死ぬことすら実感できぬまま、命の灯火はかき消される。
星の最果てに位置するこの島の平和と静けさは、いきなり破られた。
不吉な前触れを最初に悟ったのは、この島で誰よりも知識を持ったヤーだった求愛の儀を滞りなく終えて、ヤーはホッとしていた。自分の勤めを首尾よく果たした満足感にも浸っていた。
ちょうどその時だ。ヤーは奇妙な匂いに気付き、一瞬、眉をひそめた。これは何だ? もう一度、鼻をひくひくさせて臭いを嗅いでみた。
と、いきなり一条の明るい光線が夜空を走った。それから、次の光線が。そして、無数の流れ星が降り注いだ。
眩い光のシャワーが、黒い夜空の背にくっきりと浮かび上がった。
「あれは何?」
スーリャは質問し、慌ててアランの傍まで走ってきた。
「・・・わからない」
アランは首を横にふった。
他の村人も儀式の木に集まってきて、夜空を見上げた。
スーリャはもっとよく見ようと、儀式の木に登った。強い風にゆすられる木の葉がひっきりなしに音を立てている。
その時また、光が立て続けに放たれた。今度は、さらに鮮やかで、さらに強烈な光が夜空に広がった。時間も、さっきより長い。
突然、鳥の群れが飛びたった。激しく羽ばたきながら、まるで何かから逃げるように舞い上がっていく。怯える鳥たちは、花火さながらの鮮烈な光線を必死に躱し、広い海の上空へ散っていく。
「あなた・・・」
プリアは夫の方へ身を寄せ、囁きかけた。
「何か変だ。悪い予感がする」
ヤーは小声で呟いた。
プリアは辺りに視線を巡らせ、娘の姿をさがした。見つからないので、アランに問いかける。
「アラン、スーリャはどこなの?」
「木の・・・上だよ」
アランは、花火のような光の中から現れた、巨大な人の形をした火の塊を目で追った。目が眩むような輝きとともに、その火の塊はヒューと高い音をたてながら上空を突っ切り、水平線の彼方に消えていった。
さっきまでの騒ぎが急に鎮まり、ひっそりとした静けさと暗闇が辺りを包み込んだ。
村人達は体を寄せ合ってうずくまり、たったいま目にしたものの正体を探ろうとした。それからほどなく、悲鳴にも似た、かん高い奇妙な音が聞こえて、海の彼方に大きなキノコ雲が現れた。
すると、それを合図に地面が僅かに揺れ始めた。どんどん、不気味な音も大きくなってくる。
そして突然、強い衝撃波が襲い掛かり村人達はいきなり後ろへ叩きつけられた。何度も! 何度も!。衝撃は止むことをしらない。
「———みんな、早く! 逃げるのよ! 急いで、ほら、早く!!」
危険を察知したプリアは叫ぶ。
「ママ!」
スーリャが高い木の上から大声をあげる。
「スーリャ!」
「どこだ! スーリャ! どこに!?」
アランは状況がつかめず、ただ叫ぶばかり。
とっさに、プリアは木によじ登るとスーリャの体を引っ掴んだ。燃える流星の破片が、そこらじゅうに飛び散ってくる。
パニックに陥った村人達は、四方八方で爆発する火の流星から遠ざかろうとして闇雲に走り回った。アランは儀式の木下で立ち止まると、プリアとスーリャが背中に飛び乗るのを待った。
「アラン! 走って、早く!!」
プリアの掛け声とともに、アランは走り出した。
すぐ前方では、ヤーが半狂乱になって手を振り回している。
「ヤー、乗って!」
アランは叫ぶ。後ろを振り返れば、燃える石が降り注いでくる。
すぐさま、鼻でヤーを自分の背中に押し上げると、四足の足を掛け回して前へ突進しようとする。と、その瞬間、メラメラと燃える木が鼻先に倒れかかって道を塞いだ。アランは、すかさず向きを変えると前のめりになり、フルスピードで疾走し始めた。
依然、燃える石の破片は、空から雨あられと降ってくる。
前方を走るジニーの姿が、ふと、アランの目に入った。よかった!無事だったんだ。
「ジニー、飛び乗るんだ!」
アランは大声で呼びかけた。
プリアも腕を伸ばして、ジニーを助けようとする。
「まって、アラ———」
・・・伸ばされた手が後ろに吹っ飛んでいった。
火の玉がジニーの傍で爆発したのだ。ジニーの姿形は、残っていない。死んでしまったのかすら判断できない。
「っ、あっ、ぁぁ・・・」
「ダメよ! アラン、走るの!」
プリアの叱咤する声が聞こえる。ヤーの怯えた声が聞こえる。スーリャの泣き叫ぶ声が聞こえる。
走らなきゃ、走らなきゃ、走らなきゃ!
