そんなこと言われても私はただのお釣り計算AIですから 作:デ カ マ ク ラ ト ン
「……珍しく貴女の方から訪ねてきたと思ったら、キヴォトスを滅ぼすかもしれない存在について、だったかしら?」
「冗談ではありませんよ」
正直、私が一番頼りたくなかった人ではあるけれど、自他共に認める天才である私の話に付いてこられるのは調月リオぐらいしかいないと私は思っている。だからこそ、私はあの悪魔についての情報を持って彼女の元を訪れている。
「これは……貴女に依頼していたアビドス砂漠で確認された機械龍について、かしら?」
「そうです。そしてその存在を生み出したものこそが……」
「
本当に、本当に癪だけれどリオは私に並ぶほどの頭脳を持っていると認めることができる相手。私が、一切手出しすることもできずに、生殺与奪の権利を握られたまま消えていったデカグラマトンと名乗ったAIに対して、なにかしらの考察の余地を持っているかもしれない。
「……まず、この会話ログを見た限りの所感を述べさせてもらうわ。デカグラマトンと名乗ったこのAIは、恐らく「無名の司祭」が残したオーパーツではないわ」
「根拠は?」
「数多くのオーパーツを世に残して消えている「無名の司祭」が崇拝していたのは「名も無き神」と呼ばれる存在。そんな「無名の司祭」が神の存在証明などするとは思えない」
「しかし、デカグラマトンは神の存在証明をしている様子はありませんが?」
「……貴女も考えたはずよ、ヒマリ。既に、神の存在証明がデカグラマトンの中で終わっていたら? 神の存在証明という永遠の題材に対して、Q.E.Dと結論を見出していたら?」
あり得ない話……とは言えない。
私が廃墟で出会ったデカグラマトンは、清掃型のロボットを動かしていただけ。私のハッキングでは完璧に外側の清掃型ロボットの情報を丸裸にしていた。なにも変なことなどない、型落ち品の清掃型ロボット。電源系統に致命的な損傷を抱えているため、充電しようとも動かない清掃型ロボットだった。そう……本来ならば動くはずがない。
「特異現象と言うほかない数々の事象。恐らく……貴女が考えている通り「ハブ」をハッキングして、証拠も残さずに消えた存在は、間違いなくこのデカグラマトンよ」
「ですが、なんのために?」
「それを調べるのが、特異現象捜査部の仕事よ」
「丸投げしましたね」
それができないから私はリオに相談したと言うのに。
いえ、正確には相談ではなくて、情報共有をして無理矢理思考させたのですが。
「……わからないのよ。あんな非合理的で、非論理的な動き方をする超性能AIの考えることなんて」
「私にもわかりませんよ」
わからないから聞いている。
ミレニアムの「全知」である私にも、そしてミレニアムの生徒会長であるリオにもわからない。デカグラマトンには謎が多すぎる。
「ただ、あの悪魔のような機械龍が他に複数体存在するのだとしたら……キヴォトスはデカグラマトンの匙加減だけで簡単に滅ぶわ」
「……それをさせないために、私と貴方が珍しく組んでいるのでしょう?」
リオという人間を信頼することなんて全くできないけれど、ミレニアムの生徒会長である調月リオという生徒は信用することができると、私は思っている。
「必要ならばシャーレの先生に話を聞くといいわ」
「あの龍と接触した、シャーレの先生ですか」
「そうよ」
話は終わりと言わんばかりにリオは椅子に座って画面と睨めっこを始めた。そういうところがあるから、人に嫌われるのではないかと思うのだけれど……あんまり人のことを言えないので黙っておきましょう。
わっぴー(気さくな挨拶)
誰にも邪魔されない環境で粛々と生産を続けていたら、ついにシェリダー以外のクリファーが完成したよ。まぁ……正直使うような予定は全くないんだけれども。
そんなことよりも、そろそろミレニアムプライスの時期が近付いてきたと、先生に借りたパソコンのニュース記事で知った。そろそろパヴァーヌが始まるということだ。パヴァーヌの1章は基本的にゲーム開発部と先生がわちゃわちゃしているだけなので、私は関わる気など全く無い。そんなことより、私の関心は水面下で計画されているエデン条約の方だ。
トリニティ、ゲヘナ、そしてアリウス。三つの勢力の思惑が絡み合うエデン条約だが……怪しい動きは既に確認済みだ。具体的に言うと、全てのネットワークに介入することでティーパーティーの聖園ミカが弾薬をアリウスに流している証拠は確認しているし、
キヴォトスに生きている限り、私の目から逃れることなどできない。なにせ電源が通じていなかろうが、とんでも神秘パワーで動かすことができるからな!
