雷陽と黒龍   作:久遠れもん

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見えない道を辿る(インビジブル・エア)(VSシャイニングサタンズ③)

 

「行くぞ稲森。俺たちで奴等のタクティクスを攻略する……!」

 

「はい!」

 

 鬼道は明日人を連れて走り出すと共に敵選手達に注目する。

 

 『【インビジブル】』とサタンが言ったあの必殺タクティクスの起動時、サタンを中央に待機させるという不自然なポジショニングを相手がとっていたため、初めは相手のフォーメーションが関係しているのだと考えていた。

 だが、相手選手らのフォーメーションには、特別違和感があるわけではない。

 

 なら、他に何かがあるに違いない。

 

 鬼道はそう信じて、別の違和感を探す。

 相手の一人一人の動向、フォーメーション、必殺技……、あらゆるものに気を張りながらも、攻め上がっている最中である鬼道は気を抜くことなく、冷静に明日人へのパスを出した。

 相手の行動の違和感……、強いて言うのであれば、なぜかサタンがFWではなくトップ下であるということ。そして、トップ下にも関わらず、サタンがFWより前線に上がり、シュートを放ったこと。

 

「サタンが指揮を取らなければ、発動できない……?」

 

 違う。それなら、サタンが前線に配置されている意味がわからない。

 

 ディフェンスを捨てる価値があるほど、サタンのオフェンス力が高いならそれも理解できる。だが、サタンのドリブルやボールタッチ技術は、恐らく鬼道のそれらよりも低レベル。

 『【インビジブル】』は恐らく、帝国の『【インペリアルサイクル】』と同じように、ディフェンスタクティクスとしての効果を発揮した直後に、オフェンスタクティクスとして機能する性質を持っている。

 そして、初見時の対策のやりようの無さからも考えて、発動したらディフェンスに回っている選手を前線に上げることが可能なはずだ。

 

「いや、違うな……」

 

 サタンがいなくても相手はタクティクスを発動できる。そして、『【インビジブル】』の発動において、相手のフォーメーションは関係ない。

 

 その二点を確信した鬼道がベリアルを追い抜き去る。

 

「速攻で行く──!」

 

 鬼道がハンドサインを掲げると同時に、明日人、アフロディ、一星らMF陣が動き出す。

 明日人からアフロディへとパスが渡り、アフロディから鬼道へとそれぞれ一度のキックでダイレクトパスを繋いでいくのと同時に、相手の選手達を続々と抜いていく。

 

(相手がタクティクスを使うなら、俺達も必殺タクティクスで対抗する──)

 

「──【柔と剛】!!」

 

 そして最後、鬼道から一星へパスが渡り、一星が既にオフサイドラインを越えようかというところまで走っている吹雪へのパスを出すタクティクスの最終段階。

 

 そこへ繋がるパスを鬼道が蹴り上げた。

 

「ボール行くぞ! 吹雪!」

 

「ああ……!」

 

 そして、鬼道自身もまた、ボールが一星の元へ辿り着くのを見届け、走り出す。

 

(俺と佐久間で、保険を立てておく──!)

 

 彼の技を習得した吹雪なら、ボールさえ足元に収まれば得点するのに十分な威力を放てるはずだと考えられるが、駄目だった際の想定もしなければいけない。

 そんな鬼道が更に加速すると──、

 

 

 トンッ、と小さく音がした。

 

 

 鬼道の脳内で、タクティクスの対策も、吹雪へのフォローも、全ての思考を中断せないばならないほどの、最悪の予感が巡る。

 鬼道はそんな自分の直感に気が付かよりも早く音源へ振り返った。

 

 

 ──空振り。

 

 

 一星のミス。

 先程の佐久間へのパスから、キックの威力調整を苦手としているのか、と推察していた鬼道が出来る限り打ちやすいように放った球の上側を、一星は蹴ってしまっていた。

 ボールが勢いを一瞬で失い、ボスッ、と間抜けな音を立て地面を跳ね上がる。

 

「貰った──ッ!」

 

 そんなあからさまな一星の隙をつき、ベルゼがボールを取り去る。

 