恐怖でぐちゃぐちゃになった顔でアランは走り出す。
たまらず、後ろを振り返るとうねる炎が水平線上で巨大な塊になって分厚い壁を作り、島に向かってグングン押し寄せてくるのがわかる。火の塊はますます大きくなり、まるで巨大な人のカタチになって空全体を飲み込まんばかりの勢いとなっている。
火の塊が島の先端に触れた途端、巨大な儀式の気は木っ端微塵になった。火はたちまち燃え広がり、森の木々をなめ始める。その道筋にあるものをことごとく焼き払いながら、逃げているアラン達に向かって突き進んでくる。
その直後、燃える石の破片が背後の地面にぶつかって爆発した。爆風と破片がアランの体に当たり、勢いよく吹っ飛ばされてしまった。
「うっ・・・・・・ひぃっ!」
痛みで悶えてしまう。どこかの骨が砕けてしまったのかもしれない。木々に叩きつけれたせいか、うまく呼吸ができない。
しかし、炎はそれを待ってくれない。今にも、アランを包み込もうと轟音を上げている。
悲鳴をあげる体を起こし、とにかく走り続ける。
不幸中の幸いか、体は軽い。痛みで感覚がなくなったのか、どちらにせよ、背負う重りがなくなり先ほどよりも早く駆けることができる。
「はっ———はっ———はぁ」
アランは、ヒリヒリするような熱気を背中に感じながら、森をひた走った。けれど、それももうお終いだ。島の崖っぷちに達した瞬間、アランは急停止した。勢い余って、危うく前へつんのめりそうになった。
断崖の先は大荒れの海が広がっている。
「あぁ・・・どうしよう。ねえ、どうしようプリア!?」
アランは背を振り返る。子供が困った時に助けを求めるのは親だ。
けれど、プリアは居なかった。
ヤーも、スーリャも、居なかった。
居たはずだ、確かに、この背に居たはずなんだ!
「えっ・・・うぁ・・・プr・・お母さん! お父さん! スーリャ!!」
泣き叫ぶ。
返事はない。
アランはどこで彼らとはぐれたのか理解していない。
炎はそれを嘲笑うように、唸りながら迫ってくる。もう、考えてる暇はない。アランが炎に飲み込まれるのは時間の問題だった。
炎の壁が迫ってくる瞬間、アランはどうしようもなくなってしまい、爆風に後押しされながら、切り立つ崖からジャンプした。大きな狼は、泡立つ海の中へ真っ逆さまに突っ込んでいった。
海中に沈みゆく。
大きなこの体では、海面に浮かび上がるのも苦労する。たまらず、人間の姿に戻りアランは浮き上がった。激しく咳き込んで大量の水を吐き出し、息を切らして大きく喘ぐ。
頭上では、ついに炎の壁が島をなめつくし、爆発が次の爆発を呼び、ありとあらゆるものを破壊して、その残骸を撒き散らしていた。
「お母さん! お父さん!! スーリャ!! どこにいったの!? 嫌だよ、怖いよ!!」
アランは声を張り上げて呼びかけた。
ひょっとしたら、三人は別々に逃げているのかもしれない。そうだ、きっとそうに違いない。と、そんなありもしない希望を抱いて。
アランは泣きじゃくり、波に揉まれる。
そうしている間にも、燃える石は降り注いできた。海の上だからといって助かったわけではない。
「やだ、いやだ! 死にたくない・・・・!!」
精一杯のスピードで遠くに見える陸地に泳ぎ出した。
海面のあちこちで小さな炎をあげている火の玉の破片を明かりの代わりにして、必死に泳ぐのだった。
ご感想など頂けたら幸いです。
Fate原作と言いながらまだ関連人物が出せてない・・・もう少し話が進んだら出す予定です。