気付いたら邪教の教祖でした。辞めたい。   作:雷来でんぐり返し

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長くなったので二分します。ごめんね。でも二分されたもう片方が投稿されるとは限らない。つまり続きません。

追記
なんか滅茶苦茶丁寧に誤字報告してくれた方が居たので、今まで誤字報告してくれた方も含めて改めてお礼を言いたいと思います。本当にありがとうございます。作者は書き終わったらそのまま勢いで投稿してるので誤字が多いのですが、多分これからも同じ過ちを繰り返すので今後も不審な点、誤字脱字を見つけたら報告をお願いします。誤字は続きます。


騎士団長の憂鬱 

 イモンベルトは文明史上最大の都である。そう語る人間も居る程、イモンベルトの発展と盛り上がりは凄まじかった。

 

 まず有名なのが魔道器具の開発及び普及に対し真摯に対応してきた歴史だろう。魔導器具は今となってはどの家庭にも最低一台はある便利な家庭用具だが、その開発は近年行われたものである。

 

 歴史の浅い魔導器具がとてつもない発展を遂げたのには理由があった。イモンベルトである。

 

 多大な研究資金を魔導研究に注ぎ、さらには物流や広報にも力を入れて都の人々にも広く流通させた。

 

 その結果、イモンベルトの街は至る所に魔導器具が使用される近代国家の様なものへと姿を変えていた。

 

 この活躍と都での便利で楽しい生活が国内全体に伝播。以降イモンベルトは国内随一の都市に変貌を遂げた。

 

 そんなイモンベルトでも、否、だからこそと言うべきか。

 

 大いなる発展には多くの権力者の思想が絡まり、そうなればそこに多大な利潤や金銭が発生する。

 

 当然このことに目をつける者達も大量に居た。違法取引や人身の売買、幼子の誘拐など、発展と共に犯罪の数は増加した。

 

 それらの違法者を見逃すことは、イモンベルトでは許されなかった。

 

 イモンベルトは土地神であるウルテミスの御神体が存在する都市であり、いわばウルテミスの本拠地である。

 

 ウルテミスが望むは法による支配の上での清廉な人々の営み。これらに仇する者達を取り締まる者が必要であった。

 

 その結果組織されたのがイモンベルト騎士団であった。騎士団の主な仕事内容は都市や国内での犯罪の検挙及びその未然阻止。

 

 騎士団は都からの命令でも、国からの命令でも動かない特殊な位置付けの組織だ。彼等はただウルテミスの命令のみを聞き実行に移すのだ。

 

 そんな神の命令のもと忠実に動く騎士団、その本部であるイモンベルト騎士団騎士館館長室。

 

 暖かな陽の光が差し込むその部屋では一人の女性がその机、騎士団長のみが座ることを許される椅子へと腰掛けていた。

 

 女性は黄金を思わせる髪を後頭部に結い、決して煌びやかでは無いがそれでも美しさを感じさせる美貌を兼ね備えていた。

 

 しかし、その美しい外見に着飾られているのはドレスや洋服では無く、機能性防具性を意識されたチェストプレートや足鎧。

 

 彼女こそがこのイモンベルト騎士団での長であるイモンベルト騎士団騎士団長、コマリ・イルダートベルンであった。

 

 そんな騎士団長であるコマリは自身の席にて無言で思考に耽っていた。

 

 その内容は本日視察に向かう予定であるイスタニア教に関してである。

 

 イスタニア教は詳しい開宗日やどう言った経緯で開かれたかは不明だが、その特異な理念のみが巷に広がっていた。

 

 「自由と欲望の解放…か。」

 

 一人言のように呟いたその声はコマリの心から出たものであった。

 

 騎士団長と言う肩書は名前だけでは無い。やるべき仕事は多岐に渡り、その全てに重大な責任が伴う。

 

 本来なら自分の様な人間がいくべき要件では無い。コマリはその事実をしっかり認識していた。

 

 だがそれでも今回騎士団長であるコマリと副団長で視察に向かうのには訳があった。

 

 そのウルテミスと相反する思想や、近年稀に見る急成長ぶりや、一教団が持つには相応しく無いほどの戦力が備わっているとか。

 

 挙げれば様々な理由が浮かぶがその全てが憶測や噂に過ぎなかった。このままの情報で疑うなど通常あり得ない。

 

 しかし、だからこそコマリの危険信号、つまるところ勘が告げていた。

 

 あの教団には何かがある。

 

