ピ──────ッ!!
『さあ、イナズマジャパンからのボールで試合が再開! 0-1というピンチの中、一体日本代表はどのように争うのでしょうか!?』
試合が再開する。それと同時に佐久間から吹雪へボールが渡り、イナズマジャパンが攻め上がる。
【インビジブル】によって発生する濃霧、並びにコート上に掛けられる効果は恐らく避けようがない。
だが、発動後、明日人達が『無』と表現していた状態に相手があるのであれば、避けるも当たるも自由。
それが、現時点での明日人達の考察であり、それは正解だった。
「鬼道君!」
「ああ──、注意しておけ稲森!」
「はい!」
稲森明日人が『光』になる。
つまり、明日人が相手の必殺タクティクス【インビジブル】を攻略、無効化する。
それでも、結局ボールを『無』に取られないのが一番だということは変わらない。
鬼道がボールを持ち、吹雪と佐久間と共に攻め上がるのを明日人は後方から追いかけた。
(で──、鬼道さんの通りなら……)
「【インビジブル】!!」
──来た。
サタンの宣言。身体中の緊張感と危機感が抜け落ちていく感覚。
「まだ使ってくるんですか!?」なんて坂野上の動揺と同時に、明日人は精神のベクトルを元に戻し、気を引き締め直した。
「吹雪!」
「うん。任せて──!」
鬼道から吹雪にボールが渡ると同時に、足元のボールが『無』に姿を消した。
予想より早いシャイニングサタンズの動きに戸惑いながらも、明日人は一度その場で停止した。
(さて、考えろ稲森明日人──)
言い聞かせながら、盤面を見極めようと辺りを見渡す。
吹雪自身もチームの面々も、皆よく分かっていることだろうが、【インビジブル】によってサタン達が姿を消すタイミングと、ボールが消えるタイミングは別だ。鬼道によれば、恐らく【インビジブル】では出来ない微調整のようなことを相手は個人個人その場面次第で行なっているのだろう、とのこと。
明日人はボールが消えるのを、サタン達の【インビジブル】によって生まれる『隙』だと考えている。
「──取られた!」
吹雪の言葉と同時に、鬼道が辺りの味方達に目配せをし、宣言する。
「もう一度行くぞ! 【エンジェルローブ】!!」
天使が悪魔を抱擁するかのような美しいフォーメーション。
明日人はその最奥、天使に魅了された者達への狩場に鬼道の代わりとして着いた。
明日人の鬼道への頼み。
それは『一度だけ【エンジェルローブ】において、明日人が相手とのマッチアップに挑むこと』。
そして、鬼道はその進言に対して躊躇う様子だったが、一度だけなら試してみろ、と明日人にそのポジションにつくことを許してくれた。
「多分そろそろ来ますよ明日人さん!」
さっきも【エンジェルローブ】で最終ラインに配置された坂野上の言葉に、明日人の緊張が高まる。
「難……」
鬼道にタイミングの予測の仕方は伝えてもらった。それでも難しい場合の参考に、先程やられた際に掛かった時間も教えてもらった。
だが、明日人自身の頭脳では鬼道の感覚にすら及ばない。
だからこそ、坂野上の注意に助けられた。
(大丈夫。俺には『ブリリアントムーヴ』がある──)
その瞬間、明日人は視界に進入した不可視の悪魔と、確かに目が合った。
…
……
──数日前、夜。合宿所高台コート。
「──ディフェンス技の特訓? 何でそんなこと」
倉掛の不満そうな態度に明日人は苦笑いしてしまっていた。
「俺って前までFWだったんだよ。だからMF、それもこの間とかディフェンス側出たし。ちゃんと働くためにはやっぱりある程度こなさなきゃいけないよなって」
「だから、ディフェンス技なの?」
「うん。俺、シュートとドリブルは自信ある技二つあるし」
指を二本立てて見せながらそう言うと、明日人はニヤっと口角を上げた。
「それに『フローズンスティール』。俺、めっちゃ受けてあげたじゃん」
ギクリ、と倉掛の肩が揺れた。
「…………それは貴方の趣味に私が付き合ってあげたんじゃない」
「無理でしょ」
恥じらうような仕草でそんなことを抜かす倉掛に明日人は真顔でそう言った。
光を放ち、滑らかに超高速で駆け抜ける。
それが明日人の新技、『ブリリアントムーヴ』。
明日人は、倉掛からボールを華麗に盗み取ると、小さく息を吐き、置いてあったタオルで汗を拭った。
「──というか、あんなに理由語っておいてやること『
そんな皮肉めいた倉掛の言葉に、明日人は小さく笑った。
星章のとある選手の動きを参考にしながら、明日人の必殺技による加速を織り交ぜたその技は、倉掛の言う通り今までのスタイルとあまり変化がない。
「まあ、俺の長所を活かすってなったら、やっぱ速さなのかなってさ」
「ふーん……。明日人って自己分析苦手?」
「え、何いきなり。何か間違ってた?」
「いえ、間違いとかではないと思うわ。ただ速さ以上の長所があるんじゃないかと私は思ってたから」
「……? それって?」
「……分からないなら良いわ。自己分析なんて後でも出来るし、明日人はやったんでしょ? なら速さも武器なのは間違いないんだろうから、先に技の完成を優先させても良いはずよ」
「確かに──。よし、じゃあ急がないと!」
明日人がそう言うと、倉掛は「そうね」と答え、明日人の足元に置かれていたボールを軽く蹴った。
その球を追いかけ再び足元に収まると、明日人は、先程より少し距離の離れた倉掛と目が合った。
すると、倉掛が小さく微笑みかけてきた。なので明日人はそれに乗っかるように──。
「──結構俺のこと気に入ってくれてるよねクララって!」
「フローズンスティール」
「何で何で何で何で何で────ぐぇっ!!」
薄く赤らんだ頰を隠すように、倉掛が明日人に制裁を与えた。
……
…
(特訓……?)
