超昂大戦SS 極限バトル! ルビーVS最強の超昂戦士たち 作:環 藍河
「ああーーっ! うぐっ、ぐふっ…!」
ざしゅっ、ずばっ、びしゅっ!
ルビーが志願した勝ち抜き特訓戦は、初戦のエスカレイヤーを辛くも打ち破り、迎えた第2戦。
しかしその対戦相手は目に見えず、ルビーは一方的に…闇討ちのごとく嬲られる。
リング中央では四方八方から滅多斬りに遭うルビーがただ独り、血しぶきを上げながら踊り続けていた。
「くうっ…、かはっ、はっ…!」
リング隅へ後ずさり、コーナーを背にするルビー。
「はあ…っ、はっ、はっ、はっ…」
警戒する方向を正面と上方に絞り込み、呼吸を整えながら敵を観察する。
(相手はダイビートの、私が知ってる戦士…。
認識阻害の能力を持つ…!)
「ムダだよ。」
(えっ…!?)
がばっ、ぐぎっ、ぎゅううう……!
「あっ、かはあっ、あああ~~っ!」
敵の手がかりを嗅ぎ取ろうと、闘志で前に踏み込み、よろけるように壁から離れた瞬間。
見えぬ敵はルビーの背中に飛び乗り、両脚をルビーの胴に回すと、そのまま両腕でルビーの左肩と首を極め、羽交い締めで落としにかかる。
ぎりっ、ぎしいっ、ぐぐっ…!
「くはあっ! …ぐうう〜〜〜っ!!」
斬撃をこれでもかと食らい、肩も背中も脇腹も…ルビーは全身、至るところ既にずたずただった。
刻まれる猛獣の爪痕に、滲み、吹き出す血飛沫と冷や汗。
そして、続けざまに首に絡みつく追撃は…喉笛を噛みちぎるがごとき、鋭く獰猛な牙のひと噛み。
体中が酸素を求め、心臓を打ち鳴らし…、解き放たれようともがくルビーから、ごっそり体力と精神力をそぎ落とす。
(う…うあ…あっ…!)
ずしゃっ。
びくんっ…どくっ、どくんっ…!
遂にルビーの両膝が、冷たい床に堕ちる。
膝立ちのまま踏みこらえるも、意識が断続的に暗転し、もはや誇りの両脚も闘志を支えられない。
ぐりっ。ぐぎゅっ。ごきっ。
それでも暗殺者は容赦しない。
ルビーがしぶとく振り絞るガッツを残らず断ち切ろうと、ヘッドロックでルビーの頸動脈を締め上げ、抵抗の意思を闇に呑み込む。
肩口から極められたルビーの左腕は、真っ直ぐに天に伸ばされ…神に救いを求めるように掌を開き、震える指を残らず伸ばすも、祈りは空しく。
「お…おえっ…。」
唇の端からは、泡とも涎ともつかぬ苦悶が漏れ出す。歯を食いしばり、耐えに耐えるも…
(あ…ああ〜…っ…)
仰け反らされる胴体で、首は更に斜め上に締め上げられ…視界は真上を仰ぐ。
ルビーの溢れるガッツも、もはやカクテルライトすら呑み込むほど深く吸い込まれ…
(…あっ…。)
遂に、闇に呑まれた。
……
…
「ダメだ…。ルビーさん、落ちてるよお…!」
「むう…これは、ルビーでも…?」
言葉少なに戦士の絶望を代弁するライカ。
もし自分があの戦場にあろうとも、ここからひっくり返すのは困難だと、ルビーの敗色濃厚をうそぶくイノリ。
「…まだだ。」「『えっ…?』」
「あの極限を知るルビーなら…まだ終わらない。終わるものか。」
若い閃忍に訓示するように、スバルが確信を呟く。
……
…
(あ…っ…)
意識と無意識の狭間を、自我がたゆたう。
(まっ…くらだ…。)
一面の夕闇にたたずむように、ふわりと自我がたゆたう。
(強い…なあ…。)
姿も気配も全く見せない暗殺者。
ルビーの背中に飛び乗るほどの、小さな小さなサイレントキラーに翻弄され…まだ序盤のはずのバトル第2戦にして、もはや崖っぷちのルビー。
圧倒的劣勢で、反撃の糸口も掴めない。
それなのに。
(…どうしてだろう。私…!)
締め上げられる苦しさ、為す術もない悔しさ。
でも…それ以上に。
(…楽しい。
私…わくわくしてる…!)
スパーリング相手には恵まれていると、ずっと思っていた。
秘めたパワーで一撃必殺の、リバースやイノリ。
一瞬のスピードで翻弄する、スバルやキリエル。
一挙手一投足が想定外、技巧派のナリカやムツカ。
そして、全てを備えたレジェンドたち…!
