ありふれた願いが世界最強   作:まち針ミシン針

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転移 IV : 知識とイジメ

ステータスプレートの件から二週間が経った。

 

現在、ハジメは訓練の休憩時間を利用して王立図書館にて調べ物をしている。その手には北大陸魔物大図鑑というなんの捻りもないタイトル通りの巨大な図鑑があった。

 

なぜ、そんな本を読んでいるのか。それは、この二週間の訓練で、成長するどころか役立たずぶりがより明らかになっただけだったからだ。力がない分、知識と知恵でカバーできないかと訓練の合間に勉強しているのである。

 

そんなわけで、ハジメは、しばらく図鑑を眺めていたのだが……突如、「はぁ~」と溜息を吐いて机の上に図鑑を放り投げた。ドスンッという重い音が響き、偶然通りかかった司書が物凄い形相でハジメを睨む。

 

ビクッとなりつつ、ハジメは急いで謝罪した。「次はねぇぞ、コラッ!」という無言の睨みを頂いてなんとか見逃してもらう。自分で自分に「何やってんだ」とツッコミ、再び溜息を吐いた。

 

ハジメはおもむろにステータスプレートを取り出し、頬杖をつきながら眺める。

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2

天職:錬成師

筋力:12

体力:12

耐性:12

敏捷:12

魔力:12

魔耐:12

技能:錬成、言語理解

 

これが、二週間みっちり訓練したハジメの成果である。「刻み過ぎだろ!」と、内心ツッコミをいれたのは言うまでもない。ちなみに光輝はというと、

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:10

天職:勇者

筋力:200

体力:200

耐性:200

敏捷:200

魔力:200

魔耐:200

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

ざっとハジメの五倍の成長率である。

 

おまけに、ハジメには魔法の適性がないこともわかった。

 

魔法適性がないとはどういうことか。この世界における魔法の概念を少し説明しよう。

 

トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

そして、詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、魔力量に比例して威力や効果も上がっていく。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる。それは必然的に魔法陣自体も大きくなるということに繋がる。

 

例えば、RPG等で定番の〝火球〟を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になる。基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていき魔法陣が大きくなるということだ。

 

しかし、この原則にも例外がある。それが適性だ。

 

適性とは、言ってみれば体質によりどれくらい式を省略できるかという問題である。例えば、火属性の適性があれば、式に属性を書き込む必要はなく、その分式を小さくできると言った具合だ。

 

この省略はイメージによって補完される。式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加されるのである。

 

大抵の人間はなんらかの適性を持っているため、上記の直径十センチ以下が平均であるのだが、ハジメの場合、全く適性がないことから、基本五式に加え速度や弾道・拡散率・収束率等事細かに式を書かなければならなかった。

 

そのため、火球一発放つのに直径二メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。

 

ちなみに、魔法陣は一般には特殊な紙を使った使い捨てタイプか、鉱物に刻むタイプの二つがある。前者は、バリエーションは豊かになるが一回の使い捨てで威力も落ちる。後者は嵩張るので種類は持てないが、何度でも使えて威力も十全というメリット・デメリットがある。イシュタル達神官が持っていた錫杖は後者だ。

 

そんなわけで近接戦闘はステータス的に無理、魔法は適性がなくて無理、頼みの天職・技能の錬成は鉱物の形を変えたりくっつけたり、加工できるだけで役に立たない。錬成に役立つアーティファクトもないと言われ、錬成の魔法陣を刻んだ手袋をもらっただけ。

 

一応、頑張って落とし穴? とか、出っ張り? を地面に作ることはできるようになったし、その規模も少しずつ大きくはなっているが……

 

対象には直接手を触れなければ効果を発揮しない術である以上、敵の眼前でしゃがみ込み、地面に手を突くという自殺行為をしなければならず、結局のところ戦闘では役立たずであることに変わりはない。

 

それこそ英寿が言ってた近代の兵器なんて夢のまた夢だ。

 

この二週間ですっかりクラスメイト達から無能のレッテルを貼られたハジメ。仕方なく知識を溜め込んでいるのであるが……なんとも先行きが見えず、ここ最近すっかり溜息が増えた。

 

「お、精が出るなハジメ。」

 

「英寿か、もういっそこと旅にでちゃおうかなって考えちゃう事もあるんだよね〜。」

 