そんな自分の追憶へ湧いた疑問を置き去りにしながら、明日人は必殺技を放つ。
「はああああああ────ッ!!」
光を纏い、明日人は輝かしい超道を手に入れる。
直後数瞬の内、明日人が狩場に割り込むと、そこに潜み先へ侵入せんとしていた
「ブリリアントムーヴ!!」
サタンの目に動揺が走る。
だが、その瞬間に加速が最大に至る明日人に対応できるはずもなk────
「「「ドミネイトボール──!!」」」
(は────?)
ボールが増えた。
いや、それだけなら問題になり得ない。
突如現れた無数のボールが悪魔の如く羽を広げ、明日人の光道を囲うように煽り、飛び回る。
(どう動けば……、いや
未だ身を隠すアスとサルの
そう、これこそが『シャイニングサタンズ』第三の
「【インビジブル】を見抜いたのは褒めてやる。だが、それだけだ。キサマのやっていることは『
サタンの言葉と共に、ボールが消滅し、明日人は声の元へ振り返った。
だが、その時点でサタンは遥か先、円堂との対面に持ち込まれてしまう。
「行けサル・ガタナス」
「ハッ!」
そして、今度はアスではなくサルがボールを弾ませ、再び円堂の守護するゴールを目標に、あの一撃が放たれる。
「「スペル・デッドエンド!!」」
「風神雷神!!」
再び円堂の双神が、クラリオの一撃と並ぶような超威力を受け止めようと掌を重ねる。
「うおおおおおおおおおお────ッッ!!」
両腕を突き出し、ボールを受け止める円堂の咆哮が止まることなく響き渡る。
やがて、その咆哮は必死の絶叫へと変わりだし、円堂の腕がシビレて力が入らなくなっ──。
「──はあっ!!」
咄嗟の判断を効かせた風丸が、円堂の抑えていたボールを横から蹴り抜いた。
円堂は「サンキュー風丸」とだけ感謝を述べる。
風丸の行動によってボールの威力が完全に損なわれることはなかったが、失点は免れることができた。
ガンッ──!
打撃音を響かせ、軌道の逸れたシュートがゴールポストを跳ね返り、空へ放り投げられる。
坂野上がそれをトラップしようと、「ナイス!」と、落下地点に駆け込む。
だが、そこには既に一人。
「──タイムトランス」
溢れ玉を狙うのは、サタン・ゴール。
判断するしないよりも早く、ボールに時空もボールも制御して見せたサタンは、口元を歪ませながら、唇を小さく弾く。
「使え……」
「──ザ・ウォール!!」
「……!! ダメだ岩戸!」
風丸の声に動揺させられながら巨壁がボールを受け止め、絶叫と共に破られる。
そして、殆ど反射的に取ってしまったその選択と行動を、岩戸はすぐに後悔するかのように、あっ、と口を開け──
「がぁブ────ッ!!」
その直後、円堂が顔面からゴールネットに吹き飛ばされた。
[0-2]
◇◇◇
『シャイニングサタンズの猛攻により、あっという間に追加点! イナズマジャパン、二点差にまで追い詰められました!!』
「──今のプレイ、誰のせいで点が入ったと思いますか?」
「え──?」
人によっては無慈悲に捉えられてしまいそうな実況と同じタイミングで、趙金雲は氷浦に無慈悲な問いを与えた。
「誰のせいって……、そう言われても──」
「──そうですね。稲森君のせいです」
「な……っ!? 監督!!」
氷浦は陰口のような真似をする趙金雲に怒りを露わにした。
だが、趙金運は小さく笑い声を発し──、
「良いんですよ。きっとそう言われる方が、彼も気が楽です」
普段の姿からはかけ離れた趙金雲の落ち着いた双眸は、コートの中を捉えていた。
