雷陽と黒龍   作:久遠れもん

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無敵ヶ原富士丸

 

 『永世学園』からの選抜者と海腹白兎屋の六人との練習試合から数日が経った。

 イナズマジャパンは現在、それぞれが自己評価をし、発見できた課題の改善を意識しながら、久遠道也の指導の下、フィジカル面中心の特訓をこなしている。

 罰ゲームを受けることになっていた灰崎、吉良、氷浦、倉掛、西蔭の五人は試合後数日間、『趙金雲スペシャルメニュー』をこなしていた。

 そんな中、明日人はチーム内のDFでありながらリベロとしての役目を任されている坂野上昇の特訓に付き合っていた。

 

シャイニングバード!!」

「たああーーっ! ──うわああっ!!」

 

 ゴール前で明日人のボールを足で受け止めた坂野上が吹き飛ばされる。

 明日人は急いで坂野上の元に近寄った。

 

「大丈夫か!? 坂野上!」

「はい! 僕は大丈夫です!」

「そ、そっか、すごいな」

「いえ! 僕なんてまだまだです! 皆さんと一緒に勝ちたいですから、まだまだ僕は強くならないと! もう一回お願いします!」

「あ……、ああ、わかった!」

 

 坂野上の言葉への返事を返すと明日人は再びボールを拾い、足元に置いた。

 

 

 

 休憩中、スクイズを飲んでいるとゴール前で灰崎がボールを置くのが見えた。

 

「うおおっ!!」

 

 灰崎の深い黒を纏うシュートが誰もいないゴールのネットを大きく沈ませる。

 灰崎は明日人たち『雷門中』にいた時よりも格段にシュート力が高まっていた。

 ふと、明日人はあることに気がついた。

 

(いつもの技と雰囲気が違う……?)

 

 いつもの技、といっても明日人が知る必殺技は『デスゾーン』『オーバーヘッドペンギン』、『パーフェクトペンギン』の三つ。その中でも『デスゾーン』は元々鬼道から『星章学園』に輸入された必殺技かつ三人で放つ技であるため関係がない。残った二つにある共通点とはずばり、『ペンギン』。

 明日人はあの必殺技から灰崎の『ペンギン系』の必殺技とはまた違った感覚を感じていたのだ。

 

 すると、灰崎のもとに鬼道が近寄っていく。

 

 灰崎と鬼道は、灰崎が『星章学園』に所属していた頃からの師弟関係だと、灰崎自身が言っていた。だから、自分が行っても邪魔してしまうだけだ。

 

「…………」

 

 明日人はその場から離れ、自分の特訓に戻った。

 

 ◇◇◇

 

「流石だな、灰崎。以前より威力がかなり上がっている」

 

 鬼道が灰崎に話しかけた。灰崎はゴールにボールを取りに行こうとしたが、鬼道が新しいボールを投げ渡してくれた。

 

「威力は上がっているかもしれない。だが正直、俺はまだ目標地点が見えていない」

「焦りが出始めているか」

「……まあ、そんなところだ」

 

 鬼道が顎に手を当てながら、灰崎の現状をパッと見で考察する。灰崎はじっとボールを見つめている。

 

「そうだ。この辺りで一度、その技を必殺技の形に昇華してみてはどうだ? 焦ってその技の感覚を忘れてしまうのも良くないだろう」

「セーブポイントを作るってことか……、中途半端な技を増やして俺のプレイを崩したくないんだが」

 

 鬼道の提案は灰崎にとってかなり魅力的に感じられたが、引っかかる点もあり、その点がかなり大きな問題であるので灰崎が心配してしまうのも仕方がなかった。

 

「未完成とはいえ既に何度か『パーフェクトペンギン』以上の威力を出しているだろう? その時点で戦力にならないということはないと思うぞ」

「確かに、今の調子だと一回戦、どころか予選内で間に合うかも怪しい。ここらで繋ぎの新技を用意しておくのもアリか」

 

 鬼道の言葉に納得させられ、灰崎は頷く。鬼道が小さく笑った。

 

