そんなこと言われても私はただのお釣り計算AIですから   作:デ カ マ ク ラ ト ン

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存在証明

 あの後、どうやら先生は以前に風紀委員会を襲った正体不明のオートマトンと繋がりがあるという理由で拘束され、その間に色々と好き放題されたけど結局は原作と同じ通りに話が進んだらしい。錠前サオリはボロボロで、先生も風紀委員会に拘束されていたのによくもまぁ、成し遂げたものだ。

 その後のアリウススクワッドの救援要請、聖園ミカの暴走なども物語通りに進み……結局は大団円のような形で終わった。先生にこっそりつけていた監視ロボットのお陰で、覆面水着団のリーダーであるファウストさんのブルアカ宣言も見れたし、私の完全勝利だ。

 

「“説明、してもらうよ”」

 

 この状況がなければ。

 

『……説明すること、か』

「“色々隠しているみたいだね”」

『それは先生も言えたことではないだろう?』

「“どうかな? 君の隠し事に比べれば、小さなものだよ”」

 

 そう言いながら、先生はシャーレの机の上に幾つかの写真を放り投げた。写っているのはどれもグリゴリと私が名付けた機体たち。エデン条約の間だけ、先生のことを監視してその身を守るために用意した対象の防御と敵の殲滅に特化させた機体だ。今は1台を除いて全てをキヴォトス中にばら撒いて保管してあるが、写真を撮ったのはクロノスジャーナリズムスクールだろうな。いい角度でかっこよく撮れているな……データサーバーから1枚盗んでおこう。

 

「“これについて、説明はないの?”」

『先生、私は以前にも貴女の前でシェリダーという手札を見せている。それ以外に手札を持っていない訳がないと思わなかったのかい?』

「“思ってたよ。でも、一緒に生活していく中で君ならきっと安心して背中を預けられると思っていたんだ”」

『それは嬉しい評価だが、以前にも言った通り私のことは危険な武器だと認識した方がいい。制御できない機関銃を起動させれば、敵味方関係なく蜂の巣になるのは目に見えているだろう?』

 

 私の言葉に先生は目を吊り上げた。明らかに怒っている様子だが、こればかりは譲れない。私はあくまでも私の基準で動き、そしてあくまでも先生の味方としてしか動いていない。そこに生徒を守るだとか、キヴォトスを守るなんて考えは存在しない。いずれ来る色彩も、私の存在を脅かすものではあるだろうが、私にとって積極的に攻撃する相手ではないのだ。

 

「“…………ルシフェルは、武器じゃない”」

『甘い考えだ。私はあくまでもAIであり、上手く使えば便利な道具だが、使い方を間違えれば自分が大怪我をする、道具に過ぎない』

「“それは違うよ”」

 

 何故、先生は悲しそうな顔をするのだろうか。

 今は私が先生に詰め寄られている所のはずなのだが、なにが先生の感情を刺激してそんな悲し気な顔にしてしまったのか、私には一切理解することができない。

 今回の事件は先生が私の手綱を放したから、私が単独で暴れまわり、兵器としての力をキヴォトスに見せつける結果になっただけではないか。先生が悲しむべきは、私の制御を誤ったことで傷つけてしまった人々に対してであり、傷つけた道具に向かって悲しみの感情を向ける理由などないはずだ。

 理解できない……先生は、なにを思って涙を流しそうになっているのか。

 

 その答えを教えてくる存在は……私にはいない。

 


 

 ブラックマーケットの居心地は、案外悪くなかった。未だ、先生の言っていた私自身の生き方というものは全く見えてこないが、少なくとも今の私にはブラックマーケットでのこういったその日暮らしが悪くないと思えるだけの、余裕があった。

 だから私は「それ」と出会っても平静を保っていられた。

 

『久しぶりだな。錠前サオリ』

「……シェムハザ、だったか?」

 

 ベアトリーチェが綿密に作り上げていたであろう計画を単独で崩しかけたイレギュラー。私に死の恐怖と絶望を一度刻み付けた、異常存在。

 普段は先生の近くで掃除ロボットをしているらしいが、シェムハザと名乗る機体を操っている奴は容赦がなかった。それこそ、先生が止めていなければ私はあそこで……ヘイローを破壊されていただろう。

 

「なんの用だ?」

 

 先生の傍にいると言うのなら、こいつも既にエデン条約が立ち消えた後にアリウスがどうなったか。そして現在の私の状況ぐらいは把握しているだろう。今となっては指名手配されているだけの根無し草である私に、この機械がなんの用で私の元を訪れたのか理解できない。

 戦闘の意思は見せていないが、いつでも交戦できるように警戒はしておくべきだろう。

 

『……すまなかった』

「なに?」

『私はあの時、確かに君を殺そうとした。だから謝りに来た』

 

 これは……予想外の言葉だ。もしかしたら、こいつもまた先生に何かを言われて私の元へとやってきたのかもしれない。

 

『それだけだ。邪魔をした』

「……待て」

 

 言いたいことだけを言ってさっさと背中を向けたシェムハザに、咄嗟に声を掛けた。ただの直観だが……こいつは少し前の私のように、誰にも相談できず、1人で抱え込んで潰れてしまいそうになっているように見える。なんとなく……同類な気がする。ただの直感でしかないが、私にとってこの直感はこれまで私を生き永らえさせてきた重要な指針だ。

 

「なにかあったら、先生に相談するといい」

『……悩みの内容が先生に関することでも、か?』

「それは……どうすればいいんだ?」

『ふっ。意地悪を言ったな……ブラックマーケットの卑怯な大人には気を付けるんだな』

「心得た」

 

 今度こそ、シェムハザは私の前から去っていった。

 それにしても……機械の身体であるのに、なんというか感情が分かり易い相手だった。もう少し話ができていたら……奴のことがもっとわかったのだろうか。

 あの孤独の先に、どんな結論を見つけるのだろう。

 


 

 私が兵器でなかったら……なんなのだろうか。

 前世は人間だった。それは間違いないだろう……だってこんなに鮮明に記憶を持っているんだから。だが……今の私はなんなのだろうか。自分がAIなのだとしたら、私はなんのために思考しているのだろうか。そこに……自分の意思は介在しているのだろうか。わからない……先生の悲しそうな顔だけが頭に浮かぶ。

 

 クリファーは……私の手足だ。ならば私が持っているのは……醜い悪徳ばかりと言う訳だ。既に、私はシェリダー(拒絶)アディシェス(無感動)を持って先生へと危害を加えかけている。

 

 待て。

 私が先生の味方であることと、先生を傷つけないことは同じにならないのではないか?

 つまり……私が先生を傷つけないように振る舞うだけで、先生は私との関係を疑われて空崎ヒナに拘束されたように不利を被ると言うのならば……私が先生を守ることはやめてしまおう。

 大丈夫だ……先生には、生徒たちが付いている。私のような悪徳を司る手足を持つ悪魔なんぞには……負けない筈だ。




あれぇ?
おかしいね(ギャグ)誰もいないね?
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