ありふれた願いが世界最強   作:まち針ミシン針

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修正しました。


幕間 Ⅱ : 失意と決意

「おはよう、雫。お前が寝坊助さんなんて珍しいな。」

 

ここは……?なんで日本に……?それに……。

 

「英寿……?」

 

雫の問いかけに英寿は不思議そうな目をする。

 

「なんだよ、まるで俺に久々に会った時みたいにして。」

 

雫は次の瞬間には英寿に飛びかかり抱きついた。

 

「……英寿……うぅぅ……」

 

「おいおいどうしたんだ?らしくないぞ。」

 

泣いている雫の優しく撫で、安心させようとしている英寿。ゆっくり包み込むように雫の耳元に語りかける。

 

「大丈夫だ。たとえどんなに離れ離れになったとしても、俺はお前の事を忘れない。そして必ず隣に戻ってくる。だから、待っててくれ。」

 

「英寿……//ありがとう……私、頑張る……//」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!」

 

目を覚ました雫。さっきのは夢だったようだ。次の瞬間には現実が襲ってくる。そうだ、英寿とハジメは奈落の底に落ちていってしまった。それからというものは完全に頭に血が上ってしまい、その後は覚えていない。

 

雫の好きな英寿も、親友の香織の想い人であるハジメもいないのだ。ただ雫はそこまでの絶望感はなかった。確かに悲しい。けれども英寿は必ず帰ってこれるだろうという信頼がある。なんといっても彼は既に神なのだ。なんらかの目的があって奈落に落ちたのだろうと。

 

「そうよ、今は信じるしかないわね。英寿もよく言ってたもの。信じる限りきっと願いは叶うって。」

 

彼が常々言っている言葉だ。そしてあの夢の最後。ホントに彼からの言葉なんじゃないかと思う。神ならばもしかしたら……なんて思ってしまう。

 

起き上がり周りを見ると、隣には親友の香織が寝ていた。彼女もあそこで共に気絶してたのだろうと予想がつく。ふと香織の手に触れる。今の状況を聞いたら彼女は確実に気が気じゃないだろう。どうしようかと考えていると不意に、握り締めた香織の手がピクッと動いた。

 

「香織?」

「……雫ちゃん?」

 

ベッドに身を乗り出し、香織を見下ろす雫。

 

香織は、しばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす雫に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう? 違和感はない?」

 

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

 

「そうね、怠くもなるわ」

 

 そうやって体を起こそうとする香織を補助し苦笑いする雫。香織はそれに反応する。

 

「結構寝てた気がするし……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て香織が記憶を取り戻す。

 

「それで……あ…………………………南雲くんと英寿君は?」

 

「英寿と南雲君はここにはいないはずだわ。」

 

はっきりと告げる雫。で自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。だが、そんな現実を容易に受け入れられるほど香織はできていない。

 

「……嘘だよ、ね。そうでしょ?雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも英寿君も助かったんだよね?ね、ね?そうでしょ?ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰ってきたんだよね?南雲くんは……訓練かな?訓練所にいるよね?英寿君は……自分の部屋かな?私達が今ここにいられるのは英寿君がベヒモスを倒してくれたからだし……うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんと英寿君にお礼言わなきゃ……だから、離して?雫ちゃん」

 

現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎハジメと英寿を探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を掴み離そうとしない雫。

 

雫は悲痛な表情を浮かべながら、それでも決然と香織を見つめる。

 

「……香織。わかっているでしょう? ……ここに彼らはいないわ」

 

「やめて……」

 

「香織の覚えている通りよ」

 

「やめてよ……」

 

「英寿は、南雲君は……」

 

「いや、やめてよ……やめてったら!」

 

イヤイヤと首を振りながら、どうにか雫の拘束から逃れようと暴れる香織。雫は絶対離してなるものかとキツく抱き締める。ギュッと抱き締め、凍える香織の心を温めようとする。

 

「離して! 離してよぉ! 南雲くんを探しに行かなきゃ! お願いだからぁ……絶対、生きてるんだからぁ……離してよぉ」

 

いつしか香織は「離して」と叫びながら雫の胸に顔を埋め泣きじゃくっていた。

 

ただ雫は香織が思っている発言とは違った発言をした。

 

「でも、英寿と南雲君はきっと生きてるわ。」

 

「え……?」

 