「なら、一回戦までに間に合わせるぞ。どんな技にしたい?」

「とりあえず『パーフェクトペンギン』か『オーバーヘッドペンギン』を発展させる感じでいいか? すぐに新しく考えつける気がしない」

「ああ、お前が良いならなんでも構わないさ」

 

 灰崎と鬼道は早速特訓に取り掛かる。

 直近で二人で共に特訓を行ったのは、それこそ『フットボールフロンティア』の予選頃の話、既に二ヶ月は経っている。

 灰崎が指笛を吹き、ボールを蹴り飛ばした。

 明日人のことや野坂のこと、自身が救い出した幼馴染のこと等、灰崎は鬼道と会えていなかった期間に起こった出来事を淡々と伝えるような口ぶりで語る。だが、灰崎の師として今まで成長を見守ってきていた鬼道にはその欣幸さを感じとることができた。

 

「稲森明日人が、やはりお前の光になったんだな」

 

 鬼道がゴーグル越しでもわかる柔らかな目つきで灰崎に言った。

 そして鬼道は、いずれ自分の教え子のこの男は自分を必要とすることもなくなるだろうとすぐに気がつく。少し寂しさを覚えたが、それでもやはり嬉しい気持ちが大きい。

 この感覚を自分と同じ『強化委員』たちも感じているのだろうか。だとしたら、自分たちはどうするべきなのか。

 灰崎に触発され、鬼道も己とチームの課題を探し始めた時、鬼道は気がついた。

 

 

「──世界と俺は今、どのくらい差がある?」

 

 突然、いつになく真剣な言葉を灰崎は己の唇から問うた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 趙金雲がコートに訪れると、イナズマジャパンたち全員での合同練習が始まる。

 紅白戦をしたり、一対一でのシチュエーションの対策をしたり、内容は日によって様々。趙金雲の破天荒な特訓を『フットボールフロンティア』期間中、嫌というほど思い知った明日人からすると、少し物足りなさすら感じていた。

 

「じゃあ今日の紅白戦はボールを持ったら三歩しか歩いてはいけませんよ〜」

 

 嘘ついた。全然訳わかんない特訓始めちゃった。

 

 

 

『ピ────ッ!!』

 

 神門杏奈の手に握られたホイッスルから強烈な音が鳴り、試合が始まる。

 試合が始まる……と、言っても、内容はかなり酷いものだった。

 

 明日人がボールをトラップした瞬間、敵の選手二人に囲い込まれてボールを奪われる。

 アフロディが自慢の跳躍力でDFを跳び躱す。

 三歩歩き切った剛陣のヤケクソ『ファイアレモネード』。

 風丸がオフェンスのために『疾風ダッシュ』を使用、コート上を駆け抜けると、趙金雲に「何やってるんですか! ルール違反ですよ!」と、何故か怒られていた。

 

 そんなこんなで[0-0]のまま前半が終わってしまうのではないか、という頃、鬼道がついに動いた。

 

「みんな! 一度、プレイをやめてくれ!」

 

 コート上の全員の視線が鬼道に移る。それを確認し、鬼道は話し始めた。

 

「監督の意図が理解できずにがむしゃらにやらざるを得ないのわかっている。俺も同じだ。だがこの特訓は恐らく、普段のサッカーを崩してはいけないんじゃないか?」

「でも、三歩しか歩けないんですよ!? いつもとは違う何かを見つけないと……」

「いや、この特訓の構造上、そうする必要はないはずだ。普段のプレイを心がければ自然と新しいプレイが見つかる。……そういうことでしょう? 監督」

「──さあ? わかりましぇ〜ん♪」

 

 坂野上の反論を鬼道は受け止めると、自分の意見を皆に話す。わかりやすく惚けている趙金雲の様子から、そうするべきなのだろうと、全員が察した。

 ちょうどボールを持っていた豪炎寺が一度、コート外にボールを弾く。神門杏奈が『ピッ!』とホイッスルを鳴らし、スローインから試合が再開した。

 

「氷浦!」

「俺か……!」

 

 そんなふうに言いながらも氷浦が胸でトラップ。そのまま一歩二歩と進む。そんな間にも、敵が近づいてくる。氷浦は一度辺りを見渡した。

 

