ファンタジーRPGエロゲの裏ボスに憑依したけど、生き残りたい 作:モフモフ毛玉
「お客さん、お客さん、目的地着いてるよ。起きてくださせぇ」
馬車を動かしていた男は、中で寝ている者の肩を揺さぶる
その者は少し変わっていた。
見た目は若い男で、髪は乱雑に伸びた銀髪、黒いシルクハットにモノクルを付けており、胸元に三日月の刺繍が施された黒い燕尾服、そして装飾が何もない無骨なT字型の杖を待っている。見る人が見れば貴族かと思うだろう。
しかしその顔はぐっすりと眠りながら口を薄く開けて端から涎を垂らしているという何とも似合わない姿だ。
やれやれと溜息を吐きながらも、男は頑張って起こそうと揺さぶる
「んん、おや?もう着いていたのか?」
「お客さん、もう着いてだいぶ経ってるよ…お代は乗る前に頂いてるし、さっさと降りてくれ」
気まずそうに後ろを見る男は、待ち人に謝罪する
「まったく、何故叩き起こさないんだ!こっちはアンタを指定して来てるんだぞ!」
「申し訳ございやせん、お代は3割引きにしますんで…ほら、さっさと降りてくれ」
「ああ、これはすまない」
男に言われ、その者は馬車を降りる。
すると待ち人は不機嫌そうに馬車に乗り込み
「さっさと出してくれ!」
と叫ぶ、男も急いで馬車に乗ると馬を操って出発した。
「やれやれ、この世界はやっぱり貴族主義か」
遠くなる馬車を見送って、その者は一人立ったまま考える。
(さて、よく分からないうちに裏ボスに憑依しちゃったけど、ここがゲーム通りなら…上手くいけば生存出来るはずだ…頑張らないと…)
そう思うと、その者はゆっくりと歩き出した。
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『月夜の唄』というゲームがある。
マルチエンディングを採用した、恋愛要素とエッチな部分多めで割と有名なRPGである。因みにR18指定、要はエロゲである。
多くのプレイヤーがパッケージ裏にあるヒロイン達のスチルに釣られて手に取り、その難易度と豊富過ぎるヒロインやサブヒロインの恋愛ルート、そして脳を焼かれそうなバッドエンドルートの多さ。
そして絵師さん大丈夫なの?過労死してない?と思える量のスチルで脳がおかしくなってしまいそうになるゲーム。
主人公は勇者として目覚め、仲間を集めて旅立つという王道的なストーリーなのだが
このゲーム、チュートリアル戦闘して旅立った後はほぼ自由なのだ。
旅立った後に行ける各国にはメインヒロインが2人、サブヒロインが3人存在しており、やろうと思えばハーレムルートだって行く事が出来るし、主人公の性別も選べるので百合も出来たりもする。
肝心の勇者としての役目も、『国を巡り、ツキに狂わされた者を救いなさい』というもの
この『月夜の唄』というゲームでは、各国にそれぞれ『ツキに狂わされた者』が存在しており、入国して3日辺りで主人公を目の敵にして刺客や魔物をけしかけ、最後には襲いかかって来る。
この狂わされた者は初見でもバレバレな人物も居れば、ちゃんと推理しないと解けない曲者も居る。
そして狂わされた者は夜になると主人公を殺す為に刺客や魔物を放ったりする。
その為RPGでよくある宿屋に行って休んで全回復して次の日頑張るぞ!が出来ない。
そう、宿屋行って全回復が出来ないのだ。
しかし、絶対に回復できないわけではなく、50%回復して刺客や魔物との戦闘に入る。
ただし、ダンジョンでは例外として回復の泉で休憩出来るし、全回復するし魔物には襲われないセーフティゾーンになる
なのでプレイヤーの中では『午前中は仲間と親密度を上げる為にデートし、午後に資金集めも兼ねて刺客や魔物を倒す。もしくはダンジョンに一日中こもってレベリング』という事をする人もいる程だ
そしてその国のツキに狂わされた者を倒して解放すれば、安全にレベリングや親密度をあげる事が出来る。
しかし、マルチエンディングの宿命としてそう長い間レベリングする事は出来ない。
