ありふれた願いが世界最強   作:まち針ミシン針

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青兎編
青兎Ⅰ: 初変身


魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気にハジメの頬が緩む。

 

やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは……

 

洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていたハジメは、代わり映えしない光景に思わず半眼になってツッコミを入れてしまった。正直、めちゃくちゃガッカリだった。

 

そんなハジメに英寿が語る。

 

「大丈夫だ、この先いけば地上だ。」

 

そんな簡単なことにも頭が回らないとは、どうやら自分は相当浮かれていたらしいと恥じるハジメ。頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、英寿もハジメもユエも暗闇を問題としないので道なりに進むことにした。

 

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。二人は、一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。英寿とハジメはこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。

 

ハジメとユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。英寿は後ろからゆっくりと進む。

 

近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。ハジメは、空気が旨いという感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 

そして、ハジメとユエは同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西のグリューエン大砂漠から東のハルツィナ樹海まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

ライセン大峡谷と。

 

ハジメ達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々さんさんと暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

 

たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていたハジメとユエの表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。

 

「……戻って来たんだな……」

 

「……んっ」

 

 二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「よっしゃぁああーー!!戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 

「んっーー!!」

 

 小柄なユエを抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓つまずき転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

「よろこんでばかりじゃいられないぞ。ほら見ろ。」

 

ようやく二人の笑いが収まった頃、英寿が後ろから追いつき、そこには魔物だらけであった。

 

「地上に来ていきなり戦闘は体が慣れてないからキツいだろ。俺に任せとけ。」

 

その言葉にハジメとユエは頷き後ろに下がった。英寿はドライバーを腰につけ、ニンジャバックルを右側に装填する。

 

SET

 

右手を前に突き出し、フィンガースナップをする。

 

パチン

 

「変身!」

 

クナイスターターを引いて押す。

 

NINJA

 

READY FIGHT

 

ニンジャフォームに変身が完了。ニンジャデュアラーをツインブレードにして、高速で敵に接近する。

 

「フ!ハ!」

 

 

そのままバッサバッサと敵を斬り裂いていく。魔物達は皆、一撃で倒れていく。さらにニンジャフォームの軽快な動きについてこれていない。

 

「よっと。」

 

さらにジャンプし、空中からニンジャデュアラーを投げ、敵を斬りつけていく。気づけば残りは数匹になっていた。ニンジャデュアラーを拾い、そのまま突撃する。

 

ROUND 1

 

シュリケンラウンダーを一回転させトリガーを引く。

 

TACTICAL SLASH

 

「ハァ!!」

 

先端の刃が緑色に光り、そのまま高速で斬撃をする。全て斬り終えると爆発が起こり、そこに魔物は残骸一つ残っていなかった。その事を確認し、英寿はバックルを外し、変身解除した。

 

「ふぅ……まぁ、ざっとこんなもんだろ。さぁ先行くぞ。」

 

そんな英寿の後ろ姿を見ながらハジメが首をかしげていると、ユエがハジメに話しかけた。

 

「……どうしたの?」

 

「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

 

「……英寿が化物」

 

「ひでぇ言い様だな。まぁ、奈落の魔物の方が強かったんだろうってことでいいか」

 

そういい、ハジメとユエも英寿に着いていくように進み出した。

 

「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

 

「……なぜ、樹海側?」

 

「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

 

「……確かに」

 

「よし、じゃあそうするか。ナイスアイデア、ハジメ。」

 

ハジメの提案に、ユエも頷き、英寿も賛同した。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。ハジメの空力やユエの風系魔法、なにより英寿の力を使えば、絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。

 

 ハジメは、右手の中指にはまっている宝物庫に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。

 

英寿はというとブーストバックルを取り出し、ハンドルを一回転させるとバイクが出現した。名をブーストライカーという。ブーストバックルのような赤が基本色のバイク。ヒュドラ戦の時、コンちゃんと英寿が言っていたものだ。

 

「英寿、お前中々いいの乗るんだな。」

 

