世界を救った聖剣の担い手さん   作:ラスキル

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いい加減、fgo編に入らなければ。


前途多難のセット・セイル

 彼女が狭い森を出たのは、理由があった。

 故郷の地アルカディアにおいて、アタランテという名は狩人として馳せていた。

 しかし、彼女はポッカリと何かを失っていた。

 それが何かはわかっている。

 アタランテには、生みの親とは別に育ての親がいた。アルカディア王たる父に捨てられ森に埋められた彼女は月の女神アルテミスに救われた。そしてアルテミス神はアタランテを育て親———██に預けた。

 ██ がアタランテをどう思っていたのかは知る由もないが、育て親としての役目を果たし彼女に生きるための術を教えた。弓の扱い方、森での生き方、そして最低限の知恵を。

 しかし、彼女がそれらを身につけた後、育て親は彼女の前から姿を消した。たった一つ、大切な贈り物を残して。幾日待てども、育て親が戻る事はなく、次第にその相貌、声色までもアタランテの記憶から薄れていった。

 けれど、その存在は彼女の中に根強く残っている。

 ██を探し出す。

 森を出たのはそれが理由だ。自らの武勇を示し、名声を広める。そうすれば、自分の存在に気づいた名も知らぬ誰かがが見つけてくれるのではないか、アタランテは考えた。

 そうして彼女は森を出た。アテもなく様々な国を訪れているうち風の噂を聞いた。イアソンという男が、各地から船員を招集し遠い異国コルキスへ向かうらしい。これはいいチャンスだと、アタランテは自慢の足で地を駆けイアソンの元へ向かった。

 

「アタランテ! お前が森の獣に育てられたと噂のアルカディアの狩人か!」

 

 イアソンは英雄たちと共に船旅に出ようという男だ。きっと豪胆な男に違いないと思っていた。

 しかし、実際に招集をかけた男は、

 

「なるほど、獣臭い・・・あんなど田舎で腕をもてあましていただけある。どうだ、私のアルゴー船に乗らないか? 大丈夫だ、誰よりもお前を上手く使ってやるから」

 

 なんというか、

 

「化け物じみた狩人の勇姿をこの私に見せてくれ!!」

 

 心から無理なタイプだった。

 

 ◇

 

「断る」

 

「今、なんと? 私の聞き間違いかな、「断る」だなんで言葉が聞こえたのだが」

 

 イアソンは自分の耳を疑った。

 なぜこの女はオレの誘いを断るのか。この船に乗れば、名声だって武勇だって、なんだって手に入る。ここに集った他の英傑たちもそういった目的があるものが過半数いた。

 だからこそ、イアソンはアタランテが言った言葉が自分の聞き間違いだと信じて疑わなかった。

 

「私はお前たちに与しないと言ったのだ。第一・・・」

 

 アタランテは、イアソンではなくその後ろで飲んだくれてる連中を見て言った。白髪の青年や、粗暴な物言いを発している男などが、酒や肉を散らかしながら貪っていた。賭け事でもしているのか、イアソンとアタランテには目もくれない。

 

「あんな連中とこの先やっていける気がしないな。頭目が頭目ならその下につく連中も連中だ。とんだマヌケ集団にしか見えない」

 

「なんだと!?」

 

 そう言って、アタランテは身を翻した。「あっ、待て!」など、制止の言葉なんて聞かず去っていった。

 

「ああぁ・・・うぅ、このっ、おい! 貴様らのせいだぞ!」

 

 イアソンは振り返り、原因のならず者たちに罵声を浴びせる。

 しかし、当人たちはサイコロ振りに夢中でイアソンの声など聞こえていないのか、振り返りもしない。

 

「———8。ほら、君の番だカイネウス」

 

「へっ、懲りねえ野郎だ・・・6、いいねえ。逃げるんじゃねえぞメラニオン」

 

「逃げるなんて。私が勝負事から逃げたことなんて一度たりともないさ」

 