「何だと……!?」

 

「──パスミス……!?」

 

 明日人が叫び声を上げると同時にブレーキを踏んで、即方向転換をし、ディフェンスへ急ぐ。

 それに合わせるように、風丸が一星のフォローに走りだした。

 

「ごめんなさい! ミスしました……!」

 

「ドンマイ! すぐ取り返そう!」

 

 自分を責めるように謝罪した一星のことを明日人が走りながらフォローする。

 そんなチーム内での助け合いの様子の中、鬼道は違和感を覚えた。

 

「ミス……。いや、わざとパスのタイミングをずらした?」

 

 鬼道は訝しげに呟く。しかし、そこから先にはどうやっても思考が進まない。

 一星がわざわざチームに不利益なことをする理由が全く持って見つからなかったのだ。

 

 確かに鬼道は一星を疑っていた。だが、それはあくまで自分達に情報の明かされない一星という存在を代表に選出することによって、趙金雲が何を企んでいるかが知りたかったから。

 鬼道にとって、一星は警戒をして接してきたが、信じられる仲間だという印象。彼自身を疑う必要はないと考えていた。

 

 更に、鬼道は合宿所内でしばらくの間、一星を監視していた。その際は全く怪しいところはなく、むしろ、明日人や坂野上といったチームメイト達と良好な関係を築いていた。

 

「──まさか……、な」

 

 一星の積み上げた事実が、鬼道を真実から遠ざける。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「──鬼道君が気が付き始めましたかねぇ♪」

 

「えっ──?」

 

 突然の言葉に神門杏奈は思わず言葉を発した趙金雲に意識を向ける。

 だが、趙金雲はそれを無視して語り始めた。

 

「ここからノイズを振り切って、どうやって真実へ……、鬼道くんにとっての因縁にも繋がる一星君の秘密に辿り着けるのでしょうか♪」

 

 趙金雲の話を聞こうとしなくても聞こえてしまうのか、灰崎が不信感を露わにする。

 高笑いする趙金雲に対して、神門杏奈は引き攣るように笑みを浮かべた。

 

「だとしたら、ノイズになってるのって監督なんじゃ……」

 

 ◇◇◇

 

 

 

「──サタン!」

 

 ベルゼのパスがサタンへ繋がり、サタンがイナズマジャパンの守備に突入していく。

 明日人はそのタイミングを見計らい、サタンの視界に割り込む。

 

「待て──!」

 

「キサマもしつこいな。イナモリ」

 

 明日人はディフェンスに到着すると同時に、サタンと自分との一対一を形成した。

 

 引き寄せられ、蹴り出され、あいてよりも反応も遅く、予測も当たらない。そんな足元の技術差に翻弄されながらも喰らい付き、明日人は瞬間的な速度によるカバーだけでパスコースを塞ぐ。

 だが──、

 

「キサマ、あんな技に頼らない方が良いのではないか──?」

 

「──っ!」

 

 遂に、抜かれてしまう。

 

 だが、ディフェンスとしての役割はこなすことができた。

 ボールを奪うのではなく、あくまで時間稼ぎ。

 明日人はディフェンスに回れる人材を自陣に戻すことに成功していたのだ。

 

 

「──アイスグランド!!」

 

 

 氷結の芝生を滑り抜けて、吹雪が氷塊にサタンを固め、閉じ込める。

 

「ナイスです吹雪さん!」

 

 明日人の言葉と同時に、吹雪が風丸へバックパス。風丸から一星へのパスが渡る。

 

 ここから一星が駆け出し、再び『サザンクロスカット』で相手の中盤を切り抜ける。

 仕掛けるなら、先程成功したばかりの選択肢を取るのが手っ取り早く、確実。

 

「──明日人君!」

 

「ええっ! 俺!?」

 

 明日人は自身の予測に反した一星の判断に驚きながらも、足元にボールをトラップする。

 だが、明日人はサルがそこを待ち構えていることに気がついてしまった。

 

 

【インビジブル】!!」

 

 

