そんなこと言われても私はただのお釣り計算AIですから 作:デ カ マ ク ラ ト ン
「……静かね」
「委員長?」
普段ならゲヘナ学園の周辺は大抵銃撃の音がしたりするものなんだけど……今日はやけに静かだった。いや、私の風紀委員長という立場を考えると、銃声が聞こえてこないのはとてもいいことだと納得するべきだとは思うんだけど……普段がうるさいのでどうも変な感覚になってしまう。
「万魔殿の連中は?」
「一応は……予定通り、防衛線を構築しているようですが……」
「そう。ならいいわ」
今回の敵は先生ですら予測できない強大なもの。なにかあれば即座に動けるようにしながら、出し惜しみせずに先生の手も借りてなんとか事態を収める必要がある。クロノススクールの報道によって大勢の一般市民は学園から離れた場所に避難しているし、まずなにかがあってもすぐに気が付けるだけの設備は用意してある。最悪、市民がいなくなった市街地で銃撃戦を行う可能性もあるだろう。
「ん?」
「どうかしたの、アコ」
「今、遠くで爆発音が鳴ったような……」
爆発音?
普段のゲヘナを考えると温泉開発部か美食研究会がやらかしたのかと思うけど、今はどちらも学園内で大人しくしていることを把握している。そうすると……ゲヘナ内でなにかしらの事件が起きたとは考えづらいのだけれど……スケバンやヘルメット団なんかが暴れているのかもしれないと思うと、ただでさえ忙しいのに頭が痛くなってしまう。
「委員長っ!」
「イオリ?」
外に警備しに行っていたイオリが息を切らしながらこっちに走ってきた。イオリが走り回っているのはいつものことだけど、ここまで深刻そうな顔をして私たちのところに向かってくることは稀だ。だから、なんとなく嫌な予感がした。
「こ、これっ!」
「これは……ミレニアムっ!? ヒナ委員長! ミレニアムが襲われて──」
「伏せてっ!」
自分の直観に任せてアコとイオリを押し倒して机の陰に隠れる。刹那の後、爆発音と共に窓ガラスが全て吹き飛んだ。
「きゃぁっ!?」
「うわっ!?」
「くっ!? 敵襲よ……アコ、すぐに風紀委員を指揮して。私は敵の正体を確かめてくる」
確かめるとは言うけど、十中八九ゲヘナ学園に直接攻撃を仕掛けてくるのはクリフォトで間違いない。あのAIがなにを考えて先生に接触し、キヴォトス3大自治区に宣戦布告をしたのかは知らないけれど、敵となるのなら容赦はしない。
割れた窓から屋外に飛び出して外を見ると、4階建てのビルより巨大な山羊の角を持つ巨人が学園の真正面に立っていた。2つの棍棒を両手に持ち、悠然と立つその姿からは悍ましさと同時に、どこか神聖さすらも感じさせる。間違いなく、目の前のあれが敵だ。
すぐさま
「っ!? 重いっ!」
こと戦闘に関して言えば、私と並ぶ存在はキヴォトスでも数えるほどしかいないという自負があるけど、目の前の存在は別だ。あれは……生徒が1人で戦っていい存在ではない。
投げつけられた棍棒をなんとか背後に逸らして地面に着地すると、アコが指揮する風紀委員のメンバーが一斉に支援として射撃をしてくれているが……やはりあの巨人には届かない。
「後ろっ! アコっ!?」
このままで攻撃を仕掛けても効果がないと考えていたら、さっき投げたはずの棍棒が回転しながら風紀委員会の戦車を薙ぎ倒して巨人の右手に回収された。
「……投げても帰ってくるから投げた、と言う訳ね」
これは……面倒くさいなんて言ってられる状況じゃない。すぐさま先生を呼び出すために携帯を起動するけど……先生はいつまで経っても出る気配がない。巨人も全く動かないまま睨み合いが続いているけど、果たしてこのままで済むかどうか。
『もしもし』
「っ! 先生!」
『残念、私は先生ではないよ』
「なっ!?」
『先生は今、床に転がって私に押さえつけられている状態で……君たちの戦況を見守ってくれているよ。今のところは殺す気も無いから安心してくれていい……今のところは、ね』
先生は、既に制圧されている?
