世界の真実をオルクスから聞き、2ヶ月が経過した。
英寿はこの期間、新たにブーストバックルを手に入れた。オルクスの書斎にあったものを手にしたからだ。さらにはハジメと共にアーティファクトの作成をしたり、模擬戦をしたりなど、充実した日々を送っていた。
「……ハジメ、気持ちいい?」
「ん~、気持ちいいぞ~」
「……ふふ。じゃあ、こっちは?」
「あ~、それもいいな~」
「……ん。もっと気持ちよくしてあげる……」
現在、ユエはハジメのマッサージ中である。エロいことは今はしていない。何故、マッサージしているかというと、それはハジメの左腕・・が原因だ。ハジメの左腕に付けられた義手と体が馴染むように定期的にマッサージしているのである。
この義手はアーティファクトであり、魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かすことができる。擬似的な神経機構が備わっており、魔力を通すことで触った感触もきちんと脳に伝わる様に出来ている。また、銀色の光沢を放ち黒い線が幾本も走っており、所々に魔法陣や何らかの文様が刻まれている。
実際、多数のギミックが仕込まれており、工房の宝物庫にあったオスカー作の義手にハジメのオリジナル要素を加えて作り出したものだ。生成魔法により創り出した特殊な鉱石を山ほど使っており、世に出れば間違いなく国宝級のアーティファクトとして厳重に保管されるだろう逸品である。もっとも、魔力の直接操作ができないと全く動かせないので常人には使い道がないだろうが……
新装備についても少し紹介しておこう。
まず、ハジメは宝物庫という便利道具を手に入れた
これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるというものだ。要は、勇者の道具袋みたいなものである。空間の大きさは、正確には分からないが相当なものだと推測している。あらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。半径一メートル以内なら任意の場所に出すことができる。
物凄く便利なアーティファクトなのだが、ハジメにとっては特に、武装の一つとして非常に役に立っている。というのも、任意の場所に任意の物を転送してくれるという点から、ハジメはリロードに使えないかと思案したのだ。結果としては半分成功といったところだ。流石に、直接弾丸を弾倉に転送するほど精密な操作は出来なかった。弾丸の向きを揃えて一定範囲に規則的に転送するので限界だった。もっと転送の扱いに習熟すれば、あるいは出来るようになるかもしれないが。
なので、ハジメは、空中に転送した弾丸を己の技術によって弾倉に装填出来るように鍛錬することにした。要は、空中リロードを行おうとしたのだ。ドンナーはスイングアウト式(シリンダーが左に外れるタイプ)のリボルバーである。当然、中折式のリボルバーに比べてシリンダーの露出は少なくなるので、空中リロードは神業的な技術が必要だ。まして、大道芸ではなく実戦で使えなければならないので、更に困難を極める。最初は、中折式に改造しようかとも思ったハジメだが、試しに改造したところ大幅に強度が下がってしまったため断念した。
結論から言うと一ヶ月間の猛特訓で見事、ハジメは空中リロードを会得した。たった一ヶ月の特訓でなぜ神業を会得できたのか。その秘密は〝瞬光〟である。瞬光は、使用者の知覚能力を引き上げる固有魔法だ。これにより、遅くなった世界で空中リロードが可能になったのである。〝瞬光〟は、体への負担が大きいので長時間使用は出来ないが、リロードに瞬間的に使用する分には問題なかった。
次に、ハジメは魔力駆動二輪と四輪を製造した。
これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていたアザンチウム鉱石というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、ハジメ自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。速度は魔力量に比例する。
更に、この二つの魔力駆動車は車底に仕掛けがしてあり、魔力を注いで魔法を起動すると地面を錬成し整地することで、ほとんどの悪路を走破することもできる。また、どこぞのスパイのように武装が満載されている。ハジメも男の子。ミリタリーにはつい熱が入ってしまうのだ。夢中になり過ぎてユエが拗ねてしまい、機嫌を直すのに色々と搾り取られることになったが……
魔眼石というものも開発した。
ハジメはヒュドラとの戦いで右目を失っている。極光の熱で眼球の水分が蒸発していまい、神水を使う前に欠損してしまっていたので治癒しなかったのだ。それを気にしたユエが考案し、創られたのが魔眼石だ。
いくら生成魔法でも、流石に通常の眼球を創る事はできなかった。しかし、生成魔法を使い、神結晶に、魔力感知先読を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得ることができる魔眼を創ることに成功した。
これに義手に使われていた擬似神経の仕組みを取り込むことで、魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになったのだ。魔眼では、通常の視界を得ることはできない。その代わりに、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔法の核が見えるようにもなった。
魔法の核とは、魔法の発動を維持・操作するためのもの……のようだ。発動した後の魔法の操作は魔法陣の式によるということは知っていたが、では、その式は遠隔の魔法とどうやってリンクしているのかは考えたこともなかった。実際、ハジメが利用した書物や教官の教えに、その辺りの話しは一切出てきていない。おそらく、新発見なのではないだろうか。魔法のエキスパートたるユエも知らなかったことから、その可能性が高い。
