超昂大戦SS 極限バトル! ルビーVS最強の超昂戦士たち 作:環 藍河
ダイビート創成期、エスカレイヤーが志願した特訓に端を発し、そして今、エスカ・ルビーが形を変えて挑むエンドレス・バトル。
万事休すと思われた絶望の底から、ルビーは無の境地を掴み、再起する。
一方、立ちはだかるサファイアも当惑を振り切り、決意新たに勝負を挑む。
……
…
「はあああーーーーっ!!」「……っ!」
しゅっ! ずざっ。
ばしいっ…すっ…
駆け抜けるサファイアの右ストレートを、腕をかばう素振りも見せず、そのまま左に躱すルビー。
ならばとすれ違いざまに踏みとどまり、急制動から反動を乗せたバックステップに、引いた左肘でルビーを背後から急襲。
ウィークポイントの左腕を狙うも…
どすっ!
「がはああっ!?」
ルビーも負けじと、狙いの左腕にボディ全部のウェイトと、脚力を全て乗せたカウンターアタックを繰り出す。
先刻のお返し、お株を奪うルビーの当て身で…今度はサファイアが吹き飛ばされる。
(バカなっ…左腕はもう…!)
再び空を泳ぎ、叩きつけられ床を跳ねつつも、受け身を取るサファイア。
ただでさえ、既に第2戦でこもりに、第3戦でりるかに痛めつけられ、この一戦でも酷使されたルビーの左腕。
もうまともに動くはずも無く、ましてや痛みは筆舌尽くしがたい…並外れた超昂戦士だってそのまま気絶しかねないレベルで今もルビーを苛んでいるはず。
そんな左腕で繰り出す当て身など…D2エナジーをしたたか乗せたインパクトで、サファイアごと自分のウィークポイントをプレス機に掛けるような自殺行為。
(ルビーは…痛覚を振り切ったとでもいうのか…?)
…はっ。
「……ぐうう~~っ…!!」
踏みとどまるルビーの顔は青ざめ、自ら潰した左腕の痛みをこらえていた。
「…ルビー…っ!!」
サファイアはその意味を悟り、そして戦慄する。
(捨て身…かっ…!!)
今のルビーにとっては、五体すべてが抜き身の刃。もはや、どこが痛むとか、どこをかばって戦うかなど、全く考えていない。
還ってくる激痛など考えない。折れようが砕けようが構うものか。
ただ、手持ちの武器を眼の前の敵に振り下ろし、斬りかかり、貫くことだけを考えている…!
……
…
「…ライカ。野生の獣にとって、最も怖ろしい敵の武器とは何か、知っているか。」
「ムツカ様? …牙とか爪とか素早さとか、単純な奴じゃ…ないんですよね。」
「然り。牙や爪が鋭いだけなら、躱しつつ仕留めればよい。俊足とて、その脚が止まるまで耐えきれば、いかようにも料理できる。
一つや二つの武器だけ強くとも、さほど怖れるには及ばぬ。」
…ごくっ。
ライカの背筋が自然に伸びる。これはムツカのルビーへの賛辞。そして若き閃忍への訓示。
「真に怖るるは、その武器にあらず。
斬っても裂いても、殴っても咬み千切っても、なお捨て身で襲いかかってくる…獣の本能と執念よ。」
「…うわあ〜…。」
「むう…今のルビーは不死身かゾンビ、はたまた鈍感無痛覚…?」
(イノリ…それルビーさんに直で言っちゃダメなヤツだ…!)
「ましてや、サファイア殿はブリザード・エスカレーションに断絶の封印…ルビー殿を完膚なきまでに打ちのめそうと、自身の最大最強の武器を惜しみなく叩き込んだ。
然るにルビー殿はなお再起し、サファイア殿を倒そうと喉笛に噛みつく勢い。
全てを出し尽くしても倒せないルビー殿。サファイア殿にしてみれば…」
「自分の武器をすべて粉砕されたも同然、ですね…!」
…
……
(…ぐううっ…!!)