視線の先を辿るとそこにいたのは、稲森明日人。
氷浦の昔からの親友の一人だ。
「さて、氷浦君。貴方にこんな話をしたのも意味があるわけです♪」
「……意味?」
「ええ、貴方のよく知る稲森君の強さ。それを沢山教えて上げて下さい♪」
◇◇◇
──ピコンッ
明日人の手首に巻かれた藍色のイレブンバンドが振動し、メッセージの着信を知らせた。
明日人は咄嗟に腕を持ち上げ画面を見やる。
──『稲森の作戦を続行せよ』
そのメッセージを読み切った瞬間、ベンチに目を向けた。
そして、『何で』と、口から思わず言葉を発するタイミングに重なるように、続々と人が明日人の元に集まる。
「──どうやら、監督はお前にあのタクティクスを攻略しろと言いたいらしいな……」
「そうだね。それと、明日人君を優先するならきっと──」
顎に手を当て不敵に笑う鬼道に続くように、アフロディもまた、ベンチに目を向けた。
『おおっと!? イナズマジャパン、ここで選手交代です!』
腕のストレッチを行いながら氷浦が、コートの際で万全な状態を作っていた。
「やはり、僕だね」
[MF亜風炉→MF氷浦]
『ここからはアフロディに変わって氷浦が試合に入ります! 一体どのような策を用意しているのでしょうか!?』
「よろしく頼むよ」
「はい!」
アフロディと手を当て、氷浦が自分のポジションに向け駆け出した。
明日人は即座にそこへ駆け寄り、口を開く。
「氷浦! 今、監督から指示が──」
「ああ、わかってる。イレブンバンドのメッセージこっちにも届いてたし、俺もずっと試合見てたから。お前の底なし体力、見せてやろうぜ明日人!」
「──!! ああ!!」
明日人は、氷浦の言葉に力強く頷いた。
◇◇◇
ピ──────ッ!
この試合三度目のホイッスルと共に、佐久間が吹雪にパスを渡すと同時に、自分達は動きだした。
それと同時に鬼道が敵陣の奥へと駆け出す。
「──鬼道!?」
自分を追い抜いて先へ行く鬼道に、佐久間が動揺を叫ぶ。
だが、肝心のサタンはそれに惑わされることなく、こちら側を見定めていた。
「作戦を変えたか……【インビジブル】!!」
瞬間の濃霧がコートを覆い隠し、光を奪う。
自分で、無意識のうちに口角が上がるのがわかった。
「──! 取られた!」
イナズマジャパンの動きの変化。
それを気がつかれずに切り替えられるとは明日人自身も思っていない。そのため、ここでタクティクスを使用されるのも、明日人達の想定した範囲内。
だからこそ、鬼道は止まることなく敵陣奥地を狙う。そして、鋭く手を掲げた。
「【エンジェルローブ】!!」
本当なら、明日人が指揮権を預かれるのが、負担を分散できるため最善と言えた。
だが、風丸のような鬼道の下に位置付けられるほどの指揮、分析能力を明日人は有していない。
そのため、どうしてもタイミングは今までの二度と同じように、鬼道に任せることになる。
そして、それと同時に始まるのが、
先程の鬼道の位置に合わせたものとは違い、少々荒く、隙も少なくないそのフォーメーションの奥。狩場にて、明日人はその瞬間を待った。
──『お前の底なしの体力、見せてやろうぜ明日人!』
氷浦の言葉に改めて気がつかされる。
今まで、自覚の出来ていなかった自分の長所。瞬間的な速さとサッカーを楽しめる精神以外のもう一つの明日人の個性。
今思えば、数ヶ月前の『FF』でも、星章戦での明日人への指示をきっかけとし、その長所を無意識のうちに頼る場面が沢山あった。
(そういうことなんだよな。氷浦……!)
