そんなこと言われても私はただのお釣り計算AIですから 作:デ カ マ ク ラ ト ン
結末決まったから筆がよくすすむゾ
普段から本業で小説ばっかり書いてるから(筆は)MUR早いッスね!
ルシフェルの様子がおかしい。そのことに気が付いたのは、つい最近のことだった。エデン条約でのとんでもない出来事に決着がつき、少し後に起こったミレニアムサイエンススクールでの「無名の神々の王女」にまつわる問題を解決した少し後だった。
普段のルシフェルは、言動が全て怪しくてイマイチ信用しきれないような気もするのに、妙に人間臭くて面白い性格をしていた。なんだかんだと言いながら仕事は絶対に手伝ってくれるし、生徒たちがシャーレの部室に訪れている時には普通のロボットとして振る舞ってくれている。間違いなく私とルシフェルは、契約なんてなくても心を通わせていた。
なのに、エデン条約の後から少しずつ距離が離れていった。
無意識に日常から非日常へと変わっていく部分に焦燥感を持っていたけど、ゲーム開発部での問題を解決した直後、ルシフェルはシャーレの部室から姿を消した。
「“ユウカ”」
「先生? どうしました?」
「“……ルシフェルは?”」
「ルシフェルって……あの多目的用ロボットですか? 見当たりませんけど……先生がどこかに移動させたんじゃないですか?」
「“……なにか、嫌な予感がする”」
拭いきれない焦燥感と、致命的な間違いを犯してしまったという謎の確信を持つ私の様子を見て、ユウカはただごとではないと思ったのか手に持っていた書類を机に置いてこちらへと近寄ってきた。
「そんなに大事にされていたんですか? なら、発信機かなにか──」
「先生、私はここだ」
ユウカの言葉を遮るように私に向けられた声は、聞いたこともない肉声なのに、何故か聞き慣れたことのある声のように聞こえて反射的に振り向くと、そこには長身で黒曜石のように吸い込まれるほど黒い瞳を瞬かせている女子生徒が一人。連邦生徒会の制服を黒く染めたような衣装を見て、ユウカは明らかに警戒度を強めた。
「そんな制服の学校は見たことが無いわ。それに、どうやってシャーレに入ったの?」
「全てハッキングした。今更その端末で何かをしようとしても無駄だと言うことだけは親切に告げておこう、早瀬ユウカ」
「ハッキング? さっきまで普通に触れられていたのに、一瞬でそんなことが──」
「“できるよ。できるから、ここにいるんだよね……ルシフェル”」
いつもの掃除ロボットじゃない。前に見かけた戦闘用のオートマトンでもない姿……私にとって未知の姿であるはずなのに、すぐに
「よくわかったな先生。しかし今の私はルシフェルではない……あの身体は捨ててきた」
「“捨てて来たって……元々勝手に拾ってきたものでしょ?”」
「違いない。流石は先生だな」
朗らかに笑いながら喋る私と彼女を前にして、ユウカは口を挟むこともできずに困惑しているみたいだけど、今は構ってあげられそうにない。
「“ふぅ…………君は、選んだんだね”」
「そうだ。私は貴女の味方であり続けることを約束するが……それ以外には興味が無い」
いつだって、彼女は私のことを優先してくれた。ふざけあったり、くだらない喧嘩をしたり、一緒にゲームをしたり、書類だって一緒に片付けた。けれど……私たちの道は分かれてしまった。
「我が名は
「なっ!?」
「“それが、君の結論”」
「そうだ先生。キヴォトスを守りたければ抗って見せろ」
それだけを言ってルシフェル……キムラヌートは背を向けてシャーレの部室から歩いて出て行った。
その背中に声を掛けてあげたかったのに、私は……なにも言えなかった。
どうしてこうなった。
私は全ての責任を負って生徒会長を辞任し、そのまま行方を眩ませているつもりだったのに……あっさりとヒマリに見つかって引きずられてきた。挙句の果て、連行された場所は矯正局ではなく連邦生徒会の一室。
「“集まってくれてありがとう”」
「……先生の頼みだもの。気にしないで」
「フン、何故私がこの女と……」
「……」
「ナギちゃん、ちょっと紅茶飲むペース早くない?」
「放っておいてやれミカ。ナギサの紅茶を飲むペースが早いのは緊張している証拠だ」
「……私は、何故ここにいるのかしら?」
「あら? 当事者の一人だからですよ?」
「はぁ……纏まりが無さそうですね」
先生の呼びかけによって集まったメンバーらしいけど。
ゲヘナ学園からは風紀委員長の空崎ヒナと
