超昂大戦SS 極限バトル! ルビーVS最強の超昂戦士たち 作:環 藍河
苦手な方はご注意ください。
強さって、なんだろう。
(強くなりたい。あの人みたいに強くなって、みんなを護れる自分になりたい。)
…ずっとその思いを胸に、戦ってきた。
私は、強くなんかない。
駆け出しの、ひよっこの…ちょっとADDDが使えるだけのルーキー超昂戦士。
弱さを思い知るたびに、護りたい人たちを護れなくて悲しみに打たれるたびに…届かないその願いに、胸が疼く。
だから、思っていた。
(強くなれば…この痛みも超えられるのかな。)
私のヒーロー、最強の超昂天使に。
追い越せなくても、少しでも追いつこう。
強くなるんだ。
もっと鍛えて、もっと技を磨くんだ。
その道が、みんなを護れる私に繋がる。
…そう信じていた。無邪気に、呑気に。
……
…
「…やります。」
「…本当に、いいんですね。」
「提案した私たちが言うのもおかしいけど…危険よ。」
「繰り返すが、何の保証も無い。例えこの行を成就しても、新たな力を手にする保証も無ければ…命の保証も無い。」
「…それでも。私にこの世界を護れる可能性があるなら…賭けたいんです。」
逡巡を振り切り、決意と覚悟を込め、超昂天使は荒行を志願する。
エスカレイヤーは苦悩していた。
侵略者、滅忍、そして幻魔…残虐で恐ろしく、狡猾に無慈悲に人類に迫る敵軍団。
対する超昂戦士たち、良く言えば新進気鋭の彼女たちは…トキサダ長官の呼びかけに応じて立ち上がってから、まだ一年にも満たない。
そして、経験乏しき戦士達は…新たなる敵・オルタナスタインの登場に戦慄し、自信を喪失した。
ルビーを始め、溢れる決意と共に集った後輩たちだが…ある者は果てなきこの戦いに疲れの色を隠せず、ある者は弱気を振り払えない。
ダイビートを覆う閉塞感は、今にも絶望と化して戦士達を絡め取ろうとしていた。
自分を慕う後輩たちに、希望の光を与えられない。その無力を、エスカレイヤーは自嘲する。
(何がレジェンド戦士よ。異世界の救世主が、聞いて呆れるわ。)
だから…迷いはなかった。
名だたる閃忍すら、ある者は絶命し、ある者は廃人と堕ち、二度と刃を握れなくなったと伝えられる荒行に、エスカレイヤーは本望とばかりに身を投じる。
(この星を…人類を護ろうと命を賭けるみんなに、私が命がけで応えなくてどうするの…!)
……
…
『はああっ!!』「あああああーーーっっ!!」
ばきっ。…どしゃっ。
「かはっ…げえっ…ぶふっ!」
その日。
私の天使は…最強の超昂天使は、特訓に挑んだ。
そして…負けた。
完膚なきまでに。惨めに。
何度も、何度も。これでもかと。
吹き飛ばされ、地べたに倒れても、縛り上げられ。
更に五体を裂かれ、血飛沫を散らし、虚空を泳いで、倒れても引き起こされ。
とどめとばかりに剛剣の峰で打ち据えられ、肩ごと腕を砕かれても、吊り上げられ。
天使は赦されず、更なる裁きを一身に受け…また倒れ、ピンクの戦闘服を自らの血反吐で汚し、地を這いずり続けた。
閃忍たちは鬼の心で、天使を責め続けた。
びしゃーーーんっ!「あううーーっ!」
…ぐしゃっ。
びりっ…びくんっ、びくんっ…!
「あ…かはっ…!」
「立ってください。まだ…終わりません!」
…金色の鬼が、雷撃で天使を鞭打ち。
ずばっ。ざくうっ!「くはあーーっ!!」
…どしゃっ。
どくん…どくっ、どくっ…!