「自分のサッカー……! ってこれであってるのか──なっ! 氷の矢!!」

 

 氷浦は必殺技を利用したロングパスを敵陣に放つ。その先にいるのは、敵陣奥地でチャンスを伺う剛陣。

 

「おおっ! ナイスパスひうら……」

「──今だ! 岩戸!」

 

ザ・ウォール!!」

 

 鬼道の指示に従い、岩戸が剛陣がトラップした瞬間の隙をつきボールを奪い取る。

 

「ちょっ! 嘘でしょ先輩!?」

「やったでゴスっ!」

 

 岩戸が穏やかに笑顔を湛えながら、鬼道にボールを回す。

 

「すまん氷浦ぁ〜!」

「良いですから早く戻ってきてください!」

 

 そんな二人のやり取りのうちに鬼道の周囲に明日人たち選手数人が集まり、鬼道を囲い込む。

 

(このまま取って……)

 

 ──鬼道の作戦通りに。

 

イリュージョンボール!!」

 

 無数のボールが明日人たちの周囲を雪崩のように跳ね回り、鬼道がそれを無視して走り出す。明日人たちが困惑していると、突然パッとボールが消え、鬼道の足元にある一つのみとなった。

 

(鬼道さんの『イリュージョンボール』……! って、アリなの……?)

 

 明日人が趙金雲の方に視線を向けると、趙金雲は座り込んで携帯ゲームで遊んでいた。趙金雲はあんな態度だが意外と視野が広い。何も言わないのであればアリなのだろう、と趙金雲について詳しくなりつつある自分に呆れながら、明日人は試合に意識を戻した。

 

「アフロディ!」

 

 鬼道のパスがアフロディに通される。

 

「はああっ!!」

 

 アフロディが空中からダイレクトシュートを打つ。

 そのシュートはさすがに円堂にキャッチされ止められる。

 

「惜しかったな。やはり動きが制限されるとお前のような選手は厳しいか」

「うん。僕も取れる戦術を増やすべきなのかもね」

「確かにな。多数の相手にも取れる必殺技を用意するのも良いかもしれない」

 

 アフロディと鬼道が数秒間で会話を挟んでいるうちに、円堂がボールを投げる。

 

「──稲森!」

「一星!」

「ヒロトさん!」

 

 明日人はトラップすると、即座にパスを通す。それと同じように一星も吉良にボールを回した。

 

「──吉良!」

 

 ヒロトにパスを求めながら灰崎が駆け上がる。

 

(あれ? いつもより少し速い……?)

 

 灰崎に感じた違和感を自分の頭の隅に置いて、明日人もそれに続くようにコートを駆け上がっていく。明日人は慣れないポジションであったMFに順調に慣れ始めてきている自分に安心感を覚えた。

 

「ハッ、誰がお前なんかに渡すかよ──!」

 

 吉良がボールを真上に突き上げる。空に放り出されたボールを吉良追いかけ、追撃を当てた。

 

(あれは、ヒロトの……!)

 

 吉良は空中であると言うのにボールに打撃を与え続ける。ボールの軌道が惑星の形を示すほどの回数を重ねた瞬間、

 

ザ・エクスプロージョン!!」

 

王家の盾!!」

 

 吉良のシュートが爆発を繰り返しながら、西蔭の護るゴールを狙う。西蔭も対応をするが、かつて明日人たち『雷門中』と戦ったときよりも確実に数段進化している吉良の技に西蔭は額に汗を浮かばせた。

 

「はああああっ!!」

 

 だが、爆発などを通しているようでは『皇帝』である野坂の側近ではいられないと王帝月ノ宮の『“静かなる守護神(ガーディアン)”』としての意地を見せた西蔭が見事に止め切って見せた。

 

「ああ、クソッ! あれで入んねーのか!」

「だから俺にパスを出せと言ったんだ」

「ああ? 上から目線で偉そうに!」

「実際入ってねぇだろうが」

「お前はシュートも打ててないだろ!」

「何だと!」

 

