 

 

 放たれた二衝の一撃。佐久間の受け継いだ鬼道有人の必殺シュートが、その枠組みを超え、銃撃にも匹敵する豪加速と共にゴールを狙う。

 

「デモゴルゴン──!」

 

「わかってるよ……! グレイブストーン!!」

 

 佐久間とアフロディのシュートに割り込んだ巨体が大地を揺らす。

 

ザ・ミスト!!」

 

 それを待っていたとばかりに、ベルフェゴールが霧を発することで周囲を一面覆い隠す。

 

 『グレイブストーン』。その名の通り、本来は墓石を突き上げ、敵の侵攻を妨げるオーストラリアのDF達の愛用する必殺技。

 勿論、墓石には誰かが入っている、なんて事はない。

 

 だが、この霧の監獄の中では話は別。

 

 立ちこめる霧に宿る悪魔達が名ばかりの墓石を器に亡霊達を呼び寄せ、合成し、醜悪の冒涜を作り上げる。

 

 怨霊達が織りなす醜悪の巨腕。これが、『シャイニングサタンズ』第二の天絶融合(オーバーライド)

 

 

「「アビスクラッチ!!」」

 

 

 見ているだけで気を失ってしまえそうなほど気色の悪い掌が、二人のシュートを包み込むように握り締める。

 そして、腕が地中に還ると同時にベルフェゴールが足元でボールを受け取った。

 

『──再び『シャイニングサタンズ』が止めたああああっ!!』

 

 佐久間が小さく舌打ちをする。

 それを合図にするように、ベルフェゴールがボールを蹴り飛ばした。

 

「──アムドゥ!」

 

 試合に復帰したアムドゥにボールが渡ると、そのボールはベリアル、サタンへと繋がる。

 

 そこへ、一人の男が割り込んだ。

 

「十、九、八……、」

 

「またキミか──」

 

 鬼道が再びサタンと対面の状況を作り、それと同時に必殺技を構える。

 

「あれは俺の──!」

 

 観客席の一人がその動作の指す意味を理解したタイミングで、青の球体が展開された。

 

(使うぞ……、水神矢……!)

 

 サタンは、背後に『稲光』が迫っていないかを一瞬のうちに確認してすぐに一人の少女に呼びかける。

 

「──ベリアル」

 

 ベリアルが頷くより早く、鬼道の必殺技が発動した。

 

 

ゾーン・オブ・ペンタグラム!!」

 

 

 五芒星の領域内、鬼道による縦横無尽の超高速移動にサタンは戸惑う暇もなくボールを奪われる。

 

 だが、その後の隙をベリアルが狙い──、

 

「──デーモンカット!!」

 

 大地を押しのけるような悪魔の如き衝撃が鬼道を弾き飛ばす。

 だが、鬼道は動じる事なくそれを受け入れ──

 

「……一、ゼロ──!」

 

 

「──フローズンスティール!!」

 

 

「ぐああああっ!?」

 

 氷山を蹴破るかのようなスライディングに弾き飛ばされたベリアルが、更に氷に閉じ込められる。

 

「出た! クララの新技!」

 

 倉掛と特訓の日々を共にした明日人が興奮気味に拳を掲げた。

 

 倉掛の『フローズンスティール』は、何を隠そうあの『ゲーム特訓』から着想を得た必殺技。永世の『グラビテイション』とは別の、倉掛クララだけの自己流(オリジナル)。倉掛自身、その原点以外のことは文句がないほどに、その必殺技を気に入っていた。

 

 敵味方問わないブロック技の応酬の勝利を奪い取った倉掛が鬼道にボールを渡し、イナズマジャパンのオフェンスが再開する。

 

「──序盤からかなり忙しいな……!」

 