 その言葉と共に思い浮かんだのは一人の男であった。今ではイスタニア教の教祖としてローブと仮面に身を包んだ推定男。

 

 この教団で一番危惧すべき要素とも言えるであろうその男は、性別、出生、目的、家柄、性格。悉く全てが不明のヴェールで覆われた正しく正体不明の人物であった。

 

 まるで誰かが意図して隠しているかの様に何もかもが分からない状態であった。

 

 そしてコマリはその教祖に一度会った事があった。その時その眼で捉えた姿は確かにコマリの脳髄に焼き付いていた。

 

 確かめる必要がある。教団の実態も、そして二年前のあの出来事も(・・・・・・・・・・)

 

 「団長、失礼します。」

 

 その声はノックと共に部屋にやってきた。

 

 「入ってくれ。」

 

 コマリがそう告げると扉を細かく整えられた黒髪の女性が開いた。

 

 イモンベルト騎士団副団長の位にあたるライラ・ロイカーライトであった。

 

 「団長、例の視察について事前に話しておきたいと思いまして、参りました。」

 

 ライラのその声にコマリは部屋に置かれた置き時計へと目を向ける。時刻はまだ午前、指定の時間まではまだ時間があった。

 

 ライラは真面目で団長であるコマリに忠実であった。それはコマリの騎士団長としての姿や普段からの態度に強い憧れを持っているからである。

 

 しかし、憧憬の対象である騎士団長だからこそ、今回の決定に疑問を覚えたのだろう。

 

 「ああ、その事か。分かっているよ。座ってくれ、詳しく話し合おう。」

 

 そしてライラが疑問を持つであろう事もコマリは先んじて察しがついていた。

 

 座るよう促されたライラは軽く返事をしてからソファへと腰掛けた。

 

 ライラが座った事を確認してからコマリも団長席を立ち、同じよう反対側のソファへと座る。

 

 「さて、今回の視察に関して話をしたいと、ライラは言っていたね。」

 

 両手の指を重ね、肘を机の上に乗せてコマリは話を始めた。

 

 「はい。」

 

 そして短い返事を返したライラの声を聞いてから、コマリは話を続ける為口を開いた。

 

 「言いたいことは大方察しがついた。今回の視察にわざわざ副団長である君。それから団長である私が向かうには役不足だとね。」

 

 ライラはその言葉に頷くと、補足する様に言葉を足した。

 

 「はい。その通りです、団長。私を出向かせるのは役割上理解できますが、団長も共にというのは少し過ぎているのでは無いのでしょうか?」

 

 心底不思議であると言った表情でライラは話した。

 

 そんな疑問を解消するため、コマリは答える。

 

 「そうだね。君の意見はもっともだよ。だけど私は、今回の件を少し重く見ている。」

 

 全て貫くような真摯なその眼差しにライラは少し息を呑む。

 

 「…理由をお聞きしても?」

 

 そう尋ねるライラの言葉にコマリは少し困ったような表情を浮かべ、やがて口を開いた。

 

 「理由か、そう言われると少し困ってしまうね。何しろ根拠を探せる程の情報が無い。強いて言うなら…」

 

 コマリは指を天に向けて指差し、続きを話した。

 

 「根拠がない事自体が根拠…こんな意見では不十分かな?」

 

 その言葉にライラは少し虚をつかれた様に目を見開く。

 

 「根拠がない事が根拠…ですか?」

 

 文章として成り立たない様な言葉だ。しかしそれを目の前の尊敬する先輩でもある団長が話すものだから違和感は拭えない。

 

 「そうだ。あの教団は不自然な程疑いようが無い。後は、ちょっとした個人的な理由。そう言ったところだろうか。」

 

 いまいち腑に落ちない理由ではあるが、同様の教団に対する違和感をライラも得ていた。

 

 事前に渡された資料から考えてもおかしな要素は無い一般的な教団。

 

 それをどうしてコマリが疑うのか、その姿は目の前にある真っ白な壁を叩いている様に映った。

 

 「はぁ…そうですか。」

 

 それでも、取り敢えず騎士団長の意向にはしっかりと本人の意思がある事を確認したライラは一先ず納得する事にした。

 

 それから具体的な聞きとりの内容。どういった日程で動くのかの軽い確認を行う二人。

 

 それが終わると時刻は進み正午となる。約束の時間までは後少し時間を置くことになる。

 

 「よし、事前のやり取りで今日の視察は向こうから迎えが来るらしい。それまで少し備えるとするかな。」

 

 コマリのその言葉に疲れを吐き出すように息を吐くライラ。

 