「あぁ? てめえ、この前の賭金踏み倒しただろうが。ここで身ぐるみ剥がしてもオレは構わねえぞ?」

 

「あの時は手持ちがなくてね。心配しなくとも、さっきペレウスから借りたさ。円盤投げで勝つことが条件でね、おっと10だ」

 

「そういや、競ってたなお前ら。んだよ、オレも誘えよな」

 

「それじゃあ借金ができないだろう。君と競うなら槍投げの方が・・・むっ、酒が切れたな」

 

「き、貴様らぁぁ! オレの話を聞きやがれ!!」

 

 ドンっと机がわりの酒樽をイアソンが叩く。それで、ようやくイアソンに視線が集まった。賭け事をしていた連中は手を止める。彼らの視線はみな冷たい。

 その中で白髪の青年———メラニオンが、おや、と口を開いた。

 

「やあ船友。どうした、そんなに顔を真っ赤にして?」

 

「どうしたもこうしたも! 貴様らがそんな調子だからアタランテの奴にマヌケ扱いされたんだ! だいたい、いつまで飲んだくれているんだ、積荷は積み終わったのか!」

 

 また始まったと、イアソンを知るものは顔を合わせた。まあまあ、と彼を落ち着かせる。

 

「まあ落ち着け。そうだ、君もやるかいクラップス。最近、トロイアで流行っているのを教わってね・・・やらない? そうか」

 

 メラニオンはサイコロを手の中で転がす。

 

「積荷については問題ない。雇った水夫に積み込ませている。後は、まあ、酒が足りなそうかな」

 

 その足りなそうな酒を飲み干しながら言った。

 酒は航海にとって必需品だ。長い後悔では食物の保存や水の腐敗を防ぐのは難しい。そのための酒だ。酒は長い期間腐らず、保存できる。それをわかっていながら飲むのをやめないのは・・・彼なりの理由があるのかもしれない。

 

「アタ・・・そう、アタランテについては君にも責があろう。あのように貶める口説き方では娼婦でさえ振り向かん。あれだな、君はどうしようもないぐらいピンチにならなきゃ魅力がでないタイプだな。それに、過ぎたことはしょうがないだろう」

 

 ぐぬぬ、と唸り声が聞こえる。

 構わずメラニオンはサイコロを振るった。

 

「来るもの拒まず、去るもの追わずに切り替えるべきだと思うがね・・・あ゛っ」

 

「はははっ!! 7だ! 7を出しやがった! この賭けは俺の勝ちだ!」

 

 7を出したら即負けのこの賭け事、勝負は一瞬で決まった。

 おおっと二人の賭け事を見ていた集団は湧き立った。反応は様々だ。

 

「お前どっちに賭けてた?」

 

「そりゃカイネウスさ。ホラ吹き野郎に賭ける奴なんて馬鹿か、大穴狙いの阿呆さ」

 

「ちっ、つまらん」

 

 懐が潤い、笑い合うもの。やっぱりなと口ずさむもの。そして、ペレウスは嘆いた。

 

「嘘だろうメラニオン・・・キミが勝てるというから全財産貸したんだよ!?」

 

「・・・いや〜、ははっ」

 

「笑って誤魔化すつもりだね! そうやって逃げようとしたってそうはいくもんか」

 

「そう言われてもね、円盤投げで勝ったのは私だし、お互いに合意した上で借りただろう」

 

「円盤に油塗っておいて何言ってんのさ!」

 

「まあまあ、次やったら勝てる。絶対、必ず・・・多分。大丈夫だ、あと一回分の金さえ貸してくれれば」

 

「無いから言ってるんだろう!?」

 

 イアソンの罵倒など無かったかのように英傑たちは騒ぎ出した。小心者、乱暴者、知恵者、ホラ吹き、様々な個性がぶつかり合い、彼らが纏まることなど有り得ない。何せ,彼らはイアソンのために集まったのではない。栄誉,武勇を求めただけに過ぎぬのだから。

