ありふれた願いが世界最強   作:まち針ミシン針

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奈落 II : 再開のマグナム

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

 

「……ハジメ、ファイト……」

 

「お前は気楽だな!」

 

現在、ハジメはユエを背負いながら猛然と草むらの中を逃走していた。周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂りハジメの肩付近まで隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。

 

ハジメはここまでくるのにずっと死線を乗り越えて来た。英寿とはぐれてしまい、自分よりも圧倒的に強い魔物と戦い続け、途中封印された部屋でユエを解放し、そのユエと共にここまで来た。

 

そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、ハジメが逃走している理由は、

 

「「「シャァアア!!」」」

 

二百体近い魔物に追われているからである。

 

ハジメ達が準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調に降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

 

全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確にハジメを援護する。

 

ただ、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。〝自動再生〟があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、ハジメには神水があるのでなんの問題もなかったが。

 

そんな二人が降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼うっそうと茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 

ハジメとユエが階下への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構える二人の前に現れたのは、巨大な爬虫類を思わせる魔物だ。見た目は完全にティラノサウルスである。

 

但し、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていたが……。

 

鋭い牙と迸ほとばしる殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。かつてないシュールさだった。

 

ティラノサウルスが咆哮を上げハジメ達に向かって突進してくる。

 

ハジメは慌てずドンナーを抜こうとして……それを制するように前に出たユエがスッと手を掲げた。

 

「緋槍」

 

ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。

 

そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。

 

「……」

 

いろんな意味で思わず押し黙るハジメ。

 

最近、ユエ無双が激しい。最初はハジメの援護に徹していたはずだが、何故か途中からハジメに対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺するのだ。

 

そのせいで、ハジメは、最近出番がめっきり減ってしまい、自分が役立たずな気がしてならなかった。まさか、自分が足手まといだから即行で終わらせているとかではあるまいな? と内心不安に駆られる。もしそんなことを本気で言われたら丸十日は落ち込む自信があった。

 

ハジメは抜きかけのドンナーをホルスターに仕舞い直すと苦笑いしながらユエに話しかけた。

 

「あ~、ユエ?張り切るのはいいんだけど……最近、俺、あまり動いてない気がするんだが……」

 

ユエは振り返ってハジメを見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。

 

「……私、役に立つ。……パートナーだから」

 

どうやら、ただハジメの援護だけしているのが我慢ならなかったらしい。

 

確か、少し前に一蓮托生のパートナーなのだから頼りにしているみたいな事を言ったような、と、ハジメは首を傾げる。

 

その時は、ユエが、魔力枯渇するまで魔法を使い戦闘中にブッ倒れてちょっとした窮地に陥ってしまい、何とか脱した後、その事をひどく気にするので慰める意味で言ったのだが……思いのほか深く心に残ったようである。パートナーとして役立つところを見せたいのだろう。

 

「はは、いや、もう十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺の役目だ」

 

「……ハジメ……ん」

 

ハジメに注意されてしまい若干シュンとするユエ。

 

ハジメは、どうにもハジメの役に立つことにこだわり過ぎる嫌いのあるユエに苦笑いしながら、彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ユエはほっこりした表情になって機嫌が戻ってしまうのだから、ハジメとしてはもう何とも言えない。

 

依存して欲しいわけではないので、所々で注意が必要だろう……と思いつつ、つい甘やかしてしまう。ハジメは、実のところ、そんな自分にこそ一番呆れているのだった。

 

ある意味、二人がイチャついていると、ハジメの〝気配感知〟に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。

 

十体ほどの魔物が取り囲むようにハジメ達の方へ向かってくる。統率の取れた動きに、二尾狼のような群れの魔物か? と訝しみながらユエを促して現場を離脱する。数が多いので少しでも有利な場所に移動するためだ。

 

円状に包囲しようとする魔物に対し、ハジメは、その内の一体目掛けて自ら突進していった。

 

そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。

 

頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。

 

「……かわいい」

 

「……流行りなのか?」

 

ユエが思わずほっこりしながら呟けば、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。

 

ラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふりしているが……

 

「シャァァアア!!」

 

ラプトルが、花に注目して立ち尽くすハジメ達に飛びかかる。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。