通常の魔力感知では、気配感知などと同じく、漠然とどれくらいの位置に何体いるかという事しかわからなかった。気配を隠せる魔物に有効といった程度のものだ。しかし、この魔眼により、相手がどんな魔法を、どれくらいの威力で放つかを事前に知ることができる上、発動されても核を撃ち抜くことで魔法を破壊することができるようになった。ただし、核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要ではあるが。
神結晶を使用したのは、複数付与が神結晶以外の鉱物では出来なかったからだ。莫大な魔力を内包できるという性質が原因だと、ハジメは推測している。未だ、生成魔法の扱いには未熟の域を出ないので、三つ以上の同時付与は出来なかったが、習熟すれば、神結晶のポテンシャルならもっと多くの同時付与が可能となるかもしれない、とハジメは期待している。
ちなみに、この魔眼、神結晶を使用しているだけあって常に薄ぼんやりとではあるが青白い光を放っている。ハジメの右目は常に光るのである。こればっかりはどうしようもなかったので、仕方なく、ハジメは薄い黒布を使った眼帯を着けている。
白髪、義手、眼帯、ハジメは完全に厨二キャラとなった。その内、鎮まれ俺の左腕!とか言いそうな姿だ。鏡で自分の姿を見たハジメが絶望して膝から崩れ落ち四つん這い状態になった挙句、丸一日寝込むことになり、ユエにあの手この手で慰められるのだが……みなまで語るまい。
新兵器について、ヒュドラの極光で破壊された対物ライフル:シュラーゲンも復活した。アザンチム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも持ち運びの心配がなくなったので三メートルに改良した。遠見の固有魔法を付加させた鉱石を生成し創作したスコープも取り付けられ、最大射程は十キロメートルとなっている。
また、ラプトルの大群に追われた際、手数の足りなさに苦戦したことを思い出し、電磁加速式機関砲:メツェライを開発した。口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分一万二千発という化物だ。銃身の素材には生成魔法で創作した冷却効果のある鉱石を使っているが、それでも連続で五分しか使用できない。再度使うには十分の冷却期間が必要になる。
さらに、面制圧とハジメの純粋な趣味からロケット&ミサイルランチャー:オルカンも開発した。長方形の砲身を持ち、後方に十二連式回転弾倉が付いており連射可能。ロケット弾にも様々な種類がある。
あと、ドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃:シュラークも開発された。ハジメに義手ができたことで両手が使えるようになったからである。ハジメの基本戦術はドンナー・シュラークの二丁の電磁加速銃によるガン=カタ(銃による近接格闘術のようなもの)に落ち着いた。典型的な後衛であるユエとの連携を考慮して接近戦が効率的と考えたからだ。もっとも、ハジメは武装すればオールラウンドで動けるのだが。
他にも様々な装備・道具を開発した。しかし、装備の充実に反して、神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器十二本分でラストになってしまった。枯渇した神結晶に再び魔力を込めてみたのだが、神水は抽出できなかった。やはり長い年月をかけて濃縮でもしないといけないのかもしれない。
しかし、神結晶を捨てるには勿体無い。ハジメの命の恩人……ならぬ恩石なのだ。幸運に幸運が重なって、この結晶にたどり着かなければ確実に死んでいた。その為、ハジメには並々ならぬ愛着があった。それはもう、遭難者が孤独に耐え兼ねて持ち物に顔をペインティングし、名前とか付けちゃって愛でてしまうのと同じくらいに。
そこで、ハジメは、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。そして、それをユエに贈ったのだ。ユエは強力な魔法を行使できるが、最上級魔法等は魔力消費が激しく、一発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、最上級魔法でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。
そう思って、ユエに魔晶石シリーズと名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、そのときのユエの反応は……
「……プロポーズ?」
「なんでやねん」
ユエのぶっ飛んだ第一声に思わず関西弁で突っ込むハジメ。
「それで魔力枯渇を防げるだろ? 今度はきっとユエを守ってくれるだろうと思ってな」
「……やっぱりプロポーズ」
「いや、違ぇから。ただの新装備だから」
「……ハジメ、照れ屋」
「……最近、お前人の話聞かないよな?」
「……ベッドの上でも照れ屋」
「止めてくれます!? そういうのマジで!」
「ハジメ……」
「はぁ~、何だよ?」
「ありがとう……大好き」
「……おう」
本当にもう爆発しちまえよ! と言われそうな雰囲気を醸し出す二人。いろんな意味で準備は万端だった。
それから十日後、遂に三人は地上へ出る。
三階の魔法陣を起動させながら、英寿は告げる。
「お前たちはもうこの世界の強さの基準はとっくに超えてる。なんなら歴代最強クラスだ。はっきり言うと異端だ。色んな所から追い回される可能性だってある。覚悟は出来てるな?」
「当たり前だ。お前の目的の為、そしてユエの為、最後に日本に帰る為、邪魔なモノは全てぶっ潰す。」
「……大丈夫、私はハジメについて行く。何があっても。」
英寿の言葉にそれぞれ決意を固める。前途多難な旅になるのは確実だ。それぞれの目的の為、彼らは戦う。
「行くぞ。」
英寿が言い残し、魔法が発動した。
今回にて奈落編は終了です。
次回からは幕間としてクラスメイトsideを何話か投稿していきます。
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