「あーもう喧嘩しないでよ灰崎!」

「ヒロトもだ!」

 

 灰崎と吉良が突然喧嘩を始め、明日人と基山がために入る。こんなやり取りをこの数日間何度か繰り返している二人は呆れながら止めに入った。

 

「お前、協力しないで勝てると本気で思ってんのか!」

 

 明日人の力が緩んだ。

 

「パス貰えなくてキレてる奴の吐いて良いセリフじゃねーんだよ!」

「お前の自己中と俺の話は別物だ!」

「同じだ!」

「同じじゃない!」

 

「……? どうした? 稲森」

「えっ? ああ、ごめん……なんでもないよ」

 

 

 すると、コートの外でゲームに集中していたはずの趙金雲がコートにやってきた。

 

 

「みなさ〜ん。そろそろ終わりにしますよー♪」

 

「え?」

 

 趙金雲が練習を続けていたイナズマジャパンの選手たちにそう言うと、選手たちの視線がコートの外の景色に移る。

 夕方から始めた特訓だったとはいえ、意外と時間が経つのが早く感じた明日人はきょとんとしながらも、趙金雲の下に集まる。

 

 

「ああ、そうですそうです。みなさ〜ん? 私が指名しますので……、呼ばれた方はこの後、ちょっとしたお使いに行って頂けませんか?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ──夜。

 

 趙金雲に言われた通り、明日人を含む六人は買い出しに出掛けることになった。

 要求されたものは、洗剤やら歯ブラシやらといったような生活用品一式。なんでも合宿所の宿舎に用意されているものではなく自分専用のものを使いたいんだそう。合宿所側がわざわざ用意してくれた消耗品なのだからもちろん未使用品。買っても買わなくても同じようなものだろうと六人全員が思ったはずだ。だが、『監督に逆らった者は除名』というルールがあるため明日人たちは逆らえない。

 そんなわけで仕方なく合宿所の外へ買い出しに出て、今ちょうど合宿所に戻っている最中の六人は、湖のほとりを歩きながらちょっとした雑談に花を咲かせていた。

 

「てっきり僕は韓国代表には、チェ・チャンスウが出てくると思っていたんだけどね。まさか違う代表チームが組んであるとは思わなかったよ」

 

 直前までの韓国戦の話がひと段落つくと、アフロディがそんなことを言った。

 

「アフロディさんがそんなに言うなんて……。そんなに凄い選手なんですか?」

「ああ、“龍を操る者”なんて異名が付けられていてね。彼の指揮するサッカーはラフプレーのような荒い戦術から相手の心理掌握をする恐ろしい戦術まで様々なんだ。だから彼を超える選手なんてそうそういないと思ったんだけれど、予想が外れたね」

「へぇ〜、そんな人がいるんですね! 凄いなぁ……!」

「いや……、なんでお前がそんなこと知っているんだ?」

 

 アフロディの話を目を前のめりに聞いていた明日人が目を輝かせながら、更に話を聞き出そうとアフロディに詰め寄る。それを傍から見ていた風丸が聞いた。

 

「僕、一度呼ばれてたんだよ。韓国代表にならないかって」

「え?」

「ほら、僕って出身は韓国だろう?」

 

(全然初めて聞いたけど)

 

「それをどこから聞いたらしくて、彼から直接。でもイナズマジャパンの発表会の招待状も貰っていたし、そんなズルはいけないからね。流石に断っておいたんだ」

「アフロディくんは真面目なんだね」

「あはは、そんなことはないよ。それに僕は『あの敗北』を目にしてから、円堂くんたちの力になりたいってずっと思っていたんだ。元々ここ以外に入るつもりはなかったよ」

 

 吹雪の言葉にそう返すとアフロディは隣を歩く風丸の表情を見つめた。

 風丸もそのことには思うことがあるのか月明かりを反射する湖の水面を眺めていた。

 

「風丸さんたちってやっぱり凄いですよね」

 

 静かになった一同から、坂野上が話題を切り出した。風丸が坂野上のそんな言葉を不思議に思ったのか首を傾げた。

 