姿勢を立て直すも、サファイアは攻めあぐね…いや、今やむしろルビーに気圧されていた。
つい先ほどまでは、ルビーをいかに苦しみなく倒すか、一瞬で引導を渡すか…そんなことばかり思考していた。
甘かった。愚かだった。
今、サファイアは己の慢心を…ルビーへの侮りを恥じ入る。
いま対峙し、仕合っているエスカ・ルビーは…いつだって自分の常識も理解も超えてきた。
限界に跳ね返されるたびに進化し、最後には突破してきた。
そんなルビーを容易く仕留めようなどとは、何と烏滸がましい。何といううぬ惚れ…!
(…ならば。)
抜き身の刃に勝つ術は、ただ一つ。
こちらも刃となるより、他に無し。
砕けたって構わない。届かなくとも、いっそ本望。
エスカ・ルビー。私の最高の相棒にして、最強の超昂戦士。
そして今は…この身に宿す心・技・体の全てをもって打ち倒すべき好敵手…!
すくっ。
「…はあああ…っ!」
しゅおおお……っ…!
蒼き戦士は覚悟とともに直立し、左手首のパルシオンにありったけのエナジーを流す。
練り上げた気功のように、変換されたエナジーはサファイアの頭頂から正中、丹田から会陰までチャクラを貫く。
「ちょ…ヒビっさあんっ!
なっ…何やってんスかああーーーっ!?」
途方もない量の気をチャクラから身体すみずみに巡らせるサファイアに、ライカは狼狽する。
あれではエナジーは払底し、次の攻撃のあとはブリザード・エスカレーションはおろか、ビームクナイの一本すら撃てないだろう。
「サファイア…持ってる全部で、ルビーをぶっ叩く気だ…!」
ぎゃぎぎいいい…がぎんっ…!!
パワーを放つパルシオンすら、蒼光に撃ち震え、我が身を何一つ省みない主を何としても思い留まらせようと、ノイズ混じりに限界を叫ぶ。
「ぐっ…がああっ…!!」
その諫言を振り切り、サファイアは次の一撃に全てを賭す。
しゅっ…ぶおっ。
(…へっ?)
輝きが揺らいだ瞬間。
ごんっ。「ふぐうっ!」
ぐしゃっ…どごおおおおおおっっっ!!!
【《『!!っ?』》】
イノリもライカも、ギャラリーの戦士たちも、一瞬の理解が追いつかなかった。
大海原をも一刀両断、雷撃を存分に蓄えて湧き上がった青嵐が、紅蓮の炎をぶち抜いた。
溜めに溜めた渾身のエナジーで放つ、サファイアの真っ直ぐな右の拳に、ルビーはしたたか打ち据えられ…ゴム人形のように弾け飛ぶ。
そして…再び叩きつけられた壁に亀裂を走らせ、ルビーは大の字で磔となった。
「はああーーーっっ!!」
【《『なあっ!?』》】
オーバーチャージの拳を撃ち抜いた余韻さえ残さず、サファイアが飛び込む。
だっ…ががががががっ!
追撃は拳に蹴りに、膝に肘に…上中下段、右に左に。サファイアの持つ基本攻撃全てを余さず披露するかのように、連撃が止まらない。
「あああああーーーーっっ!!」
「ぶっ…がはっ、あぐっ…ぐぶっ…」
溜めに溜めたD2エナジーの全てを、その拳と脚でルビーに撃ち込み続けるサファイア。
レオタードにめり込むボディブロー。
地の底から突き刺さるハイキック。
頭を首から吹き飛ばすかのようなアッパー。
ルビーは磔のまま、顎に脇腹にみぞおちに…サファイアの一撃一撃を躰の芯までねじ込まれる。
ぴしっ…ばきっ…べきべきっ…!