 

ハジメとユエは左右に分かれるように飛び退き回避する。

 

それだけで終わらず、ハジメは 〝空力〟を使って三角飛びの要領でラプトルの頭上を取った。そして、試しにと頭のチューリップを撃ち抜いてみた。

 

ドパンッという発砲音と同時にチューリップの花が四散する。

 

ラプトルは一瞬ビクンと痙攣けいれんしたかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。ユエもトコトコとハジメの傍に寄ってきてラプトルと四散して地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。

 

「……死んだ?」

 

「いや、生きてるっぽいけど……」

 

ハジメの見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。

 

「え~、何その反応、どういうこと?」

 

「……イタズラされた?」

 

「いや、そんな背中に張り紙つけて騒ぐ小学生じゃねぇんだから……」

 

ラプトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。そして、ふと気がついたようにハジメ達の方へ顔を向けビクッとする。

 

「今気がついたのかよ。どんだけ夢中だったんだよ」

 

「……やっぱりイジメ?」

 

ハジメがツッコミ、ユエが同情したような眼差しでラプトルを見る。ラプトルは暫く硬直したものの、直ぐに姿勢を低くし牙をむき出しにして唸り一気に飛びかかってきた。

 

ハジメはスっとドンナーを掲げ大きく開けられたラプトルの口に照準し電磁加速されたタウル鉱石の弾丸を撃ち放った。

 

一筋の閃光となって狙い違わずラプトルの口内を蹂躙し後頭部を粉砕して飛び出た弾丸は、背後の樹も貫通して樹海の奥へと消えていった。

 

跳躍の勢いそのままにズザーと滑っていく絶命したラプトル。ハジメもユエも何とも言えない顔でラプトルの死体を見やった。

 

「ホント、一体なんなんだ?」

 

「……イジメられて、撃たれて……哀れ」

 

「いや、イジメから離れろよ。絶対違うから」

 

ハジメは訳がわからないものの、そもそも迷宮の魔物自体わけのわからない物ばかりなので気にするのを止めた。包囲網がかなり狭まってきていたので急いで移動しつつ、有利な場所を探っていく。

 

程なくして直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出た。隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っており、まるで空中回廊のようだ。

 

ハジメは〝空力〟で、ユエは風系統の魔法で頭上の太い枝に飛び移る。ハジメはそこで頭上から集まってきた魔物達を狙い撃ちにし殲滅するつもりなのだ。

 

五分もかからず眼下に次々とラプトルが現れ始めた。焼夷手榴弾でも投げ落としてやろうと思っていたハジメは、しかし、硬直する。隣では魔法を放つため手を突き出した状態でユエも固まっていた。

 

なぜなら……

 

「なんでどいつもこいつも花つけてんだよ!」

 

「……ん、お花畑」

 

ハジメ達の言う通り、現れた十体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。それも色とりどりの花を。

 

思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して、ラプトル達が一斉にハジメ達の方を見た。そして、襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せる。

 

ハジメは〝焼夷手榴弾〟を投げ落とすと同時に、その効果範囲外にいるものから優先してドンナーで狙い撃ちにした。連続して発砲音が轟き、その度に紅い閃光がラプトルの頭部を一発の狂いもなく吹き飛ばしていく。ユエも同じく周囲の個体から先程も使った〝緋槍〟を使って仕留めていく。

 

きっかり三秒後、群れの中央で〝焼夷手榴弾〟が爆発し、摂氏三千度の燃え盛るタールが飛び散り周囲のラプトルを焼き尽くしていった。この階層の魔物にも十分に効いているようだとハジメは胸を撫で下ろす。やはり、あのサソリモドキが特別強かったらしい。

 

結局十秒もかからず殲滅に成功した。しかし、ハジメの表情は冴えない。ユエがそれに気がつき首を傾げながら尋ねた。

 

「……ハジメ?」

 

「……ユエ、おかしくないか?」

 

「?」

 

「ちょっと弱すぎる」

 

ハジメの言葉にハッとなるユエ。

 

確かに、ラプトルも先のティラノも、動きは単純そのもので特殊な攻撃もなく簡単に殲滅できてしまった。それどころか殺気はあれどもどこか機械的で不自然な動きだった。花が取れたラプトルが怒りをあらわにして花を踏みつけていた光景を見た後なので尚更、花をつけたラプトル達に違和感を覚えてしまう。