 『これも豪炎寺がいない影響か』なんて考える鬼道が攻め上がる間で、イナズマジャパンがバラバラになり始めていたフォーメーションを組み戻す。

 サイドにアフロディと一星。鬼道の後ろで明日人が逃げ道を確保し続ける、という『レッドバイソン』との試合でも使っていた基本陣形の転用だ。

 ラフプレー以外にも相手のディフェンスとの遭遇を最低限に減らせるこのフォーメーションが、各自全員は最善だと判断したのだ。

 

 鬼道もまたそう思っていたようで、フォーメーションが完成すると同時に加速をしていき、あっという間に明日人達はハーフラインを突破。

 

「このまま行けるところまで突破する!」

 

 鬼道は相手のディフェンスを避け、明日人とボールの上げ下げを繰り返しながら攻め上がり続ける。

 そして、ベリアルを抜いた直後、鬼道は気がついてしまう。

 

(サタンはどこだ──)

 

 確かにこのフォーメーションは、ディフェンスを避けることができる。だが、あくまでただのフォーメーション。戦略の範疇であり、ボールへのアプローチをされた際は、技術かパスで躱して行く他ない。

 

 サタンがわざわざそれを避けるのは不自然だった。

 

「まさか──ッ!」

 

 気が付かなかった。いや、気が付けなかった。

 鬼道へのアプローチへ来た選手達は同じ者ばかりではなく、CB以外全員を巻き込んだループ。そのせいで、サタンがいないことへの認識が遅れてしまった。

 何かの策略の内にハマってしまっているのは確実。だが、鬼道は抵抗するかのように明日人へパスを渡す。

 

 その直後──、

 

 

 

「必殺タクティクス【インビジブル】……」

 

 

 

 サタンが腕をゆっくりと振り下ろす。

 それと同時に、シャイニングサタンズの選手達が天へと腕を広げた。

 

 イナズマジャパン視界の隅から隅までを白の濃霧が覆い隠し、そして晴れた。

 

 一見何の意味があるのか理解が出来ない必殺タクティクスに困惑しながら、明日人は目を開けた。

 

「…………ッ!?」

 

 明日人は眼前に起きた変化に絶句してしまう。更に、周囲のイナズマジャパンの選手達も全く同じ反応を示す。

 

 だが、それも仕方がなかった。

 

 なぜなら──、

 

 

「──姿が、消えた?」

 

 

 コート上に立っていた選手達二十二人の内、十一人。すなわち『シャイニングサタンズ』全員が、コート上から姿を消していたのだから。

 

 全員が立ち止まってしまったその数瞬の間、更に明日人達の状況が反転する。

 

「ああっ、ボールがない!」

 

「何……ッ!?」

 

 鬼道が焦って明日人の方へと振り向く。

 

「一体、何が起こって……!?」

 

 風丸が突如消えたサタン達を不審に思いながら、そう呟く。

 

 

「ボク達は『悪魔』。悪魔とは、人の『闇』によって生まれる邪の化身──」

 

 

「ゴスッ!?」

 

 通り過ぎるだけの声に対して、岩戸は無力だった。

 

 

「そして『闇』とは、誰の瞳にも映ることのない人が抱える苦悩、挫折、不安の源泉──」

 

 

「な──ッ!?」

 

 坂野上が岩戸と同様に、無から発せられる言葉に翻弄させられる。

 

 

「ボク達は『シャイニングサタンズ』。『闇』から生まれ、『光』も恐れぬ『太陽のサタン』──」

 

 

 円堂の耳の奥にサタンと思しき声色の言葉が届くと同時に、円堂の眼前に一人の選手が姿を露わにし、一つの宣言をイナズマジャパン下す。

 

 

「──さあ、勝負だ。マモル……」

 

「……!? サタン──!?」

 

 

 いつ、どこから現れたのかは理解できるが、肝心のどこに潜んでいたのかがわからない。

 円堂は咄嗟に構えを取り、ゴールへと迫るサタンを迎え撃つ準備を整える。

 

 だが、間に合わない

 