「だって、クラリオさんたちに負けてしまってから、ずーっと配属された各校で一人、他の選手たちを引っ張り続けてきたんですよ!? っていうか僕なんてそもそも円堂さんがいなくちゃサッカーなんてやってもいないんです。これってやっぱり凄いことですよ!」

「そ、そうか……?」

 

 熱弁する坂野上に風丸が目を逸らし頰を掻いた。

 坂野上の言う通りだ。円堂や風丸、鬼道のような『強化委員』たちは明日人たちの戦ってきた相手にも数人在籍していたが、その中にはサッカーがそこまで盛んでなかったという学校のチームも少なくなかった。間違いなく、『強化委員』たちの努力の結果だっただろう。

 

「でも、そうしないとクラリオに勝てないどころか日本のサッカーは世界から置いて行かれてしまうって話だったからな。やる以外取れる道はなかった」

「それでもこの一年間の成果は沢山ある。手を抜くこともできたのに」

「そうですよ!」

 

 アフロディも風丸にそう伝えると、坂野上がそれに乗っかる。

 

「それに風丸くんは新技も用意しているんだろう?」

「……まあな。俺自身の実力不足で負けたら目も当てられない」

 

 

 

(みんな本気で勝ちに行くつもりでいるんだな)

 

 隣に立っていた灰崎の視線に明日人は気が付かなかった。

 そして、明日人の様子を隣で見ていた灰崎がため息を吐き口を開いた。その瞬間だった。

 

「──!」

 

 遥か頭上の夜空からシュートが降ってきた。

 

 それに真っ先に気がついた灰崎とアフロディが目線を送り合い、ギリギリの姿勢で灰崎がボールを受け止め、跳ね返す。

 

「……誰だ!」

 

 明日人はふと通っていた道の近くにあった公園に目を向ける。そして、一人分の人影に気がついた。

 

「みんな、あれ!」

 

 明日人が指を指すと、五人の視線が一点に交わる。

 すると、その人影が公園の灯りの下に姿を見せた。

 

 小柄な帽子を被った少年がそこにいた。

 どこか幼さの残る生意気な子供、そんな印象を明日人たちは持った。

 

「──ああ、そこにいるのはテレビに出てたサッカー日本代表の人たちじゃないですかぁ?」

 

 少年が煽るように笑いながら、明日人たちに話しかける。

 

(コイツがさっきのシュートを……?)

 

 明日人はその体格から受ける印象がとても先ほどのシュートを放った人物とは思えず、困惑してしまっていた。他の五人も明日人と同じで、この少年以外の全員がこの訳の分からない状況に困惑し、警戒するのみに留まっている。

 

「あーもう何ですか? そんな黙っちゃって」

 

 少年はつまらないものを見ているかのような表情で六人に呼びかけた。

 

「……お前、何者だ?」

 

 やっと、この状況を理解はできずとも飲み込んだ風丸が六人を代表して尋ねる。灰崎とアフロディがそれに続くように頷いた。

 

 すると、少年は手に持っていた先程灰崎が蹴り返したボールを自分の足元に置き、

 

 ────消えた。

 

「こっちだよ。雑魚選手ども」

 

 背後から声が聞こえ、明日人はすぐさま振り返る。

 そこにはつい数秒前まで明日人たちの通っていた道から外れた公園にいたはずの少年がいた。しかも、足元にはきっちりとボールが置かれている。

 

(まさかこの一瞬でドリブルを……!?)

 

「あはははっ! 全員揃って何その間抜けな顔! お前たちの実力不足なんだからしょーがないだろ?」

 

 少年が腹を抱えて再び笑い声をあげ始める。

 そして、いきなり静かになった方と思うと少し間をおいて、今度は明日人たちの合宿所のある方角に移動し、地面にボールをつく。

 

「僕は無敵ヶ原富士丸。君たちみたいなダメな選手を完膚なきまでに叩きのめすため、ここに来たのさ」

 

 そう言って、無敵ヶ原と名乗った少年は今度は正面からボールを六人に向かって蹴り飛ばした。

 

「ぐ……っ!」

「灰崎!」

 