 「そうですね。それまでにやっておける仕事を済ましておきます。」

 

 騎士団は多忙な組織だ。約束の時刻まで少しの間、二人は自身の仕事に取り掛かるのであった。

 

____

 

 時刻は昼過ぎ。住人から騎士団への要望や、都市機関からの依頼など重要な要件に目を通し思考をするコマリ。

 

 再びその部屋の扉が叩かれる。

 

 「失礼します。」

 

 コマリが入ってくるように促すと、今度はライラでは無くそれよりも階級が下であろう一般騎士が現れた。

 

 「イスタニア教から使いがやって来たのですが…」

 

 予定の来客の登場を告げる騎士であったが、その声色は優れない。

 

 「どうかしたか?」

 

 コマリからの声に一般騎士は口を開く。

 

 「その使いと言うのがですね、イスタニア教の教祖本人を含む三名でして…。」

 

 告げられたその言葉にコマリは息を漏らす。

 

 「ほう…最初から油断をする気は無いという事かな。」

 

 二年前のあの日を胸に、コマリは教祖達が待ち受けている部屋へと移動を開始した。

 

_____ 

 

 コマリがその部屋の扉を開くと、既に役者は揃っている様子だった。

 

 来賓用に設けられたその一室は豪華過ぎず質素すぎない程度の飾り付けが施され、その部屋の中心に木製のテーブルとそのテーブルを挟むように二つのソファが置かれていた。

 

 そのソファの片側、一人座るライラの隣へと移動する。

 

 「失礼する。」

 

 そう一言言ってから腰を下ろすコマリはこの部屋の異質な空気を既に感じ取り、自然と身体の力を臨戦体制のそれに備えていた。

 

 騎士団長と言う肩書はコマリの働きと能力によりついた立場だ。

 

 彼女も歴代の騎士団長と比べ若い身ながら、その身に数多の経験と剣戟による緊張を宿していた。

 

 そんな彼女にとっても未知。感じ取った事の無い緊張感と仄暗い空気が体に纏わりついていた。

 

 そんな空気に副団長としての経験が少ないライラは既に呑まれかけていた。

 

 その空気感の正体。イスタニア教からの使いである三名は対面のソファにて静かに座っていた。

 

 コマリから見て左端に腰掛けるのは一人の可愛らしい少女。

 

 長い銀髪は窓からの光に反射して美しく輝き、その幼くも可愛らしい顔付きからは明るいイメージを抱くであろう。

 

 だが、それは本来ならの話。この場に居るのはイスタニア教からの使いとして送られてきた教団員なのだ。

 

 何を思うのか。その眼には幼子のような柔らかさも明るさも無く、ただ此方を暗闇の如く見つめるだけであった。

 

 無の狂気。この中では似合わない幼さを持つ少女からは異質な狂気を感じ取ることが出来た。

 

 一方その反対、右端に座る男には少女から放たれる程の熱を感じることは無かった。

 

 だらしなく足を開き、首を曲げながら半目で此方の様子を眺める男の無礼な態度は、話し合いには相応しくない様に思えた。

 

 だが、その目に宿る光は怠惰や楽観では無かった。淡々と此方を値踏みし、目の前にいる者が自分達の害になり得るかを判断する獅子のように。

 

 ただ、静かに見ていた。

 

 そしてその二人に囲まれた状態でソファの中央、何をするでも無く佇む男が一人。

 

 その相貌は不明。赤黒いローブにて全身を覆い、表情を覗かせる事無く仮面の左目のみが此方を向く。

 

 前に一度見た時と同じ格好の男。イスタニア教の開宗者、教祖が此方の動きを静かに眺めていた。

 

 「貴女が騎士団長であるコマリ・イルダートベルン。前にあった時以来でしょうか。お久しぶりです。元気にしていましたか?」

 

 語りを始めるは教会側、教祖である男が声を発した。

 

 その声は好青年の如く爽やかで親しみのある声であった。それも、不気味な程に。

 

 その想定外の声にライラが驚いた様に目を見開く。それも仕方の無い事であった。騎士団内で邪教とも称される教団の長がこのような若く、爽やかな声であるとは思わなかったのだから。

 

 まるで久しぶりに会う親族と会話をする時の様に、教祖は話を始めた。

 

 「…ええ、まさか覚えているとは思わなかったが。そうだ。私がイモンベルト騎士団騎士団長であるコマリ・イルダートベルンだ。」

 