「まだまだあっ! もっとよ! かかって来なさいっ!」
…赤鬼が、蛇牙で四肢を裂き。
「立て。」
ごすっ。べきっ。どすっ。
「ぐううっ…がぐっ! あがあっ!」
…青鬼が、峰打ちの剣戟で両腕を、両脚を打ちのめす。
突っ伏しても、鬼は首根っこを引き摺り上げ、壁にもたれ掛け…
ぐらっ…どしゃっ。
…びくっ、びくんっ、びくん…
「…うっ…うう〜〜っ…!」
真珠の翼はそのたびに羽根を散らし、超昂天使は床にキスを繰り返した。
「巴懸りの行は…この程度では終わらないっ!」
ざしゅっ。ずぱっ。ごぐっ。
「ぐ…うあああああーーー〜〜っ!!」
代わる代わる鬼たちに打ち据えられ、マリオネットの糸が切れたように崩れ落ちる、私の超昂天使。
無間地獄で鎖に縛られ、贖いの鞭に打たれ…また倒れ、伏す。
…ばたっ…!
「エスカレイヤーさああーーーーん!!」
立ちはだかりたい。今すぐにも。
弱い私が…見習い超昂戦士の私なんかが、遥かに強いレジェンド閃忍3人に、敵うはずもない。
ハルカさんの四門五月雨、ナリカさんの紅破旋空、スバルさんの凍牙疾風…。
どれ一つだって防げやしない。一撃だって耐えられそうも無い。
そんな私では、盾にすらなれない。
それでも、エスカレイヤーさんの代わりに喰い殺されたって構わなかった。
…でも…でも。
これは、エスカレイヤーさん自身が求めて臨んだ死闘。
この理不尽な世界で、まだ見ぬ恐るべき敵に勝つために…エスカレイヤーさんが自ら志願し、飛び込んだ修羅の道。
その邪魔をすることは…あの人の意志と覚悟と、決死の挑戦を踏みにじること。
「ああっ…うあああーーーーっ!!」
だから…中途半端にも、私は叫ぶしか無かった。
天使が翻意し…この特訓を諦めて降伏してくれることを請うしか無かった。
「もう…もう、やめてくださいーーっ!!」
(うぶっ…くはっ…!)
「立たないでーーーっ!! もう…、もう、そのまま…!」
(く…ぶっ…、…〜〜〜っ!)
「どうして…どうして…!!」
ふら…っ…、…くらっ。
(…あ〜…っ…)
エスカレイヤーさんは立ち上がるも、瞳は焦点を結ばず、パルシオンを握る右腕は重力に抗えない。
倒れるために立ち上がる。斬られるために這い上がる。
(あ…ああっ…。
…嫌だ…!)
私の希望が、光が…堕ちていく。
「やめてくださいいいーーーっ!」
「もう…もう、ギブアップしてくださいーーーっ!」
「こんなの、なんの意味があるんですかあああっ!」
「嫌だ…こんなの…こんなのってえええっ!!」
「あっ…あああっ、うう…っ、〜〜〜っっ!!」
とっくに何百度と繰り返した、私の嘆願の叫びは…枯れ果てた声がただの嗚咽と化し、人語の意味を成さなくなっても、誰にも聞き入れられることは無かった。
「ハルカさああん!! ナリカさああん!! スバルさああーーーん!!」
三匹の鬼は私の嗚咽に一瞬ためらうも、再び業物を…苦無を、手裏剣を、黒刀を握り。
「エスカレイヤーさああーーーんっ!!」
当のエスカレイヤーさんさえ、耳を貸さず…再び鬼に立ち向かう。
「ひっ…ひぐっ…、ひぐっ…!!」
情けなかった。泣きじゃくるしかできなかった。
超昂戦士なのに、こんな血を血で洗う戦いがあるなんて、知らなかった。
ごすっ。
…ばたっ。…びくんっ、びくんっ…!