 サルが手を振り上げると同時、『シャイニングサタンズ』全員の姿が再度消える。

 明日人は、試合中とは思えない光景に思わず緊張感を緩めてしまう。

 その一瞬の油断を突かれ、先ほどボールを奪われたことを明日人は思い返すと、反射的に足をボールに伸ばす。

 

 ──ある。

 

 それを確認すると、明日人はボールを持って走り出す。

 

 辺りを見渡し、ドリブルを続けながら、鬼道を探し、見つけた。

 相手がいないと、コートの状況がわかりやすいな、と思いながら明日人は足元のボールへと右足を振り下ろした。

 

(さっきの感じだと、ボールを奪えるっぽいから、ループ気味に──)

 

 

 ──空振った。

 

 

 そりゃもう気持ちいいほどの空振り。思わず手を叩いて爆笑してしまいそうなほど滑稽な絵面。

 

(──…………え? な、なにっ、え?)

 

 それを認識するより早く、頭が真っ白になった。

 

 確かにボールはあった。いや、あったかどうかまでは見ていない。だが、確かに明日人はボールを蹴っていた。

 明日人の思考が、行き止まりを突き破ろうと身体を壁に打ち付け続ける。

 それでも、理解が追いつくことはなく。

 

 

「──戻れ稲森!」

 

 

 鬼道の呼びかけでようやく、冷静さを取り戻した。

 

「岩戸! 『ザ・ウォール』を準備しろ!」

 

「え、でもでゴス……」

 

「俺を信じろ! やってくれ!」

 

「……ゴス! ザ・ウォール!!」

 

 鬼道に押し切られる形で無理矢理自分を納得させた岩戸がコート内に巨壁を築く。

 

「……こ、ここからどうするんでゴス……?」

 

「いや、それで良い──」

 

 鬼道の静止を受け、岩戸がその場で傾いた壁を止まらせる。

 明日人は下手な動きをすることもできず、ただひたすらに足の回転を速めることしかできない。

 

 そう考えていた明日人の判断はある意味で正しかった。なぜなら、そのおかげで対応に回ることができる。

 

 

 

 右サイドで再び悪魔達が姿を見せた。

 

 

 

「──イナビカリダッシュ!」

 

 一瞬の内に、サタンとの距離を詰める。

 

 今度はサタンもこちらを警戒していない。

 明日人はサタンの身体を腕で抑えるように背に置き、ボールを足元に取り返す。

 

 

 ……取り返す、はずだった。

 

 

「キサマは、ボールのありかも見極められないのか?」

 

「──ッッ!!」

 

(ボールがない! じゃあ、誰が──!)

 

「──後ろだ稲森!」

 

「え──」

 

 鬼道の言葉の瞬間、明日人の動揺の隙を突き、サタンが明日人の背の裏から飛び出した。

 

「しま……っ!?」

 

「──出せ! アス・タロト!!」

 

 アスからサタンにパスが渡る。

 

 そして、サタンがシュートフォームに入った。

 

「行くぞエンドウ! タイムトランス!!」

 

「──メガトンヘッド!!」

 

 サタンの放つ非科学的一撃は、たとえ二度目であっても円堂の秘拳に通用しない。

 

 再び、ボールが弾かれ、鬼道が胸でトラップした。

 

「出現がさっきより遅い……、『ザ・ウォール』を避けた……? ……いや、もう一度試すか──。風丸!」

 

「おう──!」

 

 風丸が鬼道からボールを受け取ると、ベルゼと向き合う。

 

「──ベリアル!」

 

 ベルゼの要求に応えるようにベリアルが手を掲げ、天を仰ぐ。

 

「──【インビジブル】!!」

 

 

 早くも三度目、コートの緊張が空白に消えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 鬼道がわざわざボールを渡した意図は何か。

 

 鬼道はこのピッチの未来に何を見たのか。

 

「……」

 

 探せ。相手に悟られるよりも早く。

 

(この瞬間で、眼前の空白に収まる何かを……!)