その確認は不安ではなく、確信。
明日人はずっと勘違いをしていた。その答えを、今──
「行くぞ──!!」
明日人の『光』が、コートに潜むシャイニングサタンズを日の元に晒し出す。
「──!? サタン達の姿が!」
「見えるでゴス!!」
坂野上と岩戸の動揺の瞬間、明日人が大地を蹴る。
「「──!」」
「ドミネイトボール──」
サタンの
「──ブリリアントムーヴ!!」
さっきのものとはまるで別物。明日人は光速を超えた速度でサタンからボールを掠め取ると、無理矢理足でブレーキを踏む。
地面が抉りながら数メートル間滑り切った瞬間、全員の視線が明日人の足元に向くのがわかった。
(『ブリリアントムーヴV2』……なんて──)
『──稲森止めたああああっっ!! 鋭い光の一矢が、稲森明日人が、『シャイニングサタンズ』のタクティクスを貫きましたッ!!』
「よっしゃ、行くぞ皆ああ──っ!!」
明日人の作戦『『ブリリアントムーヴ』によって、シャイニングサタンズのタクティクスを無力化する』が成功した。
それにより、超金運の作戦が機能を始める──。
「──明日人!」
明日人は、氷浦が要求した通り、氷浦の走る先の地点に先回りさせるようなパスを蹴る。
「ナイス、明日人!」
「頼んだ! 氷浦!」
近くにいたこともあって、二人のバトンはスムーズに繋がった。
そして、氷浦はある必殺技の構えを取る。
それは、FF決勝戦の土壇場で氷浦が偶然成功させた未完成の必殺技と同じ必殺技。
氷浦は密かに練習を重ね、遂にこの技を完成させていた。
ロングパス『氷の矢』をロングシュートに応用した必殺技。
「──氷の槍!!」
そのシュートは文字通り、槍のように真っ直ぐと氷のように滑らかに空を貫きゴールネットに突き進む。
『氷の槍』は未完成の段階で西蔭政也の『王家の盾』を引き出させるほどの強力な必殺技。
だが、その強さの大半は氷浦の繊細なパス制度を用いての初見殺し的な意味合いが強い。小細工なしの威力特化の技にはどうしようもできないこともあるだけで、対応力自体は高い、そんなGKにはあっさり止められてしまう。実際に特訓中、氷浦は円堂にこのシュートを軽く止められている。そして、相手のGKのパズズ・ザハムも円堂と同じタイプで、対応力に特化したタイプのGKだった。
これでは足りない。
「──そこで、俺の新技か……!」
『氷の槍』の軌道の先、タイミングを見計らっていた鬼道が指笛を吹くと、地面からペンギンを顔を出した。
「アイツ俺の技──!」
ベンチに座る灰崎が目を見開く。
「──お前の技だ。借りるぞ、灰崎」
『氷の槍』にペンギンたちが高速回転をしながら嘴を突き刺す。
そこに、天地を返した鬼道がボールに足を振りかぶった。
「オーバーヘッドペンギン!!」
『なんと!? 氷浦の必殺技に鬼道の必殺技がオーバーライドッ!! これは? これは! これは────』
「「──バイシクルソード!!」」
鬼道と氷浦のその技は目標となる敵のゴール目掛けて、軌道を落とすことなく突き進む。
流れは完全にこちら側、味方は全員やる気マックス。
だが、一度完全にやられた経験のある明日人は冷静に──
「「サングレーザー!!」」
「──答え合わせだ……!」
三人の奇跡の一撃を止めた
だが、あの技に止められた。
そのカラクリに明日人は心当たりがある。
それは『FF』本戦の二試合目。白恋中との試合で、シュート技『北極グマ 2号』を、同チームの小僧丸、海腹と共に試合開始のホイッスル直後、この試合と同じように放った際の経験。
『北極グマ 2号』は、『メテオドロップ』を超え、『爆熱ストーム』に迫る当時の明日人達が持つ最高クラスのロングシュート技。
白恋中の攻めの連携は強力だという前情報を持っていた明日人達は、先制点を得ようと、全力で放った。
だが、たった一人、吹雪アツヤの『必殺クマゴロシ縛』に止められた。
何故、止めることが出来たのかは結局わからないまま試合は終わったが、後日、趙金雲に話を聞いたところによると「ただ特効入っただけですよ? 北極熊がクマゴロシの名を持つ技に敵うとは思えませんからね♪」らしい。
つまり、『エレメントブレイク』と『サングレーザー』の間に、威力差とも純粋な相性差とも違う特効性があったのだ。
そのため────、
「「ぐああああああっっ!!」」
──『バイシクルソード』があの技の威力を上回って仕舞えば、簡単に突破ができる。
「太陽のギロチ────がああああっ!?」
そして、勢いが衰えることのなかった速攻が、ゴールネットに突き刺さった。
[1-2]
◇◇◇
「やったな! 鬼道!」
「佐久間……、ああ! ここから巻き返すぞ!」
「もちろんだ! 俺だって──」
──お前に負けてはいられないからな!
『バイシクルソード』
→『氷の槍』×『オーバーヘッドペンギン』のオーバーライドシュート技。剣城のと同じロングシュート。威力は剣城の『バイシクルソード』以上、『デスクラッシャーゾーン』以下みたいなイメージ。
『ブリリアントムーヴV2』
→明日人の使うブロック技。星章の佐曽塚の『ブリリアントムーヴ』より高い加速力を明日人のチート体力(GP)で実現。強制こんしん技。動きは本来より左右に大きく振れる感じで、技の分類が変わったりとかはない。