 

慎重に進もう、ハジメがユエにそう言おうとしたその時、〝気配感知〟が再び魔物の接近を捉えた。全方位からおびただしい数の魔物が集まってくる。ハジメの感知範囲は半径二十メートルといったところだが、その範囲内において既に捉えきれない程の魔物が一直線に向かってきていた。

 

「ユエ、ヤバイぞ。三十いや、四十以上の魔物が急速接近中だ。まるで、誰かが指示してるみたいに全方位から囲むように集まってきやがる」

 

「……逃げる?」

 

「……いや、この密度だと既に逃げ道がない。一番高い樹の天辺から殲滅するのがベターだろ」

 

「ん……特大のいく」

 

「おう、かましてやれ!」

 

ハジメとユエは高速で移動しながら周囲で一番高い樹を見つける。そして、その枝に飛び乗り、眼下の足がかりになりそうな太い枝を砕いて魔物が登って来にくいようにした。

 

ハジメはドンナーを構えながら静かにその時を待つ。ユエがそっとハジメの服の裾を掴んだのがわかった。手が塞がっているので代わりに少しだけ体を寄せてやる。ユエの掴む手が少し強くなった。

 

そして第一陣が登場した。ラプトルだけでなくティラノもいる。ティラノは樹に体当たりを始め、ラプトルは器用にカギ爪を使ってヒョイヒョイと樹を登ってくる。

 

ハジメはドンナーの引き金を引いた。発砲音と共に閃光が幾筋も降り注ぎカギ爪で樹にしがみついていたラプトルを一体も残さず撃ち抜く。

 

撃ち尽くしたドンナーからシリンダーを露出させると、くるりと手元で一回転させ排莢し、左脇に挟んで装填する。この間五秒。

 

その間隙を埋めるように発砲直前に落としておいた〝焼夷手榴弾〟が爆発。辺りに炎を撒き散らす。そして、再度ドンナーを連射する。それだけで既に十五体は屠ったハジメだが、満足感はない。

 

既に眼下には三十体を超えるラプトルと四体のティラノがひしめき合い、ハジメ達のいる大木をへし折ろうと、あるいは登って襲おうと群がっているからだ。

 

「ハジメ?」

 

「まだだ……もうちょい」

 

ユエの呼び掛けにラプトルを撃ち落としながら答えるハジメ。ユエはハジメを信じてひたすら魔力の集束に意識を集中させる。

 

そして遂に、眼下の魔物が総勢五十体を超え、今では多すぎて判別しづらいが、事前の〝気配感知〟で捉えた魔物の数に達したと思われたところで、ハジメは、ユエに合図を送った。

 

「ユエ!」

 

「んっ!凍獄とうごく!」

 

ユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、ハジメ達のいる樹を中心に眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。

 

魔物は一瞬の抵抗も許されずに、その氷華の柩に閉じ込められ目から光を失っていった。氷結範囲は指定座標を中心に五十メートル四方。まさに殲滅魔法というに相応しい威力である。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「お疲れさん。流石は吸血姫だ」

 

「……くふふ……」

 

周囲一帯、まさに氷結地獄と化した光景を見て混じりけのない称賛をユエに贈るハジメ。ユエは最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。おそらく酷い倦怠感に襲われていることだろう。

 

ハジメは傍らでへたり込むユエの腰に手を回して支えながら、首筋を差し出す。吸血させて回復させるのだ。神水でもある程度回復するのだが、吸血鬼としての種族特性なのか全快になるには酷く時間がかかる。やはり血が一番いいようだ。

 

ユエは、ハジメの称賛に僅かに口元を綻ばせながら照れたように「くふふ」と笑いをもらし、差し出された首筋に頬を赤らめながら口を付けようとした。

 

だが、それを止めるように突如ハジメが険しい表情で立ち上がる。ハジメの〝気配感知〟が更に百体以上の魔物を捉えたからだ。

 

「ユエ、更に倍の数だ」

「!?」

 

「こりゃいくらなんでもおかしいだろ。たった今、全滅したところだぞ? なのに、また特攻……まるで強制されてるみたいに……あの花……もしかして」

 