 

 

 …

 ……

 

 

 ──数ヶ月前、帝国学園。

 

 作戦についての相談を希望した風丸と、それを受け入れた影山。

 監督の部屋には二人しかいないと、風丸は思っていたのだが……。

 

「……総帥」

 

「何だ。風丸」

 

「失礼ながら……、あの、あちらの子は一体……?」

 

「輝だ。かわいいだろう」

 

「は、はあ……。──ではなく! その赤ちゃんは一体どこから!?」

 

「口を慎め風丸。赤ちゃんではない。立派に歩ける上、お受験に受かった賢い子だ」

 

(知らねえよ……)

 

 影山が無表情のまま、名前を呼ばれたことに反応して膝元に寄ってきた『輝』と呼ばれた子を抱き上げる。

 数秒の沈黙を経て、その子が影山の頰をぺちぺちと叩き始めた。

 

(かわい……)

 

 その様子を目の前で見せられた風丸は、自然と影山に対する警戒を解いていた。

 少しの輝君のターンを過ごした後に、影山は輝君を床に下ろすと、風丸は気持ちを元に戻す。

 

「……私は以前まで、血の繋がりなど必要ないと思っていた。だが、『アレス更生プログラム』を受けることで、変わった」

 

(すげえな『アレスの天秤』……)

 

「…………私は、無意識の内に恐れていたのかもしれない。他者に愛情を与え、自分のような人間を作ってしまうことを」

 

「……」

 

 影山に何があったのかは知らない。今、何を企んで帝国にいるのかはわからない。だが、その表情は、その告白は、嘘じゃないはずだ。

 風丸は、あの影山の言葉を受け入れている自分に驚きながら、耳を更に傾けた。

 

「風丸一郎太。貴様は己の力のなさから私の力を頼っている。そうだな」

 

「……ッ、……。──はい」

 

 力強く頷いた風丸に影山は椅子を回転させ、背を向けた。

 

「私には、人の『光』が見える」

 

「え?」

 

「『アレス更生プログラム』の中で、私は見たのだ。何年も先の世で、私が銀河を舞台にサッカーをしている姿を……」

 

「ぎ、銀河……? それが一体どう関係して……」

 

 風丸が困惑してしまうのも仕方がなかった。なぜなら、それは誰にも理解されることのない自分だけに起こる並行世界の予言。

 影山という『闇』が『光』に傾くきっかけを、風丸という『光』に属する存在が理解できるはずがない。

 

「そう、貴様には理解できないだろう。だが、私はその景色を通じて、精霊(ケモノ)を見ることができるようになった」

 

(…………)

 

「……そして、『精霊(ケモノ)を見ることのできる私』と『アレス更生プログラム』が奇跡的に噛み合い、相互に変化を遂げ、私の身に宿った」

 

「それで、『光』? が、見れるようになったと……?」

 

「そうだ。『光』と『闇』、相反する二つのものを私は見られるようになった。もちろん、貴様のそれらもな」

 

 風丸の『光』と『闇』。

 影山の話を聞く限り、人の持つ精霊(ケモノ)……、所謂魂のようなものに近いのだろうか。

 

「……俺の『光』と『闇』って、何なんですか……?」

 

 数秒程の静寂。

 

 言う気がないな、と風丸はその問いを諦める。

 

「……ならもう一つ、教えて下さい。貴方の『光』と『闇』とは、一体何なんですか」

 

 影山零治という人間が理解できなくなっていた。

 『雷門中(じぶんたち)』を殺そうとしていた『影山零治』と、今、自分の目の前にいる『影山零治』。過去と現在で全く思想が異なっていると風丸は思った。

 もしかすると、影山が受けたプログラムがそれほど優秀だった、ということなのかもしれない、とすら考えた。

 

 だが、風丸自身がどう考えを巡らせても、最終的に出る答えには、この男は『影山零治』以外の何者でもない、と自分の感覚が思考を矯正し、結論づける。

 

(俺は一体何に──)

 

 そんな風丸の思考を遮るように、影山が手をある方向に向けた。

 

「──!?」

 

 そして、影山の手から伸びている人差し指が、風丸のことを指し示す。

 

 

「……私にとっての『光』は、お前達『イナズマイレブン』だ」

 

 

 ……

 …

 

 