 円堂がそう理解した瞬間──、

 

 

「──イナビカリダッシュ!!」

 

 

 轟々の現着。小さなジャパンの太陽が稲光の如くサタンのシュートへ移るまでの瞬間を狙う。

 だが、サタンは咄嗟にシュートの止め、足裏を滑らせるようにワンタッチでボールを引くことで明日人の突進を躱した。

 猪突猛進。ただ速いだけの必殺技に、サタンは捕まらない。

 明日人は歩幅とタイミングのずれた自分の片足に躓き頭から芝生へと滑り飛んだ。

 

 倒れた明日人に目もくれず、サタンがシュートフォームに入る。

 

「行くよ……」

 

「……! 来い、サタン!」

 

 円堂守VSサタン・ゴール。リベンジマッチの対戦カードが挙がる。

 

 それは、世界への非道。時を歪ませ、世界を凍らせる悪魔の非科学的一撃(ヒプノシスインパクト)────。

 

 

「──タイムトランス!!」

 

 

 二度と交わることのない時計の針、陽光すら入り込めない悪魔の知恵(トランスワールド)

 それらを一度、試合前に円堂は受けたことがあった。

 

 だからこそ、そのアドバンテージを活かすために、特訓を重ねてきた。

 

 ──一度、何でも試してみると良いかもしれないよ?

 

 吹雪に言われた言葉。

 

 ──……ッ! 舐めてんのかコイツ!!

 

 ペクの叫んだ動揺。

 

 逡巡を経て、円堂は走り出した。

 

『なんと円堂! ペナルティエリアを飛び出して来た──!!』

 

 サタンの放ったシュートがゴールを狙い、歪んだ揺らめく軌道を踊り進む。

 

「勝負を投げたか……」

「サタン様の期待に背く愚者が……」

 

 アスとサルが円堂の行動を理解せずに苦言を呈する。

 

 円堂の秘策。

 それは吹雪のアドバイスを貰った後、タイヤを自身に縛り付けながらシュートを受ける狂気の特訓をアフロディと共にしていたことで身につけた新必殺技。

 その話をした際、鬼道以外の仲間、主に三年でない後輩達にドン引きされてしまったなんて話もあるが、今は関係ない──。

 

「お前のおかげだぜ、アフロディ!」

 

 ──勝負からは逃げないのが、円堂君だから……

 

 思わず『何でこうなるんだ』と呆れてしまいそうなほど無茶苦茶な特訓に付き合わせてしまったというのに、自分を信じて協力をしてくれたアフロディの言葉を思い返す。

 仲間達に想いを繋ぐ為、イナズマジャパンと『優勝』を勝ち取る為、円堂は一歩一歩突き進む。

 

 そして、『タイムトランス』と円堂が激突する瞬間──。

 

 

 

メガトンヘッド──ッッ!!」

 

 

 

 『タイムトランス』は、無機物に対しても効力を持つとされるサタンの催眠術の技巧を利用し、本来失われる筈であるボールの回転力に対して暗示を掛けることで成立している必殺技。

 

 

「賢い鬼道君の知恵で、サタンさんの術に対抗するものだと思っていましたが、円堂君に私の想像を超えられてしまいましたねぇ〜。オーッホッホッホ♪」

 

 ベンチの趙金雲が久遠とマネージャー二人にそう説明をしながら、ニヤリと口角を上げた。

 

「成程。ということは……」

 

 神門杏奈が激突する瞬間の円堂を見やる。

 

 

 それはきっと全員の共通認識。『タイムトランス』を打ち破る為の『回答』。

 それを実現することは難しいのだと、サタンと対面した誰しもが諦めてきた『模範』。

 

 ──最初の衝撃だけで、『タイムトランス』を打ち返す。

 

 別の世で『究極のパンチ技』が形態を変え、進化を遂げることで再現が成される必殺技と全く同じ名を持つ円堂の新技。

 円堂の額から放たれた光が雷光に変わり、魔神の鉄拳から放たれるのは、悪を滅する正義の剛腕。

 