超昂戦士のボディでもいなし切れない衝撃が、一撃ごとにルビーの背中をさらに壁にめり込ませ、亀裂が割れ目を拡げて行く。
「ひっ…ひでええーーっ!?」
サファイアらしからぬ、後先考えぬ力技。
常にクールなヒビキを知るからこそ、素っ頓狂に驚愕を叫ぶライカ。
「おお…サファイアのフィニッシュコンボ…!」
「…否、まだだ!」
がくっ。【《『!!っ?』》】
「がっ…!
ぐあああ〜〜っ…、〜〜〜っ…っっ!!」
崩れ落ちたのはルビーではなかった。
トキサダから注がれたエナジーを根こそぎ注ぎきって撃ち放った連撃だが…。
サファイアの腕も脚も、背筋も腹筋も…その一撃を支える五体が耐えきれなかった。
今度はサファイアが右腕を自ら壊し…うずくまって歯を食いしばる。
「…至極、当然か。サファイア殿も、こうなる覚悟で放った拳でござる。」
「おお…脳筋全力ぶん殴り…!」
「ル…ルビーさんのバカガッツが、ヒビっさんに感染ったあーーーっ!?」
肉を切らせて骨を断つ、戦巧者のエスカ・サファイアは、もはやそこに無かった。
サファイアのらしからぬ捨て身の闘魂に、血湧き肉躍らせるイノリと、頭を抱え仰け反るライカ。
「…だが、ルビー殿も…!」
ずるっ…ずずっ…!
先にノックアウトを確かめた時と同様、磔の姿のまま壁をずり落ちるルビー。
(ああっ…もうムリっ…!)
ライカが目を背ける。
もう、このまま崩れ落ちるばかり…。
…しゅたっ…ごずっ。「ぶふっ!!」
【《『ひいいいいっ!?!』》】
どごおおおおおっっっ!!!
ルビーは怯まない。
落ちた大地を即座に蹴り飛ばし、そのままうずくまるサファイアを右脚で一蹴。
シュートの瞬間にパルシオンから起爆するエナジーと、鍛え抜かれた全身のバネを重ねたハイキックに、今度は青嵐が斬り裂かれ、対面の壁に十字を刻む。
「あ…ああああああーーーーっっ!!」
「やあああああーーーーーっっ!!」
だっ…ごっ! ぼぐっ! どぼっ! がづっ!!
(あ…ああ…っ…!)
サファイアが吠え、ルビーが呼応する。
咆吼を皮切りに、紅蓮と青嵐が爆ぜた。
互いに壊した片腕さえも、二人の闘志を止められない。
拳撃に怯まない。蹴撃に退かない。
躱してなんかいられない。防ぐのももどかしい。
底力と底力、自分が尽き果てるか、相手が燃え尽きるか。
……
…
超昂戦士が全身全霊で放つ、拳と蹴撃だけの最終決戦。
ただの喧嘩、ただの殴り合いと紙一重のはずの、不格好な攻防戦。
それなのに、そのはずなのに…見守る超昂戦士たちは誰一人として目を離さない。
「ルビー…」「ルビー様…」「ルビーさんっ…!!」
「…サファイアも…!」「…ああ。」
先ほどまで思いの丈をそれぞれに叫び続けた戦士たちが、今は言葉を忘れ、ただ一挙手一投足を見逃すまいと息を呑む。
アステライズフォームを擁し、侵略者にも幻魔王にもノロイにも…強大な敵に怯まず立ち向かい、打ち倒してきた、今やレジェンドに比肩する超昂戦士、エスカ・ルビー。
そのルビーを陰に日向に支え、共に数多の人類の敵を打ち砕いてきたエスカ・サファイア。
今ここにトパーズとアメイズはいないものの、エスカチームは人類の…そしてダイビート全ての超昂戦士たちの希望、そして憧れ。
だが、その強さはどこか異次元の領域で…。
いつか自らもあの高みに至るんだと胸を焦がしながらも…超昂戦士たちは潜在意識の奥で、高すぎる目標に一抹の絶望を抱いていた。
ルビーやサファイアは、自分とは違う存在。
あの境地に至るなど、土台ムリな話なのだと。
だが、今は逆に打ち砕かれる。
絶体絶命で瀕死の崖っぷちに追い詰められ、なおも立ち上がるルビーとサファイア。
あんなに強い2人がその全てを振り絞り、互いを倒そうと死にものぐるいで立ち上がる。
何度も倒され、何度も潰され、汗も吹き尽くし、血反吐も枯れ果て、冷たい床に幾度崩れ落ちようとも…勝利と、その先の強さを掴み取るんだと、なおも這い上がる。
「メイ…」「アイちゃん…」
国防陸軍の気鋭のツインズが。
「ちきしょう…熱いじゃねえか…!」
ブレイクボール戦士が。
「…Marvelous…!」「…すげえ…」
「…マリナ?」「…みんな…。」
ビートアイドルたちも、胸を高鳴らせて。
「琴音さま…」「雪乃…!」
少し前まで籠の中の小鳥だった令嬢が、使用人が。
「カノちゃん…!」「…サトリ…!」
天下一お嬢様を掴み取った2人さえも。
胸の鼓動が止まらない。何かせずにはいられない。
私だって、まだ…限界を出しきっていない。
自分だって、もっと強くなれる…!