(俺達が、『光』……? いや、何故俺は今、影山(アイツ)のことを考えて……)

 

 鬼道の意図が理解できない。

 彼と同じ学園に通い、彼と同じ指導者の元で、風丸は強くなった。

 

 だが、まだ足りないらしい。

 

 世界の舞台での戦い。それに着いて行けていない。

 円堂、豪炎寺、灰崎、稲森、吹雪……。彼らの超人的な力に、着いて行けていない。

 いつの間にか風丸に付けられたその傷を更に抉り取るように、あらゆる運命が、風丸一郎太を攻め立てる。

 

 そして、風丸は()()

 

 

「──そういうことか」

 

 

 それは、きっと空想だった。

 

 倒れる風丸の前で、一人の男がカバンを開くと、その隙間から漏れ出た姿に自然と目が奪われた。

 

 宇宙の『闇』に染まりながら、影を反射する石の『力』。

 

 その輝きだけで、人の人生を狂わせる。そんな果てなき虚空の先、風丸は『光』を見た。

 

 風丸の視界に『剣先の邪心(ばかげたくうそう)』が映る──。

 

疾風ダッシュ……!!」

 

 風丸一郎太の『(ケモノ)』が、暴れ出す。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ぎゃああああッッ!!」

 

 鬼道の狙い通り、ベルゼ(相手の一人)(くう)に絶叫を弾き飛ばしたことによって、鬼道は仮説の真偽を理解した。

 

 ──透明に()()()()()()()

 

 きっと『タイムトランス』と似たようなトリック。催眠術か何かだろう。

 ……と、鬼道がそこまで理解を深めると──

 

──おおっと、風丸!? 見たこともない速度で左サイドを駆け上がる! まさに、疾風! 誰にも止められない帝国の俊足だ──ッ!!』

 

 風丸が更に走り出した。

 まるで鬼道の意思に反したそのプレイに、鬼道は目を丸くする。

 

(SBであるから問題自体はないが──)

 

 もしや、考えが共有できていなかったのかもしれない、と安定択を取ったはずの自分を責めながら、風丸の先に道を開こうと地面を蹴った。

 

 その瞬間──、ピュンッ、と風が掠めた。

 

「な──ッ!?」

 

 風丸だ。

 

(走り出した瞬間に姿が捉えられなくなったぞ……!?)

 

 まるで何に囚われているかのような、まるで何かを渇望するかのような。風丸の表情を見ることは出来なかったが、その超速の背からはそんな雰囲気が感じられた。

 

(それに、風丸の髪が伸びたようにも見える……)

 

 風丸の突然の暴走──、という形で風丸に上がらせることになるとは思っていなかったが、結果オーライ。風丸に上がれるだけ上がらせた後に、前線の吹雪佐久間アフロディに繋げる、という鬼道のあまり想定できていなかった仮定を用いて作り上げた最善策と同じだ。

 

「ま、甘いな。日本(ジャパン)の疾風────」

 

「く……ッ!!」

 

 鬼道の喜びも束の間。風丸のボールが無に奪われた。

 

「風丸!」

 

「悪い鬼道……、取られた……!」

 

「……!? お前やはり髪が──」

 

 ──短くなった。

 それと同時に風丸からどこか邪気が抜けている。

 

(いや、今はそれよりも……!)

 

 気になることはたくさんあった。だが、試合は止まらない。気持ちを切り替えなくてはならない。

 

「一か八かだ!」

 

 鬼道はハンドサインを掲げた。

 

 それを見たイナズマジャパンの選手達が即座に位置に着く。

 

 

「行くぞ! 【エンジェルローブ】……!!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「成程、中々厄介なことをしてくれたな」

 

 イナズマジャパンのタクティクスを見た時、サタンが思ったことはそれだ。

 サタン達の『【インビジブル】』は、相手選手全体に催眠術を掛けることで自分達の姿を捉えさせないようにする必殺タクティクス。

 恐らくそれに対抗するための必殺タクティクス。

 まさかこの試合中で『【インビジブル】』に適応して考案したとは思えない。

 

(元々用意してあったタクティクスを、この盤面に当てはめたか……)

 

 

 更に何より注目すべきは……、分かりやすく中央の一点にのみ選手が配置されていないこと。

 

 

「サタン様……」

 

「ああ、誘われているな」

 

 相手選手の形成した壁を避けながら、先へ進む。

 だが、そうしたところで先にあるのは……、あの狩場。

 

(さて、どうす──、……俺は何と言った?)