だとすると、この状況は非常にマズい。明らかに目の前の巨人は風紀委員会だけの手に負える存在ではないし、さっきアコが言っていたことが本当ならミレニアムも既に襲われている状況になる。
『あーそれと……クリファーはちゃんと
「……は?」
電話が切れた後も、最後に相手が言っていた言葉の意味が理解できない。3体ずつ……3体?
『委員長っ! 上から敵です!』
「まさかっ!?」
あの巨人のような敵が後、2体もここにやってくると言うの?
私の思考なんてお構いなしに、上空から燃える車輪のようなヘイローを頭の上で回転させながら降りてくる、巨大な黒色の鳥が1体。
『おい、ヒナ』
「っ!? マコト、今どこにいるの……貴女のゲヘナ学園が大変なことになってるわよ」
『だろうな……こっちもだ』
突然マコトから通信が送られてきた。マコトの方を見ると、そこには崩壊する市街地の中で翼の生えた蛇と戦闘する万魔殿の連中が映っていた。当たり前のように……同時に攻撃されている。しかも綺麗に分断されている……マコトたちが突破してこのゲヘナ学園までやってくるのには30分以上の時間がかかるだろう。
『先生も動けないのだろう?』
「どうしてそれを」
『お前の顔を見ればわかる……この状況は、詰みだ。対応が遅すぎた……いや、相手の方が数枚上手だった』
マコトが自分から負けを認めることなんて、私は始めて見た。だけど……私は羽沼マコトという人間のことをそれなりに評価している。こういう時に……間違った戦術評価を下す人間ではないと。
第7のクリファー
第8のクリファー
第9のクリファー
『思ったより、諦めるのが早かったな……空崎ヒナ』
「……シェムハザ、だったかしら?」
『覚えて貰っていたとは光栄だな』
「でも、中身はさっき電話に出た相手と同じ」
『それはそうだろう。クリフォトとは全て私のことなのだからな』
そうだ……ミレニアム、ゲヘナ、トリニティに宣戦布告をして、ここまで追い詰めている相手はあくまでも一つのAIでしかない。その筈なのに……私たちは戦うことすら無意味だと感じるほどの状況に、膝を付きそうになっている。
『ゲヘナ学園は空崎ヒナ、君を排除できればそれで終わりだ。羽沼マコトのことはそれなりに評価しているが……この状況を覆せるだけの意外性はない』
「……奇遇ね。私もマコトのことは評価しているけど、それなり程度よ」
『生きて帰ったら覚えておけよヒナ』
「お互い様ね」
もう、生き残る道はないかもしれない。それでも……先生の命を握られた私には、怒りしか湧いてこない。アリウスの襲撃によってもう少しで先生が殺されていたかもしれない時、目の前のシェムハザが助けてくれた。私はそこから、先生とあのオートマトンのことを疑ってしまったけど……もう先生のことは疑わないと決めたのだ。
「ゲヘナ学園を諦めるなんて冗談、言われなくて良かったわ」
「なんで、こんな時に貴女たちは出てくるのかしら……
「それは私たちが、究極のアウトローだからよっ!」
意味がわからない。
「風紀委員会で相手にできないんだったら……私たちが全て片付けてあげるわ!」
『ほぅ……陸八魔アルか。まぁ、先に消しておいた方がいい相手ではあるだろうな』
「ふふふ……(なんでっ!? どう考えても空崎ヒナの方が先でしょ!?)」
「アルちゃんかっこいい!」
「でも、ゲヘナ学園を滅ぼされたら困るのは本当」
「アル様の、敵ぃ!」
なにを考えているかわからないけど……彼女たちは信用できる。だって……先生の生徒だもの。
『いいだろう。抵抗すると言うのなら存分にするがいい……私はそれを上から押し潰そう』
希望は殆どない……けど、先生なら絶対に諦めない。だから私も──諦めない。
作者のクリファー選出基準は↓です
ゲヘナは欲望まみれのイメージだからなぁ……ツァーカブ(色欲)
ゲヘナは欲望まみれの(ry……ケムダー(貪欲)
ゲヘナの治安悪いし……アィーアツブス(不安定)
ツァーカブはバアル、ケムダーはアドラメレク、アィーアツブスはリリスが見た目のイメージです
まぁ、ツァーカブはバアルって言うよりメルカルトなんですけど……同一扱いされるからええやろ(適当)