「お前もな、ハジメ。」

 

お互いを褒めつつ、ヘルメットを被り、走り出す。

 

ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 

もっとも、その間もハジメの手だけは忙しなく動き続け、一発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らせているのだが。

 

しばらく走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。

 

突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

 

だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

 

英寿はブーストライカーをハジメは魔力駆動二輪を止めて胡乱うろんな眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。

 

「……何だあれ?」

 

「……兎人族?」

 

「なんでこんなとこに?兎人族って谷底が住処なのか?」

 

「普通ならもっと違うとこに生息してるはずだ。」

 

「じゃあ、あれか?犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

 

「……悪ウサギ?」

 

 ハジメとユエは首を傾げながら、逃げ惑うウサミミ少女を尻目に呑気にお喋りに興じる。しかし、そんな呑気なハジメとユエをウサミミ少女の方が発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のままハジメ達を凝視している。

 

そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。……ハジメ達の方へ。

 

それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊しハジメ達に届く。

 

「だずげでぐだざ~い!ひっーー、死んじゃう!死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、ハジメ達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。

 

「いくぞハジメ、助けるぞ。」

 

「言われなくてもわかってるよ。初戦闘だからな、サポート頼んだぞ。」

 

「フ…任せろ。」

 

二人は腰にドライバーをつける。

 

DESIREDRIVER

 

英寿はブーストバックル、ハジメはゾンビバックルを右手に手にし、どちらもドライバーの右側に装填する。

 

SET

 

英寿は右腕で大きく円を描き、手を狐にして前に突き出す。

 

ハジメは左手で右腕を撫で、そのまま直線に胸をなぞって左手を掲げた。

 

パチン

 

「「変身!」」

 

英寿のフィンガースナップを合図に掛け声を出す。そして英寿はブーストバックルのハンドルを二回転させ、ハジメはゾンビバックルのウェイキングキーを捻る。

 

BOOST

 

ZOMBIE

 

READY FIGHT

 

英寿は仮面ライダーギーツ ブーストフォーム。

 

ハジメは仮面ライダーバッファ ゾンビフォーム。

 

それぞれ変身完了する。

 

「えー!!!姿が変わりましたァ!!!なんなんですか?!」

 

ウサミミ少女は助けを求めた人たちの姿がいきなり変わり人生最大級レベルでびっくりする。それとこの人たちでよかったと安堵する。

 

「速攻で片付ける。」

 

ギーツ、バッファは走り出し、左右二手に分かれる。ギーツは強烈なパンチを、バッファはゾンビブレイカーを振り下ろし、致命的なダメージを与えた。

 

「トドメは決めろ、ハジメ。」

 

「任せとけ!」

 

バッファはウェンキングキーを捻った。するとゾンビブレイカーが紫色に光出し、力が溜まっていく。

 

ZOMBIE STRIKE

 

「ファァ!」

 

ティラノ向かい突進していく。そのまま接近しゾンビブレイカーで斬りつけた。ティラノの胴体は真っ二つにし、爆散していった。それを確認し、変身を解除した。

 

その振動と音にウサミミ少女が思わず「へっ?」と間抜けな声を出し、おそるおそるユエの横から顔を出してティラノの末路を確認する。

 

「そんな……ダイヘドアが……いとも簡単に……。」

 

ウサミミ少女は驚愕も顕に目を見開いている。どうやらあの双頭ティラノはダイヘドアというらしい。

 

呆然としたまましているウサミミ少女だが、その間もユエに蹴られ、ハジメにしがみついたままである。さっきから、長いウサミミがハジメの目をペシペシと叩いており、いい加減本気で鬱陶しくなったハジメは脇の下の脳天に肘鉄を打ち下ろした。

 

「へぶぅ!!」

 

呻き声を上げ、「頭がぁ~、頭がぁ~」と叫びながら両手で頭を抱えて地面をのたうち回るウサミミ少女。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

そして、なかなかに図太かった。

 

ハジメは、しがみついて離れないウサミミ少女を横目に見る。そして、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった。




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