みんな、みんな個性豊かで、スパーリングはいつも新鮮な発見がある。この2年半、私だっていっぱい吸収して、いろんなタイプの敵に立ち向かえるようになった。
でも…この子のスタイルは、いつも手合わせする誰とも、全然違う。
身近に、ダイビートに…こんな戦士がいたんだ。
(…負けたく、ないなあ…。)
どんな敵にも怯まない。崖っぷちでも諦めない。
そんな戦士に憧れ…自分もその高みに登りたい。
そんな一心で挑んだ、このエンドレスバトルだから。
そうだ…決めたんだ。
どんなに切り刻まれても。どんなにガッツをへし折られても。
こんな程度じゃ、終われない。
だって、私が目指すゴールは…もっと先なんだから…!!
…
……
「…。…ま…。」
ぐっ。ぐりっ…ぐぐぐぐぐぐうっ…!
(う…うげっ!?)
「まあ…だ、だああああーーーーっ!!」
「ひっ…うわああああーーーっ!!」
ぶおんっ…どごおおおっっ!!
小動物のような暗殺者がその短い左腕で極めた、ルビーの肩口。
上半身のトルソーを両脚と両腕でがっしり固めきった以上、パワーで勝るルビーでも、そうそう外せはしない。
それでもルビーが見つけた突破口。それは…。
締める両腕をこじ開けようとねじ込んできた自分の右腕を…敢えて外す。
首を護る最後の砦を外してでも、腰に左右から絡みつく両脚のロックを外す。
脳が酸素を失い、完全に失神するのが先か。
その前に暗殺者を振りほどけるか。
乾坤一擲のギャンブルは…ルビーのジャックポット。
意識が完全に締める腕に行っていたのも幸いし、蜘蛛絡みは呆気なくその糸をほどかれる。
下半身の支えを失った宙吊りの暗殺者は、ルビーのしなやかな上体の屈伸に吸い込まれ、270度反転しながら一本背負いで強化コンクリートの床に打ち付けられた。
「げぼおおっ!!…くっ…くそおっ…!」
小さな暗殺者は、辛うじて受け身で衝撃をいなし、間合いを離して体勢を整え直す。
どおおおおおっっっ……!!!
「っ!!」
絶体絶命、もうリタイアと思われたルビーの再起に、オーディエンスの誰もが歓喜する。
(…っ、~~~っっ!)
ここでもう一度気配を消せば、引き続き半死半生のルビーに優位を取ったままだったはずの暗殺者は…一瞬だけ激昂し、我を失ったように見えた。
そして…ルビーに正対し、その姿を堂々とさらす。
「もう…隠れる意味は無い。
ルビー…最後くらいは見せてあげるよ。お前の亡骸を冥府の神に捧げる、地獄の番犬の姿を。」
微かに中二病を香らせるその口上に、場の誰もが…不可視のケルベロスの真名を胸に抱く。
一方。
「…うげっ!!」
「どうした、実況ライカさんっ…? …あっ。」
どろっ…。(ううっ…!)
ヘッドロックをかけた右腕も、アームロックの左腕も、彼女の武器…ダガー(?)を握ったままだった。そのまま強引に背負い投げで払い飛ばした代償に、外れた右腕の軌道に入ったルビーの額と左のまぶたは切り裂かれ…視界が紅に染め抜かれる。
「せ…せっかく敵の尻尾を掴んだのにっ…!」
ライカが語るように、ルビーは再び暗殺者の姿を見失う。
「…否。」「へっ?」
「今のルビー殿に、視界の有無は関係ござらん。」
今度はムツカが断じる戦いの趨勢に、ライカは言葉を飲み込み、ルビーを再び見やる。
(…すう〜っ…はあ〜っ…。ふう~っ…。)
地獄の番犬を…不可視の猛犬を、退治する。
ルビーは敢えて自らの視覚を封じるように両眼を綴じ…まぶたを伝う血の滝は流れるままに、気功の極意のように呼吸をやり、戦士の神経を五体に張り巡らせる。
陳腐な駆け引きの優劣で勝負が決まるなら、暗殺者は姑息なフェイントやフェイクでルビーを翻弄したかもしれない。
だが、なぜだろう。暗殺者はそれを良しとせず。
闇討ちが常の暗殺者が、クリーンファイトを求めて放つ一閃は、正面からの真っ向勝負だった。
「闇に溺れろっ、ルビーいい!!」
「やあああああっ!!」
しゅっ…ばきいっ!!
……
…
訪れた結末は、一撃。
「がっ……」
どごおっ! 「ぐふっ!」
ずるずるずる…がくっ。
闇に疾走するツインダガーの斬撃より先に届く、ルビーの真っ直ぐな拳。
音速のカウンターの衝撃に、ゴムまりのように吹き飛ぶ暗殺者は…壁に抱かれてずり落ち、気絶する。
ビィーーーッ!
