短いかもしれない
円堂と明日人の関係は、実のところ、然程深いものではない。一番深い繋がりは、互いに『フットボールフロンティア』の準決勝で試合をし合った『利根川東泉中』と『雷門中』のメンバーであることくらい。強いていうのであれば、雷門にいた頃の円堂と同級生の大谷が明日人たちに教えてくれるがあることがある。その程度だ。
しかし、互いにどこか似た部分があるということは感じていて、明日人側から意識はしていた。していたのだが……、
(いきなり二人きりは気まずい……)
円堂の隣に座る明日人は軽く息を吸いながら、正面を何となく見ていた。本当は気を抜くと俯いてしまいそうな緊張状態なのだが、円堂に心配させるのも違うだろうと、それはしないでいる。
「……稲森は特訓、順調か?」
結局、気を遣わせてしまったのか、円堂が明日人に話しかけてくれた。明日人としても流石に話されて答えないわけにはいかない。
「順調、……かと言われると、正直わからないです」
「何かあったのか?」
「皆と俺って世界に対する意識が違うな、って最近思っちゃって、このままでいいのかなって……」
明日人は己の抱えた正直な想いを口にした。
円堂が明日人の表情を伺うようにこちらを見ている。
あんなに気を遣わせないようにとしていたのにな、と想像以上に緩い自身の唇を責めながら、明日人は──、
「皆、世界のことを越えるべき『壁』として見てて、それに打ち勝とうとしているじゃないですか……。なのに俺、世界での試合のこと考えると、どうしても……」
「ワクワクしてくるって?」
その言葉に明日人は顔を上げた。円堂が不思議そうな顔で首を傾げている。
「おいおい、なんでそんな顔するんだよ。確かこの話、前もお前としなかったか?」
「あ、いえ……。確かに言ってた……」
クラリオと戦ったあの日、全員の意志を統一させた円堂は確かに「ワクワクする」と、世界への想いを語っていた。
円堂は悩む明日人を見て笑った。
「いや、でも……、俺のそれは勝つとか負けるとかより先に来てて……」
明日人の頭によぎるのは昼間の坂野上と灰崎。皆が勝つために頑張っている。もちろん皆もワクワク、興奮もしているんだろう。けれど、明日人の場合は勝つ負けるより先の場所にその感情があった。
相手の選手たちがどんなプレイを、どんなサッカーをするのか、それを考えるだけでワクワクが止まらない。
そんな自分を異常に感じていた。
「……? だからそれで良いんじゃないか?」
「ええ!?」
円堂の言葉に明日人は驚く。円堂がきょとんとした顔で明日人の表情を見つめている。
「で、でも皆勝つために頑張ってて……」
「なあ、明日人?」
「──はい!」
円堂が明日人に語りかける。
「試合に勝つためにはどうしたら良いと思う?」
なんだその質問。明日人は腕を組み、首を傾げた。
──体力、技術、連携、タクティクス、必殺技……。
明日人の中で様々な答えが溢れ出す。そして、自分が試合をするときに大切にしていることを答えに決めた。
「──気持ち! 気持ちじゃないですか? 勝負をする前に気持ちで負けていたら戦えなくなっちゃいます」
「おっ!」
「おおっ!」
円堂の反応に明日人は前のめりになる。謎の緊張が胸の中にあった。
「──惜っしい〜!」
「ええーっ!?」
期待を裏切られ驚く明日人を円堂は面白そうに笑う。
しばらく笑ってから円堂が明日人の答えにフォローを入れる。
「確かにそれも正しいんだろうけど……、もう少し簡単な話だ」
「簡単……? 特訓で自信をつける……とか?」
「おいおい、離れちゃったぞ?」
的外れな回答だったようで、円堂の表情が困惑に変わる。
そんな変化に明日人は焦らされ、唸り声を上げながら考える。
「そんなに考えるような問題じゃないぞー」
円堂が明日人に助言をくれた。だが、その言葉に明日人は更に焦らされてしまう。
「じ……、じゃあ、何なんですか……?」
明日人はそれ以上、『簡単なこと』が思いつかず、遂に円堂に尋ね返してしまう。円堂が「うーん」と、少し悩む様子を見せた。そして、優しい表情で明日人の目を一度見ると、明日人に問うた。
「なあ、明日人。サッカーをやってるとき、何を考えてる?」
「え? それは……、相手のこととか、全力で戦うこととか、楽しく気持ちよくプレイすること……とかですかね?」
「それだ」
「えっ?」
円堂が嬉しそうにニッと笑みを浮かべる。
「試合に勝つために必要なことは、“サッカーを楽しむこと”だ」
「あ……っ」
「だから、
円堂の言葉にハッとさせられる。
確かにその通りだ。どんな時も明日人たちはサッカーを楽しんでいた。どんなに苦しい特訓でも、どんなに激しい試合でも、チームの仲間たちと一緒にサッカーをしている時は、ずっと楽しかったし、どんな相手にも勝つことができた。
自分のサッカーへの想いが段々形を成していく感覚に溢れ出す高揚感が止められなくなる。
「サッカーは誰かを負かすためじゃない……」
自分も過去に言葉にしていたじゃないか。
「……想いを繋げるためにするんだ」
明日人はようやくそのことを意識した。
「おおっ! 良いこと言うじゃないか!」
円堂も感心しながら、明日人の言葉に賛同する。
明日人は円堂の言葉が今も嬉しくてたまらないといった様子で居ても立っても居られなくなり、椅子を蹴り飛ばすような勢いで身体を立たせると、円堂に向き直った。
隣の円堂が明日人の表情を見上げ、口角を上げる。
「円堂さん! 俺……! ……ッ、俺……! ──明日からの試合、全力で楽しみます!」
すると、円堂も明日人と同じように笑い、口を開いた。
「ああ! サッカーやろうぜ!」
「はい!」
明日の『レッドバイソン』との試合。どんな選手がいるのか。どんな戦術を取るのか。どんなサッカーをして、どれだけサッカーが好きなのか。円堂と明日人の楽しそうな会話は大きな笑い声と共に廊下に漏れて聞こえるほどだった。
そんな廊下で、会話を盗み聞きをしていた一人が、もたれかかっていた壁から背を離した。
「円堂守と稲森明日人、か……。残念だけど明日の試合。イナズマジャパンは負ける」
冷淡な言葉を誰もいない廊下に呟くと、一星充は食堂の扉の前から歩き去った。
個人的に今回の円堂は割とイナイレ3の最後の指示を意識してたりする。一年経ったらこんくらいしっかり理解して教えてくれるよ円堂なら。