 コマリはそう答えると目線を隣に座るライラへと向ける。名乗るように促すためだ。

 

 しかし、ライラは未だこの場の空気に慣れていないのか、鈍い反応のままであった。

 

 「…ライラ、君も名乗りたまえ。」

 

 その声にやっと気付いたのか、ライラは慌てて口を開いた。

 

 「…っ!し、失礼した。私はライラ・ロイカーライトと言う者だ。今回の視察、どうかよろしく頼む。」

 

 この場の支配権はやや相手が上。コマリは自分達の優位性がそう高く無い事を察した。

 

 一方何事にも動じぬ態度で視察に臨むイスタニア教側。

 

 「ええ、お互い緊張すると思いますが、気にせず、気楽に行きましょう!」

 

 教祖の男がそう言うが、周りの空気はピクリとも変化しない。

 

 心にも無い事を。コマリはそう思いながら口を開く。

 

 「…心遣い感謝する。」

 

 今はただ、この教団の情報を探る必要がある。コマリはより一層その身を引き締めて会話に臨んだ。

 

 「いえいえ、見ての通り、緊張してるのは私たちもですよ。」

 

 それから教祖は手を合わせ話した。

 

 「ああ、そうでした。まだ我々の名乗りがまだでしたね。」

 

 そう言うと教祖は名乗りをした。

 

 「私の名前はブラファール。普段は教会にて教祖をやらして貰っている者です。」

 

 教祖の声に続いて隣の少女も口を開く。

 

 「ブルーメルです。」

 

 たった一言、瞬きをする事もなくそう告げた少女、ブルーメルはそれ以上続ける気は無いようで、口を閉じる。

 

 それに次いで今度はブルーメルの反対側、つまらなそうに姿勢を崩す男が名乗る。

 

 「あー、俺はオングリュークって言います。まぁ、よろしくなぁ。」

 

 そう言ってひらひらと手を振るオングリュークであったが、その眼は相変わらず猛禽類の様に此方を見ていた。

 

 名乗る時すら一ミリの友好を見せない二人と、最初から友好度最大で接してくる教祖。

 

 チグハグな印象を受ける教団側からの挨拶に戸惑いながらも、その会話はいよいよ本格的に開始された。

 

 「それでは、これから本日の視察について細かい日程の擦り合わせを行いたいと思う。が、」

 

 が、ここまで話すとその一単語に隣に座るライラが驚く。コマリが事前に話し合った内容とは違う事を話し出したからである。

 

 「折角教祖本人が来てくれたのだ、ここで軽い質疑応答を行わせて貰いたいのだが、」

 

 いいだろうか。そこまで話すと教祖は興味深そうに声を揺らした。

 

 「ほう…そうですか、構いませんよ。」

 

 ここでの話し合いは軽い打ち合わせの様なもの。その予定を崩してコマリが提案した質疑応答は突発的なものであった。

 

 それには理由があった。ここまでのやり取りだけで、相手が一筋縄で済むようなものでは無いことを察したのだ。

 

 今から行う視察では実際に教会に訪れる事になる。これが教祖だけであるなら話は別であるが、問題は側の二人だ。

 

 これ程の覚悟と態度で話し合いに参加する側近が教会にはまだ多くいる。つまり、本拠地である教会に近づく程情報の入手は困難なものになる。

 

 ならば現在ここ、騎士団側の本拠点であるここである程度話を済ます事が最善であろう。コマリはその判断に至った。

 

 コマリは横で驚きながらも必死に会話に参加するライラに目を向ける。

 

 それに、その方がライラの能力の発動にも都合が良い(・・・・・・・・・・・・)

 

 「そうか、協力に感謝する。では早速きかせて貰うが、そちらのイスタニア教にて掲げてる理念と言うものを教えて頂きたい。」

 

 その言葉に教祖は答える。

 

 「我が教団の理念ですか。それは勿論、イスタニア様が我らにお告げ下さるその教え『自由と欲望の解放』を広める事です。」

 

 詳しい内容は長くなるのでこの場では割愛させて頂きます。そう答えた教祖の言葉はまるで最初から想定していた様に滑らかであった。

 

 しかし、この答えはコマリにとっては少し意外なものであった。実の所、教団の理念は既に知っていた。

 

 その上で教祖はどのように答えるのか、それを聞き出したく尋ねた問答であったが、教祖は誤魔化す事なく本当の事を話した。

 

 「なるほど。では次に、教団の目的を教えてもらいたい。」

 

 コマリは胸にその意外性を持ちながらも、次の質問へと移った。

 