 

 ──【インビジブル】』に適応して考案したとは思えない。

 

 

「なるほど──、一か八か……か」

 

 サタンが不敵な笑みを浮かべながら走り出すと、「サタン様……!?」とアスとサルが動揺を露わにする。

 

 そして、中央の空きエリアを突破するというところまで来ると、鬼道が奪いに上がった。

 

ゾーン・オブ・ペンタグラム!!」

 

 その技と同時に、全員が一斉に不可視のはずのサタンを取り囲む。まるで天使の衣のような美しいフォーメーションにサタンの逃げ場が完全になくなった。

 『【エンジェルローブ】』。恐らくボールを持った一人を取り囲み、強制的一対一を作り出すタクティクス……。

 

(ならオレのことが見えている……? いや、違うな──)

 

 球状に領域が展開されると同時に、サタンはボールを蹴り抜いた。

 鬼道の必殺技に入り、サタン達の催眠術が解け、ボールのみがイナズマジャパン全員の前に姿を見せた。

 

「どちらにせよ、これなら手遅れだろう?」

 

 ボールがアスの元へ渡る。それと同時に『【インビジブル】』が解ける。

 

 『シャイニングサタンズ』において、実力をサタンという圧倒的光によって見向きもされぬまま秘匿され続けた二人のストライカーの実力が明らかとなる。

 

「合わせろサル・ガタナス!」

 

「ええ、行きますよアス・タロト!」

 

 二人の放つ必殺技。

 アスがボールを小さく跳ね上げた瞬間、二人の振り抜かれた足が重なる。

 

「「スペル・デッドエンド!!」」

 

 サタン・ゴールの『タイムトランス』に並ぶか、と聞かれたならば、間違いなく並ぶことはない、と答えを返す。そんな単純な必殺技。で、ありながらサタン・ゴールはその存在を隠し続けた。

 

 そして、その理由は、シュートを受けた者にしか理解できない。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 円堂守は、そのシュートの先に、世界の最期を見た。

 

 空が赤く染まり、ボールは黒光を放つ。

 動作自体は自分のよく知る『イナズマ一号』とそっくりだというのに、あの技とは比べ物にならないほどのオーラに、円堂の肌がビリビリと震えた。

 

風神雷神!!」

 

 シュートの威力が『タイムトランス』と比べ物にならないほど強い。

 正義の剛腕でなく、双神を顕現させた円堂はそれを察し取り、自分の選択は間違いではなかったと心の隅で安堵した。

 

 『メガトンヘッド』は、まだ未完成。元々完成することのない必殺技とされているが、そうではない。シュート技でありながら、シュート技としての十分な威力を発することができず、パンチング技として『タイムトランス』の対策の為、ギリギリで調整を間に合わせた必殺技なのだ。

 

 つまり、純粋な威力で『風神雷神』を上回られることがあるのなら、未だ円堂は──、

 

 

「はああああああ────ッッ!!」

 

 

 ──抗う手段を、持ち得ない。

 

 

『……ご、ゴーーーールッ!! まさかのサタン・ゴールではなく、アス・タロトとサル・ガタナス! 二人のFW陣が、先制点を叩き込んだぞ!!』

 

 円堂はゴールネットに吹っ飛ばされ、ボールが腕からコロコロと転げ落ちた。

 イナズマジャパン全体に異様な雰囲気が流れる中、サタンの元へアスとサルが駆け寄る。

 

「流石だ。アス・タロト、サル・ガタナス」

 

「「勿体無きお言葉……!」」

 

 そんなやりとりを横目に、明日人が円堂の元に駆け寄って来る。

 

「円堂さん!」

 

 そう焦る明日人に手を引かれ立ち上がると、円堂はニッと口角を上げた。

 

