「久しぶりだな。オルクス。」
「ああ、やっとここに来たんだね。エース。」
まるでお互いを知っていて、声色でわかる信頼し合う者同士の会話。ふとハジメが言う。
「おい、ちょっと待ってくれ。おかしくないか?オルクスとか言ったか、なんでお前が英寿を知ってるんだよ。お前はもう既に白骨になって死んでる。英寿は今生きてる。全く訳がわからないんだが……。それにずっと聞けてなかったが英寿、あの姿はなんなんだ?めちゃくちゃ日本のヒーローに似てんじゃねぇかよ。説明してくれ……。」
ハジメの言う事はまともである。死んだ者と生きてる者。それが知り合いである事、数年前であればわかる話だが、彼達は数百年もの歳の差がある。これは普通では絶対にありえない事なのだから。頭を抱えているとオルクスが話しだした。
「それはちゃんと説明する。だからまずはこの世界の真実を知って欲しいんだ、英寿のお仲間君達。いいかな?」
「ああ、いいぞ。」
そうして始まったオスカーの話は、ハジメが聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。
それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。
神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は神敵だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。
だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、解放者と呼ばれた集団である。
彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか解放者のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。解放者のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。
彼等は、神域と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。解放者のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。
しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、解放者達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした反逆者のレッテルを貼られ解放者達は討たれていった。
ただ、その中で唯一の光が差し込んだ。それがエースだ。彼は持ち前の戦闘センスと知恵で次々と神を打ち倒していったのだ。そして一時は持ち直し、こちら側が優位にまで持っていく事に成功したのだ。
その勢いのまま勝ち続け、遂には最終決戦まで来た。ここまでやってきた。だから今回も行ける。その自信があった。そして英寿はあと一歩のところまで追い込む事に成功した。誰もが勝利を確信した。
たが、エースは負けて死んでしまった。それにより解放者達は一気に失速。日に日に死者は増えていくばかり。
そして最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。
「と、言うのが本来の歴史だ。どうだったかな。」
「……そうだったのか……、ところでなんで英寿が……?」
「それも僕から話させてもらっていいかな?エース。」
「構わない。」
英寿の了承を得て、オルクスが再度語り始めた。
僕達と同じようにエースも解放者の一人であった。彼はその中で異質のものを持っていた。それは輪廻転生の力だ。さらに転生の際には記憶が引き継がれるというオマケ付き。
オルクスの時代で既にエースは数え切れないほどであった。僕の時計が正しければ今はだいたい二千年は生きてる事になる。
彼は経験数、場数が段違いだ。だからこそ神に太刀打ちする事ができていた。近接、中距離、長距離、全てにおいてたけていた。
「君も薄々感じてただろう。彼の異常さに。」
ハジメは思い返す。確かに彼はこの世界に来た時、全くの動揺を見せていなかったし、訓練をしてみれば右に出るものなし。あのメルド団長ですら太刀打ち出来なかった程であった。そしてここにきてたらもだ。伝説級の冒険者ですら倒せなかったベヒモスを破り、ついこの前のヒュドラでもユエの話では圧倒していたというのだ。
「そうだな、思い返せば英寿って異常だな……。」
結論、彼は異常、となる。どこぞの主人公でもどうしようにもない野郎であった。
「次はエースが姿を変えた事についてだ。」
エースが腰に巻きバックルをつけていたもの。それはデザイアドライバーという。神々が遊戯を楽しむ為、人間族、魔神族、どちら側にも渡したものだ。選ばれたものはコアを真ん中の穴が空いた部分にセットする事で姿を変える事ができる。
要するに言えばエースは神に選ばれていた。それが壊滅一歩手前まで来ると知らずに。
コアさえあれ一応誰でも使えるらしい。との事だ。
「じゃあ俺も英寿みたいにできるかもって事なのか!?」
「そういう事になるね。君も変身できるかもね。」
そういいオルクスの前に一つの箱が現れる。
「そこでだ。僕は君にこれを渡したい。」
箱を開くと、そこには英寿が持っているのと同じもの。デザイアドライバーがあった。
「僕のデザイアドライバーを君に託す。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。僕的には英寿を支えてくれると嬉しいかな。それが僕の願いだ。」
「ああわかった。ありがたく受け取らせて貰う。」
デザイアドライバーを渡されたハジメ。その目には確かな覚悟があった。
手に取ると真ん中部分が光だし、紫色のコアが現れた。
ENTRY
「おめでとうハジメ。今日からお前は俺と同じく仮面ライダーだ。それと、俺からはこれをお前に渡すよ。こいつはお前と相性いいはずだからな。」
そういい英寿はハジメにゾンビバックルを渡した。
「英寿、サンキューな。お前と一緒に俺も戦う。」
ハジメはそう宣言し、ゾンビバックルを受け取った。
「そういえばエース、よくブーストバックルを見つけたね。まぁエースが来る時用にあそこに置いといたっていうのもあるけど。」
オルクスが話すのはヒュドラとの戦いの時だ。英寿はいきなり姿を消し、戻ってきた時、見つけたと言っていたブーストバックル。それはオルクスが置いたもののようだった。