 「目的、ですか。それは先ほども言った通り、我が主神である_」

 

 そこまで話した所でコマリは口を挟んだ。

 

 「そうではなく、貴方方の教団の上澄、上位神官とやらが目指す目的を教えて頂きたい。」

 

 その一言に、教祖は声を不自然に止めた。それと同時に室内の温度が下がったように、ライラにはそう感じられた。

 

 「ほう…上位神官の目指す目的ですか。」

 

 教祖は先程よりもトーンの低い声で、でも何処か楽しげな声色でそう言った。

 

 上位神官の名前を出すことはある意味での牽制であった。こちら側がある程度の教団の情報を持っている事をアピールすることで嘘を吐きづらくさせる、コマリの作であった。

 

 「ええ、教団が真に目指す部分は何であるのか。それを私たちは知りにきた。」

 

 その言葉に、教祖は吟味をするように顎に手を伸ばした。

 

 「真の目的、なぁ。其方さんが俺らの崇高(スーコー)な概念を理解出来てないのは分かったけどよぉ…根拠はねぇんだろ?」

 

 先に答えたのはオングリュークと名乗る男であった。

 

 鋭い回答である。言葉を受けたコマリはその様に判断した。

 

 実にその通りで、この日までにコマリが独自で集めた情報を総合して出た疑いは、疑いの域を出なかった。

 

 それがどれだけ確実に思える様な情報でも、証拠がなければ想像でしか無かった。

 

 「疑いか…確かにその通りだ。しかし、此方には『疑いを確実なものに変える方法』がある。」

 

 コマリはその的を射た質問にも動じず、そう答えた。

 

 「『疑いを確実なものに変える方法』ねぇ…。」

 

 オングリュークは少し値踏みをする様にそう答えた。

 

 これがハッタリである可能性は高い。しかし、オングリュークも独自の情報にて把握していた。

 

 それは騎士団の情報の正確性だ。

 

 幼い頃暗殺集団に所属していたオングリュークは、最近同業種の組織が一人のメンバーが騎士団に捕まった事を皮切りに壊滅した事を思い出した。

 

 それは騎士団による暗殺組織の本拠地強襲であった。

 

 暗殺を生業にする者達は組織の秘匿に命を懸けている。居場所が分かる暗殺者など、恐るに足りないからである。

 

 それが、騎士団によって一晩での壊滅だ。

 

 それは捕まった者が居場所を吐いたとしか思えないが、それは容易な事ではない。

 

 騎士団は情報を確実に仕入れる手段がある。それもかなり万能な。

 

 オングリュークが出した結論はそれであった。

 

 「…話を戻そうか。ブラファール、貴方は何か別の、真なる目的の為に動いてるのではないか?」

 

 再び尋ねられた言葉に教祖は口を開いた。

 

 「…いいえ、それは勘違いか何かでしょう。我々はただの宗教団体に過ぎませんから。」

 

 ほう、そう来るか。コマリは内心そう呟いた。

 

 教祖が出した答えは否定であった。しかし、コマリの勘が正確であれば、教団側は此方の情報の正確性の裏(・・・・・・・・)にも勘付いてるはずだ。

 

 その上で嘘が露見するリスクを呑んでまで否定を選択したのだ。

 

 生憎、今はソレ(・・)は使えない。よって嘘を露見させる事も出来ないのだが。

 

 コマリが考えている横でライラは言葉を出した。

 

 「…その言葉だが、私には嘘に聞こえてならないな。」

 

 ライラは威圧感を崩さず、あくまでこの場での優位性を維持するように話した。

 

 「二年前からだ。魔物の増殖が露骨に増えてきたのは。」

 

 それは最近騎士団の仕事を増やす悩みの種であった。魔物は自然界にある魔素を喰らって生きる生物を指す。

 

 しかし、この中には凶暴であったり、知能の高い者もおり、そういった魔物が人を襲う事件が二年前から急増していた。

 

 「そしてこれは、イスタニア教の勢力が拡散を始めた時期でもある。」

 

 この事は、何か関連があるのではないか。事前にコマリとの会話で共有した話であった。

 

 「…はて、なんの事でしょうか。」

 

 しかし、それに対しても教祖の答えは否定であった。

 

 さらに、その声はまるで本当に疑問に思っているかのように、芝居がかった声であった。

 

 その事に痺れを切らしたライラが声を荒げる。

 

 「っ!良い加減にしろ!貴様らが何らかの糸を裏で引いている事は分かっている!私達は今すぐにでも貴様のその胡散臭い仮面の下から本性を暴く事が出来ー

 