…
……
運命に立ち会う瞬間は今か今かと、観戦席の戦士達は立ち尽くす。
張り詰めた空気に誰もが凍てつき、捧げるは敬虔な祈り。
だが、永遠の悠久とも錯覚する時間が、遂に終わりを告げる。
「があああああっっ!!」「だあああああっっ!!!」
……
…
ばきっ……どさっ。
不惜身命の蒼き拳が、ルビーの顎を撃ち抜いた。
勇猛果敢の紅き脚も、サファイアの水月を貫き通した。
闘志も、希望も、精も根も、エナジーも。
持てる力を最後の一滴まで使い果たした2人は。
女神の胸に抱かれ、祝福を浴びるように…満ち足りた笑顔で崩れ落ちた。
ビィーーーッ!
《両者、ノックダウン!!》
正確無比のAIレフェリーさえも、勝者を判定できなかった。
そして、それでも続くはずだったエンドレスバトルは…。
「【《『ルビー(さんっ)〔様あっ〕!!!』》】」
決壊したダムの洪水のように飛び込む、数多の超昂戦士たちに遮られてしまった。
「バカあっ! エスカルビーの、大バカああーーーっ!! これくらいでお姉さまに並んだと思ったら大間違いなんだからああっ!!」
「ファッキン…ファッキン・グレエエエイトォォっ!! ですわあああっ!!! ルビー様あああっっ!」
「ルビーさん…私…私っ…今日の貴女を絶対忘れません…!」
「あああーーーーっ! 今すぐ走りてえっ! 夕陽に向かってダッシュ100本行きてえっ!!」
「全く…2人ともとんでもないガッツだ。あたし、明日から先輩ヅラできないよお…!」
「あら? アイちゃん、私たちだってもっと強くなりますよ? …絶対に!」
「Bravo…ブラボーです、ルビーさん…サファイアさん…!
うう…この気持ちを描ききるボキャブラリーが欲しいのに…!」
「アキエ…今日の思い、絶対私たちの歌にしよう! 私も絶対、歌いきる…!」
駆け寄った戦士たちが、2人の敢闘を讃え、喩えようもない思いを代わる代わる叫び続け…
…はっ。
「そ…それより医務室だああーーっっ!!」
【《『あああーーっ!?!』》】
誰ともなく冷静を取り戻し、運び込まれた2台の担架がバトルの幕切れを告げた。
筆者です。大変な難産となりました第7章をお届けします。
書いても書いても、もっと熱くできるんじゃないか、まだ深く濃く描けるんじゃないか…底なしの疑心暗鬼スパイラルで、ぐつぐつ煮込んでいるうちに時間が過ぎ…2週間弱のお待たせとなりました。申し訳ございません。
…あ、このシリーズはバトル部分は完結ですが、アフターバトルの感想戦を次に1話投稿します。もうちょっとだけ続くんじゃ。