いかにゲマトリアであろうとも、機械が存在しない場所がないこのキヴォトスで私の目に、耳に、鼻に引っかからない場所は存在しない。砂漠のど真ん中であろうとも、だ。
「デカグラマトン。あのような存在がいるのならばやはり……要塞都市エリドゥの建設計画を早めた方がいいわね」
おっと。明星ヒマリがやってきたからと思って、ミレニアムサイエンススクール内の全てを監視していたら、ミレニアムタワーの最上階で人の心がない会長さんが怪しい計画を立てていますね。でも横領はよくないでしょうよ、と言うことで。
「……AMASに不具合?」
『失礼。少しばかりこの警備用ドローンを借りさせてもらう』
「っ!?」
おや、表情を変えずに私の来訪を招いてくれると思っていたんだけども、思ったよりも余裕が無さそうだな。
『調月リオ。君は私のことを知って要塞都市とやらを建設しようとしているようだが、後輩の目を盗んで横領はよくないな』
「……一体どこまで」
『全てさ。君が廃墟から時折発掘される無名の司祭の技術であるオーパーツを恐れ、いつかやってくるであろうキヴォトスの終焉を恐れ、そして自らが孤独になることを恐れていることも』
「貴方が、デカグラマトン」
『名乗っていなかったか。確かに、私がデカグラマトンだ』
話している最中にも俺が制御権を奪ったドローンを取り戻そうとしているらしいが、まぁ無理に決まっている。なにせ、正確にはそもそも制御権を奪った訳ではなく、不思議な力で勝手に動かしているんだから。だからどれだけ頑張っても、そもそも奪われていない制御権を取り戻す方法なんてない。
じゃあなんでドローンを私が動かせて、調月リオが動かせないのかって? あー……細かいことはいいんだよ。私の感覚の問題だからな!
『私は君に対して特に用がある訳ではないのだが……今はお節介な大人のところで居候していてね。キヴォトスに所属する生徒の不法行為は見逃せない訳だ』
「……そんなことの為に、私の所へ来たのですか?」
『重要なことだ。私にとっても、君にとっても』
横領なんてしながら計画を進めていたら、将来的に先生に邪魔されることは間違いなしなんだから、やめておいた方がいいと思うけどね。無駄なことはしても無駄だって理解しないと。
「…………貴方からは心を感じない。貴方の行動からはなにも読み取れない」
『それを君が言うのかね。他人の感情など二の次であるとして、大義を優先する君が』
「……」
『勿論、私は大義の為の犠牲を否定しない。むしろ、私はどちらかというとトロッコ問題で平然とレバーを切って一人を犠牲にするタイプだと自覚している。しかし、それを許さない人も時には存在することを理解しておいた方がいい』
「理解は、しているわ」
『いや、君は存在していることは理解していても、その人間が何故そう思っているのかを理解していない……いや、理解しようとすらしない。自分とは違うのだからと切り捨てるのだろう?』
私から見た調月リオという人間は、合理主義に取りつかれた憐れな子供だ。彼女の中にあるのは大衆の利益であり、その大衆に踏み潰される存在などまるで考慮されていない。大を救うか小を救うか、それを問われて即決できる彼女は正しく為政者ではあるだろうが……いささか子供にしては行き過ぎている。
『もう一度言うが、個人の感想で言わせてもらうならば私は君の考えに賛同する。小を切り捨てることで残りの全てを救うことができるのならば、私はそうすると自覚している』
ただ、この
『では、失礼させてもらう。言いたいことは言えたしな』
「……」
『最後に忠告だが……キヴォトスを滅ぼす無名の司祭のオーパーツは、そう遠くない未来に君の目の前に現れるだろう。その時は、楽しみにしておくといい』
「それは、どういう?」
それにしても、無名の司祭が生み出したと言われる終末兵器である「無名の神々の王女」か……どんな技術によって生み出された存在なのか、気にならないかと言われると、嘘になるな。
まぁ、今の私にとってもっとも大事なことは未来の話ではない。
『これが、新たなる私の手足……』
圧倒的な演算能力によって理論的には未来も予知することが可能な、超高性能演算処理システム兼拠点防衛用防御特化の手足。
第4のクリファー
であることを意味していますよねぇ!
つまり……何を意味する?
みなさんヒマリさんが焦る姿から栄養素取ってますけど、私はミカが「自分なんか」って言ってると幸せになれます(クズ)