「ああ、平気さ! それにしてもすごかったな今のシュート! クラリオの『ダイヤモンドレイ』みたいだった……!!」

 

(それに……、多分まだアイツらは──)

 

 円堂は心配している様子の明日人に「大丈夫だ」と笑う。

 明日人は力強く頷き、元のポジションに戻る。

 

「さて……、どうするかなぁ?」

 

 そうは言ってみるが、大方対策の手段は思いついている。

 

(出来るかはともかく……、って感じだけどな)

 

 円堂が思い出していたのは、昨年の『FF』。アフロディ率いる『世宇子中』との決戦前、通い詰めた鉄塔広場の円堂の特訓場。

 

 ──『雷門のゴールを護るのは……、俺だ。──俺が強くならなくちゃ……、優勝なんてできない……!』

 

 あとは円堂が、『あの魔神』に見合うGKになること。

 

「だよな──。なら、俺は……、お前が協力したいと思える位に強くなる……!」

 

 決意と共に、かつて己が感じた恐怖すら、立ち上がる為の力に変える。

 それが、円堂守が伝説たる所以なのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 円堂の護っていたゴールが破られた。

 韓国戦を通じて既に経験したはずだが、その事実による精神的影響は大きい。

 稲森明日人は改めて円堂守という人物の大きさを思い知った。

 

 だが、現在、この場面。

 

 円堂では、どうしようもない相手の策略。

 鬼道の頭脳を以てしても、突破の難しい真っさらな『無』の闇。

 

 『光』になる。

 

 円堂守ほどの鮮烈な輝きに、稲森明日人は及ばない。

 

 それでも……、

 

「……俺が、やるんだ」

 

 道を照らせ、道を示せ。

 たとえそれが見えない道なのだとしても、稲森明日人の光で、皆を導く。

 

「鬼道さん──! 俺、頼みたいことがあって!」

 

 輝かしいこの正道を、走り狂え──。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「はい、鬼道君が完全に気がつきましたー♪ ぱふぱふぱふ〜!」

 

 趙金雲が何故か喜びながら立ち上がった。

 そして、神門杏奈の冷ややかな視線を避けるように、ベンチの選手達の方をを向く。

 

「──というわけで、ここからは反撃タイムトランス〜、ではなく反撃タイムー! 少し早いですが、交代選手を出しまーす♪」

 

 吉良と灰崎がピクリと反応する。

 

「待たせすぎなんだよ。このゴッドスt──

 

「──ふん、ようやく俺の出番かよ……!」

 

 あ? お前は相手(あっち)側で出とけ悪魔さんよ?」

 

「何だと! お前こそ、─────!」

 

 互いを押し退け合うようにベンチを立とうとする吉良と灰崎の喧嘩を見ていた基山と氷浦は顔を見合わせ、はあ……、と息を吐いた。

 この試合中で、何度注意することになるのか。いや、どちらかがコートに上がれば、闘争意識も良い方向に向くのだろうか。

 そんな希望的観測を重ねながら、氷浦は灰崎を抑えるように手を伸ばした。

 

「お、おい。だから二人ともやめろって──」

 

 そのタイミング。吉良と灰崎が落ち着いた瞬間、趙金雲がある選手に指を指した。

 

 

 

 

「──ってことで、氷浦貴利名くーん? アップしておいて下さいねー?」

 

 

 

 

「えっ………………俺、ですか?」

 

「俺です♪」

 

 にっこり。ぽかんとしながら尋ねた氷浦に向けられた趙金雲の笑顔は、こうとしか言い表せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
『スペル・デッドエンド』
→サル、アスが放つ二人連携シュート技。太陽にボールを重ねて赤黒いオーラを射出する。()()、シャイニングサタンズの一番威力の高い技。総合的に見ると『タイムトランス』より弱い。
 原作アニメで普通に考えてもシャイニングサタンズは制作側が明らかにクラリオのチームのこと意識してるっぽいから、アスとサルはベルガモとルーサーに重ねてみた。技名もちゃんとオリオナイズ出来てて結構気に入ってる。
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