人類史においてその名は刻まれていない。
白きマキアと呼ばれた戦いは、伝えるべき文明が滅びたことにより誰の記憶にも残ってはいない。それ故、一部の神々や、どこかの洞窟に描かれているとされる壁画以外、彼/彼女の姿を知るものはいない。
【神様】
村に、聖剣が運ばれる少し前。
神様達が私たちの前に姿を現しました。
「我らは巨神に決戦を挑む」
大きな顔の神様が他の神様を従えています。
彼らは、大昔にソラから落ちてきました。あの巨神と同じです。違うのは,私たちのご先祖達が彼らを神様として崇めたことでしょうか。
「・・・我らが敗れれば,この星に生きるものは全て収穫されることだろう・・・汝らも例外ではない」
西の海に大きな国を築いていた彼らは、真っ先に巨神の侵略を受けました。
そこに住んでいた人間も、他の神様もみんな食べられてしまったそうです。彼らは諦めることなく他の大陸の神様達と共に、巨神と戦っています。
東の神様達なんて巨神の姿を見た瞬間に降伏してしまったのに、西の神様達はどうして私達を守ってくれるのか、とても不思議に思ったのを覚えています。
「我らに『歓び』を与えてくれた汝らを、我らに居場所を与えてくれたこの美しい星を———必ずや守護してみせよう」
けれど、私は知ってます。
最も力を持つ戦いの神はこの前の戦いで壊れてしまいました。彼らだけでは、あの巨神に勝つことはできないのです。
それに私はこの神様達が苦手でした。
彼らは人間の姿ではなく不気味な機械の体です。私たちと明確に違う存在。人間、全然違うものの前では恐怖の方が勝ってしまうのだとこのとき思いました。きっと、ご先祖様達も自分たちと違う存在の彼らをみて怖かったから、崇めることを選んだのではないでしょうか。
順番が違えば、私たちはあの巨神を神様にしていたのかもしれない。
◇
【美しき巨神】
神様達が負けて、いよいよ巨神がこの村に近づいてきました。
村の人たちは不気味な笑みを浮かべ私に縋ってくるのです。
「お願いします!私達をお救いくださいませ」「おお、我らが救世主よ!もはや神々は居ませぬ!貴方こそ我らを救えるのです!」「助けて」「死にたくないんだ!」「その剣で」「担い手である貴方であれば」
まあ、その気になっていた私は村の人たちの声に応えました。「ええ、任せてください」とか「心配しないでください」とか、なんちゃって救世主ムーブをかませていました・・・失敗しても責められることはないのです。どうせ、みんな死んでしまうのですから。
聖剣は常に持ち歩いてました。
この剣が輝きを放っているうちは、みんなが私を見てくれる。みんなが褒めてくれる。この剣さえあれば、生きてる価値があるのです。
・・・やはり、私にはふさわしくなかったのでしょうね。
この頃になると、他の村からも人が流れてきて私達の村はとても大きくなっていました。
その分、私は神輿にされることが増え、その期待が高まってきます。
期待が高まれば高まるほど、周囲の目が恐ろしくなってきました。だって、私は英雄ではありません。剣なんて生まれてこのかた振るったことすらないのです。
縋ってくる人に、思ってもない言葉を掛ける毎日。近づいてくる巨神。増え続ける期待。本当にこの剣に力があるのかという不安。
逃げ出したいと何度思ったか。
けれど、その日はすぐにやってきます。
私は人々に見守られながら、決戦の地である丘に立ちました。
少し前までは、豊かな緑で包まれていたこの場所も、神様達と巨神との戦いで見晴らしのいい真っ平らな荒地と化しています。
いつの間にか、生き残った神様たちも集まってきました。
彼らには戦う力はありません。私たちと終わりを共にしようとしているのかもしれません。どちらにせよ、今日が最後の日なのです。
その日は美しい満月でした。
浮かび上がってくる満月を背に、ソレが見えてきました。
———はじめてその姿を見たとき、私は心を奪われました。だって、その姿は他の神様達よりも、綺麗で、美しくて、不気味なほど人に近しかった。今から、アレを打ち倒さねばならないというのに私は、その巨神を———
「神様みたい」
だなんて思ってしまったのですから。
花嫁のようなベールに包まれた夜空に散らばる星のように綺麗な肉体、流れ星が流れたような美しい紋様、全てを包み込む大穴が空いたとても大きな手。
神様達みたいに私たちとは違う。でも、神様達よりはマシだし。迫り来る姿はとても恐ろしい。けど、神様達もソレは変わらない。でも、人間に近いのはよく考えればとても気持ち悪いことかもしれない。そんなの神様だって同じこと。
だから、神様達より、よっぽど神様らしいなんて思ってしまった。
「っ——————」
目が合った。
見下ろしてくる巨神と目が合った。その瞳は、確かに私・・・聖剣を捉えている。
ああ、だめだ。確かにアレは美しい。
でも、
それでも、恐ろしさのほうが勝る。
「告げる」
———死にたくない。
大丈夫、この化け物を殺せば
———死にたくない。
みんなが褒めてくれる
———死にたくない。
私を見てくれる
———死にたくない
だから、私は、みんなのために
「・・・これは・・・・星を救う戦いである」
誰が為に、聖剣を振るった。
◇
【そのあと】
「・・・ええ、聖剣は光を放ち巨神の体を抉りました。間違いなく致命傷でした」
巨神は聖剣の光では消失することはなかったが、その後、どこかへフラフラと去っていった。
「歓声が待っていると思いました。だって、私はみんなのために聖剣を振るったんです。その権利はあったはずです・・・でも、待っていたのは、まるで私を化け物だと言うような目でした」
聖剣は人々の希望を、星の祈りを全て込めて光を放ちました。
もしかすると、私に対する期待、希望、それすらもあの巨神へ放ったのかもしれません。
残されたのは巨神を打ち倒した私という化け物への恐怖。私は、あの巨神を殺したことで巨神と同類になってしまったのです。
「腫れ物扱い、ならまだマシだったかもしれません。人間達は私を殺そうとしました。また、恐怖に怯える日々は誰だって嫌だったんです。それに私はただの人間でしたから聖剣以外は力もなくて、殺そうとすれば殺せたんです」
ええ、勿論反論はしました。
でも聞き耳なんて持ってもらえませんでした。とっくの昔に人間扱いなんてされてなかった。
村のみんなは武器を持って私に迫ってきました。
だから、
死にたくなかった私は・・・・
「神様達は人間とは違う考えを持っていました。彼らも、巨神を打ち倒した私のことを恐れていましたが、それよりもよっぽど巨神のことがトラウマになっていたようでして。
次また同じような存在が落ちてきたときどうすればいいか、と考えたそうです。そうして思いついたようです・・・私を使えばいいと」
要するに、都合のいい防衛装置です。
私を生きたまま封印して、また星の危機があれば目覚めさせる。そして聖剣の担い手として役割を負わせる。永遠にその繰り返し。
「まあ、アレです。私は・・・“貴重”だったとしても、誰かにとって“大切”な存在ではなかったんです」
ねえ、考えたことありますか?
世界を救ったその後のこと。
貴方という存在が、周りの人間にどう扱われるか。
「貴方はどうなるんでしょうね?・・・・人類最後のマスターさん」
誰が為になんて一番報われない願い