「…うぐっ…うえっ、えぐっ…!」
地獄絵図に心を切り刻まれ、私は…超昂戦士エスカ・ルビーは…二人分の絶望に繋がれ、泣き続けた。
…
……でも。
絶対に、目だけは背けなかった。
約束したんだ。
(この修業…ルビーには、最後まで見てほしいんだ。
どんなに倒されても、どんなにカッコ悪くても。
私の戦いを…誰よりも熱く見守ってくれるあなただから。)
涙で霞む視界を、グローブで拭う一瞬さえ惜しんで、エスカレイヤーさんを見続けた。
壁に叩きつけられても、吹き飛ばされ宙を泳いでも、おぼつかない足を刈り取られ、潰されても。
精魂尽き果てた限界の中で、私の超昂天使は何かを見つけようと、あがき、もがき、立ち上がる。
だから。
絶対、見逃さない。この目に焼き付けるんだ。
涙は垂れるまま頬を伝う。
体は震え、奥歯はガチガチ鳴り止まない。
握る両拳は掌に食い込み、ちぎれそう。
それでも、瞳だけは戦士を追い続けた。
……
…
「きゃあああーーーっ!」
…どさっ。
(えっ…!?)
旗色が、変わった。
倒れても倒れても立ち上がった天使は…無の境地に降り立った。
何度も崩れ落ちた両脚で、前へ。
今も光を失ったままの瞳で、羅刹の赤鬼を見据え。
そして、疼く右腕で…痛みをかみ殺すように、剣を振るった。
倒しても、倒しても、終わらない死闘。
いつしか疲弊しきっていたのは、エスカレイヤーさんだけではなかった。
ずたぼろの超昂戦士が最小の所作で放つ、最短の太刀筋は…高速回転する蛇咬の刃をかい潜り、逆に蛇の主を斬りつける。
攻めていたはずのナリカさんは虚を突かれ、カウンターアタックで意識を断たれた。
「くっ…!」
しゅっ。
「がはあっ…!!」…どさっ。
パルシオンの一閃がさらに、スバルさんの剣戟を凌駕した。
剣術を知らない私でも、見えた。
スバルさんの呼吸を読んだエスカレイヤーさんは、その間隙を縫った。
呼気が吸気に、吸気が呼気に。
その潮目に放った電光石火のリボンは、蒼き剣士が太刀を止めた刹那を襲う。
ほんの一瞬。まばたきすら許されないほどの瞬間を支配したエスカレイヤーさんは、スバルさんを一太刀で仕留めた。
「ならばっ!」
しゅっ…ざくっ!
ハルカさんの投擲。苦無を両肩に撃ち込み…
「はああーーっ!!」
ぴしゃあああああんっ!!
「うあああーーーーーっっ!!!」
即座に結んだ印が、避雷針にかつてない雷撃を落とす。
「ああああーーーーっ!! うあっ…! がああっ…!」
パルシオンが宙に舞い、やがてコンクリートに突き刺さる。
利き腕も左腕も潰され、武器を握る力を完全に奪われ、地を転がり悶え抜く。
「ひっ…!!」
直立する剣を、もはや抜き取って振るうこともできない。
這いつくばり、激痛に震えるエスカレイヤーさん。
その姿が私には…絶命し、パルシオンを墓標に亡骸を横たえる姿に映った。
「御免っ!」
ハルカさんは躊躇いを振り切り、共に敵に立ち向かうレジェンドに、とどめを刺しに跳躍する。
(だ…ダメえええーーーーっっ!!)
攻める剣も握れず、防ぐ腕も奪われ。
エスカレイヤーさんが、本当に死んじゃう…!!