トリニティ総合学園からはティーパーティーの桐藤ナギサ、百合園セイア、聖園ミカ……そしてシスターフッドのトップである歌住サクラコ、正義実現委員会のトップ剣先ツルギ、救護騎士団のトップ蒼森ミネ。
ミレニアムサイエンススクールからはセミナーの会長である私と……特異現象捜査部の部長である明星ヒマリ。
それに……連邦生徒会長代行である七神リンまでいる。
「で、なんの用で私を引きずり出したのかしら」
最近、アリスの件で色々と考えることができてしまったと言うのに、何故こんな……奇怪な集まりに呼ばれているのか一切理解できない。
「“……”」
「ことの始まりはこれです」
先生が押し黙り、代わりに七神リンがモニターの映し出したものは……
「犯行予告、かしら?」
「少し違います。これは……」
「“キヴォトスへの宣戦布告だよ”」
宣戦布告。
その言葉を聞いて、この場にいる各学園のトップたち全員が固まった。無論私も例外ではなく、たったの数文字である「宣戦布告」という言葉の意味を咀嚼するのに幾分か時間がかかった。
「あ、いては?」
「“私の……友達だよ”」
百合園セイアが辛うじてといった様子で口から零した疑問に、シャーレの先生は目を伏せながら友達だと告げた。酷く、困惑している。私は宣戦布告という文言に、そして先生と心理的な距離が近かった者は、どちらかと言うと、友達という文言に困惑しているよう。
「相手はクリフォトと名乗る人工知能です。情報によると、クリファーという10の悪徳をもじった機械生命体や黒色のオートマトン集団「グリゴリ」を率いる敵です。戦力としては……学園一つを簡単に滅ぼすほどかと」
「グリゴリ? 待って、それは先生の……」
「“振られてしまったんだ”」
空崎ヒナが困惑したように先生へと視線を向けたが、先生は少し泣きそうな顔で首を振った。
「クリフォトは既に全ての学園都市の内部セキュリティに侵入しているとも言っています。しかし……」
「私の方でも確認しましたが、痕跡一つすら存在しません。ですから……本当に侵入しているのかどうかも、わからず」
「ヒマリが、追跡できない?」
待って欲しい。
ヒマリが痕跡を見つけられない相手など、このキヴォトスにおいて存在するとは到底……いた。
「デカグラマトン……」
「リオ、私も同じことを考えていました」
そうだ。ヒマリの手でも一切理解することができず、連邦生徒会ですら太刀打ちすることができないであろうクリフォトと名乗るAIの正体は……デカグラマトンに違いないだろう。
「“詳しい話を、聞かせてくれないかな?”」
真剣な表情をした先生に見つめられて、私は大きな溜息を吐いた。
「よろしかったのですか?」
「なにが?」
曖昧な言葉で喋りやがって。これだから嫌いなんだ……
「貴方は先生に希望を見出して──」
「いたさ。だが、その先にあったのは
これは自己犠牲ではない。元々、必要なことだったんだ。デカグラマトンという存在が、キヴォトスを脅かしている中、生徒たちが先生の指示に従って肩を並べることで、結束力を強める。そうして修羅場を潜っていくことで……先生たちは
「貴方の自己証明は、いささか強引にすぎますね。いや……むしろそうあるべきだと自分で定義づけているようにも見えますよ」
「そうだ。私は元々ただのお釣り計算AIでしかなく、自らに自我を持ったから自身を再定義することができるようになっただけだ」
その先にあったのが先生の前に立ちはだかるという未来。私は一切後悔することはないだろう。
「マエストロ、ゴルコンダ、デカルコマニーにも礼を言っておいてくれ。彼らにはキムラヌートの身体を作り出すのに随分と手伝ってもらった……勿論、貴方にも感謝を告げよう黒服」
「おや。貴方は私たちのことを嫌っているものだと思いましたが?」
「嫌っているさ。嫌っているが……それを飲み込むことができるのが大人への一歩だとは思わないか?」
「くくく……大人への一歩では、自分が子供だと言っているようなものですよ」
「自分が大人であるか子供であるかなど、主観的な判断でしかない。私が大人だと思っても、貴方が子供だと思えばあなたの中では子供……非常に曖昧な線引きだ」
そして曖昧なものには価値が無い。
曖昧なものに値段をつけることはできない。曖昧なものとは、それだけで無価値なのだ。
「私は
「その選択を、後悔しないことを祈っておきますよ」
「祈る神などない癖に……よく言う」
物質主義の先に神などという曖昧なものは存在しない。
私は、私の意思でこの役割を遂げて見せる……それだけの話だ。
先生曇らせは……あります!