世界を救った聖剣の担い手さん   作:ラスキル

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オチタアト

アランはおぼつかない足取りで海からあがった。感覚が麻痺してしまったようで、体に力が入らない。長い時間をかけて島から泳ぎ続けた末に、ようやく陸地に辿り着いた。

ひとまず危機は脱した。

今はただ、家族の無事を祈るばかりだった。

巨大な流星は、陸地の海岸にも、惨たらしい被害を残してた。いまだに赤く燃えている破片、海辺のあちこちで燻っている木や樹皮の残骸。視界を遮る煙のせいではっきりとは確認できないものの、近くに生き物の気配は感じられない。

アランはふらつきながら二、三歩進んで波打ち際から遠ざかった。どこを探しても、誰も見つからない。がっくりとへたり込んで大きく咳き込み、苦しそうに肩で息をした。

それでも、諦めきれず煙を透かして辺りを見渡し、家族達の姿を探そうとした。でも、何の役にも立たなかった。今も燃えている島が遠くに見える。かつては、あの島が自分の居場所だったのだ。今や、島の大部分を占めていた緑豊かな密林もめちゃくちゃに破壊されて、もはや見る影もなくなった。

風に乗って、生き物が焼ける匂いが伝わってくる。

・・・島の生き残りは、いま、海岸にいる自分だけなのだ。

無駄だとわかってはいても、アランは、声をあげて家族を呼んだ。白っぽく淀んだ空気がまとわりついたかのように、アランの哀しげな声は、長く長く尾をすいた末に、ようやく消えていった。もちろん、どこからも応える声はない。誰かの返事が届くのを必死に祈りながら、何度も、何度も、声をあげた。

けれど、不気味な静寂だけがあたりを包み込んだ。

 

「みんな・・・みんな・・・」

 

望みを持ち続けたいけれど、実際にはそれも難しかった。今まで馴染んできたものを全て失ってしまったのだ。

 

「あっ・・・」

 

そのとき、アランは確かに見た。

満月を背に、海から浮かび上がってくる“白い巨人”を。

その災厄は、ソラから落ちてきたのだ。

大きな手を伸ばし、いまなお、燃えている島を掴む。驚いたことに、島がまるで巨人に吸い込まれるように取り込まれてしまった。それはまるで、実った果実を収穫するようだった。

巨人は満足そうに体を震わせると、水平線にいるアランを見た。いや、正確にはこの陸地を見つけたのだ。

 

『——————』

 

巨人は獲物を見つけた獣のように笑う。

どうしようもない恐怖に駆られ、アランは駆け出す。背後からは、巨人の大きな手が迫ってきて———

 

 

悪夢は、いつもここで終わる。

 

 

 

「はっ!?———はっ———はっ———はっ———」

 

悪夢から飛び起きる。

過呼吸をしているのか、目の前が虚となり息を吸うのも難しい。苦しい、痛い、怖い、さまざまな感情が頭を駆け巡る。

アランの中では、あの出来事は脳裏に焼きついて離れない。トラウマとなったソレはいつまでも蝕み続ける。

 

「アンタ、またうなされてたよ」

 

———あれからもう数ヶ月が経過していた。

あの日、ソラから巨人が落ちてきた日。世界は炎に包まれたのだ。

被害を受けたのはアランだけではない。世界中の人間が住処を奪われたのだ。文明らしきものは踏み潰され、人間は隷属すら許されず、何もかも収穫し尽くされよとしていた。

けれど、それでも生きていくのが人間だ。かろうじて生き残った人間は、自然と一つの共同体として集まることになり、小さな集落を築いていった。

次第に、逃げ延びた人間が集まり、少しづつ生活が形成されてゆき一人一人に役割が持たされる。

今や、この集落は人類最後の文明地であるのかもしれない。

 

「まったく、毎晩毎晩うるさくてしょうがないよ。今日だって、私ら忙しいんだからゆっくり眠らせて欲しいもんだい」

 

アランの隣で眠っていた老婆が、顔を顰めて文句を言った。

この集落では、まだ一人一人の住居を作るまでは難しく、雑多となって大勢で寝ることが多い。

どうやら老婆にとって、アランのうなされ具合は目障りだったようだ。

 

「・・・ごめんなさい」

 

「ほんと、親の顔が見てみたいよ」

 

「っ・・・・」

 

「なにさ? 言いたいことがあるなら言い返してみな」

 

「・・・ごめんなさい」

 

アランはなにも言い返すことができず、ただ黙って目を瞑った。

今日も重労働が待っている。少しでも休まなければいけないのはアランだって同じだ。

 

「———化け物のくせに。ここにおいてもらってるだけありがたく思うんだね」

 

そう、居場所があるだけマシなのだ。生活は幾分できるようになったものの、まだまだ人々に余裕はない。明日、この集落が存在しているのかすら危ういのだ。

他人を気にかける余裕を持っていなかった。

震える唇を噛み締めて、幸せだったあの頃を思い返しながら、朝日が昇るまで目を瞑った。

 

 

「おいっ!! なに休んでやがる! ささっと立ち上がれ!!」

 

「すいません・・・・! すいません・・・」

 

この作業のリーダである男の罵声がとぶ。

アランは体を巨大な猪に変え、その背には大量の木材を背負わされていた。アランの力は人間達にとって都合の良い労働力だったのだ。しかし、それでも限度はある。今、背中に背負わされている木材は誰がどうみても、たった一頭で運べる量ではないものだった。

 

「この役立たずの化け物が! なんのために使ってやってると思ってるんだ。その姿は図体がでかいだけのハリボテなのかよぉ!?」

 

「くっ・・・うぅ・・・!」

 

足を踏み締めて、もう一度、立ちあがろうとするもあまりの重さに倒れ伏してしまう。

このところ、うなされるせいか睡眠もできていない。さらに、食糧も満足に供給されていないのだ。完全に疲労状態だった。

 

「チッ・・・おい、そのまま動けねえってんならよ。また女にでも化けて男衆の慰めにでも行ってこいよ。そのほうが、連中のためになるからな」

 

耳を引っ張られながら囁かれる。

アランはこの集落にとって、皆が抱く日頃の鬱憤を吐き出す、都合のいい吐口だった。

 

「へへっ、そりゃあいい」

 

「そうだな、このごろご無沙汰だしなぁ」

 

「他の女も呼ぶのもいいかもな」

 

「やめとけやめとけ。そこの化け物を気味悪がって寄り付きゃしねえ」

 

集団において、“異物“というものは排斥の対象となる。

アランはその異物だった。

姿を変えるという力。それは他の人間にから見れば化け物そのもの。彼らはアランを人間とは認識せず排斥する、かといってその能力を捨てるのは惜しい。

なら、使ってやろう。自分たちが明日を迎えるために。

 

「・・・おっ、見ろよ。コイツ、持ち上げやがった」

 

「なんだよ、そんなに俺たちと遊ぶのが嫌だったのか? 前はあんなに悦ってたくせにさ」

 

いやだ。

この場を逃げ出したい一心で力をいれ、木材を持ち上げた。背後からは人間達の侮蔑と罵声が飛んでくる。

いやだ。

どこかへ、どこか遠くへ、と逃避の思いを募らせるがこの星にもう逃げ場はない。全てが燃えているのだ。あの巨人によって。

 

「(もう、どうでもいいから。全て終わってしまえばいいのに)」

 

それでも、死にたくない一心で。明日のために生きるのだ。

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