《そこまで! エスカルビー、2人抜き!》
わああああーーーーーっ!!
(はあっ…はあっ…はあっ…)
…!!
逆転の一撃を打ち込んだルビーだが、ヘッドロックのダメージも加わり、息も絶え絶え。
だが、意識を戻すと…自らの一撃に倒れ伏す仲間に、血の気が引く。
「こもりちゃん!」
…ふらっ。(くっ…!!)
思わず駆け寄ろうと力を込めるも、脚がもつれ、体が意思に追いつかない。
代わりに、いの一番にこもりに寄り添う人影が一つ。
「あっ…!!」
にこっ。
「こもりさんは、私が連れて行きます。ルビーさんは3戦目に集中してください。」
戦いの結末を知っていたかのように、こもりに誰より早く駆け寄っていた、くさりだった。
…ぱちっ。
ぱちっ。ぱちぱちぱち…
…わあああああーーーーーーっっ!!!
ルビーをこんなにも苦しめ、後一歩まで追い込んだこもりの奮闘を、誰もが讃える。
体さえまともに動けば、ルビーさえも小さな勇者を拍手で見送っただろう。
万雷の拍手に包まれてのリングアウトを…こもりだけは知らないまま、くさりの腕の中で眠る。
……
…
ビィーーーッ!
《第3戦、次の戦士…入場よ。》
しゅっ…びたんっ。
「うっ…!」
…ことっ。
「…あ、あれっ? これって…」
こもりを見送り、ステージに一人立ちすくむルビーに投げつけられた小箱。
「止血キット一式よ。使い方は、ルビーなら渡せばわかるってユユエルさんから聞いた。」
「えっ…どうして…?」
リングに上がった3人目の対戦相手は…敵であるルビーに塩を送る。
「ルールなんか知ったこっちゃ無いわ。戦えない敵を倒すのは…」
じゃらっ…がしいっ!!
「このりるか様の正義に反するからよっ!!」
「り…りるかちゃんっ!?」
右手に軍配を、左手に鎖を。
外法天あらため、閃忍リルカがエスカルビーに宣戦布告。
「さあさあさあ、とっとと手当てしなさいよっ!
軍配が見えなくて私に負けたなんて、間抜けな言い訳させないんだからっ!!
そして末代まで語り継ぎなさいっ! このりるか様の慈悲深さと、ネオノロイ党の素晴らしさ!
何より、生まれ変わった閃忍リルカの恐ろしさをおおっ!!」
「…はい?」
「あーーーっはっはっはっ、はあーーあっ!
はああーーっ、はっはっはご…、かぶっ…」
「…あ。」
「ぶふおっ!! げほっ! がぶっ! がはっ…がほおおっ!」
「た…たはは…!」
「わ…わらひゅなーーーっ!! …げほっ。」
…生まれ変わっても、土壇場でかむようだ。
……
…
「…よしっ。りるかちゃん、お待たせ…」
ルビーは止血を終え、りるかはむせ返りを落ち着かせ、あとは開始のブザーを…
ぶんっ。…ごおおおおおおっ!
「…えっ?」
ずどおおおん! どごおおおおおおっ…!
…開始のブザーを待たず、軍配をひと扇ぎ。
ルビーの左半身を掠めたビームは、背後の壁をつんざき…超昂戦士の攻撃にも耐える隔壁を、瓦礫に変える。
「あ…ああっ…!?」
「不意打ちじゃないわ、デモンストレーションよ。
ルビー! こないだのタイマン勝負、まだ決着はついてないっ!
覚悟なさいっ! あんたとあたし、どちらかが倒れるまでの、デスマッチだああーーーっ!」
「えっ…うええええーーっっ!?」
突如申し込まれた果たし合いに当惑しながらも。
…ごくっ。
(一撃でも喰らったら…全部もぎ取られる…!)
止血を終えたばかりのルビーの額を、代わりに冷や汗が伝う。
ルビーは固唾を飲みながら…次戦への覚悟を新たにした。
【続く】
筆者です。第3章をお届けしました。
何とかここまで最新話を毎日更新できております…明日はちとヤバいですが、な…何とか頑張ります(汗)。
「ルビー…私を倒しても、いずれ第2第3のこもりが…!」
「ククク…こもりはケルベロスの中でも最弱…(by姫路)」
…と言うかどうかは謎ですが、こもりを次鋒に(5人対戦とは限りませんけど)選んだトキサダの思惑は今後描きます。
そして中堅りるかの因縁の対決、さらにルビーを待ち受ける敵やいかに。
エスカルビーの戦いは、まだまだ終わらない!
…打ち切りフラグではなくホントに完結まで書きますので、次章にもご期待を賜れば幸いです。