「……寄生」

 

「ユエもそう思うか?」

 

ハジメの推測を肯定するようにユエがコクンと頷く。

 

「……本体がいるはず」

 

「だな。あの花を取り付けているヤツを殺らない限り、俺達はこの階層の魔物全てを相手にすることになっちまう」

 

ハジメ達は物量で押しつぶされる前に、おそらく魔物達を操っているのであろう魔物の本体を探すことにした。でなければ、とても階下探しなどしていられない。

 

座り込んでいるユエに吸血させている暇はないので、ハジメはユエに神水を渡そうとする。しかし、ユエはそれを拒んだ。訝しそうなハジメにユエが両手を伸ばして言う。

 

「ハジメ……だっこ……」

 

「お前はいくつだよ! ってまさか吸血しながら行く気か!?」

 

ハジメの推測に「正解!」というようにコクンと頷くユエ。確かに、神水ではユエの魔力回復が遅いし、不測の事態に備えて回復はさせておきたい。しかし、自分が必死に駆けずり回っている時にチューチューされるという構図に若干抵抗を感じるハジメ。背に腹は替えられないと分かってはいるが……

 

結局了承してユエをだっこ……は邪魔になるので、おんぶして、ハジメは本体探しに飛び出していった。

 

そして冒頭。

 

ハジメ達は現在、二百近い魔物に追われていた。草むらが鬱陶しいと、吸血は済んでいるのにユエはハジメの背中から降りようとしない。

 

後ろからは魔物が、

 

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

と、地響きを立てながら迫っている。背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向かいひたすら駆けるハジメ。ユエも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。

 

カプッ、チュー

 

ハジメ達が睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。

 

なぜ、その場所に目星をつけたのかというと、襲い来る魔物の動きに一定の習性があったからだ。ハジメ達が迎撃しながら進んでいると、ある方向に逃走しようとした時だけやたら動きが激しくなるのだ。まるで、その方向には行かせまいとするかのように。このまま当てもなく探し続けても魔物が増え続けるだけなのでイチかバチかその方向に突貫してみることにしたというわけである。

 

どうやら、草むらに隠れながらというのは既に失敗しているので、ハジメは空力で跳躍し、縮地で更に加速する。

 

カプッ、チュー

 

「ユエさん!? さっきからちょくちょく吸うの止めてくれませんかね!?」

 

「……不可抗力」

 

「嘘だ! ほとんど消耗してないだろ!」

 

「……ヤツの花が……私にも……くっ」

 

「何わざとらしく呻いてんだよ。ヤツのせいにするなバカヤロー。ていうか余裕だな、おい」

 

こんな状況にもかかわらず、ハジメの血に夢中のユエ。元王族なだけあって肝の据わりかたは半端ではないらしい。そんな風に戯れながらもきっちり迎撃し、ハジメ達は二百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。

 

縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。何とかハジメ達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体がカギ爪を伸ばすが、その前にハジメのドンナーが火を噴き吹き飛ばした。そして、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。

 

「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」

 

「……お疲れさま」

 

「そう思うなら、そろそろ降りてくれねぇ?」

 

「……むぅ……仕方ない」

 

ハジメの言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子でハジメの背から降りるユエ。余程、ハジメの背中は居心地がいいらしい。

 

「さて、あいつらやたら必死だったからな、ここでビンゴだろ。油断するなよ?」

「ん」

 

錬成で入口を閉じたため薄暗い洞窟を二人は慎重に進む。

 

しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いている。もしかすると階下への階段かもしれない。ハジメは辺りを探る。〝気配感知〟には何も反応はないがなんとなく嫌な予感がするので警戒は怠らない。気配感知を誤魔化す魔物など、この迷宮にはわんさかいるのだ。

 

ハジメ達が部屋の中央までやってきたとき、それは起きた。

 

全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。ハジメとユエは一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。

 

しかし、その数は優に百を超え、尚、激しく撃ち込まれるのでハジメは錬成で石壁を作り出し防ぐことに決めた。石壁に阻まれ貫くこともできずに潰れていく緑の球。大した威力もなさそうである。ユエの方も問題なく、速度と手数に優れる風系の魔法で迎撃している。