「いいんじゃないのか?それもひとつの手かもな。そんじゃそんときは俺も一緒に行かせてもらおうかな。」

 

「本当に!?やっぱり亜人の国には行ってみたいかな〜、ケモミミを見ずして異世界トリップは語れない。……でも樹海の奥地なんだよなぁ~。何か被差別種族だから奴隷以外、まず外では見つからないらしいし」

 

ハジメの知識通り、亜人族は被差別種族であり、基本的に大陸東側に南北に渡って広がるハルツェナ樹海の深部に引き篭っている。なぜ差別されているのかというと彼等が一切魔力を持っていないからだ。

 

「そうなのか……まぁ色々見てみるに越した事はないしな。まずは知識をもっと溜め込まないとな。」

 

「そうだよね、結局帰りたいなら逃げる訳にはいかないんだよね。ってヤバイ、訓練の時間だ!」

 

「もうそんな時間か、俺1回部屋戻ってから行くからさき行っててくれ。」

 

「わかった!また後で!」

 

訓練の時間が迫っていることに気がついて慌てて図書館を出るハジメ。王宮までの道のりは短く目と鼻の先ではあるが、その道程にも王都の喧騒が聞こえてくる。露店の店主の呼び込みや遊ぶ子供の声、はしゃぎ過ぎた子供を叱る声、実に日常的で平和だ。

 

(やっぱり、戦争なさそうだからって帰してくれないかなぁ~)

 

ハジメは、そんな有り得ないことを夢想した。これから始まる憂鬱ゆううつな時間からの現実逃避である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練施設に到着すると既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしていた。どうやら案外早く着いたようである。ハジメは、自主練でもして待つかと、支給された西洋風の細身の剣を取り出した。

 

と、その時、唐突に後ろから衝撃を受けてハジメはたたらを踏んだ。なんとか転倒は免れたものの抜き身の剣を目の前にして冷や汗が噴き出る。顔をしかめながら背後を振り返ったハジメは予想通りの面子に心底うんざりした表情をした。

 

そこにいたのは、檜山大介率いる小悪党四人組(ハジメ命名)である。訓練が始まってからというもの、ことあるごとにハジメにちょっかいをかけてくるのだ。ハジメが訓練を憂鬱に感じる理由である。

 

「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

 

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

 

「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

 

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

 

一体なにがそんなに面白いのかニヤニヤ、ゲラゲラと笑う檜山達。

 

「あぁ? おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね? まぁ、俺も優しいし? 稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

 

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

 

そんなことを言いながら馴れ馴れしく肩を組み人目につかない方へ連行していく檜山達。それにクラスメイト達は気がついたようだが見て見ぬふりをする。

 

「いや、一人でするから大丈夫だって。僕のことは放っておいてくれていいからさ」

 

一応、やんわりと断ってみるハジメ。

 

「はぁ? 俺らがわざわざ無能のお前を鍛えてやろうってのに何言ってんの? マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

そう言って、脇腹を殴る檜山。ハジメは「ぐっ」と痛みに顔をしかめながら呻く。

 

檜山達も段々暴力にためらいを覚えなくなってきているようだ。思春期男子がいきなり大きな力を得れば溺れるのは仕方ないこととはいえ、その矛先を向けられては堪ったものではない。かと言って反抗できるほどの力もない。ハジメは歯を食いしばるしかなかった。

 

やがて、訓練施設からは死角になっている人気のない場所に来ると、檜山はハジメを突き飛ばした。

 

「ほら、さっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

 

檜山、中野、斎藤、近藤の四人がハジメを取り囲む。ハジメは悔しさに唇を噛み締めながら立ち上がった。

 

「ぐぁ!?」

 

その瞬間、背後から背中を強打された。近藤が剣の鞘で殴ったのだ。悲鳴を上げ前のめりに倒れるハジメに、更に追撃が加わる。

 

「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――火球」

 

中野が火属性魔法〝火球〟を放つ。倒れた直後であることと背中の痛みで直ぐに起き上がることができないハジメは、ゴロゴロと必死に転がりなんとか避ける。だがそれを見計らったように、今度は斎藤が魔法を放った。

 

「ここに風撃を望む――風球」

 

風の塊が立ち上がりかけたハジメの腹部に直撃……する事はなかった。ギリギリの所に青い1枚の壁が風球を無力化した。

 

「相変わらずだな、お前ら。」

 