 

「き、貴様らあぁぁぁ!!」

 

「ちっ、いちいち五月蝿えな・・・おいおい、イアソンさんよぉ〜」

 

 イアソンの怒号が目障りだったのか、カイネウスが近づいていく。

 

「———アンタはこの船の船長でも何でもねえだろが」

 

「なにぃ!?」

 

「俺たちはお互いの利害が一致してる、いわばビジネス関係に過ぎねえ。だと言うのに、アンタは上から偉そうに指図しやがる。俺はぽっと出のなんの成果も出したことのない男にこき使われるなんてゴメンだね」

 

「おい、カイネウス」

 

 その言葉に、同じくケイローンの学舎で机を並べた者たちは眉を顰めたが、カイネウスは「黙ってろ」と視線を向ける。

 カイネウスの言葉にも一理あった。イアソンは王家の血を引くとはいえ、現状はなんの地位も後ろ盾もないただの人間。そんな人間の元にこれほどまでの英傑が集まったのは無論、彼の努力の賜物であったが、それにしてもな傲慢な態度を示していたのは確かなのだ。

 しかし、イアソンもいつまでも言われっぱなしではない。顔を真っ赤にしながら、捲し立てるのであった。

 

「うるさい!うるさい!こんなまとまりのない馬鹿連中の船長など、こっちから願い下げだ、ばーーーか!!」

 

 まるで子供のように指を刺しながらイアソンは喚く。

 他の者であれば、侮辱を受けたと殺し合いに発展するところではあるが、このイアソン、自分の実力は弁えている。それゆえではあるが、子供のように喚くという、なんとも情けない姿を晒すのだった。

 

「だが、俺を虐げて後悔するのはお前たちだぞ!? この船を用意したのは、この俺だ!この船を扱えるのも、この俺だ! マヌケなお前らだけじゃ、帆の扱いすらできずに転覆するに違いない。あー、そうに決まってる! そうすれば、とんだ間抜け集団として経歴に傷がついちゃうからな!?」

 

「んだとテメェ!!」

 

「ひぃ!?」

 

 とうとう堪忍袋の尾が切れたのか、あわや大乱闘になりかける。

 みかねたのか、「まあまあ」とメラニオンが間に入った。

 

「まあ、待て。この船の船長はヘラクレスが合流次第、多数決で決めると最初に言ったろう? まだ決まってもない責任者の扱いで水掛けするのは実に無意味だ。それに船員が今減るのはどちらにせよ困るだろう」

 

「め、メラニオン」

 

 ようやく助け舟が出たことに安堵するイアソン。しかし、カイネウスはその様子が気に食わないようだ。

 

「チッ、甘いんだよ。こういう奴はな早めに痛い目に遭わなきゃ理解しねえ」

 

「そう言ってやるな、カイネウス。これでも、いざという時は頼りになるんだよ。彼に惹かれてここに集った者も少なくないのだから」

 

 周りを見渡せば、ペレウスやカストロらが頷いていた。

 イアソンには不思議な魅力があるのかもしれない。メラニオンも、惹かれたうちの一人ではあったのだから。

 そうして、興が冷めたとカイネウスは酒の席へと戻っていった。傍観していた者たちもそれぞれの持ち場に戻り始める。

 

「・・・まあ、気にするな。人望というのは、結果次第でいくらでもついてくるものだと私は思うよ」

 

「言っておくが、お前に言われる筋合いはないからな。おい」

 

「さて、私は大英雄様が来るまで酒でも買ってくるとするかな」

 

「おい、誤魔化すな。おい」

 

「・・・ところで、お金持ってる? 生憎と手持ちが無くなちゃってね」

 

「お前いい加減にしろよ!?」

 

 波音の中、イアソンの怒号が響いた。




メラニオン
親としての自分を忘却?、大切な何かが欠けた感じ?そんな状況。ダメ人間化。
「アタランテ? 誰それ知らんわ」
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