一部の国を解放したとしても、残りの国が狂わされた者によって破綻してしまうとその国のヒロインとサブヒロインは主人公に出会わなくてもバッドエンドルートに強制的に入ってしまう。
しかもご丁寧に国が破綻した場合でも『あの国は残念でしたね…』という感じで片付けられてストーリーは進むし、ヒロインとサブヒロインはそれぞれ国破綻によるバッドエンド専用スチルが用意されており、これがだいぶエッチなのである。
プレイヤーはそのスチルを見て泣きながらもちょっと興奮してしまうだろう。
総評とするならRPGとしてやりごたえのある難易度、RTAにも対応していて、エロゲとして見ても最高、そんなゲームが『月夜の唄』なのだ。
そして、この物語はそんなゲームの裏ボス『ツキの魔人』に憑依してしまった。ごく普通のプレイヤーのお話だ。
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「どこかなぁ…」
『ツキの魔人』に憑依したその者は街を歩く、目的は簡単な事で主人公を自分の目で見る事。
『月夜の唄』では主人公の性別によってステータスやストーリーに変化はないが、スチルの量にほんの少し変化が出る。
そう…つまり女主人公だと『そういう目』に遭う可能性が上がる為だ。
そして、今歩いている街は主人公の故郷である『鉱山国ラーベリア』
原作では、夢で神に『目覚めなさい…勇者よ』とベターな感じで起こされ、チュートリアルとして父親とスライム相手に戦い、家に帰ったら目の前で母親を盗賊に連れ去られたので父親と一緒に追っかけるというもの
盗賊
この次の日に勇者として両親に見送られて出発し、森の中で故郷の国枠のヒロイン×2と出会い、更にいずれかの国へ行く途中でサブヒロイン×3とも出会いパーティを組む事になる。
「確か原作だとこの道で盗賊が母親抱えて走ってたっけ」
『ツキの魔人』はそう呟くと背後から走る音が聞こえた。
即座に路地に入り、チラリと確認する。
「ちっくしょうめ!なんで連れ去る直前のタイミングで帰って来るんだよ!」
走っているのは盗賊だ、しかも見慣れた女性…主人公の母親を抱えていた。
そして、その後ろでは
「貴様ぁぁぁ!その人を離せぇぇ!!」
鬼の形相で走る父親と
「………」
少し後ろを無言のまま、ただし怒った顔で走る『女主人公』がいた。
(ウッソだろお前!?)
そして、女主人公な時点で、確定した事が一つある。
それは裏ボスである『ツキの魔人』とラスボス、そして一部の魔物も持つスキル
《魅了の魔眼》が、一定確率で主人公に効くという事だ。
《魅了の魔眼》…それはツキの魔人とラスボス、一部の魔物が持つスキルだ。
これをヒロインやサブヒロイン、女主人公がくらうと一定確率で魅了状態…25%の確率で行動しない状態になってしまい、そのまま解除されずに敗北したら普通の敗北よりもエッ!なスチルがご開帳である。
ツキの魔人にもマルチエンディングなので生存ルートは存在している。
しかし、その条件は『本編ストーリークリア+各国のヒロインとサブヒロインが*1本編クリアまでに敗北orバッドエンドスチルを解放されていない事』だ。
はっきり言って結構鬼畜な難易度である。
しかし、逆に言えばこの条件を満たさないならツキの魔人は主人公達に殺される。
(どうする…?どうする…!?)
そして、女主人公という事で難易度が跳ね上がった事実に内心頭を抱えるツキの魔人は、一つの答えを出した。
(そうだ!自分がお助けキャラみたいな立ち位置で主人公達のサポートをすればいいんだ!)
幸いにも『ツキの魔人』は存在が明るみになるのが本編の後
そしてその容姿も人間とほぼ変わらない。
そして戦闘能力も裏ボスなのでパーティ全員レベルカンスト前提の強さだ。
はっきり言ってバランスブレイカーである。
しかし、自分の生存がかかっているのでなりふり構う事はしない。
(よし、そうと決まれば先回りだ!本編で最初の難所……『盗賊集団』戦!)
ツキの魔人は両手をパンパンと叩くとその場から姿を消す。
そして、この瞬間から『月夜の唄』のシナリオは、原作から少しづつ乖離し始めた…