 ボールをぶつけられ、灰崎が膝をついた。それを横目に見ながら、見事に灰崎の腹部に直撃したボールを無敵ヶ原はトラップ。次は吹雪に向き直る。

 

「させるか!」

「当たるわけないじゃん。そんな雑魚チャージ」

 

 風丸が無敵ヶ原に突撃したが、難なく無敵ヶ原はそれを躱す。

 そして──、

 

「そっちがその気なら僕ももうちょっとラフにやろうかなぁ。──ほらっ!」

「く……っ!」

 

 風丸も同じようにやられてしまう。それを見た坂野上が無敵ヶ原に叫ぶ。

 

「何者なんですか。あなたは!」

「さっき名乗ったばっかりだよねぇ!」

「く……! うぅ……」

 

 坂野上、吹雪を無敵ヶ原が身体やボールをぶつけてダウンさせる。ボールを奪えば、と明日人は考えるが、無敵ヶ原の動きがこちらの六人よりも圧倒的に速く、それは不可能だと理解させられる。

 

「ねぇそんなで大丈夫? もう少しで試合なんだろ?」

「なんでこんなに強い選手が……!」

「あはは! もしかして諦めちゃった? 相手に怯えちゃ君の強み活かせないもんね──!」

 

 そう言うと、無敵ヶ原がボールを上空に蹴り上げた。直後、明日人たちの目の前から無敵ヶ原の姿が消えた。

 

 そして、明日人が気がつき顔を上げた瞬間、再び凄まじい速球が無敵ヶ原の片足から叩き落とされる。明日人はそんなボールに反応できない。

 明日人にもボールがぶつかる。その瞬間、

 

「はああ──っ!」

 

 アフロディがボールを蹴り返した。無敵ヶ原もこれには少し驚いている。

 

「君が誰か……は、今は置いておこう。ルールを教えてくれ。僕が君に勝ってあげるよ」

「やる気だね? 神様」

「その呼び方はやめてくれ。今の僕はただの見習いさ」

「へぇー、まあどうでも良いけど。とりあえず、このボール取ってみてよ。僕、忙しいから時間制限アリね」

「わかった。どこからでも来て構わないよ」

「言われなくてもそうしてるっての──!」

 

 アフロディと無敵ヶ原、二人の戦いが始まる。

 無敵ヶ原の連続シュートをアフロディがギリギリで蹴り返す。防戦一方なアフロディを見ているだけではダメだと、明日人はそれに参戦する。他からも動けるようになった者たちが次々と無敵ヶ原の持つボールを狙う。

 

 

 数十分間これを繰り返した頃、

 

「あーあ、もうそろそろ時間だ。僕帰らないと。じゃあね〜雑魚選手のみなさん」

 

 六人をその場に置いて、無敵ヶ原がどこに帰って行った。

 

「はぁ……はぁ……、くそっ!」

「何だったんだ……アイツ」

「凄腕のサッカー選手なのは間違い無いですね」

「それも僕たち以上のね」

「あんな手品みたいな動きをする選手初めてみました……!」

 

 明日人たちが道に倒れ込みながらそんな会話をする。

 

 

 アフロディは顎に手を当てて、無敵ヶ原の帰って行った方角を見つめていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ──試合前日。

 時刻は既に就寝時間の直前、明日人は一人で部屋を抜け出し、欠伸をしながら合宿所を歩いていた。

 

(アフロディさんどこ行ったんだろう)

 

 部屋に戻らないアフロディを探しつつ、水分を補給できそうな場所を探す。途中で神門杏奈と倉掛にすれ違い軽く挨拶をした。

 

「確かあの二人同室なんだっけ……」

 

 そんなことを呟きながら、廊下を歩く。

 

(ああ、水分摂れるとこ聞けば良かった)

 

 少し後悔しながら、何となく先に進む。

 

「また食堂行くかぁ……」

 

 食堂の入り口を通り過ぎようとした明日人は少し考え、いつものように食堂に入る。

 すると、

 

「ん? おう、明日人!」

「え? 円堂さん……!?」

 

 明日人の入った食堂の席の一つに、円堂守が座っていた。

 





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