私の悲鳴は、枯れ果てた喉で響くことは無く…2人を止める力は無かった。
……
…
ざしゅっ。
「…そ…そんな…っ…!」
…ばたっ。
…倒れたのは、金色の閃忍。
倒した戦士は…両腕をもぎ取られ、なお立ち上がったエスカレイヤーさんは。
握れないパルシオンの柄を…その口に咥え、歯で噛み絞めて。
最後の力で上体全部を振るい、ハルカさんを左脇腹から右肩へ…袈裟懸けに斬ってしまった。
永遠のような死闘が、果てた。
最後に鬼たちに一矢報いた天使は、満ち足りたように微笑み、崩れ落ちる。
仏の心を封じ、悪鬼羅刹と化してエスカレイヤーさんを打ちのめした3人の閃忍も、今はリングに横たわる。
4人の最強戦士が…地球を、人類を護る伝説の戦士が。私たち超昂戦士の希望の源が。
死闘の果てに精根尽き果て、深手を負い、誰も彼も倒れ、呻き、苦悶する。
(お…終わった…の?)
ここは…地獄だ。絶望の最果てだ。
私には到底及ばない強さを秘めた超昂戦士たちの…死闘の結末。
私たちがディストバーンに、オルタナスタインに敗れたなら…きっとこの地獄絵図が再現される。
絶望に心を凍てつかせる私に…瀕死の天使は一瞬だけ、コンクリートに頬を寄せながら、私に微笑んだ。
その笑顔に心奪われた私は…弾むように駆け出し、翼をもがれた天使に駆け寄った。
「…ルビー…」
「エスカ…レイヤー、さん…。」
51戦、12勝39敗。
きっちり13度ずつ、天使は殺された。
それでも最後は、悪鬼羅刹の閃忍たちに一矢報いた。
「うえええええーーーん!
…わああああーーーんっ!」
こんな軽いボディで、優しい吐息と甘い香りで。
抱き寄せた先輩は…荒行を成就してしまった。
私なんか敵わない、絶対の、最強の超昂天使が…こんなにずたぼろになって。
「もう…ルビーは…また、泣く…。」
「エ…エスカレイヤー、さんの…ひぐっ…、
あなたのっ、せいです…えぐっ、ぐすっ…!」
救護室に4人を運ぶことも思いつかず…私は泣きはらした。
「あああああーーーーーーん!」
……
…
…どくん。
どくんっ、どくんっ。
…どどっどどっどくっどくっどくんどくん…!
その夜。
泣き疲れて眠った私は、夜更けに自分の鼓動で目を覚ました。
ADDDが全速回転するかのように、1人きりの鼓動が、熱く、激しく高鳴っていた。
じゃあああ…っ…きゅっ。
…ごくっ、ごくっ…ことん。
火照る体と心をコップの水で落ち着けて、深呼吸を一つ。
(…ありがとうございます。
エスカレイヤーさん。
そして…ハルカさん、ナリカさん、スバルさん…!)
どんなに苦しくても、どんなに劣勢でも、何度打たれても。
幾度も無様に倒れ、散々床を這いつくばっても…私のヒーローは、最後まで逃げも諦めもしなかった。敗北必至でも這い上がり、本当に勝利をもぎ取った。
…私は、何を見ていたんだろう。
知らなかったんだ。エスカレイヤーさんの、本当の強さを。
強いから、戦うんじゃない。
勝てるから、悲しみに立ち向かえるんじゃない。
逆だ。
負けて、倒されて、それでも立ち上がるから…だからエスカレイヤーさんは強いんだ。
…私にも、いつかできるのかな。
…違う。
できるかどうか、じゃない。
もしも、いつか私が強くなれたら。
エスカレイヤーさんの求めた、極限の世界の意味が本当にわかるくらい、強くなれたら。
私も…見つけたい。
限界の先にある、強さを。
……
…
時は流れ、天使の強さを胸に刻んだ紅蓮の超昂戦士は…あの日の涙に答えを出そうと、試練に挑む。
五体を砕かれ、必勝の決意をも鎖に繋がれ、絶望の最果てで倒れ伏すエスカ・ルビー。
果たして、彼女がその手に掴み取るのは、やはり絶望か、それとも希望か…?
筆者です。大変長らくお待たせしました。
ルビーVSサファイア戦の途中ですが、エピソード・ゼロをお届けします。
次回は本戦に復帰します。ルビーの極限バトル、ご期待ください&少々またお時間かかりますことをご容赦ください。