「お前なら有り得るかもって思ってたけどビンゴだったみたいだな。」
英寿は勘づいていたようだった。彼の事はよく知っているという事だろう。
「おっと、そろそろ時間みたいだね。エース、久々に君と話せて良かったよ。君のその精神力には脱帽モノだ。最後にだ、ちょっとした手土産を持ってっていってくれ。それがエース達のこれからにきっと役に立つものだと思うから。これからが自由な意志の下にあらんことを。」
そう話を締めくくり、オルクスはスっと消えた。同時に、ハジメの脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。
やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。ハジメはゆっくり息を吐いた。
「ハジメ……大丈夫?」
「ああ、平気だ……にしても、何かどえらいこと聞いちまったな」
「……ん……どうするの?」
ユエがオルクスや英寿についての話を聞いてどうするのかと尋ねる。
「こうなった以上、俺は英寿に協力しつつ故郷に帰る方法を探す。それだけだ……ユエはどうだ?」
この状況、オルクスだけの話であればなんとも思わないが英寿の事まで知った以上、彼は自分の親友だ。協力しない訳にはいかない。なんならこれまで英寿に散々助けられてきた分、今度は自分が返す番だと。
「私も協力する。」
そう言って、ハジメに寄り添いその手を取る。ギュッと握られた手が本心であることを如実に語る。ユエは、過去、自分の国のために己の全てを捧げてきた。それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ
その牢獄から救い出してくれたのはハジメだ。だからこそハジメの隣こそがユエの全てなのである。
「……そうかい」
若干、照れくさそうなハジメ。それを誤魔化すためか咳払いを一つして、ハジメが衝撃の事実をさらりと告げる。
「あ~、あと何か新しい魔法……神代魔法っての覚えたみたいだ」
「……ホント?」
「ちなみにアイツは錬成師だからお前にとってはとてもいい魔法だと思うぞ?」
信じられないといった表情のユエ。それも仕方ないだろう。何せ神代魔法とは文字通り神代に使われていた現代では失伝した魔法である。ハジメ達をこの世界に召喚した転移魔法も同じ神代魔法である。
「この床の魔法陣が、神代魔法を使えるようにしてるみたいだ。」
「……大丈夫?」
「おう、問題ない。しかもこの魔法……俺のためにあるような魔法だな」
「……どんな魔法?」
「え~と、生成魔法ってやつだな。魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だ」
ハジメの言葉にポカンと口を開いて驚愕をあらわにするユエ。
「……アーティファクト作れる?」
「ああ、そういうことだな」
そう、生成魔法は神代においてアーティファクトを作るための魔法だったのだ。まさに錬成師のためにある魔法である。
そんな事をその後はオルクスの墓を立てそこに埋葬した。それはちゃんとした、立派なものをハジメに立ててもらって。
「お前も。幸せになれよ。オルクス。ありがとな。」
英寿が手を合わせた。かつての友に。そして願う。幸せになって欲しいと。
「さてと、この屋敷をくまなく探して旅に出る準備をするぞ、ハジメ、ユエ。いいな?」
英寿は旅に出ると言い出した。もちろんだがそれに反対する事なく全員一致で決定した。早速、屋敷を調べる事にした。
まずは書斎だ。
一番の目的である地上への道を探らなければならない。ハジメとユエは書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴つづられたものだ。
「ビンゴ!あったぞ、英寿、ユエ!」
「んっ」
ハジメから歓喜の声が上がる。ユエも嬉しそうだ。設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。盗ん……貰っておいてよかった。
更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということもわかった。人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。
工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。これは盗ん……譲ってもらうべきだろう。道具は使ってなんぼである。
「ハジメ……これ」
「うん?」
ハジメが設計図をチェックしていると他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記のようだ。かつての仲間、特に中心の七人と英寿との何気ない日常について書いたもののようである。
その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。
「……つまり、あれか?他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」
「その通りだ。」
手記によれば、オスカーと同様に六人の解放者達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが……
「……帰る方法見つかるかも」
ユエの言う通り、その可能性は十分にあるだろう。実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は神代魔法なのだから。
「だな。これで今後の指針ができた。地上に出たら七大迷宮攻略を目指してハジメとユエには神代魔法を手に入れて貰う。いいな?」
「わかった。」
「んっ」
明確な方針を固めた三人であった。
それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。現在、確認されているグリューエン大砂漠の大火山、ハルツィナ樹海、目星をつけられているライセン大峡谷、シュネー雪原の氷雪洞窟辺りから調べていくしかないだろう。
しばらくして書斎あさりに満足した三人は、工房へと移動した。
工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどである。
そして三人はここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。