英寿が俺と小悪党四人組に近づいて来ている。

 

「か、神之……フフ、これは無能の南雲の為の訓練なんだよ。邪魔しないでもらっていいかな?」

 

「訓練?これの何処が訓練なんだよ。ただの一方的なリンジじゃないか。それにハジメが無能?この間言ったばかりだよな、ハジメは決して無能じゃないって、こういう事やってるお前らこそ真の無能なんじゃないのか?」

 

「チッ、つべこべ言いやがって!ここに風撃を望む――風球!」

 

檜山から放たれた風球は一直線に英寿目掛け飛んで行った。

 

「やばい、英寿!避けろ!」

 

僕は必死になって英寿に向かい叫ぶ。ホントにこのままだと当たってしまう。しかしその声は届かず、英寿に直撃した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントに大したことないな、こんな生半可な攻撃じゃこの世界で生きてけないぞ。」

 

確かに当たったはず……だがそこには傷ひとつない英寿が余裕の表情で立っていた。

 

「なんでなんも無いかのようにたってんだよ……神之……」

 

「化かしてやったのさ、お前らをな。確かに俺はステータス不明だが、だからって俺を侮ってもらっちゃ困る。心に刻んどけ。」

 

その言葉の通り、英寿はここにいる者全てを化かした。そんな事をしてると……

 

「何やってるの!?」

 

その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

「南雲くん!」

 

檜山の弁明を無視して、香織は、ゲホッゲホッと咳き込み蹲るハジメに駆け寄る。ハジメの様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。

 

「英寿、危険な事はしないの、後でお話しましょうね〜。ところで特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?英寿がいなかったらもっとヤバそうだったけど。」

 

「いや、それは……」

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない。」

 

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての。」

 

三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。白崎さん、それに英寿も、助かったよ。」

 

苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

「いつもは英寿がいるからそんな事はないだけど今日は別々できちゃったからね……」

 

「そうだったんだ、英寿君いつもありがとね。」

 

「たいしたことはしてないさ。」

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメ。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

何をどう解釈すればそうなるのか。ハジメは半ば呆然としながら、ああ確かに天之河は基本的に性善説で人の行動を解釈する奴だったと苦笑いする。

 

「おい雫、こいつ正気でこんな事言ってんのか?」

 

「まぁ……ホントにどうしようにもないぐらい重症ね……」

 

「俺もいつも近くにいて何とかしないとと思って色々話してるんだどな……光輝の奴は……」

 

「龍太郎、お前いつも大変だな……たまには俺の部屋、来ていいからな……」

 

「お、おうよ英寿……!」

 

どうしようもなく、頭を抱える英寿、雫、龍太郎の事をよそに光輝はそこそこの時間その話を続けた。

 

天之河の思考パターンは、基本的に人間はそう悪いことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない! という過程を経るのである。

 

しかも、光輝の言葉には本気で悪意がない。真剣にハジメを思って忠告しているのだ。ハジメは既に誤解を解く気力が萎なええている。ここまで自分の思考というか正義感に疑問を抱かない人間には何を言っても無駄だろうと。

 

それがわかっているのか雫が手で顔を覆いながら溜息を吐き、ハジメに小さく謝罪する。

 

「ごめんなさいね? 光輝も悪気があるわけじゃないのよ」

 

「アハハ、うん、分かってるから大丈夫」

 

やはり笑顔で大丈夫と返事をするハジメ。汚れた服を叩きながら起き上がる。

 

「ほら、もう訓練が始まるよ。行こう?」

 

ハジメに促され一行は訓練施設に戻る。香織はずっと心配そうだったがハジメは気がつかない振りをした。流石に、男として同級生の女の子に甘えるのだけはなんだか嫌だったのだ。

 

「俺達も行くか龍太郎。」

 

「おうよ英寿、まぁ、お互い頑張ってこうぜ!」

 

「ああ。」

 

そういい、お互いグータッチをする。実はこの2人かなり仲が良く、よくトレーニング方法を英寿が教えたり、お互い相談を聞いたり、一緒にトレーニングするなど交友が深い。幼馴染でもある為、信頼し合っている。

 

「今日こそはお前に勝つ!」

 

「かかってこい!」

 

そうして訓練に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環としてオルクス大迷宮へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾でハジメは天を仰ぐ。

 

(……本当に前途多難だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

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