 直上的で感情的になりやすい事は、ライラ・ロイカーライトの美点でもあり、欠点でもあった。

 

 流石に話し合いの場でこの発言はいけない。そう思いコマリが注意をしようとした時であった。

 

 「ねぇ、さっきから貴女、誰に向かって話をしているの?」

 

 鈴の鳴るような、美しい声だった。しかし、そんな細く美しい声が大きく荒げるライラの声を止めた。

 

 理由は簡単であった。その声がそれ以上に恐ろしいものであったからだ。

 

 少女は、ブルーメルはその目を大きく開き、声を出すライラを見つめていた。

 

 月の光の様な、輝くその目には確かな怒り、狂気が孕まれていた。

 

 「ーーっ!!」

 

 声を出すことも出来なかった。ライラはその言い表すのも恐ろしいブルーメルの纏う空気に押され、身動きを取れなくなっていた。

 

 それは蛇に睨まれた蛙の如く。ライラは自身の心臓の鼓動を大きく感じ取っていた。

 

 ブルーメルと言う少女は明るく、元気な幼い少女である。多少嫌なことをされても、頬を膨らませて怒るだけであり、その姿は可愛らしくもあった。

 

 しかし、一つだけ踏んではいけない地雷がある。それは恩人でもあり崇拝の対象でもあり恋する、教祖様に対する悪口であった。

 

 場の空気は温度が低いなど言う形容を超えていた。氷点下の様に凍えていた。

 

 コマリは自然と体から力を抜き、いつでも戦えるようにしていた。

 

 オングリュークはいつでも相手の背後をとって一撃で沈められるよう、その身を静かに迎撃の体制に移行させていた。

 

 「ブルーメル、有難うございます。」

 

 いつ衝突しても可笑しく無い。そんな空気を変えたのは地雷原の真ん中である、教祖であった。

 

 「教祖様…。」

 

 ブルーメルはまるで玩具を奪られた子供の様に、悲し気な顔をして教祖を見上げた。

 

 教祖はそんなブルーメルを窘める様にその手をブルーメルの頭上へと置き、声を出した。

 

 「ブルーメル、貴女の思いやりを私は嬉しく思います。ですが、ここは話し合いの場です。今は少し抑えて、そうで無いと…」

 

 教祖は視線をブルーメルからコマリ達に向けて続きを話す。

 

 「ここに無惨な死体が出来上がる事になりますからね。」

 

 それは最終警告だったのだろうか。ライラは最早声を荒げる素振りすら見せず、完全に萎縮してしまった。

 

 「…先程は部下が無礼を行い、申し訳なかった。」

 

 コマリは恐怖に固まるライラに代わって謝罪を行う。それに対して教祖も同じく頭を下げて言った。

 

 「いえいえ、此方こそ少し度が過ぎましたね。ほら、ブルーメルももう怒っていないですよね?」

 

 場違いな程明るい声で教祖は言った。ブルーメルも小さく頷くと、怒りは鎮まったのか先ほどと同じ様に静かにソファに座っていた。

 

 まるで戦場である。幾多の戦場の後始末を経験してきたコマリは、今もなお張り付く緊張感にそう思った。

 

 「…一つ、提案を良いだろうか。」

 

 コマリはそんな緊張の高まる中、声を出した。

 

 教祖はそれに対して無言で肯定を示す。

 

 「ブラファール。貴方と我々だけ(・・)での対話を希望したい。」

 

 様々な思惑と感情が往来する中、部屋に差し込む陽の光だけが場違いに彷徨っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかブルーメルとオングリュークが態度悪いけど、これは騎士団がイスタニア教を邪教と見て教祖様の悪口とか黒い噂をするから、騎士団に対する印象が良くないからだね。怖い。

おまけ

ライラ・ロイカーライト…イモンベルト騎士団副団長の少女。騎士団としての暦はまだ浅く、戦闘能力もそれ程高くないが、仕事に対する熱心な態度とある能力を買われ副団長の座に至る。先輩でもある騎士団長のコマリを尊敬していて、日々追いつけるように精進する良い子。何かと不幸な目に遭いがちだけど今日も挫けず業務に取り掛かる。好きな食べ物はイモンドビーフのステーキ。

 

イスタニア教団幹部の中で見たい過去話は?

  • エーデル&ブルーメル
  • イゴ
  • アイナ
  • そんな事より話進めろや
  • 続きません
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