「あのベヒモスを一人で倒しちゃったあの英寿よ?香織も振り返ってみればわからない?英寿は何か目的があって奈落に落ちたんだわ。南雲君を助ける為っていうのもあるかもだけれど。」

 

「そうだよね……きっと英寿君が助けてくれてるよね……!いつものように。」

 

少しづつ、表情が明るくなり始めている香織。そんな香織を見て。雫は続けた。

 

「英寿も言ってたわ。信じる限り、きっと願いは叶うって、だから信じましょう?必ず英寿はかっこよく決めて帰ってくるし、南雲君もびっくりするぐらい強くなってるかもしれないわよ?」

 

英寿という存在は雫にとって大きな支えだ。彼に救われた。まだ死んだ訳では無い。だからこそまだ、彼女には心の余裕がある。

 

「そういえばあの時、南雲くんは魔法が当たりそうになってた……誰なの?」

 

「わからないわ。ごめんなさい。」

 

「そっか」

 

「恨んでる?」

 

「……わからないよ。もし誰かわかったら……きっと恨むと思う。でも……分からないなら……その方がいいと思う。きっと、私、我慢できないと思うから……」

 

「そう……」

 

俯いたままポツリポツリと会話する香織。やがて、真っ赤になった目をゴシゴシと拭いながら顔を上げ、雫を見つめる。そして、決然と宣言した。

 

「雫ちゃん、私、信じないよ。南雲くんと英寿君は生きてる。死んだなんて信じない」

 

微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「わかってる。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって。……でもね、確認したわけじゃない。可能性は一パーセントより低いけど、確認していないならゼロじゃない。……私、信じたいの」

 

「香織……」

 

「私、もっと強くなるよ。それで、あんな状況でも今度は守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。南雲くんのこと。英寿君のこと。……雫ちゃん」

 

「なに?」

 

「力を貸してください」

 

「……」

 

雫はじっと自分を見つめる香織に目を合わせ見つめ返した。香織の目には狂気や現実逃避の色は見えない。ただ純粋に己が納得するまで諦めないという意志が宿っている。こうなった香織はテコでも動かない。雫どころか香織の家族も手を焼く頑固者になるのだ。

 

普通に考えれば、香織の言っている可能性などゼロパーセントであると切って捨てていい話だ。あの奈落に落ちて生存を信じるなど現実逃避と断じられるのが普通だ。

 

おそらく、幼馴染である光輝や龍太郎も含めてほとんどの人間が香織の考えを正そうとするだろう。

 

 だからこそ……

 

「もちろんいいわよ。納得するまでとことん付き合うわ。私だって英寿の事もあるし……お互い頑張りましょう?」

 

「雫ちゃん!」

 

香織は雫に抱きつき「ありがとう!」と何度も礼をいう。「礼なんて不要よ、親友でしょ?」と、どこまでも男前な雫。現代のサムライガールの称号は伊達ではなかった。

 

その時、不意に部屋の扉が開けられる。

 

「二人共!目覚めたの……か……」

 

光輝だ。香織の様子を見に来たのだろう。訓練着のまま来たようで、あちこち薄汚れている。

 

あの日から、訓練もより身が入ったものになった。ハジメと英寿の死に思うところがあったのだろう。何せ、撤退を渋った挙句返り討ちにあい、あわや殺されるという危機を救ったのは英寿とハジメなのだ。もう二度とあんな無様は晒さないと相当気合が入っているようである。

 

現在、部屋の入り口で硬直していた。訝しそうに雫が尋ねる。

 

「あんた達、どうし……」

 

「す、すまん!」

 

「ほら言わんこっちゃない光輝……」

 

「じゃ、邪魔したな!」

 

雫の疑問に対して喰い気味に言葉を被せ、見てはいけないものを見てしまったという感じで慌てて部屋を出ていく。やれやれとしている龍太郎。香織もキョトンとしている。しかし、聡い雫はその原因に気がついた。

 

現在、香織は雫の膝の上に座り、雫の両頬を両手で包みながら、今にもキスできそうな位置まで顔を近づけているのだ。雫の方も、香織を支えるように、その細い腰と肩に手を置き抱き締めているように見える。

 

つまり、激しく百合百合しい光景が出来上がっているのだ。ここが漫画の世界なら背景に百合の花が咲き乱れていることだろう。

 

雫は深々と溜息を吐くと、未だ事態が飲み込めずキョトンとしている香織を尻目に声を張り上げた。

 

「さっさと戻ってきなさい!この大馬鹿者!」

 

 

 

 

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