 

「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」

 

「……」

 

「ユエ?」

 

ユエに本体の位置を把握できるか聞いてみるハジメ。ユエは〝気配感知〟など索敵系の技能は持っていないが、吸血鬼の鋭い五感はハジメとは異なる観点で有用な索敵となることがあるのだ。

 

しかし、ハジメの質問にユエは答えない。訝しみ、ユエの名を呼ぶハジメだが、その返答は……

 

「……にげて……ハジメ!」

 

いつの間にかユエの手がハジメに向いていた。ユエの手に風が集束する。本能が激しく警鐘を鳴らし、ハジメは、その場を全力で飛び退いた。刹那、ハジメのいた場所を強力な風の刃が通り過ぎ、背後の石壁を綺麗に両断する。

 

「ユエ!?」

 

まさかの攻撃にハジメは驚愕の声を上げるが、ユエの頭の上にあるものを見て事態を理解する。そう、ユエの頭の上にも花が咲いていたのだ。それも、ユエに合わせたのか? と疑いたくなるぐらいよく似合う真っ赤な薔薇が。

 

「くそっ、さっきの緑玉か!?」

 

ハジメは自身の迂闊さに自分を殴りたくなる衝動をこらえ、ユエの風の刃を回避し続ける。

 

「ハジメ……うぅ……」

 

ユエが無表情を崩し悲痛な表情をする。ラプトルの花を撃ったとき、ラプトルは花を憎々しげに踏みつけていた。あれはつまり、花をつけられ操られている時も意識はあるということだろう。体の自由だけを奪われるようだ。

 

だが、それなら解放の仕方も既に知っている。ハジメはユエの花に照準し引き金を引こうとした。

 

しかし、操っている者もハジメが花を撃ち落としたことやハジメの飛び道具を知っているようで、そう簡単にはいかなかった。

 

ユエを操り、花を庇うような動きをし出したのだ。上下の運動を多用しており、外せばユエの顔面を吹き飛ばしてしまうだろう。ならばと、接近し切り落とそうとすると、突然ユエが片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。

 

「……やってくれるじゃねぇか……」

 

つまり、ハジメが接近すればユエ自身を自らの魔法の的にすると警告しているのだろう。

 

ユエは確かに不死身に近い。しかし、上級以上の魔法を使い一瞬で塵ちりにされてなお〝再生〟できるかと言われれば否定せざるを得ない。そして、ユエは、最上級ですらノータイムで放てるのだ。特攻など分の悪そうな賭けは避けたいところだ。

 

ハジメの逡巡を察したのか、それは奥の縦割れの暗がりから現れた。

 

アルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物がRPGにはよく出てくる。ハジメ達の前に現れた魔物は正しくそれだった。もっとも、神話では美しい女性の姿で敵対しなかったり大切にすれば幸運をもたらすなどという伝承もあるが、目の前のエセアルラウネにはそんな印象皆無である。

 

確かに、見た目は人間の女なのだが、内面の醜さが溢れているかのように醜悪な顔をしており、無数のツルが触手のようにウネウネとうねっていて実に気味が悪い。その口元は何が楽しいのかニタニタと笑っている。

 

ハジメはすかさずエセアルラウネに銃口を向けた。しかし、ハジメが発砲する前にユエが射線に入って妨害する。

 

「ハジメ……ごめんなさい……」

 

悔しそうな表情で歯を食いしばっているユエ。自分が足でまといなっていることが耐え難いのだろう。今も必死に抵抗しているはずだ。口は動くようで、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯が唇を傷つけているのだ。悔しいためか、呪縛を解くためか、あるいはその両方か。

 

ユエを盾にしながらエセアルラウネは緑の球をハジメに打ち込む。

 

ハジメは、それをドンナーで打ち払った。球が潰れ、目に見えないがおそらく花を咲かせる胞子が飛び散っているのだろう。

 

しかし、ユエのようにハジメの頭に花が咲く気配はない。ニタニタ笑いを止め怪訝そうな表情になるエセアルラウネ。ハジメには胞子が効かないようだ。

 

(たぶん、耐性系の技能のおかげだろうな)

 