 

 

 即ち、激突は一瞬、勝敗が決し────。

 

 

 

 観客が静まり返るよりも早く打撃音が途切れ、左拳が空を飛び上がった。

 

 

「……ッ!!」

 

 

 サタンが眦を決する。

 

 

「……よっしゃあ──!」

 

 

 腹の奥から出た円堂の歓喜の叫びと共に、静まりかえったばかりの観客達が熱狂を取り戻す。

 

『弾いたああああっ!! 円堂守が、我らが『“伝説のゴールキーパー”』が、その実力をサタン・ゴールに見せつけましたッッ!!』

 

「……」

 

 未だ目を見開くサタンを置き去りにしたボールが、前線へと到達する。

 

「……やはりお前は、俺にとっての『光』らしいな。円堂」

 

 鬼道が小さく微笑みながら、ボールをトラップ。『シャイニングサタンズ』の選手達が呆然としている数秒の隙をつき、攻め上がる。

 

「──鬼道さん!」

 

 前線に着いた明日人が鬼道に呼びかけると、鬼道はその意味を解し首を縦に振る。

 

「行くぞ稲森。俺たちで奴等のタクティクスを攻略する……!」

 

「はい!」

 

 一度止められたとはいえ、相手が対応する手段を持ち得ないとも限らない。

 安心するにはまだ早いと考えた鬼道と明日人は、先程見せつけられた『【インビジブル】』の攻略に動き出す。

 

 ◇◇◇

 

 

 

「……」

 

 一転したピンチの状況で、息を吐く。

 

「鬼道! そっちはいるぞ!」

 

「そうだ! ナイス明日人!」

 

 ボクを──、オレを破ったエンドウは即座に切り替えて、オフェンスの指示を味方に出している。

 

(これが日本の強さの秘密なのか……?)

 

(エンドウが、無敗記録(このオレ)の必殺技を止めてしまうほどの力を発揮できた理由なのか……?)

 

 いつの間にか日本を強者と認めていた自分に驚き呆れるように、サタンは橙色の髪を揺らしながら円堂に向き直った。

 円堂がそんなサタンの様子に気がつくと、サタンは一つの言葉を投げた。

 

 

「──なら、今日はキサマの為の試合だ。エンドウ」

 

 

 その言葉の意味。サタンと円堂もまだ知り得ない試合の行方。

 だが、円堂は笑う。

 

「望むところだ……!」

 

 その言葉にニッと口角を釣り上げたサタンが、試合へと走り戻る。

 

 『イナズマジャパン』対『シャイニングサタンズ』[0-0]のまま、前半中期に突入──。

 

 ◇◇◇

 

「クッソ……、俺だったら決めてたってのに……」

 

「ハッ、テメーじゃ無理だっつの」

 

 未だ神と悪魔の『光』は見つからない。

 

「おーい、二人ともそろそろやめろー? 万作が疲れちゃうからさー?」

 

 呆れたように氷浦が呼びかけるが、二人とも互いと試合に意識を集中していて、その言葉は届かなかった。

 

 

 

 運命は、全選手達に更なる進化を要求していた。

 

 

 





『アルターセブン』
→『シャイニングサタンズ』の内、数人が使用するドリブル技。相手を光の檻に閉じ込め、秘める欲望を強制的に膨張させることで、相手の五感をバグらせる。その後は割と自由。

『アビスクラッチ』
→『グレイブストーン』×『ザ・ミスト』のオーバーライドブロック技。悪意の集合体が形を成した黒の手が相手を握りつぶしボールを奪う。ベルフェゴールさんが忙しすぎんかと思われるかもしれませんが、一応理由があるので……。

『サザンクロスカット』
→一応補足。ぷにぷにの一星のやつイメージしてほしい。無印のと違って青いんすよ。
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