ハジメの推測通り、エセアルラウネの胞子は一種の神経毒である。そのため、〝毒耐性〟によりハジメには効果がないのだ。つまり、ハジメが助かっているのは全くの偶然で、ユエを油断したとは責められない。ユエが悲痛を感じる必要はないのだ。

 

エセアルラウネはハジメに胞子が効かないと悟ったのか不機嫌そうにユエに命じて魔法を発動させる。また、風の刃だ。もしかすると、ラプトル達の動きが単純だったことも考えると操る対象の実力を十全には発揮できないのかもしれない。

 

(不幸中の幸いだな)

 

風の刃を回避しようとすると、これみよがしにユエの頭に手をやるのでその場に留まり、サイクロプスより奪った固有魔法〝金剛〟により耐える。

 

この技能は魔力を体表に覆うように展開し固めることで、文字通り金剛の如き防御力を発揮するという何とも頼もしい技能である。まだまだ未熟なため、おそらくサイクロプスの十分の一程度の防御力だが、風の刃も鋭さはあっても威力はないので凌げている。

 

(一応、速攻で片付く方法もあるんだが……後が怖いしな……焼夷手榴弾でも投げ込むか?)

 

ハジメがこの状況をどう打開すべきか思案していると、ユエが悲痛な叫びを上げる。

 

「ハジメ! ……私はいいから……撃って!」

 

何やら覚悟を決めた様子でハジメに撃てと叫ぶユエ。ハジメの足手まといになるどころか、攻撃してしまうぐらいなら自分ごと撃って欲しい、そんな意志を込めた紅い瞳が真っ直ぐハジメを見つめる。

 

その時だった。ハジメの後ろから銃声が聞こえた。その銃弾はユエを目掛けて一直線に進んで行く。そしてユエの脳天にある花にクリーンヒットし、綺麗に落とした。ユエに傷一つ付けずに。

 

MAGNUM

 

READY FIGHT

 

ハジメが振り返るとそこには白い狐がいた。右手に持つ銃から煙が上がっている。これはあいつが撃ったのだと一瞬でわかった。そしてここまで綺麗に落とすには至難の業であるはずだが、そいつは平然とした雰囲気であった。

 

(何者なんだ、こいつは……)

 

一発でわかる。こいつは只者ではない。なんなら俺より強いかもと。

 

「ハァ!」

 

狐は颯爽と駆け出し、銃で本体を撃ちながら距離を詰めていった。一発一発全てが正確に決まっている。これだけでもかなりのダメージのはず。駆け寄り、狐は蹴りを入れた。壁まで吹っ飛ばされた。何もかも規格外だ。

 

RIFLE

 

狐は砲身を展開し、ハンドガンだったものがライフルへと変わった。そしてベルトのトリガー?みたいなやつを外し、銃に付けた。

 

MAGNUM

 

銃を構える。狙いを定めている。そして引金を引いた。

 

MAGNUM TACTICAL BLAST

 

放たれた一撃は本体のど真ん中を貫通し、大きな風穴を空け爆散した。

 

コイツは危険だ。ここで葬り去らないとこれからの脅威になりうる存在だ。そう考えたハジメは狐に向かいハンドガンを向ける。

 

「貴様、何者だ。答えなければ撃つぞ。」

 

ハジメが問いかけた。そうすると狐がいきなり笑いだした。

 

「まぁいくら成長したハジメといえど化かされちゃうか……。」

 

そういい、光を放つとそこには人間が立っていた。しかもそれは……

 

「よぉ、狐になって化かしてやったぜ?ハジメ。」

 

そこにいたのは親友の英寿だったのだ。ハジメは驚きのあまり固まってしまう。そこにユエが

 

「貴方は何者?ハジメの敵なら容赦はしない。」

 

「俺はハジメの仲間の神之英寿だ。よろしく頼むぞ。」

 

「私はユエ。貴方、凄そう。」

 

ユエと会話している戻ってきたハジメが、

 

「ホントに、英寿なのか……?」

 

「あぁ、当たり前だろ。」

 

「まじか……!今いるって事は一緒にダンジョン攻略してくれるって事なのか!?」

 

「もちろんだ。よろしくな。」

 

こうしてハジメとユエに英寿を加えた三人で行動する事となった。

 

 

 

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